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「あっ!あいつは誰だ!」
お父さんは、彫りが深くて厳つい顔を顰め、鬼瓦みたいな顔になりながらその言う。振り返ると、遠巻きに私達を見ているお母さんと真琴、そして睦月さんが緊張した面持ちで立っていた。
「あのね……」
私がそう言いかけると、睦月さんはベッドに近づいて来て、お父さんの足元に止まった。
「初めまして。岡田睦月と申します……」
そう言われてお父さんは一層顔を顰め、その威圧感に、睦月さんの顔も心なしか引き攣っているように見えた。
「私がお付き合いしてる人なの。今日も……」
ここまで連れて帰ってくれたんだよ、と言う前に「なんだと!!」とお父さんに叫ばれる。
「お、おお、おまえ、東京には働きに行ったんじゃないのか!付き合ってるだと?どう言うことだ!」
明らかにテンパりながらお父さんは私にそう言い、立ちあがろうとして「イテッ」と無意識に口にする。
「働いてるわよ!いいでしょ!お付き合いしてる人がいたって!一体私をいくつだと思ってるの?」
すっかり言い合いになってしまうが、もうお互い止まらない。
「まだ26だ!それに……おまえっ!おまえはいくつなんだ!」
初対面の人を捕まえておまえ呼ばわりする失礼すぎるお父さんに、睦月さんは恐る恐ると言った感じで口を開いた。
「1月に、三十…………九になりました」
私達が一番気にしていることを真っ先に聞かれ、そしてお父さんの反応は予想通り……というかそれ以上だ。
ブルブル震えながら、口をパクパクさせたかと思うと、視線だけで人を殺せそうな目つきで「39だとぉ?」と低い声を出した。
「あらあら。岡田さん、私達とあまり変わらないのね。とてもそんな風に見えないわ?」
いつの間にかお母さんと真琴はすぐ後ろに立っていて、お母さんはお父さんとは対照的に穏やかにそう言っている。
「見えなくても39には変わらないだろう!咲月!お前はたぶらかされてるんだ!」
お父さんの勢いは治らず、私を見上げそう言う。そして私も同じようにそれに返す。
「たぶらかされてなんかない!私、お父さんに何言われても睦月さんと結婚するから!私は睦月さんがいいの!睦月さんじゃなきゃ駄目なのっ!」
一息にそう言うと、私は全力疾走した後のように荒く息を吐き出していた。
今この部屋に家族しかいなくて良かった。けど、きっと私は他に誰がいても同じことを叫んでいたと思う。静まり返った部屋で私はそんなことを思っていた。
「け、結婚だと?」
沈黙を真っ先に破ったのは、目を見開いて私を見ているお父さんだ。
「そう!私だって、もう26なの。結婚を考えてもおかしくない年齢なんだからね!」
私がお父さんに圧倒されないように語気を強めて返したタイミングで、この部屋の扉が開いた気配がした。
そして、ペタペタとサンダル履きのような足音と共に、私達に向かって声が聞こえてくる。
「よ~!学、災難だったな。見舞いに来たぞ?」
聞き覚えのない声に、お父さんの知り合いか、と顔を上げたお父さんを見る。
「暁さん……」
「あら、暁さん、わざわざお見舞いに来てくださったの?すみません」
目の前のお父さんはそう呟き、後ろからはお母さんの声がする。その人はそれに「いや、心配でな」と返していた。落ち着いた低めの穏やかな声。どんな人だろうかと私は振り返った。
あれ……?どこかで……会ったことない?
その人は、睦月さんと同じくらいの身長で、年齢はお父さん達よりかなり上だと思う。その短髪には結構白髪が混ざっている。確かに初めて会うはずだけど、なんだろう?俳優さんとかに似た人いたかな?となんだかモヤモヤしてしまう。
その人はお見舞いの果物籠をお母さんに手渡すと、こちらを見た。そして、少し驚いたように目を見張っていた。
「あ、暁さん、東京から娘が帰って来てるんだ」
お父さんがベッドの上からその人に声をかける。でも、目の前のその人は、私を見て驚いているわけじゃない。その視線の先にいるのは……。
「なんだ……。なんでこんなところにいるんだ?……睦月」
落ち着いた声でその人はそんなことを言い出す。
そして、そう言われた睦月さんは、さっきお父さんが見せた表情と同じくらい驚いていて、声も出ないのか口をパクパクさせていた。
「……ちょ、ちょっと!それはこっちの台詞!なんで……なんで、さっちゃんのお父さん達と知り合いなの?……父さん」
「父さん⁈」
その台詞に、さすがに当事者を除く全員が声を揃えていた。
お父さんは、彫りが深くて厳つい顔を顰め、鬼瓦みたいな顔になりながらその言う。振り返ると、遠巻きに私達を見ているお母さんと真琴、そして睦月さんが緊張した面持ちで立っていた。
「あのね……」
私がそう言いかけると、睦月さんはベッドに近づいて来て、お父さんの足元に止まった。
「初めまして。岡田睦月と申します……」
そう言われてお父さんは一層顔を顰め、その威圧感に、睦月さんの顔も心なしか引き攣っているように見えた。
「私がお付き合いしてる人なの。今日も……」
ここまで連れて帰ってくれたんだよ、と言う前に「なんだと!!」とお父さんに叫ばれる。
「お、おお、おまえ、東京には働きに行ったんじゃないのか!付き合ってるだと?どう言うことだ!」
明らかにテンパりながらお父さんは私にそう言い、立ちあがろうとして「イテッ」と無意識に口にする。
「働いてるわよ!いいでしょ!お付き合いしてる人がいたって!一体私をいくつだと思ってるの?」
すっかり言い合いになってしまうが、もうお互い止まらない。
「まだ26だ!それに……おまえっ!おまえはいくつなんだ!」
初対面の人を捕まえておまえ呼ばわりする失礼すぎるお父さんに、睦月さんは恐る恐ると言った感じで口を開いた。
「1月に、三十…………九になりました」
私達が一番気にしていることを真っ先に聞かれ、そしてお父さんの反応は予想通り……というかそれ以上だ。
ブルブル震えながら、口をパクパクさせたかと思うと、視線だけで人を殺せそうな目つきで「39だとぉ?」と低い声を出した。
「あらあら。岡田さん、私達とあまり変わらないのね。とてもそんな風に見えないわ?」
いつの間にかお母さんと真琴はすぐ後ろに立っていて、お母さんはお父さんとは対照的に穏やかにそう言っている。
「見えなくても39には変わらないだろう!咲月!お前はたぶらかされてるんだ!」
お父さんの勢いは治らず、私を見上げそう言う。そして私も同じようにそれに返す。
「たぶらかされてなんかない!私、お父さんに何言われても睦月さんと結婚するから!私は睦月さんがいいの!睦月さんじゃなきゃ駄目なのっ!」
一息にそう言うと、私は全力疾走した後のように荒く息を吐き出していた。
今この部屋に家族しかいなくて良かった。けど、きっと私は他に誰がいても同じことを叫んでいたと思う。静まり返った部屋で私はそんなことを思っていた。
「け、結婚だと?」
沈黙を真っ先に破ったのは、目を見開いて私を見ているお父さんだ。
「そう!私だって、もう26なの。結婚を考えてもおかしくない年齢なんだからね!」
私がお父さんに圧倒されないように語気を強めて返したタイミングで、この部屋の扉が開いた気配がした。
そして、ペタペタとサンダル履きのような足音と共に、私達に向かって声が聞こえてくる。
「よ~!学、災難だったな。見舞いに来たぞ?」
聞き覚えのない声に、お父さんの知り合いか、と顔を上げたお父さんを見る。
「暁さん……」
「あら、暁さん、わざわざお見舞いに来てくださったの?すみません」
目の前のお父さんはそう呟き、後ろからはお母さんの声がする。その人はそれに「いや、心配でな」と返していた。落ち着いた低めの穏やかな声。どんな人だろうかと私は振り返った。
あれ……?どこかで……会ったことない?
その人は、睦月さんと同じくらいの身長で、年齢はお父さん達よりかなり上だと思う。その短髪には結構白髪が混ざっている。確かに初めて会うはずだけど、なんだろう?俳優さんとかに似た人いたかな?となんだかモヤモヤしてしまう。
その人はお見舞いの果物籠をお母さんに手渡すと、こちらを見た。そして、少し驚いたように目を見張っていた。
「あ、暁さん、東京から娘が帰って来てるんだ」
お父さんがベッドの上からその人に声をかける。でも、目の前のその人は、私を見て驚いているわけじゃない。その視線の先にいるのは……。
「なんだ……。なんでこんなところにいるんだ?……睦月」
落ち着いた声でその人はそんなことを言い出す。
そして、そう言われた睦月さんは、さっきお父さんが見せた表情と同じくらい驚いていて、声も出ないのか口をパクパクさせていた。
「……ちょ、ちょっと!それはこっちの台詞!なんで……なんで、さっちゃんのお父さん達と知り合いなの?……父さん」
「父さん⁈」
その台詞に、さすがに当事者を除く全員が声を揃えていた。
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