年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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健太君は座席の隙間から身を乗り出すと、さっちゃんに向かって言う。

「ほらほら。さっきの話。咲月からしたら?」
「え?あ、うん」

急に話を振られたからか、慌てたように肩を揺らしてさっちゃんは俺のほうを見た。

「あの、さっき同窓会で一緒だった友だちが、睦月さんに会ってみたいって言ってて……」

ちょうどさっちゃんがそこまで言ったタイミングで赤信号に引っかかる。大きな幹線道路で、ここの待ち時間は長かったよな、と思いながら停まると俺はさっちゃんのほうに振り向いた。

「高校のとき一番仲良かったって言ってた子?もちろん、喜んで」

そう笑顔で答えると、後ろから健太君が口を開く。

「睦月さん。それ、俺も参加していいですか?」
「え?もちろんいいけど……。さっちゃんの友だちって健太君も友だちなの?」

そう言えば、さっきは勢いに押されて、違う学校だった健太君がなんでさっちゃんの高校の同窓会に参加していたのか聞きそびれていた。

「友だちって言うか……」

そこからしばらく、健太君は同窓会に参加することになった経緯を話してくれた。

「で……そいつ、斉木って言うんですけど、俺も斉木も咲月んちのおじさんのことはよく知ってて。だから、ぜひとも対策会議をしないかって」

また走り出した車の中で、後ろから明るく笑いながら健太君は話してくれた。

「……対策会議って……もしかして?」
「もちろん、結婚の挨拶へ行ったときの対策ですよ!」

噂に聞くさっちゃんのお父さんの話。
どうも、さっちゃんや、いただきの店主竜二さん、そして真琴君の話を総合すると、若いころはかなりな人だったらしい。竜二さんでさえ結構強面なほうだと思うのに、『俺なんてかわいいもんだ!』なんて笑い飛ばされたこともあるくらい。

「それはぜひお願いしなくちゃ!いいよね、さっちゃん」

ナビに従って着いた健太君の家の近くに車を停めさっちゃんにそう尋ねると、さっちゃんは居た堪れないような顔で「はい……」と頷いた。

健太君を降ろすとそこからUターンして、15分ほどで家に帰り着いた。
かんちゃんは疲れたのか車から降りようとせず、仕方ないなぁと笑いながら俺が助手席側のドアを開けかんちゃんを抱き上げると、かんちゃんは俺にしがみつき上機嫌で尻尾を振っていた。

「かんちゃん?もー!すぐ睦月さんに甘えるんだから。自分で歩きなさい?」

地下の駐車場からエレベーターに向かい歩きながら、さっちゃんは俺とかんちゃんを見上げてそう言う。その顔が、あんまりにもお母さんって感じで、思わず「ふふっ」と笑ってしまった。

「睦月さん?どうしたの?」

大きな丸っこい目をより丸くしてさっちゃんは俺に尋ねる。

「ん?さっちゃんは将来、こんな感じのお母さんになるのかなぁって想像しちゃった」

そう言えば、さっちゃんとは結婚式の話はすることある。けど、まだそのお許しも貰えてない段階で、その先の話もなぁと思って子どもの話はしていない。
本音を言うなら、俺はそう若いわけじゃないし、子どもだって好きだ。だからできたら早く欲しい。でもそれは、さっちゃんの意見を一番尊重しなきゃいけないし、仕事との兼ね合いもある。ちゃんと、どうするかを話合わなきゃな、とは思っている。

けれど、こうやってかんちゃんを交えてさっちゃんと一緒にいると、やっぱり夢みてしまうのだ。かんちゃんに、の弟か妹ができたらいいなって。

「そんなにお母さんみたいだった?」

少し照れたように頰を染めてさっちゃんは尋ねる。

「うん。ちょっとね?」

笑みを浮かべたままそう答えると、ふいにさっちゃんは恥ずかしそうに視線を反らした。

「どうしたの?」

たどり着いたエレベーターの扉の前。上のボタンを押しながら俺が尋ねると、さっちゃんは独り言のように呟いた。

「睦月さんだって。絶対いいパパになりそう。早く子どもを抱っこしてる姿見てみたい……」

本当に反則だ!この可愛らしさは!

そんなことを心の中で叫ばれているなんてつゆ知らず、さっちゃんは降りてくるエレベーターの表示を見上げていた。そんなさっちゃんを左手で腰から抱き寄せると、さっちゃんは驚いたように俺を見上げた。

「睦月さ、……んっ!」

最後の言葉をさっちゃんの唇の中に閉じ込める。軽く触れるだけで終わらせようなんて思ってたけど、一度触れてしまうと歯止めはきかない。右手でかんちゃんを抱えたまま、左手ではさっちゃんの背中を引き寄せて、何度もさっちゃんの唇を貪った。

「んんっ……むつ、きさ……」

唇が少し離れた隙間からさっちゃんが声を漏らす。そんな声さえ俺を煽るのには十分で、駐車場に人気がないのをいいことにしばらくその柔らかな感触を味わった。

エレベーターが到着した気配がして、ようやくさっちゃんから離れると、俯いたままのさっちゃんを誘導するように背中を押した。
3のボタンと扉を閉めるボタンを押すと、ゆっくり扉が閉まりエレベーターは上昇し始めた。
さっちゃんは無言で顔を上げず、かんちゃんは俺の右肩に手を乗せたままキョロキョロしていた。

「さっちゃん、怒ってる?」
「怒ってない……」

そう答えるさっちゃんの口調は、確かに怒っているわけじゃなさそうだ。

「うちに帰ったらゆっくり話そっか。俺たちの……子どもについて」

そう言うと、さっちゃんはゆっくり顔を上げ俺を見つめた。
その顔は真っ赤で、さっき自分から飛び出した台詞が、自分の未来の話なんだとようやく意識したんだな?なんて、少し笑みが溢れた。
そんな俺を見上げたままさっちゃんは黙ったままゆっくり頷く。

「心配しなくても、野球チームとかサッカーチームが作れるほどお願い、なんて言わないからさ」

戯けながらそう言うと、さっちゃんはすかさず「それはさすがに無理!!」とより顔を赤らめて叫んでいた。
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