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☆番外編2☆

結婚前夜 1

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サラサラと俺の頭を撫でる、温かくて優しい気配がする。

母……さん?

子供の頃、熱を出して寝込んだ俺を心配して、氷枕を代えては頭を優しく撫でてくれた母の顔がふと浮かんだ。

ワンッ!ワンッ!

すぐ近くで聞き慣れた犬の鳴き声と、「シー。睦月さんが起きちゃう」と言う小さな声が聞こえて、俺はフッと目を開けた。

「あ……。ごめんなさい。かんちゃんが吠えちゃって」

視界の先に、申し訳なさそうな顔をしたさっちゃんがいた。

そうか。俺、いつのまにか寝てたのか

少しずつはっきりしてきた頭でそんなことを思った。
と言っても、寝ていたのはせいぜい15分ほど。遊んでいるうちに先に眠くなったのか、かんちゃんは唐突にソファに座っていた俺の膝に乗り、そして胸の辺りを押すように乗っかられた。何したいのだろう?とそれに従うと、俺を湯たんぽ代わりに丸くなりすぐに目を瞑ってしまったのだ。
そして俺もかんちゃんの温もりに誘われるように目を閉じてしまっていた。

「ううん?ごめんね、こっちこそ。かんちゃん、本当寝かしつけ上手だね」

起き上がると、ソファに足をかけ尻尾を振っているかんちゃんの頭を撫でた。

「疲れてるなら、もう寝よう?」

俺の前に立ちながらさっちゃんはそう言う。
いつもは束ねていることの多い彼女の髪は、今は乾かしたてのしっとりした状態で下されている。座っている俺を見下ろすさっちゃんの、その垂れ下がった髪を掬うように持ち上げると、さっちゃんの肩が少し揺れた。

「本当に寝ちゃっていいの?」

上目遣いで微笑むと、さっちゃんの頰は熟れた桃のように染まっていた。

「…………ダメ」

唇を少しだけ動かしてさっちゃんはそう言う。そのままサラサラと髪を弄びながら、俺は聞こえないフリをした。

「ん?……なに?」

緩やかな口調で尋ねると、さっちゃんは唇を一度開き、言葉を飲み込むように閉じた。

「言ってくれなきゃわからないよ?」

恥ずかしいのか瞳を潤ませている彼女に畳み掛けるように俺はそう言う。

我ながら……ほんと、意地悪……

やりすぎるときっと臍を曲げられるから、ギリギリのところを攻める。

自分にこんな部分があるなんて知らなかった。もっと淡々としていると思っていたのに。

そんなことを思いながらさっちゃんを見つめていると、さっちゃんはおずおずと口を開いた。

「寝ちゃダメ。もっと……くっついてたいの」
「うん。……俺も」

そう言うと俺はさっちゃんの腰に手を回し引き寄せた。

「さっちゃんからしてくれる?……キス」

腿の間にさっちゃんを入れると、真上から見下ろされるようになる。変わらずいつもの恥ずかしそうな表情でさっちゃんは俺の顔を覗きこんでいる。

「ほら、俺からは届かないしさ?」

笑みを浮かべてそう言うと、さっちゃんは戸惑いながらも俺の肩に手をかけゆっくりと顔を近づける。距離が縮まったところで目を伏せると、唇に柔らかな感触が振って来た。
触れたまま少しだけ喰むように唇を舐められ、このあとどうするんだろ?なんてワクワクしていたのに、スッと唇は離れた。

「それだけ?」
「……ここじゃイヤ。かんちゃんが見てるし」

確かに気配がするよな、なんて隣を見ると、かんちゃんはハフハフいいながらお座りして、こちらをじっと見ていた。

「ふふ。確かに子どもにはこれ以上見せられないか。じゃあ大人しく寝てもらう」

笑いながらそう言い、腰から腕を離して立ち上がる。さっちゃんは先に歩き出し、「かんちゃん、ハウス」と声を掛けるとそれに従いかんちゃんは駆けて行った。

ゲージに入るのを見届けて、さっちゃんがリビングの扉の前に立つ俺の元にやってくる。
灯のついた廊下に繋がる扉を開け、「おやすみ。かんちゃん」と声を掛けリビングのスイッチを消し扉を閉めた。

「じゃ、ようやくさっちゃんを堪能できるかな?」

隣に立つさっちゃんに笑いかけ手を握る。

「なんか、ちょっと怖いよ。睦月さん」

俺の言いようにさっちゃんは笑いながらそう返す。

「ま、ちょっと覚悟してね?」

寝室の扉に手をかけ、さっちゃんの顔を覗き込むと、少し引き攣ったような顔がそこにあった。

「だってさ……」

そう言いながら扉を開け、常夜灯だけついた寝室にさっちゃんを引き入れるとすぐさまベッドに沈めた。

「さっき、自分がどんな顔してたか、知ってる?」

耳元に唇を寄せると俺は囁く。吐息が耳をくすぐるのか、小さく「ん……」と声が聞こえた。

「物凄く色っぽくて、思い出すだけで体が反応するんだけど」

耳の形を舌でなぞりそう言うと、腕の中でさっちゃんは身動ぎする。

「ぁ……」

小さく熱い息を漏らすさっちゃんの頰に口付けて、「本当に可愛いよ」と囁いた。

「……睦月さんにそう言われるの、嬉しいの。このままの自分でいいんだって、そう思えるから」

俺の首に腕を回し、熱を帯びた瞳を向けさっちゃんはそう言った。
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