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祝日の朝早い時間の役所は、さすがにそうそう人の姿もなく、少し緊張した面持ちのさっちゃんの手を引いて、俺は時間外窓口に向かっていた。

「眠くない?」

俺はさっちゃんに尋ねる。
眠りについたのは昨日、いや、今日だ。ソファでかんちゃんと眠りこけていた俺に『疲れてるならもう寝よう?』なんてさっちゃんは言った。でも疲れてたわけじゃないし、その前の官能的なさっちゃんの顔を思い出すだけで、いい歳して抑えは効かず、無理をさせてしまったような気がする。

「大丈夫だよ?なんかワクワクしすぎてハイになってるかも」

そんなことを言ってさっちゃんは笑った。

「ならいいんだけど。昨日、なかなか寝かせてあげられなくてごめんね」

最後は耳元で囁くように言うと、途端にさっちゃんの顔はブワッと赤くなった。

「あ、思い出しちゃった?」

我ながら、本当に意地悪だなぁなんて思いながらクスクス笑っていると、さっちゃんは「もうっ!」と頰を膨らませていた。

そんなやりとりをしながら窓口に着き書類を提出する。時間外だとあとで再提出、なんてこともあるらしいから、そこは先輩で信頼のおける瑤子ちゃんに見てもらい、お墨付きを貰っている。

「ではお預かりします」

提出書類の不足がないかだけ確認したのか、あっさりとそれは受け付けられた。

「あっけないなぁ」
「確かに……」

そんなことを言い合って、また駐車場への道を引き返す。

「とりあえず……。岡田咲月さん?朝ご飯食べに行こっか」

戯けたように言う俺に、さっちゃんは「うん」と笑顔で頷いた。

家の近所のベーカリーカフェでモーニングを食べたあと、そのまま家に帰る。それからかんちゃんの散歩に行き、帰ってきたらあっという間にもう昼前だ。

「かんちゃーん!そろそろ行くよ~!」

俺はそう言うと、お気に入りのおもちゃで遊んでいるかんちゃんを呼ぶ。おもちゃを咥えてきたかんちゃんにリードを付けると、空のゲージを持って廊下に出た。

「お待たせ。俺そっち持つからこれお願い」

玄関先で待っていたさっちゃんの荷物とゲージを交換し、俺達は外に出た。

「重くない?」

メイク道具の入ったバッグを担ぐ俺にさっちゃんは尋ねる。今日、さっちゃんはメイクを自分ですることにしたのだ。だからこんな大荷物になった。

「いつもより軽いし大丈夫」

そう言いながら、うちの隣の隣の家まで来るとインターフォンを押す。しばらくすると、面倒くさそうな顔をした司と笑顔の瑤子ちゃんが出てきた。
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