年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

文字の大きさ
上 下
135 / 183
34

3

しおりを挟む
俺と学さんが帰ると、皆しんみりとした様子で、食べかけのご馳走を前にかしこまっていた。

「なんだお前ら、辛気臭い顔して。ほらほら美紀子、酒出してくれ」

学さんが部屋に入りながらそう言うと、さっちゃんは顔を上げた。その顔は何故か泣き顔で、俺を見るなり立ち上がると腕に飛び込んできた。

「えっと、さっちゃん?何かあった?」

宥めるようにそっと背中を撫でると、さっちゃんは俺の胸に顔を埋めたまま首を振った。

「違うの。睦月さんの顔見たらなんか安心して」

皆の視線は俺達に注がれているけど、なんとなくさっちゃんと同じように安堵した顔つきになる。

「今日は飲むぞ!明日香も時間いけるだろ?暁さんも。飲んでないのか?」

学さんは元の場所に座ると、父さんのグラスに冷酒を注いでいる。
その声を聞きながらさっちゃんは顔を上げて俺を見ると「じゃあ……」と驚いたように呟いた。

「咲月、早く座れ。今日は2組も結婚が決まっためでたい日なんだ。宴会するぞ」

それを聞いて、さっちゃんの目から涙が溢れ落ちる。

「本当に?」
「本当だよ。学さんがそう言ってるんだから。ね?お父さん?」

茶化すように俺がそう言うと、「だからお父さんって言うなっていったろうが。急に老け込んだ気分になる」と学さんは顔を顰めながら返した。

「良かったわね。さっちゃん」
「咲月、睦月さん、おめでとう!」

そんなお祝いの言葉を受け取りながら俺はさっちゃんを座るように促した。

「泣くことないだろう。お前は笑顔が一番似合うんだから、笑ってろ」

さっちゃんはそう言われると、鼻を啜りながら真っ直ぐに顔を向ける。

「うん。お父さん、お母さん、あ……」

そこまで言ったところで、学さんに「そんなセリフは結婚式にしてくれ。こっちが泣いちまうだろうが」と遮られる。

「わかった。絶対にお父さんを泣かせてみせるからね!」

ようやくさっちゃんらしい笑顔を見せて、学さんにそう言った。

「じゃあ、みんな。いっぱい食べて飲んでいってね。真琴君はあとでお買い物行くからアルコールはなしね?」

美紀子さんがニコニコしながら立ち上がる。

「えー!なんで俺だけ……」

不満そうにいう真琴君の肩に、健太君がポンと手を置く。

「安心しろ。俺も明日香送るからノンアルだ。明日香は吐かない程度に飲めよ?」

戯けたように言う健太君に、明日香ちゃんが「私のほうがお酒強いんだからね!見てなさい!」と勢いよく返していた。

それをやりとりに皆笑いながら、宴会が始まった。


◆◆


「学さん。お酒強いね」
「暁さんも結構飲んでたよ?」

そんなことを言いながら、2人で手を繋いで住宅街を歩く。さっちゃんの実家に着いたのはお昼過ぎ。そして今はもう夕方で、陽はかなり傾いている。

お酒もソフトドリンクもそれなりに無くなり、さっちゃんが酔い覚ましにコンビニに行くと言うから、俺ももちろん一緒に外に出た。

入り組んだ住宅街の細い路地を歩きながら、さっちゃんと取り留めもない話をする。

「あ、そこが健太のうち。もうちょっと行くと奈々美ちゃんのうちがあるの」
「本当にご近所さんだ。さっちゃんを小さい頃から知ってるって、ちょっと羨ましいかも」

そう言って笑いかけると、「私も、睦月さんを昔から知ってる香緒ちゃん達が羨ましいな」と笑いながら返されてしまう。

「お互い様だね。でも、これから先の未来のさっちゃんを俺が一番知ってるんだと思うと嬉しいよ」

そう言ってさっちゃんを引き寄せると、さっちゃんは自分から俺の背中に手を回して、ギュッと胸に収まった。道端だけど、歩行者しか通れそうにない細い路地。と言うか、さっきから全く人と会ってない。

「全然人いないけど、いっつもこんな感じ?」
「うん。この辺りの人って、すぐ車に乗ろうとするの。さっきも真琴が車出そっかって言ってたでしょ?歩いて10分ほどの距離なのにね」

そう言って笑いながら、さっちゃんは俺を見上げている。

「これから、どんな未来が待ってるのかなぁ?睦月さんと一緒にそれが見られるなんて幸せ」

アルコールも手伝ってか、さっちゃんはふわふわとした様子で笑みを浮かべている。

「本当にね。俺も、こんなに幸せでいいのかなぁって思うけど、これからもっとたくさんの幸せを見つけて行けるんだろうなって思ってるよ」

そう言うと、吸い寄せられるようにさっちゃんの唇に軽く触れる。

「睦月さんとなら、きっと……たくさん見つけられるね」

何にも代え難いその笑顔に、心の底から愛しさが湧き上がってくる。

「さっちゃん。好きだよ。愛してる」

道の往来で恥ずかしげもなくそう言う。

「私も。睦月さんのこと、大好き。出会えたのは奇跡だと思う」

アルコールの影響ではなく、頰を赤く染めてさっちゃんはそう言う。と言っても、もう辺りは薄暗いから、この距離でしかわからない。

「……奇跡じゃないよ。きっと、出会うべくして出会ったんだって、俺は思ってる」

囁くようにそう言いながら顔を近づけると、「うん。そうだね……」と答えるさっちゃんの唇を、俺は塞いでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

処理中です...