年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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お店はすぐ近くの雰囲気のいいレストラン。さすがに時間が時間だけあって並ぶことなく入れた。
6人掛けのテーブルに案内され、それぞれ座る。美紀子さんが端に、その隣にさっちゃんと真琴君。そして美紀子さんの向かいに父さん、その隣に俺。すでに両家の顔合わせ、みたいな並びになっている。

皆それぞれ注文を済ますと、父さんはさっちゃんのほうを向いた。

「改めて、睦月の父の暁です。朔から話は伺っています」

そう父さんが言うと、さっちゃんも姿勢を正して父さんを向く。

「綿貫咲月です。……そっか……。朔さんに似てらっしゃるんですね」

そう言ってさっちゃんは納得したように父さんを見ていた。

「ハハ。確かに睦月にはあまり似てないな。朔から、睦月がえらく可愛らしい彼女を連れてきたって聞いてたんだが、なかなか向こうに帰れずで悪かった」

父さんが明るく笑いながらそう答えると、さっちゃんは恥ずかしそうに「いえ……」と返した。

「本当にさ、父さんには聞きたいこと山程あるんだけど……。もう何から聞いていいかわからないくらい」

俺が溜め息を吐きつつ父さんにそう言うと、父さんは悪びれることなく笑っている。

「そうよ。なんで睦月さんのお父さんと知り合いって教えてくれなかったの?」

さっちゃんは真琴君に不満気に言うが、「そんなのわかるわけないだろ?同じ苗字だなぁとは思ってたけど、まさかって思うだろ」と真琴君は呆れたようにそれに返した。

「まぁまぁ。じゃあ、俺がなんでここにいるか話すとしよう。長いぞ?」

父さんは戯けたようにそう言うと、約半年前に遡る話を始めた。

簡単に言えば話はこうだ。
あの年季の入ったバイクで放浪の旅に出ていた父さんは、海沿いにある漁港近くの食堂が気に入り、滞在中通い詰めていた。けどそこは老夫婦が切り盛りする店で、そこの奥さんが腰を痛めて店に立てなくなり、手伝っているうち住み着いたのだ。そしてその店は学さんの職場の近所で行きつけの店。急遽こっちに住むことになり、家を紹介してくれたのが学さんで、その家はさっちゃんの実家のすぐ近くなんだと言う。

「じゃあ……私が睦月さんと知り合う前からみんな、睦月さんのお父さんと知り合いだったってこと?」

さっちゃんは美味しそうなオムライスをつつきながら目を丸くしていた。

「前って……、睦月さんといつ知り合ったんだよ?」

真琴君に驚きながら尋ねられ、さっちゃんは「10月の終わり……」と気まずそうに答えた。

「じゃ、知り合って2ヶ月で付き合いだして、半年経たないうちに結婚考えてるってこと?展開早くないか?」

そう言えば真琴君は、付き合い始めたのはいつか知ってるけど、その時はまださっちゃんと出会ってそんなに時間が経ってないことは知らない。最初に仕事仲間って紹介されたくらいだから、昔からの知り合いだと思ってたみたいだ。

「あのね。結婚を決めるのに、会った回数も長さも関係ないの?わかった?」

さっちゃんは真琴君に、強気で香緒からの受け売りを返している。

「まぁ……そうだけど」

真琴君はさっちゃんの勢いに押されながらそう言い、そしてさっちゃんはまた、父さんのほうを真っ直ぐに見据えた。

「なので、暁さん。私と睦月さんの結婚をお許しください。お願いします」

そう言ってさっちゃんは頭を下げる。
それに父さんは面食らったような顔をしている。いや、俺も真琴君もだ。美紀子さんだけがニコニコしながら、「さっちゃんも大人になったのねぇ」としみじみ言っていた。

「いやいや咲月さん、顔を上げてくれ。こっちこそ、こんなおっさんでいいのかい?」

酷い言われようだが、間違ってはいないのでそのまま2人を見守る。さっちゃんは顔を上げると、まず俺を見て笑みを浮かべ、そしてまた父さんに向いた。

「はい。私は睦月さんがいいんです」

また俺がいいと言ってくれるさっちゃんの視線は、仕事をしているときくらい真剣で熱い。俺の好きなさっちゃんの顔。もちろんいつもの自然な可愛い顔も好きだけど、仕事をしているときのさっちゃんは、とても綺麗だといつも思う。

「そうか。学から聞いていた通りのいいお嬢さんだ。こちらこそ、睦月をよろしく頼む」

そう言って父さんはテーブルに手をつくと頭を下げた。

「さっ、暁さん!顔を上げて下さい」

さっちゃんが慌てたように声を上げると、父さんは顔を上げてにっこり笑う。

「私のほうこそ……よろしくお願いします。あの、それで、お父さんはいったい私のことなんて言ってたんですか?」

さっちゃんは心配そうに父さんに尋ねる。確かに、なんて言われたら気になるに決まってる。

「なーに、ひたすら娘が可愛いって話だ。ありゃぁ、あれだな。学の中の娘は永遠に3才で止まってるな」

そう言って父さんは、声を上げて笑っていた。
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