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「うわぁ……会ってみたい!」
「睦月さんなら咲月が呼べば飛んできそうだけど?」
いまだ前のめりの明日香ちゃんを援護射撃するように健太は笑いながらそんなことを言う。
「呼びませんっ!」
私が顔を真っ赤にしながらそう叫ぶと、2人は示し合わせたかのように笑い出した。
「あ~!咲月が変わってなくて安心した。大事にしてもらってるんだね」
明日香ちゃんは言葉のままに安堵した顔をして笑っている。
「だな」
健太もそう短く言ってビールを口に運んでいる。
「もー!茶化さないでよ!。飲み物取ってくる!」
学生時代を知っている人との慣れない恋バナに居た堪れなくなり私は空のジョッキを持つと立ち上がった。
カウンターに向かいジョッキを返すと、飲み物を受け取る列に並ぶ。ビールはカウンターに山程置いてあって、健太が早かったのはそのせいか、とそれを横目で見ながら順番を待った。
それにしても……
と思いながら、私は席に残る2人の背中を眺める。
付き合ってるわけじゃないの……?
素朴な疑問。背中しか見えないけど、今も2人は顔を寄せ合って何か話している。遠慮なく言いたいことを言い合う2人はお似合いだと思うんだけど、きっと明日香ちゃんは付き合ってるなら先に教えてくれるよなぁ、なんて思う。
私は順番がまわってくるとモヒートをたのみ、脇で出来上がるのを待った。
「あれ?綿貫さん?」
何人か注文する人を見送っていると、不意にそう声をかけられてその人を見上げた。
「久しぶり。元気だった?」
爽やかにそんなことを言われても、このたぶん同級生だろう男の人に見覚えがあるような無いような……。それが顔に出てたのか、「ほら、俺だよ俺!」なんて言われてしまう。
詐欺じゃないんだから名前言ってよ!と困惑しながら「あ、えっと……久しぶり……」となんとか返す。
「よかったら一緒に飲まない?俺向こうにいるんだけど」
そう言ってその人はカウンターの向こう側を指さす。
「あの、私……」
どうしたらいいんだろう、と思っていると背後から声がした。
「俺のツレに何か用?」
振り返ると健太が貼り付けたような笑顔で立っていた。
「……誰?」
「俺は、咲月とは……一緒に風呂に入ったことある関係、かな?」
たしかに大昔の事実だけど、なんてこと言うんだと慌てて見上げると、健太は得意気に相手を見たまま続けた。
「あと、斉木明日香の下僕な。いちおう同郷。よろしく」
健太はニッコリ笑い、こちらを怖い顔して見ている明日香ちゃんを指すように顎を動かした。
「モヒートお待たせしました~」
店員さんが私にグラスを差し出すのとほぼ同時に「斉木といるならいいんだ。じゃ」とその人は言ってビールジョッキを持つと背を向けて去っていった。
「ちょっと!何いいだすのよ?」
グラスを持って席に戻りながら健太に抗議すると、「事実を述べただけじゃん」と軽く受け流されてしまった。
「おかえり。大丈夫だった?」
席に着くと明日香ちゃんに尋ねられる。
「あ、うん。って言うか、誰かわかんなくって困った」
「だろうねぇ」
明日香ちゃんは笑いながらそう返す。
「きっとそうだと思って竹内送ったんだよね。アイツ、可愛い子に見境なく声かけるからさ」
「可愛いかは別にして……助かったけど、健太が変なこと言い出したから恥ずかしいよ」
「だから俺は事実を述べただけだって。ま、一緒に風呂に入ったの、たぶん4歳くらいでもう記憶にないけど」
「私も無いから……」
はぁ、と息を吐いてから私はモヒートに口を付ける。
「そう言えば、さっき竹内と話してたんだけど。咲月の彼氏結構歳上だし、結婚考えてるの?」
明日香ちゃんはいつの間にか置かれていた次の料理をお皿に取り分けながら私に尋ねる。
「う……ん。ゴールデンウィークあたりにうちの実家に挨拶行こうかって話はしてるんだけど……」
そう答えながら私は皿を受け取ると、健太は早くもビールを飲み干し私のほうを見た。
「おじさんは知ってるのか?」
「それが……まだ。お母さんには真琴からそれとなく伝えてもらってるんだけど。お父さん、知ったと同時にこっちに飛んで来るんじゃないか心配で……」
私が憂い顔でそう言うと、2人は阿吽の呼吸で「「あぁ」」と納得したように呟いた。
「なんだ、お前も咲月んちのおじさん知ってんだ」
「そりゃあ、私は咲月の親友!ですから」
そう言いながら明日香ちゃんは健太にも皿を差し出していた。
「にしてもさ。おじさん、OKするかな?」
健太は早速皿に乗ったスパイスの効いたチキンを口に運びながら言う。
「うーん。絶対一度は反対しそうだよね。自分のほうが歳近い息子できるんだから」
明日香ちゃんも自分用に取り分けたピザを齧りつつそう言った。
「やっぱり……2人から見てもそう思うよねぇ……。うちのお父さん知ってるんだもん。睦月さんは承諾して貰えるまで何回だって通うって言うんだけど、すぐそこって距離じゃないし……」
私が頭を抱えるようにそう吐き出すと、明日香ちゃんは何か思いついたように「そうだ!」と声を上げた。
「睦月さんなら咲月が呼べば飛んできそうだけど?」
いまだ前のめりの明日香ちゃんを援護射撃するように健太は笑いながらそんなことを言う。
「呼びませんっ!」
私が顔を真っ赤にしながらそう叫ぶと、2人は示し合わせたかのように笑い出した。
「あ~!咲月が変わってなくて安心した。大事にしてもらってるんだね」
明日香ちゃんは言葉のままに安堵した顔をして笑っている。
「だな」
健太もそう短く言ってビールを口に運んでいる。
「もー!茶化さないでよ!。飲み物取ってくる!」
学生時代を知っている人との慣れない恋バナに居た堪れなくなり私は空のジョッキを持つと立ち上がった。
カウンターに向かいジョッキを返すと、飲み物を受け取る列に並ぶ。ビールはカウンターに山程置いてあって、健太が早かったのはそのせいか、とそれを横目で見ながら順番を待った。
それにしても……
と思いながら、私は席に残る2人の背中を眺める。
付き合ってるわけじゃないの……?
素朴な疑問。背中しか見えないけど、今も2人は顔を寄せ合って何か話している。遠慮なく言いたいことを言い合う2人はお似合いだと思うんだけど、きっと明日香ちゃんは付き合ってるなら先に教えてくれるよなぁ、なんて思う。
私は順番がまわってくるとモヒートをたのみ、脇で出来上がるのを待った。
「あれ?綿貫さん?」
何人か注文する人を見送っていると、不意にそう声をかけられてその人を見上げた。
「久しぶり。元気だった?」
爽やかにそんなことを言われても、このたぶん同級生だろう男の人に見覚えがあるような無いような……。それが顔に出てたのか、「ほら、俺だよ俺!」なんて言われてしまう。
詐欺じゃないんだから名前言ってよ!と困惑しながら「あ、えっと……久しぶり……」となんとか返す。
「よかったら一緒に飲まない?俺向こうにいるんだけど」
そう言ってその人はカウンターの向こう側を指さす。
「あの、私……」
どうしたらいいんだろう、と思っていると背後から声がした。
「俺のツレに何か用?」
振り返ると健太が貼り付けたような笑顔で立っていた。
「……誰?」
「俺は、咲月とは……一緒に風呂に入ったことある関係、かな?」
たしかに大昔の事実だけど、なんてこと言うんだと慌てて見上げると、健太は得意気に相手を見たまま続けた。
「あと、斉木明日香の下僕な。いちおう同郷。よろしく」
健太はニッコリ笑い、こちらを怖い顔して見ている明日香ちゃんを指すように顎を動かした。
「モヒートお待たせしました~」
店員さんが私にグラスを差し出すのとほぼ同時に「斉木といるならいいんだ。じゃ」とその人は言ってビールジョッキを持つと背を向けて去っていった。
「ちょっと!何いいだすのよ?」
グラスを持って席に戻りながら健太に抗議すると、「事実を述べただけじゃん」と軽く受け流されてしまった。
「おかえり。大丈夫だった?」
席に着くと明日香ちゃんに尋ねられる。
「あ、うん。って言うか、誰かわかんなくって困った」
「だろうねぇ」
明日香ちゃんは笑いながらそう返す。
「きっとそうだと思って竹内送ったんだよね。アイツ、可愛い子に見境なく声かけるからさ」
「可愛いかは別にして……助かったけど、健太が変なこと言い出したから恥ずかしいよ」
「だから俺は事実を述べただけだって。ま、一緒に風呂に入ったの、たぶん4歳くらいでもう記憶にないけど」
「私も無いから……」
はぁ、と息を吐いてから私はモヒートに口を付ける。
「そう言えば、さっき竹内と話してたんだけど。咲月の彼氏結構歳上だし、結婚考えてるの?」
明日香ちゃんはいつの間にか置かれていた次の料理をお皿に取り分けながら私に尋ねる。
「う……ん。ゴールデンウィークあたりにうちの実家に挨拶行こうかって話はしてるんだけど……」
そう答えながら私は皿を受け取ると、健太は早くもビールを飲み干し私のほうを見た。
「おじさんは知ってるのか?」
「それが……まだ。お母さんには真琴からそれとなく伝えてもらってるんだけど。お父さん、知ったと同時にこっちに飛んで来るんじゃないか心配で……」
私が憂い顔でそう言うと、2人は阿吽の呼吸で「「あぁ」」と納得したように呟いた。
「なんだ、お前も咲月んちのおじさん知ってんだ」
「そりゃあ、私は咲月の親友!ですから」
そう言いながら明日香ちゃんは健太にも皿を差し出していた。
「にしてもさ。おじさん、OKするかな?」
健太は早速皿に乗ったスパイスの効いたチキンを口に運びながら言う。
「うーん。絶対一度は反対しそうだよね。自分のほうが歳近い息子できるんだから」
明日香ちゃんも自分用に取り分けたピザを齧りつつそう言った。
「やっぱり……2人から見てもそう思うよねぇ……。うちのお父さん知ってるんだもん。睦月さんは承諾して貰えるまで何回だって通うって言うんだけど、すぐそこって距離じゃないし……」
私が頭を抱えるようにそう吐き出すと、明日香ちゃんは何か思いついたように「そうだ!」と声を上げた。
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