年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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「これ……。昔の香緒なんだね」

取り出した雑誌を見て、睦月さんがそう言っているのが聞こえて振り返る。

「そうなの。ずっと残してて。最初はこんな長く一緒に仕事できるなんて思ってなかったけど、いつのまにかこんなに増えてたな」

改めて、約5年分の積み上がった雑誌の量を見ると、自分でも凄いなって思う。

「これが、さっちゃんと香緒と希海の歴史なんだね。ちょっと羨ましい」

そう言って睦月さんは目を細めてそれを見ている。

「これから……同じくらい睦月さんとの仕事の本も増えたらいいな」
「だね。俺も、香緒以外でさっちゃんと仕事できるように頑張るよ」

そう言いながら、睦月さんは雑誌を丁寧に梱包してくれていた。


「よし。今日はこんなものかな?」

朝から作業にかかり、お昼を挟んでもう夕方。ほぼ運ぶものは箱詰めできた。睦月さんは箱を積み上げると、タオルで汗を拭いながらそう言った。

「じゃあ帰ろうか」
「うん」

さすがに4月も下旬だと暖かい。昼間は少し動くと暑いくらいで、1日動いていて汗だくだ。しかも、2人とも汚れてもいい感じの服装だから、ちょっとどこかに寄ってご飯を食べるのさえ躊躇する。結局、簡単にピザでも頼もうか、ってことになり家に帰った。

「さっちゃん、お風呂入れとくから先入ってね」
「睦月さんのほうこそ、私より動いてるから汗かいてるでしょ?先に入ったら?」

洗面所で手を洗いながらそう言うと、睦月さんはニッコリ笑って私に言う。

「じゃあ、一緒に入る?」

……。そうくると思った。私があまりにも恥ずかしがるから、今まで数えるほどしか一緒に入ったことはない。普段はそれを尊重してくれるのだけど、時々ご褒美的におねだりされてしまう。一緒に入ろうと。

「ピ、ピザ受け取らなきゃいけないし、また今度……」
「え~。今日俺頑張ったから労って欲しかったなぁ」

時々見せる、ちょっと意地悪な顔で睦月さんはそう言うと私の顔を覗き込む。

「あっ、ほら!明日も頑張ってもらわなきゃいけないし」

視線を泳がせながらそう答えると、睦月さんはニヤリと笑う。

「じゃあ、新居の広いお風呂を一緒に堪能しようね?楽しみだなぁ」
「……。堪能するのはお風呂だけにしてね……」

私が尻込みしながらそう言うと、睦月さんは息を漏らして笑う。

「ごめん。それはきっと無理。今から謝っとくよ」

そう言って睦月さんは私の唇を塞いでいた。


次の日曜日。暑いくらいのいいお天気のなか、申し訳ないくらい顔のいい人達が集まって引っ越しは始まった。

武琉君がしゅになって運び出しをして、希海さんはそれを台車で運んで、受け取った睦月さんがトラックに積み込んでいる。そして、私と香緒ちゃんは部屋の掃除に勤しんだ。
処分しようと思っていた冷蔵庫は最初に運び出していて、引っ越しが終わったら香緒ちゃんが引き取ってくれることになっている。なんでも武琉君が来てから、いつも食べる物で冷蔵庫がいっぱいで、飲み物があまり入らなくなったらしい。
洗濯機はこっちで処分することにして、そうたくさんはない家具や家電と段ボールを積むと、睦月さんが借りてきたトラックはちょうどいっぱいになった。

「なんか……。あっという間」

元々ほぼ箱に入れていたのもあって、1時間も経たないうちに部屋は空っぽになった。

「ほんと。3人とも力あるよね。僕なんて、掃除機かけるくらいしかしてないよ」

さっき最後の荷物を希海さんと武琉君が運んでいったから、部屋には香緒ちゃんと二人きりだ。

「武琉君は見た目通り力ありそうだけど、希海さんも意外と力持ちでびっくりしちゃった」

本人には言えない感想をこっそり香緒ちゃんに言うと、香緒ちゃんは笑ってそれに答える。

「カメラマンってさ、立ちっぱなしだし動き回るから結構体力使うんだって。いつも動くの面倒くさそうな顔してるわりに、意外と鍛えてたりするんだよね、希海」
「確かに。睦月さんも体力あるもんなぁ」

私はそれをなんの気無しに口に出すと、香緒ちゃんは黙ったままジーッと私を見ていた。

「それ。あんまり他の人に言わないほうがいいと思うよ?」

香緒ちゃんは、真面目な顔で私を見下ろしてそう言う。

「……?なんで?」

私が不思議に思いながら香緒ちゃんを見上げると、ちょっと顔を赤らめて香緒ちゃんは視線を外した。

「さっちゃん……。体力あるって思ったの、どんな時?」

そう言われて、私の顔は香緒ちゃんとは比にならないくらい赤くなったと思う。たぶん、今私が思い浮かべてたことを香緒ちゃんも考えてるだろうから。

「睦月君。まさか、さっちゃんのその髪の長さで括ると思ってなかったんだろうね……。その、首筋についてるよ……」

言い辛そうにした香緒ちゃんに、何が?と尋ねそうになってハッとする。
そして昨日の夜、睦月さんが私の首筋に何をしたか思い出して、私の顔は余計熱くなっていた。
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