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「数日前、母から教えられた。よく知ってるな」
希海さんは驚くわけでもなくいつものように無表情でそう返す。
「じゃあ、写真撮るのは?」
香緒ちゃんが畳み掛けるようにそう言うと、希海さんは訝しげに「写真?」と小さく呟いた。
結局、希海さんは写真を撮ることを知らなかった。なんで写真を撮れる甥っ子もいるのに声掛けなかったんだろう?なんて思っていたら、希海さんは「司の写真を撮るなら睦月さんが適任だ。俺が撮ったらどんな顔をするか」なんて言っていた。
とりあえずこの話はいったん置いて、先に仕事を終わらせる。希海さんとの撮影は、いつもながら静かだ。会話しなくてもお互い言いたいことがわかっているような、そんな気がする。
「さっちゃん。睦月君は今日仕事?」
帰り支度をしている私に香緒ちゃんは尋ねる。
「今日は打ち合わせが入ってて、時間が合えば迎えに来るって言ってくれたんだけど、まだ連絡ないや」
「そっか。僕から連絡とってみてもいいかな?」
「電話じゃなければ大丈夫だと思うけど、どうしたの?」
私は道具の入った重いバッグを持ちながら香緒ちゃんにそう言う。
「さっきの話。まだスタジオ決まってないなら相談のろうと思って。それに希海も巻き込もうかな?」
香緒ちゃんは笑顔でそう言うとスマホの画面を操作し始めた。
それから3人で近くの喫茶店に入る。カフェじゃなくて、落ち着いた本格的な喫茶店だ。そしてほどなくして睦月さんが現れた。
「お待たせ!」
小さくそう言うと、睦月さんは私の隣に座った。
「こっちこそ。急に呼び出してごめんね!睦月君に聞きたいことあって」
まず香緒がそう切り出した。睦月さんはお水を運んできた店員さんにアイスティーを頼むと香緒ちゃんに向き直った。
「何?改って」
「あのさ、司の写真撮るんでしょ?スタジオ決まった?」
香緒ちゃんにそう尋ねられて、睦月さんは私の顔を見る。
「ごめんなさい。やっと話せると思うと嬉しくて」
「いや、いいんだ。俺も一人で考えるのに限界あったから。香緒も希海も、どっかいいところ知らない?」
睦月さんは私に笑顔で答えてから、目の前の2人に尋ねた。そして、香緒ちゃんはそれを聞いて笑みを浮かべて口を開いた。
「それなんだけど。さっきから考えてたんだけど、スタジオじゃなくて、本物の場所はどう?」
「本物って、式場とか?」
私がそう返すと笑顔で香緒ちゃんが頷く。
「僕も教会で撮ったじゃない?そんな感じはどうかなぁって。どう?希海」
そう言って香緒ちゃんは希海さんに話を振った。
希海さんは少し考える様子を見せるとしばらく黙っていた。そして顔を上げると、「伝手は……ある」と答えた。
「そこってもしかして?」
香緒ちゃんが希海さんにそう言うと、希海さんは少し顔を顰めて「もしかしなくてもあそこだ」と返した。
「って、いったいどこ?」
さすがに私も睦月さんも思い当たらず、睦月さんは尋ねた。そして、それに希海さんが答えると、「あぁ!」と納得したように睦月さんが声を上げた。私はその伝えられた高級ホテルの、名前は知っていたが足を踏み入れたことはなかった。それにしても、そんなところに伝手があるなんて……と思っていると、一人ポカンとしていた私のほうに睦月さんは向いた。
「去年、こっち戻って来たときに司がいっとき住んでたんだよね。昔から使ってたから多少融通きく、なんて言ってたけど」
「あのホテルは、長門の家が昔から懇意にしてるところで、母に尋ねればチャペルの空きくらい簡単に調べられるはずです」
希海さんが睦月さんにそう言うと、その隣で香緒ちゃんはそれに続いた。
「あのさ、それで僕から提案したいんだけど」
ニコニコしながら言う香緒ちゃんに、たぶんみんな何となく何を言い出すのか予想できたはずだ。長門さんと瑤子さんと知り合ってそう経っていない私にだって、思い浮かんだのだから。
「司と瑤子さんのためにサプライズ仕掛けようよ!」
とても楽しげに言う香緒ちゃんに、睦月さんも笑顔を見せる。
「だね。俺も司の驚くところ見たい」
もうすでに2人は子どもみたいにワクワクしているのが手に取るように分かる。対照的に希海さんは頭を抱えるように渋い顔をしている。
「その辺りも含めて母に相談します」
「希海、よろしく!……僕さ、自分のときに凄く嬉しかったんだよね。あとで写真見せたらいいや、なんてその時には考えてたけど、やっぱり両親とかみんなに見てもらえて良かったって思ったから」
しみじみと香緒ちゃんはそう言う。私も、あの瞬間に立ち会えて良かったと今でも思う。
「そうだな。司が喜ぶかはわからないが、少なくとも瑤子さんは同じように思ってくれるだろう」
希海さんは少し目を細めて香緒ちゃんにそう言った。
「じゃあ、司に当日までバレないよう動かなきゃね。これから忙しくなりそう」
睦月さんはそう言いながらも、凄く嬉しそうだ。
「ほんと!サプライズウエディング大作戦だね?」
そう言って、香緒ちゃんはニッコリと笑った。
希海さんは驚くわけでもなくいつものように無表情でそう返す。
「じゃあ、写真撮るのは?」
香緒ちゃんが畳み掛けるようにそう言うと、希海さんは訝しげに「写真?」と小さく呟いた。
結局、希海さんは写真を撮ることを知らなかった。なんで写真を撮れる甥っ子もいるのに声掛けなかったんだろう?なんて思っていたら、希海さんは「司の写真を撮るなら睦月さんが適任だ。俺が撮ったらどんな顔をするか」なんて言っていた。
とりあえずこの話はいったん置いて、先に仕事を終わらせる。希海さんとの撮影は、いつもながら静かだ。会話しなくてもお互い言いたいことがわかっているような、そんな気がする。
「さっちゃん。睦月君は今日仕事?」
帰り支度をしている私に香緒ちゃんは尋ねる。
「今日は打ち合わせが入ってて、時間が合えば迎えに来るって言ってくれたんだけど、まだ連絡ないや」
「そっか。僕から連絡とってみてもいいかな?」
「電話じゃなければ大丈夫だと思うけど、どうしたの?」
私は道具の入った重いバッグを持ちながら香緒ちゃんにそう言う。
「さっきの話。まだスタジオ決まってないなら相談のろうと思って。それに希海も巻き込もうかな?」
香緒ちゃんは笑顔でそう言うとスマホの画面を操作し始めた。
それから3人で近くの喫茶店に入る。カフェじゃなくて、落ち着いた本格的な喫茶店だ。そしてほどなくして睦月さんが現れた。
「お待たせ!」
小さくそう言うと、睦月さんは私の隣に座った。
「こっちこそ。急に呼び出してごめんね!睦月君に聞きたいことあって」
まず香緒がそう切り出した。睦月さんはお水を運んできた店員さんにアイスティーを頼むと香緒ちゃんに向き直った。
「何?改って」
「あのさ、司の写真撮るんでしょ?スタジオ決まった?」
香緒ちゃんにそう尋ねられて、睦月さんは私の顔を見る。
「ごめんなさい。やっと話せると思うと嬉しくて」
「いや、いいんだ。俺も一人で考えるのに限界あったから。香緒も希海も、どっかいいところ知らない?」
睦月さんは私に笑顔で答えてから、目の前の2人に尋ねた。そして、香緒ちゃんはそれを聞いて笑みを浮かべて口を開いた。
「それなんだけど。さっきから考えてたんだけど、スタジオじゃなくて、本物の場所はどう?」
「本物って、式場とか?」
私がそう返すと笑顔で香緒ちゃんが頷く。
「僕も教会で撮ったじゃない?そんな感じはどうかなぁって。どう?希海」
そう言って香緒ちゃんは希海さんに話を振った。
希海さんは少し考える様子を見せるとしばらく黙っていた。そして顔を上げると、「伝手は……ある」と答えた。
「そこってもしかして?」
香緒ちゃんが希海さんにそう言うと、希海さんは少し顔を顰めて「もしかしなくてもあそこだ」と返した。
「って、いったいどこ?」
さすがに私も睦月さんも思い当たらず、睦月さんは尋ねた。そして、それに希海さんが答えると、「あぁ!」と納得したように睦月さんが声を上げた。私はその伝えられた高級ホテルの、名前は知っていたが足を踏み入れたことはなかった。それにしても、そんなところに伝手があるなんて……と思っていると、一人ポカンとしていた私のほうに睦月さんは向いた。
「去年、こっち戻って来たときに司がいっとき住んでたんだよね。昔から使ってたから多少融通きく、なんて言ってたけど」
「あのホテルは、長門の家が昔から懇意にしてるところで、母に尋ねればチャペルの空きくらい簡単に調べられるはずです」
希海さんが睦月さんにそう言うと、その隣で香緒ちゃんはそれに続いた。
「あのさ、それで僕から提案したいんだけど」
ニコニコしながら言う香緒ちゃんに、たぶんみんな何となく何を言い出すのか予想できたはずだ。長門さんと瑤子さんと知り合ってそう経っていない私にだって、思い浮かんだのだから。
「司と瑤子さんのためにサプライズ仕掛けようよ!」
とても楽しげに言う香緒ちゃんに、睦月さんも笑顔を見せる。
「だね。俺も司の驚くところ見たい」
もうすでに2人は子どもみたいにワクワクしているのが手に取るように分かる。対照的に希海さんは頭を抱えるように渋い顔をしている。
「その辺りも含めて母に相談します」
「希海、よろしく!……僕さ、自分のときに凄く嬉しかったんだよね。あとで写真見せたらいいや、なんてその時には考えてたけど、やっぱり両親とかみんなに見てもらえて良かったって思ったから」
しみじみと香緒ちゃんはそう言う。私も、あの瞬間に立ち会えて良かったと今でも思う。
「そうだな。司が喜ぶかはわからないが、少なくとも瑤子さんは同じように思ってくれるだろう」
希海さんは少し目を細めて香緒ちゃんにそう言った。
「じゃあ、司に当日までバレないよう動かなきゃね。これから忙しくなりそう」
睦月さんはそう言いながらも、凄く嬉しそうだ。
「ほんと!サプライズウエディング大作戦だね?」
そう言って、香緒ちゃんはニッコリと笑った。
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