年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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今日は色々驚きっぱなしだった。

まず、さっちゃんの田舎だ。昔……15年ほど前、司と来たことのある場所だったことに、空港に着いて気が付いた。来たのは1度だけ。しかも、当時付き合ってた彼女に振られて落ち込む俺が言った、『海が見たい』の一言で飛行機に乗せられ連れて来られた場所。
その時も空港から海沿いを走り、海の見える展望台へ寄ってみた。まぁその時……色々あったんだけど。そして、さっちゃんの実家はそのすぐ近所だったって言うことも驚きだった。

だけどそれ以上に今、とにかく驚いていた。間違いなく、今まで生きてきて一番だと思うくらい。

「じゃあ、学のお嬢さんが、睦月の噂の彼女ってわけか」

久しぶりに会う父さんが、未だに怖い顔をしているさっちゃんのお父さんの横でそう言う。けれど父さんは、なんでそんなことになっているかなんて知るはずもなく、カラカラと笑っている。

さっちゃんのお父さん……学さんは、聞いていた以上に怖かった。任侠映画に出てきそうな迫力に、さすがの俺も気後れしていた。そんな学さんに、さっちゃんは必死に自分の心のうちを叫んでいた。

正直、俺はとてつもなく感動してて、その場でさっちゃんを抱きしめたいくらいだったけど、まさかの父さんの登場に全て吹き飛んでいた。

「おっ、俺は認めないからな!いくら暁さんの息子だろうが!」

学さんと、うちの父がどう言う関係なのかは分からないけど、それなりに親密そうではある。だからと言って、さすがに俺のことを『はいそうですか』と簡単には認めてくれそうにはない。

学さんは不機嫌そうに顔を顰めたままベッドに横になると「俺は寝る!」と布団を頭から被ってしまった。

「もう帰ろうぜ~。って言うか俺、腹減った。なんか美味いもん食べに行かないか?」

真琴君は呆れたようにそう言って、それに美紀子さんも溜め息を吐きながら「そうね。そうしましょう?」と同意していた。そして、俺のほうを見ると、「よかったら睦月さんも、暁さんもどうかしら?」と笑みを浮かべて尋ねた。

「そうしよう?睦月さん。私達もあんまりご飯食べてないし。それに、睦月さんのお父さんとお話ししたいし……」

学さんのベッドを取り囲むように立っている家族の遠慮のない会話は、きっと学さんに聞こえているだろう。けどこうしていても、状況が今変わることはないだろうと、俺は黙って頷いた。


「睦月さん。本当、ウチの父ちゃんがごめん……」

病室を出て駐車場に向かいながら、真琴君に申し訳なさそうにそう言われる。少し前をさっちゃんが美紀子さんと歩いていて、俺はそれを眺めながら、真琴君と父さんと歩いていた。

「全然。気にしてないよ。と言うか……対策会議が必要な理由がよくわかったよ……」

俺はそう言って半笑いで返す。

「対策会議?」
「あ、うん。健太君がさ、さっちゃんの高校時代の友達と一緒に近々会って、お父さんの話聞かせてくれるってことになったんだけどね……」

その対策会議をする前に会うことになるなんて思ってなかったけど、これは本当に傾向と対策を知っておかないと太刀打ちできないかもなぁ……と弱気になってしまう。

「健太君に会ったんですか?咲月の高校時代の友達って、もしかして明日香さん?」
「えーと、斉木さんって言ってたけど知ってる?」
「明日香さんのことはもちろん知ってますよ。あの2人、咲月は知らなかっただろうけど同じ会社なんですよね。知り合ってたんだ」

しみじみと真琴君はそう言いながら歩いている。真琴君は、さっちゃんと健太君の間に微妙な空気が流れてたことを察してあえて言わなかったみたいだ。

そんな話をしながら駐車場に出ると、穏やかな春の日差しはだいぶ傾いていた。もう時間は3時過ぎ。お昼ご飯の時間などとっくに終わっている。

「じゃあ、俺は母ちゃん乗せて先走るんで着いて来て下さい。すぐ近所です。暁さんは睦月さんの後ろでいいですよね?」

そう言って真琴君は父さんに話しかけている。

これは……すでに家族ぐるみのお付き合いってやつ?

2人のやりとりを見て俺はそんなことを思う。

「おぉ!わかった。俺はあっち停めたから」

そう言って父さんはバイク置き場を指差した。

「もしかして、まだ乗ってたの?あのバイク」
「そりゃそうだろ」

俺がニューヨークに行く前にすでに数年乗ってた気がするんだけど。それで関東にある家からここまで走って来たのか、と思うと父さんの行動力に多少呆れてしまう。

ま、あとでじっくり話聞こうか……

そう思いながら、さっちゃんが待つ車に向かった。
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