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先にベッドに入ってうとうとしていると、睦月さんが私を起こさないようにそっと布団に入ってくる。けど、やっぱりお父さんのことが気になっていたようで、すぐ目が覚めてしまった。
「起こしちゃった?」
私が薄目を開けたからか小さく尋ねられ、私は「ううん?」と答えて睦月さんの胸に擦り寄った。
「あったかい……」
無意識にそんな言葉が出る。いつも安心できて温かい睦月さんの腕の中。睦月さんは私を寝かしつけるように背中を撫でていた。
「……睦月さん……。手……握ってて」
むずかっている子どものように、私は目を閉じたまま呟く。
布団の中で睦月さんは私の手を探し当てると、優しく握ってくれる。
「おやすみ、さっちゃん」
穏やかな睦月さんの声を聞きながら、私の意識は遠のいていた。
目が覚めると隣に睦月さんの姿はなく、カーテンの隙間から柔らかな光が差し込んでいた。
私は起きあがってベッドサイドに置いたスマホを手に取った。寝る前までに真琴から何の連絡もなかった。私は不安になりながらも画面の通知に目をやった。
『父ちゃん、まだ目は覚ましてないけど命に別状はなさそうだって』
送られてきた時間は5時半。約2時間前だ。いつものように通知が来ない設定のままだったから気づかなかったみたいだ。
よかった……
私はスマホを抱えるように胸に納める。時間はかなり経っているし、もう目を覚ましているかも知れない。電話してみようかと思ったけど、病院内だと取れないかもと、『安心した。予定通りに帰るから。また連絡する』とだけメッセージを送った。
「そうだ。睦月さんにも言わなきゃ」
ベッドから抜け出して寝室のドアを開け廊下に出ると、ちょうどのタイミングで玄関のドアが開いた。
「おはよう、さっちゃん。朝ごはん買ってきたよ?」
かんちゃんと一緒に玄関に入ると、睦月さんは手に持っていた袋を笑顔で持ち上げて見せた。
「真琴から連絡あってね、お父さん大丈夫だって!」
顔をみたらホッとして、私は睦月さんに駆け寄ると、そう言いながらその胸に飛び込んだ。
◆◆
3月下旬の連休の真ん中。
3月と言えど、ものすごく冷え込む日もあるなか、今日の航路は穏やかで、眼下には綺麗な景色が広がっていた。
それにしても、さっきから睦月さんの様子がなんとなくおかしい。何か考え事をしているような、そんな感じだ。
「どうかしたの?」
エンジン音の響く機内の狭い座席で、睦月さんの耳元に近づくようにして私は尋ねる。
「え?あ、あぁ……」
うわの空だった睦月さんは、弾かれたように私を見るとそれだけ言った。そして、決まりの悪そうな顔をしてから口を開いた。
「ごめん。ちょっと昔のこと思い出して」
「昔?」
「うん。また……あとで話すよ」
そう言って睦月さんは、なんとなく誤魔化すように笑いを浮かべた。
変なの……
私はそんな睦月さんを眺めて心の中で呟いた。様子がおかしいと思ったのは飛行機に乗る直前だ。だから、きっとお父さんのことではないはずだ。
そんなことを思いながら、私はまた窓から外を眺めた。
シートベルトの着用サインもつき、段々と高度が下がっているのがわかる。山ばかり見えていた景色が海に変わるともう空港はすぐそこだ。私は今まで何度も見た、空の上からの地元の海に自分の左手を翳してみた。
同じだ……
白銀の土台に綺麗に埋め込まれた石は、やっぱり自分の思う海と同じ色をしていて、それだけで幸せな気分になった。
私が一生懸命外を覗き込んでいたからか、睦月さんが私のほうに体を傾けて窓の外を見る。
「本当に同じ色だね」
私の左手に自分の左手を添えて、睦月さんも私の指と海の色を比べてそう言った。
「でしょう?イメージ通りだった。睦月さん、こんな素敵なものを贈ってくれてありがとう」
「気に入って貰えてよかった。作ってくれた子もきっと喜ぶよ」
「いつか……直接お礼が言えたらいいな」
私がそう言うと、睦月さんは目を細めて微笑んだ。
「そうだね。いつか……会いにいこう」
どこに、と言われなくてもそれがどこかはわかっている。私はその場所に思いを馳せながら「うん。行こうね」と笑顔で答えた。
飛行機は定刻通りに到着し、預けた荷物もない私達はすぐに空港内を通り抜け外に出た。到着口に迎えに来ている人達の前を通り過ぎて、手配してあるレンタカーの窓口に向かいながらも、睦月さんはキョロキョロと周りを見ているようだった。
「小さくてびっくりした?」
隣に並びながら睦月さんを見上げて私は尋ねる。
「ん?そんなことないよ。ただ……」
そう言いかけてから睦月さんは言葉を止めて、「やっぱりあとにしよ」と思わせぶりに笑って見せた。
「え!気になる!」
「あとでちゃんと言うから。それより真琴君には連絡した?」
ちょっと誤魔化された気もしないでもないが、確かにまだ連絡はとってない。私が首を振ると「車の受付してくるから、さっちゃんは今のうちに真琴君に連絡しといてね」と睦月さんは笑みを浮かべてから踵を返した。
私は邪魔にならないよう隅に移動してバッグからスマホを取り出す。機内モードを解除して、メッセージアプリを立ち上げると、先に真琴からのメッセージがやってきた。
『病院来る前に連絡いれてくれよ?』
はいはい、と心の中で返事をして、私は真琴に返事を返す。
『今空港。睦月さんが車借りに行ってくれてるところ。そんなに遅くならないうちに着くと思うよ』
メッセージを送るとすぐに既読がつき、しばらくすると『話しておきたいことあるし、1階の待合にいるようにするから寄って』とやって来た。
なんだろ?話しておきたいって……と思いながら、私はOKとスタンプだけ送り返した。
「なんか……違和感ないね」
レンタルした車は、睦月さんのと色違いの同じ車種。だから、乗ってしまうといつもと同じ車の中で、違和感はない。
「乗り慣れてるのがいいかなぁって。ちょうど空いてて良かった」
そう言いながら睦月さんは、私の告げた病院をナビでセットしている。画面に表示された経路はほぼ真っ直ぐ。海沿いの幹線道路を20分ほど走れば着くはずだ。
上空から見た天気と同じ穏やかな暖かい天気のなか、車は静かに走り出した。
「起こしちゃった?」
私が薄目を開けたからか小さく尋ねられ、私は「ううん?」と答えて睦月さんの胸に擦り寄った。
「あったかい……」
無意識にそんな言葉が出る。いつも安心できて温かい睦月さんの腕の中。睦月さんは私を寝かしつけるように背中を撫でていた。
「……睦月さん……。手……握ってて」
むずかっている子どものように、私は目を閉じたまま呟く。
布団の中で睦月さんは私の手を探し当てると、優しく握ってくれる。
「おやすみ、さっちゃん」
穏やかな睦月さんの声を聞きながら、私の意識は遠のいていた。
目が覚めると隣に睦月さんの姿はなく、カーテンの隙間から柔らかな光が差し込んでいた。
私は起きあがってベッドサイドに置いたスマホを手に取った。寝る前までに真琴から何の連絡もなかった。私は不安になりながらも画面の通知に目をやった。
『父ちゃん、まだ目は覚ましてないけど命に別状はなさそうだって』
送られてきた時間は5時半。約2時間前だ。いつものように通知が来ない設定のままだったから気づかなかったみたいだ。
よかった……
私はスマホを抱えるように胸に納める。時間はかなり経っているし、もう目を覚ましているかも知れない。電話してみようかと思ったけど、病院内だと取れないかもと、『安心した。予定通りに帰るから。また連絡する』とだけメッセージを送った。
「そうだ。睦月さんにも言わなきゃ」
ベッドから抜け出して寝室のドアを開け廊下に出ると、ちょうどのタイミングで玄関のドアが開いた。
「おはよう、さっちゃん。朝ごはん買ってきたよ?」
かんちゃんと一緒に玄関に入ると、睦月さんは手に持っていた袋を笑顔で持ち上げて見せた。
「真琴から連絡あってね、お父さん大丈夫だって!」
顔をみたらホッとして、私は睦月さんに駆け寄ると、そう言いながらその胸に飛び込んだ。
◆◆
3月下旬の連休の真ん中。
3月と言えど、ものすごく冷え込む日もあるなか、今日の航路は穏やかで、眼下には綺麗な景色が広がっていた。
それにしても、さっきから睦月さんの様子がなんとなくおかしい。何か考え事をしているような、そんな感じだ。
「どうかしたの?」
エンジン音の響く機内の狭い座席で、睦月さんの耳元に近づくようにして私は尋ねる。
「え?あ、あぁ……」
うわの空だった睦月さんは、弾かれたように私を見るとそれだけ言った。そして、決まりの悪そうな顔をしてから口を開いた。
「ごめん。ちょっと昔のこと思い出して」
「昔?」
「うん。また……あとで話すよ」
そう言って睦月さんは、なんとなく誤魔化すように笑いを浮かべた。
変なの……
私はそんな睦月さんを眺めて心の中で呟いた。様子がおかしいと思ったのは飛行機に乗る直前だ。だから、きっとお父さんのことではないはずだ。
そんなことを思いながら、私はまた窓から外を眺めた。
シートベルトの着用サインもつき、段々と高度が下がっているのがわかる。山ばかり見えていた景色が海に変わるともう空港はすぐそこだ。私は今まで何度も見た、空の上からの地元の海に自分の左手を翳してみた。
同じだ……
白銀の土台に綺麗に埋め込まれた石は、やっぱり自分の思う海と同じ色をしていて、それだけで幸せな気分になった。
私が一生懸命外を覗き込んでいたからか、睦月さんが私のほうに体を傾けて窓の外を見る。
「本当に同じ色だね」
私の左手に自分の左手を添えて、睦月さんも私の指と海の色を比べてそう言った。
「でしょう?イメージ通りだった。睦月さん、こんな素敵なものを贈ってくれてありがとう」
「気に入って貰えてよかった。作ってくれた子もきっと喜ぶよ」
「いつか……直接お礼が言えたらいいな」
私がそう言うと、睦月さんは目を細めて微笑んだ。
「そうだね。いつか……会いにいこう」
どこに、と言われなくてもそれがどこかはわかっている。私はその場所に思いを馳せながら「うん。行こうね」と笑顔で答えた。
飛行機は定刻通りに到着し、預けた荷物もない私達はすぐに空港内を通り抜け外に出た。到着口に迎えに来ている人達の前を通り過ぎて、手配してあるレンタカーの窓口に向かいながらも、睦月さんはキョロキョロと周りを見ているようだった。
「小さくてびっくりした?」
隣に並びながら睦月さんを見上げて私は尋ねる。
「ん?そんなことないよ。ただ……」
そう言いかけてから睦月さんは言葉を止めて、「やっぱりあとにしよ」と思わせぶりに笑って見せた。
「え!気になる!」
「あとでちゃんと言うから。それより真琴君には連絡した?」
ちょっと誤魔化された気もしないでもないが、確かにまだ連絡はとってない。私が首を振ると「車の受付してくるから、さっちゃんは今のうちに真琴君に連絡しといてね」と睦月さんは笑みを浮かべてから踵を返した。
私は邪魔にならないよう隅に移動してバッグからスマホを取り出す。機内モードを解除して、メッセージアプリを立ち上げると、先に真琴からのメッセージがやってきた。
『病院来る前に連絡いれてくれよ?』
はいはい、と心の中で返事をして、私は真琴に返事を返す。
『今空港。睦月さんが車借りに行ってくれてるところ。そんなに遅くならないうちに着くと思うよ』
メッセージを送るとすぐに既読がつき、しばらくすると『話しておきたいことあるし、1階の待合にいるようにするから寄って』とやって来た。
なんだろ?話しておきたいって……と思いながら、私はOKとスタンプだけ送り返した。
「なんか……違和感ないね」
レンタルした車は、睦月さんのと色違いの同じ車種。だから、乗ってしまうといつもと同じ車の中で、違和感はない。
「乗り慣れてるのがいいかなぁって。ちょうど空いてて良かった」
そう言いながら睦月さんは、私の告げた病院をナビでセットしている。画面に表示された経路はほぼ真っ直ぐ。海沿いの幹線道路を20分ほど走れば着くはずだ。
上空から見た天気と同じ穏やかな暖かい天気のなか、車は静かに走り出した。
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