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「実はね、もうお父さんにすでに会っちゃってるの」

そう言った私の目の前には、「「へっ?」」と揃って言葉を発した明日香ちゃんと健太がいる。そして隣では、睦月さんが何とも言えない表情で私を見ていた。

今日は前に約束してた、対策会議と言う名の飲み会。あれからもう一月ほど経ち、もう来週にはゴールデンウィーク。結婚の挨拶が控えているのだ。

明日香ちゃん達の職場も近いし、店はいただきに決め、私達は連休直前の金曜日に店の前で待ち合わせをしていた。
時間通りに集まり、そのままの流れで明日香ちゃんに睦月さんを紹介してから店に入る。そして、一番奥まった席に案内され、適当に注文を済ませたところで私は2人に話を切り出したのだ。

「って、この1ヵ月の間に?」

私の向かいにいる明日香ちゃんは、驚いているようで目を丸くしている。

「うん。と言うか……同窓会の次の日にね……」

そう言って、私が続きを話そうとしたとき、ビールジョッキを4つ持った竜二おじさんが「お待ち!」と威勢よくテーブルにやって来た。それぞれの前にそれを置き、最後に私にジョッキを差し出しながらおじさんは口を開いた。

「学はどうだ?兄貴から事故ったって聞いて驚いたんだが」

おじさんのお兄さんは奈々美ちゃんのお父さん。もうこっちの話なんて筒抜けだ。おじさんはすぐ事故のことを知ったようだ。

「心配かけてごめんね。もうすっかりピンピンしてるって。仕事にも行き始めたみたい。真琴が送り迎えさせられてて文句言ってた」

私は、数日前に電話で聞いた家の様子をおじさんに伝える。

「そりゃ良かった。じゃ、ゆっくりしてってくれ」

そう言っておじさんはカウンターに戻って行った。

「おじさん、事故?大丈夫だったの?」

明日香ちゃんは心配そうに私に尋ねる。

「うん。足を骨折したくらいであとは問題なくて。それが……会うことになった原因なんだけどね……」

決まりの悪い返事を私が返すと、興味深々な様子で明日香ちゃんも健太も私を見ていた。

「と、とりあえず乾杯しよ?」

私がそう言って、それに促されるように皆でジョッキを合わせた。

そして……

「うわ、様子が目に浮かぶ!」

次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちつつ、私の話を酒の肴に飲み進めていた健太がそう言う。

「本当。想像しかできないわね」

2杯目のジョッキを早くも飲み干した明日香ちゃんも、笑いながらそう言っていた。
けれど、それを聞いた睦月さんは「笑えないんだけど……」と一人肩を落としていた。

「でもさぁ。おじさん、どんな人が現れようと絶対1回は反対しそうじゃない?」

明日香ちゃんは次にハイボールを注文してから、私達に向きそう言う。

「私だって覚悟はしてたけど、1回じゃないよ!帰る前に病院に行ったら、今度は最初から布団かぶって出てこないの。大人げないと思わない?」

私は、2人がお父さんを知っているからこその愚痴を零すと、健太は3杯目のジョッキを店員さんに差し出しながら、笑って私に言う。

「町内一のヤンキーとか言われてたのに、おじさんのそんな姿見たら、うちの親父笑いそう」

それを聞いて、今日はお酒のペースが全然上がらない睦月さんが、ようやく2杯目のジョッキを半分ほど消費して、引き攣った顔を見せた。

「ヤンキーって……、あのヤンキーだよね?」
「他にヤンキーいないでしょ!」

健太は笑いながらそう返して続ける。

「実際凄かったらしいですよ?って、俺も中学の卒アル見て笑えなかったんですけどね」
「なんで健太が卒アルなんて見たの?うちにもないのに」

昔、なんの気なしに母に尋ねたことがある。お父さんとお母さんの卒アルはないのかって。けれど、なぜか高校のはあっても、二冊あるはずの中学のはないって返事だった。その時は気にも留めなかったけど、今となっては不自然だ。

「中学の図書室に歴代の卒アル保管してあるんだよ。知らなかっただろ?」

得意げに健太はそう言い、私はそれに「うん」と言いながら頷いた。

「で、どうだったの?」

睦月さんが健太に恐る恐る尋ねると、明日香ちゃんは興味深々でその様子を眺めている。

「それが……、眉はないしリーゼントだし、ものすっごい目つきで写真に写ってました」

予想通りの姿で、私は溜め息でそれに返す。健太が言う、『町内一のヤンキー』は大袈裟ではなく、やっぱり本当なんだろうな、と改めて思う。だって、お父さんが育った同じ町内に私も住んでいたのだから、周りの大人からそんな話は自然と耳に入った。

「さすがおじさん!目つきの悪さは筋金入りだ」

そう言う明日香ちゃんは、お父さんと初めて会ったとき、全く物おじせず話していた。だから、お父さんもそんな明日香ちゃんのことをとっても気に入っていたみたいだ。

「なのに、あんなに甘いもの好きなんだから、ギャップ凄いよね!」

そう言って思い出したように明日香ちゃんは笑っていた。
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