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とりあえず次へ行こうと言うことになり、これまた同じく司と行った場所に向かう。と言っても、全国各地にあるショッピングモールだ。
前に来た時よりずいぶん広くなっていたその場所で、コーヒーショップに入り俺の思い出話をしたあと、夕食の材料を買って、さっちゃんの実家に向かう。

すっかり日は西の空に沈みかけていて、遠くの空はオレンジに染まっている。それを前方に見ながら幹線道路を走っていた。

「最後にもう一箇所だけ寄り道したいんだけど、いいかな?」

なんとなくまた海が見え始めると、俺はさっちゃんに尋ねる。

「うん。また思い出の場所?」
「そう。これから行くところが、一番記憶に残ってるんだよね」

標識を見落とさないように目を凝らしながら少し進むと、その場所がやってくる。右に曲がるウインカーを出し車を一旦停止させると、さっちゃんはすぐにどこを目指しているのかわかったようだ。

「えっ……?本当に?」

最初にこの近くを通ったとき、さっちゃんは実家はこの辺りだと言っていた。だから、きっとさっちゃんにとってよく知った場所なんだろう。さっちゃんは俺を見上げて目を丸くしていた。

そこは海を望む『展望台』になっている。曲がってすぐ駐車場になっていて、その先には砂浜が広がっている。そして、前に来たときと全く変わらないその場所に俺は車を停めた。

「おー!全然変わってない!」

車を降り、砂まみれの駐車場から遠くを見るようにして俺はそう声を上げた。

「ここは……本当に変わらないな」

さっちゃんも少し懐かしそうだ。
扉を閉めて鍵をかけると、俺はさっちゃんのいるほうに回る。

「さっちゃんも久しぶり?」
「うん。実家に帰ってもわざわざ寄ることなかったし」
「じゃ、ちょっと海見に行こうよ」

そう言って俺はさっちゃんの手を取る。さっちゃんはその手を握って、嬉しそうに笑った。

「大好きな人とここに来るなんて夢みたい」
「俺も。傷心旅行で来た場所に、まさか世界で一番大事な人と来ることになるなんて思わなかった」

そんなことを言い合いながら、砂浜をサクサクと言わせながらゆっくり歩く。
日は落ちてすっかり薄暗くはなっているけど、かろうじてまだ周りは見える。

波の音がずいぶん大きく聞こえる、でも波は絶対届かない乾いた砂浜に立つと、俺は昔を思い出していた。

「座ってもいい?」

砂浜だから座ったら砂まみれになるのは目に見えてるけど、ゆっくり話をしたいと思いながらさっちゃんに提案すると、「もちろん」と笑顔で返ってくる。
その場に座ると、さっちゃんも俺の横にくっつくように座ってくれた。

「睦月さんがここに来たことあったなんて……凄く不思議な気分」

海のほうに顔を向けたまま、さっちゃんは言う。

「本当にね。……さっちゃんはここによく来てたの?」

俺がさっちゃんの横顔を眺めながら尋ねると、さっちゃんは俺のほうを向いて笑みを浮かべた。

「うん。小学生くらいまではお母さんとよく散歩に来てたな。そういえば、本当は危ないから子どもだけで来ちゃいけないって言われてたんだけど、1回だけ子どもだけで来たことがあるの」

ふふっと笑いながら、さっちゃんはその時のことを話しだした。

「──でね、お母さんに見つからないうちに早く帰ろうって言ったのに真琴がなかなか言うこと聞いてくれなくて……」

懐かしそうに聞かせてくれたのは、美紀子さんに秘密でここに遊びに来たさっちゃんと真琴君と奈々美ちゃんの話だった。

「もうさすがに帰ろうってした時に、運悪く奈々美ちゃんの帽子が海まで飛ばされちゃって」
「…………。うん。それで?」

俺は不思議な気分でその話を聞いていた。まるで、目の前でその光景を見ていたみたいに。

「真琴は棒を持ってきて取ろうと頑張ったんだけど取れなくて」
「……。そうだね。ここ、見た目より深いから入っちゃいけないもんね」

肩越しにさっちゃんにそう言うと、さっちゃんは不思議そうに俺を見ている。

「そう。……なんで知ってるの?」

確かに、遊泳禁止の看板はあったけど、理由までは書いていない。俺が知っているのは、昔そう教えてもらったからだ。ここで出会った女の子に。
俺は笑みだけ浮かべてそれに答えることなく話を続ける。

「その話の続き、当ててみようか?」
「え?うん……」

さっちゃんは顔を俺に向け、大きな瞳をより大きくしていた。

「その時、通りすがりのお兄さんが現れて、一生懸命帽子を拾おうとしました。けど、なかなか帽子に届きません。しかたなくお兄さんはもう一人お兄さんを呼びました」

物語を朗読するみたいにさっちゃんに語りかけると、さっちゃんは黙って俺を見上げていた。

「そのお兄さん達は、なんとか帽子を取ろうとしました。でも、そこに大波が。お兄さん達はずぶ濡れに。でも帽子は無事に返ってきましたとさ。おしまい」

俺は笑いながらそう締めくくった。

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