年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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「さっちゃん、用意できた?」

お互いの仕事道具が置いてある部屋を覗くと、さっちゃんは仕事用のメイク道具の入ったバッグを持ち上げているところだった。

「うん」

笑顔でそう答えるさっちゃんに近づくと、その重いバッグを横から攫う。

「じゃあ行こうか。今日の主役と鉢合わせしないうちにね」

そう言いながら2人で家を出る。
今日は6月最後の日。平日の午後だ。昨日まで梅雨らしい天候続きだったけど、今日は早いうちに雨も上がり、今は澄み切った青空が見えていた。

車を走らせながら、「司って、何気に晴れ男かも」なんて言っていると、隣でさっちゃんが笑いながら「じゃあ、絶対私達の式には来てもらわないと」と答えた。

最初は写真を撮るだけだったはずが、いつのまにか大掛かりなサプライズになった今日。ゲストには、主役達に伝えた時間よりかなり前に会場に入ってもらっている。俺達はそれに合わすように早めに家を出たのだった。

「あ、来た来た。さっちゃん!睦月君!」

会場に着くと、すでに到着しているゲストが待つ控室に案内された。まずは香緒が手を振って呼びかけていた。

「こっちはどう?もうゲストは揃った?」

すでに華やかなベージュのパンツドレス姿の香緒に俺は尋ねる。

「そろそろ美容室使ってる人達は終わると思うよ?さすがに時間被らないようにしなきゃだし」

奥を見ると、ヘアメイクの必要ない男性を中心にテーブルで談笑しているのが見えた。知っている顔もあれば、知らない顔もそこにあった。

「2人は?着替えないの?」
「さすがに最初から礼服着てたらバレるって。ネタバラシしてから着替えるよ。さっちゃんは……難しいけどね」

残念ながら、さっちゃんは着替える暇がなさそうで黒いパンツスーツ姿だ。

「もう!私はどんな格好でもいいの。瑤子さんを世界一綺麗にするのが私の今日の仕事なんだから!」

さっちゃんのフォーマルドレス姿を見たかったとあまりにも俺が言うものだから、さっちゃんは呆れたようにそう言った。

「睦月さん。綿貫」

入り口で会話していた俺達の元へ、さっきまでテーブルで話をしていた希海がやって来る。もちろんブラックスーツ。なんかもう、どこのモデルだよと突っ込みたいくらいサマになっている。

「お疲れ様!今日はよろしく」
「それは俺のセリフです。よかったら、今いる親族だけでも2人に紹介したいのですが」

希海は俺達にそう言う。そして俺は、急に緊張感が増しただろうさっちゃんと顔を見合わせた。

希海に連れられ、いくつかあるテーブルの一つに案内される。

「俺の祖父母と、こちらが瑤子さんのご両親です」

希海の祖父母と言うことは、もちろん司のご両親なわけで、昔から家との確執を聞かされていた俺に緊張が走った。

「初めまして。岡田睦月と申します。本日はおめでとうございます」
「綿貫咲月と申します。おめでとうございます」

そう言って俺達が挨拶を述べると、皆がその場で一斉に立ち上がった。

「今日は愚息のためにこのような場を設けてくださったこと、感謝します」

着物姿が板についている男性がそう言うとお辞儀をする。確かに、気難しそうには見えるが、司に聞いていたほどではなさそうだ。

「とんでもない。今の俺があるのは司のおかげです。これくらいさせて下さい」

そう笑みを浮かべて返すと、品のいい留袖姿の女性が俺のほうを向いた。

「貴方が一緒にニューヨークまで行ってくださった……。娘からいいご友人だと伺っております。これからもどうかよろしくお願いします」

そう言って頭を下げるその人を見ながら、俺は温かい気持ちになった。司はちゃんと両親に愛されてるんだって、俺にはそう思えたから。

そのあとは、ものすごく緊張している瑤子ちゃんのお父さんと、「瑤子の結婚式に参列できるなんて思ってなかったわ!」と明るく笑い飛ばすお母さんに挨拶をして、そのテーブルを離れた。

「睦月!お久しぶりね!」

現れたのは、司の姉で希海の母である美女。司と出会ってからそう時間が経たないうちに知り合いあったその人には、俺も姉のような感覚を覚える。

「久しぶり。まどかちゃん、全然変わらないねぇ」
「そう言う貴方もね。それにしても、聞いたわよ?まさか睦月が咲月ちゃんとなんてねぇ」

そう言うとまどかちゃんはニッコリと微笑み、さっちゃんは恥ずかしそうに肩をすくめていた。

「本当に。人生何が起こるかわかんないよねぇ。司が結婚するくらいなんだから」
「それは言えるわね。私の可愛い弟達がいい人に巡り会えて、私も嬉しいわ」

そう言うまどかちゃんは、ずっと俺たちを見守ってくれていた、優しい姉の顔をしていた。


「さて。じゃ、今日の主役を迎えに行こうか」

まどかちゃんと別れ、俺はさっちゃんにそう声をかける。そろそろ司に伝えた時間になる。

「うん。行こう?2人とも喜んでくれるかな?」
「もちろん喜んでくれるって。その前に、司がどれだけ驚くか、楽しみにしてるんだけどね?」

そう言って俺は笑った。
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