136 / 183
34
4
しおりを挟む
2泊3日の旅もあっという間に終わり、後ろ髪を引かれつつ俺達は家路に着いた。
真琴君が車を出してくれて観光したり、結局毎日学さんと父さんの宴会に付き合ったり、行きはどうなるかと不安だったけど、帰りは楽しくて寂しくなったくらいだった。
そんな気持ちを、帰りの飛行機の中でさっちゃんにそれとなく言うと、「そう思ってもらえて嬉しい。でも、かんちゃんをあんまり長く預かってもらうのもかわいそうだし……」と申し訳なさそうに答えた。
「ううん?かんちゃんも大事だからね。早く会いたいね」
そんな風にして空港から直接かんちゃんを引き取りに行き、ようやく家に帰り着いた。
「なんか、まだ住み始めてそんなに経ってないのに、帰って来た!って感じするねぇ」
玄関に入りながら、そんなことを言うと、さっちゃんはかんちゃん抱き上げながら「本当。私もそんな気する」と笑っている。
「そういえば、睦月さん。一緒に暮らしてるってお父さんに言ったの?」
奥のリビングに向かいながら、さっちゃんにそう尋ねられる。
「うん。なんか黙ってるのも気がひけるなって思って」
結婚のお許しを貰ったその日。
さすがに遅くなるからと、先に健太君と明日香ちゃんは帰り、美紀子さんが片付けをしに行ったのにさっちゃんが続き、真琴君も風呂の用意してくると席を立ったタイミング。つまり、部屋には俺と学さんと父さんの3人だけになった。その時に俺はさっちゃんと一緒に暮らし始めたことを切り出したのだ。
「お父さん、怒ってなかった?」
さっちゃんは心配そうに顔を上げ、それに合わすようにかんちゃんも俺のほうを見た。
「大丈夫だったよ?ちょっと顔は顰めてたけどね?もういい年した大人同士だから野暮なことは言わないけど、順番は間違うなよって。親としては気になるよね、さすがに」
「まぁ……。そうなんだけど……」
俺が先にリビングのドアを開けて入り、灯りを付ける。夕方の飛行機で帰ったからもう時間はそれなりに遅い。換気をしようと窓を開けると、ちょうど良い爽やかな風が吹き込んできた。
さっちゃんはかんちゃんのケージを開け、餌と水の皿を取り出しキッチンに向かっている。それにソワソワしながらかんちゃんもついて行くのを、俺は微笑ましく眺めていた。
そして、『そう言えば、大事な話をちゃんとできてなかったな』なんて思う。すんなり結婚の許可が貰えると思ってなかったから、式をどうするかとか、旅行どうしようかなんて、実は具体的には何も考えていなかった。
あ、そうだ
ふと、前に届いた郵便物の存在を思い出す。前にした仕事の関係で送られてきたそれは、リビングと続きの作業スペースにしている一角にしまったっけ、とそこに向かった。写真補正用のタワー型パソコンの近くに棚を置き、そこに資料を突っ込んでいて、確か中身の確認だけしてそこにしまい込んだはずだ。
「睦月さん、お茶淹れるね。……どうしたの?」
封筒を取り出して立ったままそれを眺めている俺に、さっちゃんが顔を覗かせて尋ねた。
「えーと。急にこれの存在思い出して」
決まりの悪い表情を浮かべて俺はさっちゃんにそう答える。さっちゃんには、カタログしか見せてない。実は他にも色々と入れてくれていたのだけど、俺は無意識に見ないようにしていたのかも知れない。
さっちゃんが不思議そうな表情を浮かべて俺に近寄ると、手にしているチラシを覗き込んだ。
「……ブライダルフェア?ここって前に睦月さんが仕事したところ?」
「そう。カタログと一緒に色々と送ってくれてたんだけど、その時はあんまり夢ばっかり見るのもなぁってじっくり見てなくて」
そう言って俺は手元に視線を落とした。そこにはフェアの開催日程やイベント内容が記載されていた。
「さっちゃん、行ってみない?ネットで予約できるみたいだよ」
「うん。行ってみたい!」
「じゃあ予約取るね。そうだ。連休後半、フェア巡りする?やっと現実的になったし、勢いあるうちに」
そう言って笑いかけると、さっちゃんも笑顔を見せる。
「そうしよう?仕事にも役立つかも知れないし」
それに俺は「ふふっ」と笑いながら、さっちゃんの額に唇を寄せた。
「さすが。俺の奥さんになる人は勉強熱心だ」
髪の隙間から見える額にチュッと音を立てて口付けてからさっちゃんの顔を見ると、恥ずかしそうにしながら俺を見上げていた。
「なんか……睦月さんと結婚するんだなぁって、急に実感湧いてきたかも」
そう言うとさっちゃんは俺の両腕の隙間から手を入れて、ぎゅうっと俺を抱きしめる。さっちゃんは人前で甘えてくることはないけど、2人きりの時はこうやって甘えてきてくれる。その姿がとてつもなく可愛いんだよな、なんて口元を緩めながら持っていたチラシをテーブルに置くとさっちゃんを抱きしめた。
「今も世界一可愛いけど、結婚式で世界一可愛い花嫁さんになってもらうからね?きっと学さん、さっちゃん見るだけで泣いちゃうって」
冗談めかしてそう言うと、さっちゃんから「睦月さんも泣きそうだよ?」と笑いながら返ってきた。
真琴君が車を出してくれて観光したり、結局毎日学さんと父さんの宴会に付き合ったり、行きはどうなるかと不安だったけど、帰りは楽しくて寂しくなったくらいだった。
そんな気持ちを、帰りの飛行機の中でさっちゃんにそれとなく言うと、「そう思ってもらえて嬉しい。でも、かんちゃんをあんまり長く預かってもらうのもかわいそうだし……」と申し訳なさそうに答えた。
「ううん?かんちゃんも大事だからね。早く会いたいね」
そんな風にして空港から直接かんちゃんを引き取りに行き、ようやく家に帰り着いた。
「なんか、まだ住み始めてそんなに経ってないのに、帰って来た!って感じするねぇ」
玄関に入りながら、そんなことを言うと、さっちゃんはかんちゃん抱き上げながら「本当。私もそんな気する」と笑っている。
「そういえば、睦月さん。一緒に暮らしてるってお父さんに言ったの?」
奥のリビングに向かいながら、さっちゃんにそう尋ねられる。
「うん。なんか黙ってるのも気がひけるなって思って」
結婚のお許しを貰ったその日。
さすがに遅くなるからと、先に健太君と明日香ちゃんは帰り、美紀子さんが片付けをしに行ったのにさっちゃんが続き、真琴君も風呂の用意してくると席を立ったタイミング。つまり、部屋には俺と学さんと父さんの3人だけになった。その時に俺はさっちゃんと一緒に暮らし始めたことを切り出したのだ。
「お父さん、怒ってなかった?」
さっちゃんは心配そうに顔を上げ、それに合わすようにかんちゃんも俺のほうを見た。
「大丈夫だったよ?ちょっと顔は顰めてたけどね?もういい年した大人同士だから野暮なことは言わないけど、順番は間違うなよって。親としては気になるよね、さすがに」
「まぁ……。そうなんだけど……」
俺が先にリビングのドアを開けて入り、灯りを付ける。夕方の飛行機で帰ったからもう時間はそれなりに遅い。換気をしようと窓を開けると、ちょうど良い爽やかな風が吹き込んできた。
さっちゃんはかんちゃんのケージを開け、餌と水の皿を取り出しキッチンに向かっている。それにソワソワしながらかんちゃんもついて行くのを、俺は微笑ましく眺めていた。
そして、『そう言えば、大事な話をちゃんとできてなかったな』なんて思う。すんなり結婚の許可が貰えると思ってなかったから、式をどうするかとか、旅行どうしようかなんて、実は具体的には何も考えていなかった。
あ、そうだ
ふと、前に届いた郵便物の存在を思い出す。前にした仕事の関係で送られてきたそれは、リビングと続きの作業スペースにしている一角にしまったっけ、とそこに向かった。写真補正用のタワー型パソコンの近くに棚を置き、そこに資料を突っ込んでいて、確か中身の確認だけしてそこにしまい込んだはずだ。
「睦月さん、お茶淹れるね。……どうしたの?」
封筒を取り出して立ったままそれを眺めている俺に、さっちゃんが顔を覗かせて尋ねた。
「えーと。急にこれの存在思い出して」
決まりの悪い表情を浮かべて俺はさっちゃんにそう答える。さっちゃんには、カタログしか見せてない。実は他にも色々と入れてくれていたのだけど、俺は無意識に見ないようにしていたのかも知れない。
さっちゃんが不思議そうな表情を浮かべて俺に近寄ると、手にしているチラシを覗き込んだ。
「……ブライダルフェア?ここって前に睦月さんが仕事したところ?」
「そう。カタログと一緒に色々と送ってくれてたんだけど、その時はあんまり夢ばっかり見るのもなぁってじっくり見てなくて」
そう言って俺は手元に視線を落とした。そこにはフェアの開催日程やイベント内容が記載されていた。
「さっちゃん、行ってみない?ネットで予約できるみたいだよ」
「うん。行ってみたい!」
「じゃあ予約取るね。そうだ。連休後半、フェア巡りする?やっと現実的になったし、勢いあるうちに」
そう言って笑いかけると、さっちゃんも笑顔を見せる。
「そうしよう?仕事にも役立つかも知れないし」
それに俺は「ふふっ」と笑いながら、さっちゃんの額に唇を寄せた。
「さすが。俺の奥さんになる人は勉強熱心だ」
髪の隙間から見える額にチュッと音を立てて口付けてからさっちゃんの顔を見ると、恥ずかしそうにしながら俺を見上げていた。
「なんか……睦月さんと結婚するんだなぁって、急に実感湧いてきたかも」
そう言うとさっちゃんは俺の両腕の隙間から手を入れて、ぎゅうっと俺を抱きしめる。さっちゃんは人前で甘えてくることはないけど、2人きりの時はこうやって甘えてきてくれる。その姿がとてつもなく可愛いんだよな、なんて口元を緩めながら持っていたチラシをテーブルに置くとさっちゃんを抱きしめた。
「今も世界一可愛いけど、結婚式で世界一可愛い花嫁さんになってもらうからね?きっと学さん、さっちゃん見るだけで泣いちゃうって」
冗談めかしてそう言うと、さっちゃんから「睦月さんも泣きそうだよ?」と笑いながら返ってきた。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~
けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。
してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。
そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる…
ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。
有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。
美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。
真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。
家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。
こんな私でもやり直せるの?
幸せを願っても…いいの?
動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

練習なのに、とろけてしまいました
あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。
「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく
※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる