年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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2泊3日の旅もあっという間に終わり、後ろ髪を引かれつつ俺達は家路に着いた。

真琴君が車を出してくれて観光したり、結局毎日学さんと父さんの宴会に付き合ったり、行きはどうなるかと不安だったけど、帰りは楽しくて寂しくなったくらいだった。
そんな気持ちを、帰りの飛行機の中でさっちゃんにそれとなく言うと、「そう思ってもらえて嬉しい。でも、かんちゃんをあんまり長く預かってもらうのもかわいそうだし……」と申し訳なさそうに答えた。

「ううん?かんちゃんも大事だからね。早く会いたいね」

そんな風にして空港から直接かんちゃんを引き取りに行き、ようやく家に帰り着いた。

「なんか、まだ住み始めてそんなに経ってないのに、帰って来た!って感じするねぇ」

玄関に入りながら、そんなことを言うと、さっちゃんはかんちゃん抱き上げながら「本当。私もそんな気する」と笑っている。

「そういえば、睦月さん。一緒に暮らしてるってお父さんに言ったの?」

奥のリビングに向かいながら、さっちゃんにそう尋ねられる。

「うん。なんか黙ってるのも気がひけるなって思って」

結婚のお許しを貰ったその日。
さすがに遅くなるからと、先に健太君と明日香ちゃんは帰り、美紀子さんが片付けをしに行ったのにさっちゃんが続き、真琴君も風呂の用意してくると席を立ったタイミング。つまり、部屋には俺と学さんと父さんの3人だけになった。その時に俺はさっちゃんと一緒に暮らし始めたことを切り出したのだ。

「お父さん、怒ってなかった?」

さっちゃんは心配そうに顔を上げ、それに合わすようにかんちゃんも俺のほうを見た。

「大丈夫だったよ?ちょっと顔は顰めてたけどね?もういい年した大人同士だから野暮なことは言わないけど、順番は間違うなよって。親としては気になるよね、さすがに」
「まぁ……。そうなんだけど……」

俺が先にリビングのドアを開けて入り、灯りを付ける。夕方の飛行機で帰ったからもう時間はそれなりに遅い。換気をしようと窓を開けると、ちょうど良い爽やかな風が吹き込んできた。

さっちゃんはかんちゃんのケージを開け、餌と水の皿を取り出しキッチンに向かっている。それにソワソワしながらかんちゃんもついて行くのを、俺は微笑ましく眺めていた。

そして、『そう言えば、大事な話をちゃんとできてなかったな』なんて思う。すんなり結婚の許可が貰えると思ってなかったから、式をどうするかとか、旅行どうしようかなんて、実は具体的には何も考えていなかった。

あ、そうだ

ふと、前に届いた郵便物の存在を思い出す。前にした仕事の関係で送られてきたそれは、リビングと続きの作業スペースにしている一角にしまったっけ、とそこに向かった。写真補正用のタワー型パソコンの近くに棚を置き、そこに資料を突っ込んでいて、確か中身の確認だけしてそこにしまい込んだはずだ。

「睦月さん、お茶淹れるね。……どうしたの?」

封筒を取り出して立ったままそれを眺めている俺に、さっちゃんが顔を覗かせて尋ねた。

「えーと。急にこれの存在思い出して」

決まりの悪い表情を浮かべて俺はさっちゃんにそう答える。さっちゃんには、カタログしか見せてない。実は他にも色々と入れてくれていたのだけど、俺は無意識に見ないようにしていたのかも知れない。

さっちゃんが不思議そうな表情を浮かべて俺に近寄ると、手にしているチラシを覗き込んだ。

「……ブライダルフェア?ここって前に睦月さんが仕事したところ?」
「そう。カタログと一緒に色々と送ってくれてたんだけど、その時はあんまり夢ばっかり見るのもなぁってじっくり見てなくて」

そう言って俺は手元に視線を落とした。そこにはフェアの開催日程やイベント内容が記載されていた。

「さっちゃん、行ってみない?ネットで予約できるみたいだよ」
「うん。行ってみたい!」
「じゃあ予約取るね。そうだ。連休後半、フェア巡りする?やっと現実的になったし、勢いあるうちに」

そう言って笑いかけると、さっちゃんも笑顔を見せる。

「そうしよう?仕事にも役立つかも知れないし」

それに俺は「ふふっ」と笑いながら、さっちゃんの額に唇を寄せた。

「さすが。俺の奥さんになる人は勉強熱心だ」

髪の隙間から見える額にチュッと音を立てて口付けてからさっちゃんの顔を見ると、恥ずかしそうにしながら俺を見上げていた。

「なんか……睦月さんと結婚するんだなぁって、急に実感湧いてきたかも」

そう言うとさっちゃんは俺の両腕の隙間から手を入れて、ぎゅうっと俺を抱きしめる。さっちゃんは人前で甘えてくることはないけど、2人きりの時はこうやって甘えてきてくれる。その姿がとてつもなく可愛いんだよな、なんて口元を緩めながら持っていたチラシをテーブルに置くとさっちゃんを抱きしめた。

「今も世界一可愛いけど、結婚式で世界一可愛い花嫁さんになってもらうからね?きっと学さん、さっちゃん見るだけで泣いちゃうって」

冗談めかしてそう言うと、さっちゃんから「睦月さんも泣きそうだよ?」と笑いながら返ってきた。
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