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そうしているうち、家のインターフォンが鳴った。さっちゃんが立ち上がろうとするのを制止して、「俺出るよ」と玄関に向かう。まぁ、誰かわかってるし。

「はーい!お使いありがと~!」

玄関を開けるなりそう言うと、もちろんそこには顰めっ面の司が紙袋を下げ立っていた。

「ほら、わざわざ俺が買ってきたんだから有り難く食えよ?」

そんなことを言いながら司は玄関に入って来た。

「もちろん!そうさせていただきます!」

そう返して、どう見てもデパートで買ってきただろう高級弁当の入った袋を受け取りながら、俺は靴を脱ぐ司を眺めた。

「って、司は食べたの?」
「いや、まだ。ここで食ってってもいいか?」
「いいけど……。瑤子ちゃんと喧嘩でもした?」

さっき瑤子ちゃんは家にいると言っていたのに、なんですぐそこの自分の家で食べないのか不思議に思いながら俺は尋ねる。

「してねーよ。ちょっとした事情があってだな。つーか、アイツらは奥か?」
「えっ?うん。みんなリビングにいるけど?」

未だに玄関先で会話しながら、司にそんなことを尋ねられた。

「今はお前だけに話したいことがあるから、どっか場所ねぇか?」

神妙な面持ちで司にそう言われ、一体何ごとかと俺は身構える。

「別にたいした話じゃねーよ。ただ、アイツらに聞かせるにはまだ早いだけだ。いずれは話す」
「ならいいんだけどさ。あ、すぐ右の部屋、まだ何もないからそこでいい?俺、先にこれみんなに渡してくる」

そう言って紙袋を掲げると、司の返事を聞く前にリビングへ向かった。

「司がお弁当買ってきてくれたから食べよ~?」

そう言いながら紙袋からお弁当を取り出すと、テーブルなんてないから仕方なく床に並べてみる。
全部同じものかと思ったら、何種類か入っていて、みなが好き好きに選んで残った2つをまた袋に戻した。

「睦月さんここで食べないの?」

立ち上がった俺を見上げてさっちゃんに尋ねられ、俺は笑顔を返す。

「うん。司とちょっと話があってね。結婚まで漕ぎつけた先輩に色々ご教授願おうかなって。みんなはこっちでゆっくりしてて」

さっちゃんは腑に落ちないなような顔をしていたけど、それ以上尋ねることなく「睦月さんもゆっくりしてね」と言ってくれた。

司が待つ部屋に戻ると、俺は早速お弁当の片方を司に渡す。

「はい。司は焼肉弁当ね~!」

そう言うと司は「はぁ?俺が食うはずの刺身弁当はどこ行った?」と受け取りながらも顔を顰めていた。

「いっただっきまーす!」

俺は手を合わせてお弁当の蓋を開ける。何もない部屋に胡座をかいて座り込みお弁当を開けるおっさん2人。なかなかにシュールだ。

「で?話って何?」

割り箸を手に尋ねると司は顔を上げた。

「あー……。撮ろうと思って」

あんまり見ることのない照れくさそうな顔で司はそう言う。

「ん?何を?」
「あれだ、前に言ってただろ。瑤子の写真」

そういえば、司と瑤子ちゃんが入籍の報告に来てくれたとき、式を挙げる予定はないって言っていた司に、俺は写真くらい撮ればって話した。司は本当に撮られるのを苦手としているから、ようやく決心したみたいだ。

「やっとその気になったんだ!もちろん司も込みだよね?」
「……。しかたねーだろ。瑤子だって自分一人の写真なんて眺めねぇよ」

渋い顔してそう言う司を見ながら、俺は内心、本当に似た者夫婦だよね、と笑ってしまう。2人とも容姿がいいのに写真が苦手で自分には興味がない。お互いがお互いのこと好きすぎて、自分じゃなくて相手のことを見てたいタイプだ。

「喜んで撮らせてもらうよ!楽しみだなぁ」

俺は食べることもせず、箸を握りしめたまま笑顔を返すと、司は続けた。

「で、だ。ヘアメイクを綿貫に頼めねーかな。瑤子もそのほうが喜ぶだろうし」
「いいの?さっちゃんもきっとやりたがると思うよ?で、いつにするの?」

返事は聞かなくても、さっちゃんならきっと2つ返事でOKしてくれると思う。俺はそんなことを思いながら尋ねた。

「まだ具体的には決めてないし、この話自体まだ瑤子には話してない。来月誕生日だし、その時に、とは思ってる」
「サプライズだねぇ。じゃあさ、俺に場所とか任せてくれない?」

自分のことのようにワクワクしながら俺が言うと、司は「そりゃ、もちろんいいが、時期は5月末から6月末までにしてくれ」と、具体的に決まってないと言いつつ、やけに具体的な期間を指定した。

「何?その間に何かあるの?」
「それはだな……」

俺の問いに、何故か司は視線を外して言いにくそうに口籠った。

「瑤子の体調が良さそうなのがそれくらいの時期だからだ」
「え?瑤子ちゃん、体調悪いの?大丈夫?」
「悪いっつーか。その……今はちょっと悪阻だ」

そう言われて、俺は握りっぱなしだった箸を落っことす。

「えっと……。悪阻って、あの悪阻……だよね……?」
「お前な、悪阻っつったらあの悪阻しかねーだろ」
「…………。だよね」

俺はまだ呆然としながら、そう答えていた。
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