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普段そうたくさんはお目にかからないだろう同業者の新婦がするセルフメイクに、何故だかセミナーのように人だかりができてしまいながら、私は思い描いていたメイクをやり遂げた。
そのあとは髪の毛のセット。それは、担当の百合さんのご友人だというかたがしてくれた。もちろん仕上がりは思っていた以上だ。

「ありがとうございました」

すっかり花嫁らしくなった私は、担当に人にそうお礼を言った。

「こちらこそ。そうそう、百合から写真送ってって言われてるの。いいかしら?」

そう言ってその人はスマホを掲げて見せる。
本当なら百合さんも紫音さんも来てもらいたかったけど、残念ながら今は買い付けに行くと海外に出ているのだ。

「はい。ぜひ!」

あとで写真を見てもらおうとは思っていたけど、できたら早く見せたい。

「あ、でも、2人でいるところがいいです。あの……良かったら……」

私はその人に、このあとにすることを話すと、笑顔で「OK」と返ってきた。


『挙式直前まで、花嫁の姿を見ちゃいけないってジンクスがあるんだよね』

式場が決まり、スケジュールを話しあっていたころ、睦月さんがふとそんなことを口にした。睦月さんも、ニューヨークに住んでから知ったらしい。日本では式の前に2人揃って親族に挨拶するほうが当たり前みたいだけど、向こうではそれがメジャーなことらしい。

へえ。そうなんだ……なんて言っていた私に、『挙式前にするセレモニーがあるんだよ?ミッシェルの映画にもそのシーンあったよね』と睦月さんは思い出したように言った。

私は一瞬、そんなシーンあったっけ?なんて思ってしまったけど、すぐにあれか、と思い出した。
そして私は睦月さんに言った。

「じゃあ……あれ、やりたい」


そして今、私は式場のスタッフさんに連れられて歩いていた。控室の横にある通路を通り扉を開けてもらう。そこは小さな庭になっている場所だ。

秋晴れの青空と鮮やかな芝生の緑、そしてかんちゃんのリードを持って佇む、私の旦那さまの背中が目に飛び込んできた。

慣れない高さのヒールで、ゆっくりゆっくりそこに近づく。かんちゃんはすでに私に気づき、こちらを見ながらソワソワしていた。きっと睦月さんも私の気配に気付いていると思う。でも映画と同じなら、私が呼びかけるまで振り返らないはずだ。

私は少し離れた場所に立ち止まる。試着姿すら見せていないドレス姿は、正真正銘、今見せるのが初めてだ。

そして、少し深呼吸をして私は口を開いた。

「……睦月さん」

それに、睦月さんは振り返った。
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