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お母さんが用意してくれていたお昼ご飯は予想以上にたくさんあって、私は出来上がっていたものを先に運んだ。
「こんなに用意してて、お父さん変だと思わなかったの?」
食器棚から取り皿を出しながらお母さんに尋ねると、ちらし寿司を盛り付けていたお母さんは顔を上げた。
「杖を突きながらウロウロされてぶつかられたら困るからって、今はこっちに来ないように言ってあるのよ」
そんなことを言ってお母さんは笑う。それに素直に従うお父さんは、やっぱりお母さんには頭が上がらないんだなぁ、なんて思う。そしてそんなお父さんに、私はさっき勢い余って言ってしまったことを後悔していた。
「お母さん。さっきね、若気の至りなんて言っちゃったけど、2人が若くして結婚したのに、頑張って私達を育ててくれたのはわかってるから。……ごめんなさい」
「わかっているわよ。あなた達には、私達が結婚した理由を話したことなかったものね。確かに若気の至りと言われてもしかたないわ」
お母さんは何事もなかったように笑顔を見せている。
そう言えば、確かに2人の馴れ初めなんて聞いたことはない。今思えば、お父さんには今までなんとなく躱されていたような気がする。
「じゃあ、いい機会だから、その話をしましょうか」
お母さんは盛り付け終わった皿をお盆に乗せ持ち上げるとそう言った。
「はい。これで最後よ」
お盆を渡され、私はそれを受け取ると皆がいる和室に向かった。中に入ると、残っていたメンバーは和気藹々と話に花を咲かせている。
「ねぇねぇ。暁さんって、睦月さんのお父さんなんだね!てっきり咲月のお祖父ちゃんだと思ってた」
真っ先に明日香ちゃんにそう言われる。確かに、そんな風にしか見えないし。睦月さんとよりお父さんとのほうが、似てないけど親子に見えてしまうくらいだ。
「そうなの。私も先月初めてお会いしたんだけど、もうびっくりしちゃって」
私は答えながら、ちらし寿司を皆の前に置いていく。
「いやぁ、本当にあの時は驚いた!」
暁さんも笑い声を上げながらそう言っている。それを見ながら、今度は真琴が口を開いた。
「でもほんと、今じゃすっかり本当の祖父ちゃんより祖父ちゃんみたいだよな」
「真琴にそう言われると嬉しいなぁ」
暁さんは満更でもなさそうに笑っていた。
「あら、暁さん?学君だって、本当のお父さんみたいに思ってますよ?」
最後に入ってきたお母さんが、後ろからそんなことを言った。
「そうだといいんだがなぁ」
暁さんは嬉しそうにそう言っているのを見ながら、お母さんは席に着く。
「じゃあいただきましょうか。それから私の昔話でもを聞いて貰おうかしら」
そう言いながらお母さんは手を合わせた。それに促されるように私も手を合わせながら「昔話って……お母さん達の馴れ初め?」と尋ねる。
「そうね。あとでゆっくりと。……では、いただきます」
お母さんが穏やかに言ったのに合わせて、その場にいたみんなが同じように続いた。
しばらくはみんなでご飯を食べながらワイワイと話をしていた。久しぶりに食べる、お母さんが作ってくれたご飯。見た目は素朴なものばかだけど、私にとっては一番のご馳走だ。明日香ちゃんも満面の笑みを浮かべて「おばさんのご飯やっぱり美味しい!!」とせっせと口に運んでいる。
私達家族は、そんな明日香ちゃんとその隣に並んで座っている健太に質問責めだ。
「明日香ちゃん。ホントに付き合いだしたのさっきなの?」
明日香ちゃんが嘘を言うわけないと思っても、つい確かめてしまう。
「そうだよ。まぁ……ずっと私の片想いだと思ってたんだけどねぇ。ダメ元で告白したらOKで。実はびっくりしたのよ」
笑いながらそう言う明日香ちゃんに、健太のほうは呆れたような顔を見せている。
「だからって、その勢いで結婚しようとか言うか?つか、それにいいっつったの俺だけどさ」
「流れには乗らないとでしょ?考える暇を与えないのが私の戦法よ!」
得意げにそう言う明日香ちゃんに、健太は「はいはい」なんて言いながらも、なんだか凄く幸せそうだ。
「勢い大事だよなぁ。俺、奈々美と付き合いだして6年になるのに、未だにタイミング掴めないでいるんだけど」
ご飯を食べながらも愚痴を溢す真琴に、今度は健太が答える。
「おまえらなら心配いらないと思うけど、前の俺みたいになるなよ。明日香の言う通り、頭で考えるより行動することも大事だって思うから」
「……健太君にそう言われると重いわ」
そういえば、健太が睦月さんに初めて会ったとき、振られて荒れてた、なんて言っていた。2人のやりとりを見て、真琴はそのあたりを知ってたんだ……と思った。
「みんな青春ねぇ。お母さん、ちょっと羨ましいわ。お付き合いなんてしたことないし」
ずっとニコニコしながら話を聞いていたお母さんが、その顔のまま唐突にそう言う。それにみんなが注目し、そして私はお母さんに尋ねた。
「お母さん?お父さんとは付き合ってない……の?」
「こんなに用意してて、お父さん変だと思わなかったの?」
食器棚から取り皿を出しながらお母さんに尋ねると、ちらし寿司を盛り付けていたお母さんは顔を上げた。
「杖を突きながらウロウロされてぶつかられたら困るからって、今はこっちに来ないように言ってあるのよ」
そんなことを言ってお母さんは笑う。それに素直に従うお父さんは、やっぱりお母さんには頭が上がらないんだなぁ、なんて思う。そしてそんなお父さんに、私はさっき勢い余って言ってしまったことを後悔していた。
「お母さん。さっきね、若気の至りなんて言っちゃったけど、2人が若くして結婚したのに、頑張って私達を育ててくれたのはわかってるから。……ごめんなさい」
「わかっているわよ。あなた達には、私達が結婚した理由を話したことなかったものね。確かに若気の至りと言われてもしかたないわ」
お母さんは何事もなかったように笑顔を見せている。
そう言えば、確かに2人の馴れ初めなんて聞いたことはない。今思えば、お父さんには今までなんとなく躱されていたような気がする。
「じゃあ、いい機会だから、その話をしましょうか」
お母さんは盛り付け終わった皿をお盆に乗せ持ち上げるとそう言った。
「はい。これで最後よ」
お盆を渡され、私はそれを受け取ると皆がいる和室に向かった。中に入ると、残っていたメンバーは和気藹々と話に花を咲かせている。
「ねぇねぇ。暁さんって、睦月さんのお父さんなんだね!てっきり咲月のお祖父ちゃんだと思ってた」
真っ先に明日香ちゃんにそう言われる。確かに、そんな風にしか見えないし。睦月さんとよりお父さんとのほうが、似てないけど親子に見えてしまうくらいだ。
「そうなの。私も先月初めてお会いしたんだけど、もうびっくりしちゃって」
私は答えながら、ちらし寿司を皆の前に置いていく。
「いやぁ、本当にあの時は驚いた!」
暁さんも笑い声を上げながらそう言っている。それを見ながら、今度は真琴が口を開いた。
「でもほんと、今じゃすっかり本当の祖父ちゃんより祖父ちゃんみたいだよな」
「真琴にそう言われると嬉しいなぁ」
暁さんは満更でもなさそうに笑っていた。
「あら、暁さん?学君だって、本当のお父さんみたいに思ってますよ?」
最後に入ってきたお母さんが、後ろからそんなことを言った。
「そうだといいんだがなぁ」
暁さんは嬉しそうにそう言っているのを見ながら、お母さんは席に着く。
「じゃあいただきましょうか。それから私の昔話でもを聞いて貰おうかしら」
そう言いながらお母さんは手を合わせた。それに促されるように私も手を合わせながら「昔話って……お母さん達の馴れ初め?」と尋ねる。
「そうね。あとでゆっくりと。……では、いただきます」
お母さんが穏やかに言ったのに合わせて、その場にいたみんなが同じように続いた。
しばらくはみんなでご飯を食べながらワイワイと話をしていた。久しぶりに食べる、お母さんが作ってくれたご飯。見た目は素朴なものばかだけど、私にとっては一番のご馳走だ。明日香ちゃんも満面の笑みを浮かべて「おばさんのご飯やっぱり美味しい!!」とせっせと口に運んでいる。
私達家族は、そんな明日香ちゃんとその隣に並んで座っている健太に質問責めだ。
「明日香ちゃん。ホントに付き合いだしたのさっきなの?」
明日香ちゃんが嘘を言うわけないと思っても、つい確かめてしまう。
「そうだよ。まぁ……ずっと私の片想いだと思ってたんだけどねぇ。ダメ元で告白したらOKで。実はびっくりしたのよ」
笑いながらそう言う明日香ちゃんに、健太のほうは呆れたような顔を見せている。
「だからって、その勢いで結婚しようとか言うか?つか、それにいいっつったの俺だけどさ」
「流れには乗らないとでしょ?考える暇を与えないのが私の戦法よ!」
得意げにそう言う明日香ちゃんに、健太は「はいはい」なんて言いながらも、なんだか凄く幸せそうだ。
「勢い大事だよなぁ。俺、奈々美と付き合いだして6年になるのに、未だにタイミング掴めないでいるんだけど」
ご飯を食べながらも愚痴を溢す真琴に、今度は健太が答える。
「おまえらなら心配いらないと思うけど、前の俺みたいになるなよ。明日香の言う通り、頭で考えるより行動することも大事だって思うから」
「……健太君にそう言われると重いわ」
そういえば、健太が睦月さんに初めて会ったとき、振られて荒れてた、なんて言っていた。2人のやりとりを見て、真琴はそのあたりを知ってたんだ……と思った。
「みんな青春ねぇ。お母さん、ちょっと羨ましいわ。お付き合いなんてしたことないし」
ずっとニコニコしながら話を聞いていたお母さんが、その顔のまま唐突にそう言う。それにみんなが注目し、そして私はお母さんに尋ねた。
「お母さん?お父さんとは付き合ってない……の?」
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