102 / 183
27
1
しおりを挟む
「じゃあ、行ってきます」
路肩に停められた車から降り、私は運転席の睦月さんにそう声を掛けた。
「いってらっしゃい。楽しんできて。帰りは迎えに行くからまた連絡してね」
運転席から身を乗り出して睦月さんは笑顔で私に言う。
「うん。遅くならないうちに連絡するね」
ようやく普通に話せるようになってきた私を、睦月さんは嬉しそうに見上げている。
「じゃあ、いってらっしゃい」
軽く手を振ると、睦月さんはハンドルを握る。私は車から少し離れると、その車が走り出すのを見送った。
今日は3月後半の三連休初日の土曜日。
睦月さんは、せっかくだから何処か遠出しない?と言ってくれていたのだけど、残念ながら私に用事があったのだ。
久しぶりに参加する高校の同窓会。今まで何回か開催されていたが、最近は何かと理由をつけて参加していなかった。でも今回、高校の頃一番仲の良かった友達が幹事をするから絶対来てと連絡があり、渋々参加となったのだ。
しかも、その電話で変な事を言われたのだった。
『年々参加者も減ってる、って言うか同じ顔ぶれだから、今回は趣向を凝らして、友達の友達は皆友達!ってね。同郷の知り合いいたら、誰でもいいから呼んでよ』
そんな事を言われたのだが、私がこっちで知ってる同郷の人なんて竜二おじさんくらいだ。さすがに連れて行けないから、そこは丁重にお断りした。
『ま、咲月が来てくれるだけでヨシとしよう!じゃ、よろしくね!』
参加しないとは言い出せず、結局参加することになった。正直、女の子はともかく、男の子は全然分からないから話しかけられても困るんだよなぁ……とは思うんだけど。
そんな事を思いながら、会場のパブに向かう。友達が言うには、いつもの倍以上の人が集まり、店を貸し切りにできたのだとか。
それだけいれば店の隅っこで一人飲み食いしてても目立たないか、と少し肩の力が抜けた。
「あっ!咲月!久しぶり~!」
店のドアを開けると、受付用にしているのか正面にテーブルが置いてあり、幹事をしている友達が真っ先にそう声を上げた。
「久しぶり。幹事お疲れ様!」
手を振りながら私は友達に駆け寄る。
「あ、会費出すね」
鞄を開け財布を取り出すと、何故かニヤリと笑われる。
「咲月さぁ~。彼氏できたでしょ?」
私は持っていた財布を落とさん勢いで肩を揺らす。
「なっ、何で分かるの⁈」
そう言って私は、いとも簡単に白状していた。
目の前の友達、斉木明日香ちゃんは、文字通りお腹を抱えてヒーヒー言いながら笑っている。私はそれを唖然としながらしばらく眺め、そして我に返った。
「ちょっと!そんなに笑うとこ?」
「いや、相変わらず正直者で可愛いわぁ」
高校のころから変わらないショートカットに、パンツスーツの似合う彼女は涙を浮かべながら私にそう言った。
「もー!いいから、はい会費ね!」
私は財布から取り出したお札をそう言って差し出す。
「あとでじっくり話し聞かせてもらうからねぇ」
あとで根掘り葉掘り聞かれそうだなぁ……と顔を引き攣らせている私を他所に、明日香ちゃんはニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「お~い、斉木~。なんか手伝うことあるかぁ?」
店の中はすでに集まった人達で盛り上がっていて、その向こう側からスーツ姿の男の人がそう言いながらやってくる。
「あぁ、竹内。ちょうど良かった」
そう言って明日香ちゃんが後ろを見ながら言う相手を見上げて、私は声も出なかった。
「……咲月……」
その相手は少し驚いているようだけど、私ほどではない。
「な、なんで健太がここにいるの⁈」
私がようやくそう言うと、明日香ちゃんがまたこちらに向き直した。
「えっ?竹内と知り合い?世間狭っ!」
健太とは高校は違う。そして、明日香ちゃんとは高校からの友達だ。だから、この2人が知り合いだったことのほうが驚きだ。
「咲月とは幼なじみ。家近所だし。斉木が同じ高校だったからもしかしたら今日会えるかもとは思ったけど」
「何?何?気になるんだけど?だからアンタ私が誘ったとき乗り気だったんだ」
明日香ちゃんにそう言われて、健太はバツの悪そうな顔をして「うるせーな」と返していた。
「な、何で?2人どういう関係?」
まるで接点の分からない私が、まだ驚いたまま尋ねると、明日香ちゃんは「あぁ。私達、会社一緒なのよ。って言っても、私は本社採用で、コイツはまさかの地元営業所からの転勤組だけど」と得意げに答えた。
まさか、友達の友達?が本当に友達……と言うか、知ってる人だとは思いもしなかった。
私が突っ立ったままでいると、店のドアが開き、ガヤガヤと後ろから人が入ってくる気配がした。
「あ、受付はこちらでーす!」
明日香ちゃんが手を挙げそう言うのを見ながら、私は邪魔にならないよう場所を移動する。
「あのさ、咲月。話、いい?」
恐る恐る、と言った感じで健太が私に近づくと、視線を外したままそう言う。
何でだろう……。前ほど怖くない。あんなに傷ついて、もう2度と会いたくないと思っていたのに。そうか、こう思えるのも睦月さんのおかげだ
私は健太を見上げてそんなことを思った。
路肩に停められた車から降り、私は運転席の睦月さんにそう声を掛けた。
「いってらっしゃい。楽しんできて。帰りは迎えに行くからまた連絡してね」
運転席から身を乗り出して睦月さんは笑顔で私に言う。
「うん。遅くならないうちに連絡するね」
ようやく普通に話せるようになってきた私を、睦月さんは嬉しそうに見上げている。
「じゃあ、いってらっしゃい」
軽く手を振ると、睦月さんはハンドルを握る。私は車から少し離れると、その車が走り出すのを見送った。
今日は3月後半の三連休初日の土曜日。
睦月さんは、せっかくだから何処か遠出しない?と言ってくれていたのだけど、残念ながら私に用事があったのだ。
久しぶりに参加する高校の同窓会。今まで何回か開催されていたが、最近は何かと理由をつけて参加していなかった。でも今回、高校の頃一番仲の良かった友達が幹事をするから絶対来てと連絡があり、渋々参加となったのだ。
しかも、その電話で変な事を言われたのだった。
『年々参加者も減ってる、って言うか同じ顔ぶれだから、今回は趣向を凝らして、友達の友達は皆友達!ってね。同郷の知り合いいたら、誰でもいいから呼んでよ』
そんな事を言われたのだが、私がこっちで知ってる同郷の人なんて竜二おじさんくらいだ。さすがに連れて行けないから、そこは丁重にお断りした。
『ま、咲月が来てくれるだけでヨシとしよう!じゃ、よろしくね!』
参加しないとは言い出せず、結局参加することになった。正直、女の子はともかく、男の子は全然分からないから話しかけられても困るんだよなぁ……とは思うんだけど。
そんな事を思いながら、会場のパブに向かう。友達が言うには、いつもの倍以上の人が集まり、店を貸し切りにできたのだとか。
それだけいれば店の隅っこで一人飲み食いしてても目立たないか、と少し肩の力が抜けた。
「あっ!咲月!久しぶり~!」
店のドアを開けると、受付用にしているのか正面にテーブルが置いてあり、幹事をしている友達が真っ先にそう声を上げた。
「久しぶり。幹事お疲れ様!」
手を振りながら私は友達に駆け寄る。
「あ、会費出すね」
鞄を開け財布を取り出すと、何故かニヤリと笑われる。
「咲月さぁ~。彼氏できたでしょ?」
私は持っていた財布を落とさん勢いで肩を揺らす。
「なっ、何で分かるの⁈」
そう言って私は、いとも簡単に白状していた。
目の前の友達、斉木明日香ちゃんは、文字通りお腹を抱えてヒーヒー言いながら笑っている。私はそれを唖然としながらしばらく眺め、そして我に返った。
「ちょっと!そんなに笑うとこ?」
「いや、相変わらず正直者で可愛いわぁ」
高校のころから変わらないショートカットに、パンツスーツの似合う彼女は涙を浮かべながら私にそう言った。
「もー!いいから、はい会費ね!」
私は財布から取り出したお札をそう言って差し出す。
「あとでじっくり話し聞かせてもらうからねぇ」
あとで根掘り葉掘り聞かれそうだなぁ……と顔を引き攣らせている私を他所に、明日香ちゃんはニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「お~い、斉木~。なんか手伝うことあるかぁ?」
店の中はすでに集まった人達で盛り上がっていて、その向こう側からスーツ姿の男の人がそう言いながらやってくる。
「あぁ、竹内。ちょうど良かった」
そう言って明日香ちゃんが後ろを見ながら言う相手を見上げて、私は声も出なかった。
「……咲月……」
その相手は少し驚いているようだけど、私ほどではない。
「な、なんで健太がここにいるの⁈」
私がようやくそう言うと、明日香ちゃんがまたこちらに向き直した。
「えっ?竹内と知り合い?世間狭っ!」
健太とは高校は違う。そして、明日香ちゃんとは高校からの友達だ。だから、この2人が知り合いだったことのほうが驚きだ。
「咲月とは幼なじみ。家近所だし。斉木が同じ高校だったからもしかしたら今日会えるかもとは思ったけど」
「何?何?気になるんだけど?だからアンタ私が誘ったとき乗り気だったんだ」
明日香ちゃんにそう言われて、健太はバツの悪そうな顔をして「うるせーな」と返していた。
「な、何で?2人どういう関係?」
まるで接点の分からない私が、まだ驚いたまま尋ねると、明日香ちゃんは「あぁ。私達、会社一緒なのよ。って言っても、私は本社採用で、コイツはまさかの地元営業所からの転勤組だけど」と得意げに答えた。
まさか、友達の友達?が本当に友達……と言うか、知ってる人だとは思いもしなかった。
私が突っ立ったままでいると、店のドアが開き、ガヤガヤと後ろから人が入ってくる気配がした。
「あ、受付はこちらでーす!」
明日香ちゃんが手を挙げそう言うのを見ながら、私は邪魔にならないよう場所を移動する。
「あのさ、咲月。話、いい?」
恐る恐る、と言った感じで健太が私に近づくと、視線を外したままそう言う。
何でだろう……。前ほど怖くない。あんなに傷ついて、もう2度と会いたくないと思っていたのに。そうか、こう思えるのも睦月さんのおかげだ
私は健太を見上げてそんなことを思った。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる