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俺と学さんが帰ると、皆しんみりとした様子で、食べかけのご馳走を前にかしこまっていた。
「なんだお前ら、辛気臭い顔して。ほらほら美紀子、酒出してくれ」
学さんが部屋に入りながらそう言うと、さっちゃんは顔を上げた。その顔は何故か泣き顔で、俺を見るなり立ち上がると腕に飛び込んできた。
「えっと、さっちゃん?何かあった?」
宥めるようにそっと背中を撫でると、さっちゃんは俺の胸に顔を埋めたまま首を振った。
「違うの。睦月さんの顔見たらなんか安心して」
皆の視線は俺達に注がれているけど、なんとなくさっちゃんと同じように安堵した顔つきになる。
「今日は飲むぞ!明日香も時間いけるだろ?暁さんも。飲んでないのか?」
学さんは元の場所に座ると、父さんのグラスに冷酒を注いでいる。
その声を聞きながらさっちゃんは顔を上げて俺を見ると「じゃあ……」と驚いたように呟いた。
「咲月、早く座れ。今日は2組も結婚が決まっためでたい日なんだ。宴会するぞ」
それを聞いて、さっちゃんの目から涙が溢れ落ちる。
「本当に?」
「本当だよ。学さんがそう言ってるんだから。ね?お父さん?」
茶化すように俺がそう言うと、「だからお父さんって言うなっていったろうが。急に老け込んだ気分になる」と学さんは顔を顰めながら返した。
「良かったわね。さっちゃん」
「咲月、睦月さん、おめでとう!」
そんなお祝いの言葉を受け取りながら俺はさっちゃんを座るように促した。
「泣くことないだろう。お前は笑顔が一番似合うんだから、笑ってろ」
さっちゃんはそう言われると、鼻を啜りながら真っ直ぐに顔を向ける。
「うん。お父さん、お母さん、あ……」
そこまで言ったところで、学さんに「そんなセリフは結婚式にしてくれ。こっちが泣いちまうだろうが」と遮られる。
「わかった。絶対にお父さんを泣かせてみせるからね!」
ようやくさっちゃんらしい笑顔を見せて、学さんにそう言った。
「じゃあ、みんな。いっぱい食べて飲んでいってね。真琴君はあとでお買い物行くからアルコールはなしね?」
美紀子さんがニコニコしながら立ち上がる。
「えー!なんで俺だけ……」
不満そうにいう真琴君の肩に、健太君がポンと手を置く。
「安心しろ。俺も明日香送るからノンアルだ。明日香は吐かない程度に飲めよ?」
戯けたように言う健太君に、明日香ちゃんが「私のほうがお酒強いんだからね!見てなさい!」と勢いよく返していた。
それをやりとりに皆笑いながら、宴会が始まった。
◆◆
「学さん。お酒強いね」
「暁さんも結構飲んでたよ?」
そんなことを言いながら、2人で手を繋いで住宅街を歩く。さっちゃんの実家に着いたのはお昼過ぎ。そして今はもう夕方で、陽はかなり傾いている。
お酒もソフトドリンクもそれなりに無くなり、さっちゃんが酔い覚ましにコンビニに行くと言うから、俺ももちろん一緒に外に出た。
入り組んだ住宅街の細い路地を歩きながら、さっちゃんと取り留めもない話をする。
「あ、そこが健太のうち。もうちょっと行くと奈々美ちゃんのうちがあるの」
「本当にご近所さんだ。さっちゃんを小さい頃から知ってるって、ちょっと羨ましいかも」
そう言って笑いかけると、「私も、睦月さんを昔から知ってる香緒ちゃん達が羨ましいな」と笑いながら返されてしまう。
「お互い様だね。でも、これから先の未来のさっちゃんを俺が一番知ってるんだと思うと嬉しいよ」
そう言ってさっちゃんを引き寄せると、さっちゃんは自分から俺の背中に手を回して、ギュッと胸に収まった。道端だけど、歩行者しか通れそうにない細い路地。と言うか、さっきから全く人と会ってない。
「全然人いないけど、いっつもこんな感じ?」
「うん。この辺りの人って、すぐ車に乗ろうとするの。さっきも真琴が車出そっかって言ってたでしょ?歩いて10分ほどの距離なのにね」
そう言って笑いながら、さっちゃんは俺を見上げている。
「これから、どんな未来が待ってるのかなぁ?睦月さんと一緒にそれが見られるなんて幸せ」
アルコールも手伝ってか、さっちゃんはふわふわとした様子で笑みを浮かべている。
「本当にね。俺も、こんなに幸せでいいのかなぁって思うけど、これからもっとたくさんの幸せを見つけて行けるんだろうなって思ってるよ」
そう言うと、吸い寄せられるようにさっちゃんの唇に軽く触れる。
「睦月さんとなら、きっと……たくさん見つけられるね」
何にも代え難いその笑顔に、心の底から愛しさが湧き上がってくる。
「さっちゃん。好きだよ。愛してる」
道の往来で恥ずかしげもなくそう言う。
「私も。睦月さんのこと、大好き。出会えたのは奇跡だと思う」
アルコールの影響ではなく、頰を赤く染めてさっちゃんはそう言う。と言っても、もう辺りは薄暗いから、この距離でしかわからない。
「……奇跡じゃないよ。きっと、出会うべくして出会ったんだって、俺は思ってる」
囁くようにそう言いながら顔を近づけると、「うん。そうだね……」と答えるさっちゃんの唇を、俺は塞いでいた。
「なんだお前ら、辛気臭い顔して。ほらほら美紀子、酒出してくれ」
学さんが部屋に入りながらそう言うと、さっちゃんは顔を上げた。その顔は何故か泣き顔で、俺を見るなり立ち上がると腕に飛び込んできた。
「えっと、さっちゃん?何かあった?」
宥めるようにそっと背中を撫でると、さっちゃんは俺の胸に顔を埋めたまま首を振った。
「違うの。睦月さんの顔見たらなんか安心して」
皆の視線は俺達に注がれているけど、なんとなくさっちゃんと同じように安堵した顔つきになる。
「今日は飲むぞ!明日香も時間いけるだろ?暁さんも。飲んでないのか?」
学さんは元の場所に座ると、父さんのグラスに冷酒を注いでいる。
その声を聞きながらさっちゃんは顔を上げて俺を見ると「じゃあ……」と驚いたように呟いた。
「咲月、早く座れ。今日は2組も結婚が決まっためでたい日なんだ。宴会するぞ」
それを聞いて、さっちゃんの目から涙が溢れ落ちる。
「本当に?」
「本当だよ。学さんがそう言ってるんだから。ね?お父さん?」
茶化すように俺がそう言うと、「だからお父さんって言うなっていったろうが。急に老け込んだ気分になる」と学さんは顔を顰めながら返した。
「良かったわね。さっちゃん」
「咲月、睦月さん、おめでとう!」
そんなお祝いの言葉を受け取りながら俺はさっちゃんを座るように促した。
「泣くことないだろう。お前は笑顔が一番似合うんだから、笑ってろ」
さっちゃんはそう言われると、鼻を啜りながら真っ直ぐに顔を向ける。
「うん。お父さん、お母さん、あ……」
そこまで言ったところで、学さんに「そんなセリフは結婚式にしてくれ。こっちが泣いちまうだろうが」と遮られる。
「わかった。絶対にお父さんを泣かせてみせるからね!」
ようやくさっちゃんらしい笑顔を見せて、学さんにそう言った。
「じゃあ、みんな。いっぱい食べて飲んでいってね。真琴君はあとでお買い物行くからアルコールはなしね?」
美紀子さんがニコニコしながら立ち上がる。
「えー!なんで俺だけ……」
不満そうにいう真琴君の肩に、健太君がポンと手を置く。
「安心しろ。俺も明日香送るからノンアルだ。明日香は吐かない程度に飲めよ?」
戯けたように言う健太君に、明日香ちゃんが「私のほうがお酒強いんだからね!見てなさい!」と勢いよく返していた。
それをやりとりに皆笑いながら、宴会が始まった。
◆◆
「学さん。お酒強いね」
「暁さんも結構飲んでたよ?」
そんなことを言いながら、2人で手を繋いで住宅街を歩く。さっちゃんの実家に着いたのはお昼過ぎ。そして今はもう夕方で、陽はかなり傾いている。
お酒もソフトドリンクもそれなりに無くなり、さっちゃんが酔い覚ましにコンビニに行くと言うから、俺ももちろん一緒に外に出た。
入り組んだ住宅街の細い路地を歩きながら、さっちゃんと取り留めもない話をする。
「あ、そこが健太のうち。もうちょっと行くと奈々美ちゃんのうちがあるの」
「本当にご近所さんだ。さっちゃんを小さい頃から知ってるって、ちょっと羨ましいかも」
そう言って笑いかけると、「私も、睦月さんを昔から知ってる香緒ちゃん達が羨ましいな」と笑いながら返されてしまう。
「お互い様だね。でも、これから先の未来のさっちゃんを俺が一番知ってるんだと思うと嬉しいよ」
そう言ってさっちゃんを引き寄せると、さっちゃんは自分から俺の背中に手を回して、ギュッと胸に収まった。道端だけど、歩行者しか通れそうにない細い路地。と言うか、さっきから全く人と会ってない。
「全然人いないけど、いっつもこんな感じ?」
「うん。この辺りの人って、すぐ車に乗ろうとするの。さっきも真琴が車出そっかって言ってたでしょ?歩いて10分ほどの距離なのにね」
そう言って笑いながら、さっちゃんは俺を見上げている。
「これから、どんな未来が待ってるのかなぁ?睦月さんと一緒にそれが見られるなんて幸せ」
アルコールも手伝ってか、さっちゃんはふわふわとした様子で笑みを浮かべている。
「本当にね。俺も、こんなに幸せでいいのかなぁって思うけど、これからもっとたくさんの幸せを見つけて行けるんだろうなって思ってるよ」
そう言うと、吸い寄せられるようにさっちゃんの唇に軽く触れる。
「睦月さんとなら、きっと……たくさん見つけられるね」
何にも代え難いその笑顔に、心の底から愛しさが湧き上がってくる。
「さっちゃん。好きだよ。愛してる」
道の往来で恥ずかしげもなくそう言う。
「私も。睦月さんのこと、大好き。出会えたのは奇跡だと思う」
アルコールの影響ではなく、頰を赤く染めてさっちゃんはそう言う。と言っても、もう辺りは薄暗いから、この距離でしかわからない。
「……奇跡じゃないよ。きっと、出会うべくして出会ったんだって、俺は思ってる」
囁くようにそう言いながら顔を近づけると、「うん。そうだね……」と答えるさっちゃんの唇を、俺は塞いでいた。
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