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「じゃあ、行ってきます」
路肩に停められた車から降り、私は運転席の睦月さんにそう声を掛けた。
「いってらっしゃい。楽しんできて。帰りは迎えに行くからまた連絡してね」
運転席から身を乗り出して睦月さんは笑顔で私に言う。
「うん。遅くならないうちに連絡するね」
ようやく普通に話せるようになってきた私を、睦月さんは嬉しそうに見上げている。
「じゃあ、いってらっしゃい」
軽く手を振ると、睦月さんはハンドルを握る。私は車から少し離れると、その車が走り出すのを見送った。
今日は3月後半の三連休初日の土曜日。
睦月さんは、せっかくだから何処か遠出しない?と言ってくれていたのだけど、残念ながら私に用事があったのだ。
久しぶりに参加する高校の同窓会。今まで何回か開催されていたが、最近は何かと理由をつけて参加していなかった。でも今回、高校の頃一番仲の良かった友達が幹事をするから絶対来てと連絡があり、渋々参加となったのだ。
しかも、その電話で変な事を言われたのだった。
『年々参加者も減ってる、って言うか同じ顔ぶれだから、今回は趣向を凝らして、友達の友達は皆友達!ってね。同郷の知り合いいたら、誰でもいいから呼んでよ』
そんな事を言われたのだが、私がこっちで知ってる同郷の人なんて竜二おじさんくらいだ。さすがに連れて行けないから、そこは丁重にお断りした。
『ま、咲月が来てくれるだけでヨシとしよう!じゃ、よろしくね!』
参加しないとは言い出せず、結局参加することになった。正直、女の子はともかく、男の子は全然分からないから話しかけられても困るんだよなぁ……とは思うんだけど。
そんな事を思いながら、会場のパブに向かう。友達が言うには、いつもの倍以上の人が集まり、店を貸し切りにできたのだとか。
それだけいれば店の隅っこで一人飲み食いしてても目立たないか、と少し肩の力が抜けた。
「あっ!咲月!久しぶり~!」
店のドアを開けると、受付用にしているのか正面にテーブルが置いてあり、幹事をしている友達が真っ先にそう声を上げた。
「久しぶり。幹事お疲れ様!」
手を振りながら私は友達に駆け寄る。
「あ、会費出すね」
鞄を開け財布を取り出すと、何故かニヤリと笑われる。
「咲月さぁ~。彼氏できたでしょ?」
私は持っていた財布を落とさん勢いで肩を揺らす。
「なっ、何で分かるの⁈」
そう言って私は、いとも簡単に白状していた。
目の前の友達、斉木明日香ちゃんは、文字通りお腹を抱えてヒーヒー言いながら笑っている。私はそれを唖然としながらしばらく眺め、そして我に返った。
「ちょっと!そんなに笑うとこ?」
「いや、相変わらず正直者で可愛いわぁ」
高校のころから変わらないショートカットに、パンツスーツの似合う彼女は涙を浮かべながら私にそう言った。
「もー!いいから、はい会費ね!」
私は財布から取り出したお札をそう言って差し出す。
「あとでじっくり話し聞かせてもらうからねぇ」
あとで根掘り葉掘り聞かれそうだなぁ……と顔を引き攣らせている私を他所に、明日香ちゃんはニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「お~い、斉木~。なんか手伝うことあるかぁ?」
店の中はすでに集まった人達で盛り上がっていて、その向こう側からスーツ姿の男の人がそう言いながらやってくる。
「あぁ、竹内。ちょうど良かった」
そう言って明日香ちゃんが後ろを見ながら言う相手を見上げて、私は声も出なかった。
「……咲月……」
その相手は少し驚いているようだけど、私ほどではない。
「な、なんで健太がここにいるの⁈」
私がようやくそう言うと、明日香ちゃんがまたこちらに向き直した。
「えっ?竹内と知り合い?世間狭っ!」
健太とは高校は違う。そして、明日香ちゃんとは高校からの友達だ。だから、この2人が知り合いだったことのほうが驚きだ。
「咲月とは幼なじみ。家近所だし。斉木が同じ高校だったからもしかしたら今日会えるかもとは思ったけど」
「何?何?気になるんだけど?だからアンタ私が誘ったとき乗り気だったんだ」
明日香ちゃんにそう言われて、健太はバツの悪そうな顔をして「うるせーな」と返していた。
「な、何で?2人どういう関係?」
まるで接点の分からない私が、まだ驚いたまま尋ねると、明日香ちゃんは「あぁ。私達、会社一緒なのよ。って言っても、私は本社採用で、コイツはまさかの地元営業所からの転勤組だけど」と得意げに答えた。
まさか、友達の友達?が本当に友達……と言うか、知ってる人だとは思いもしなかった。
私が突っ立ったままでいると、店のドアが開き、ガヤガヤと後ろから人が入ってくる気配がした。
「あ、受付はこちらでーす!」
明日香ちゃんが手を挙げそう言うのを見ながら、私は邪魔にならないよう場所を移動する。
「あのさ、咲月。話、いい?」
恐る恐る、と言った感じで健太が私に近づくと、視線を外したままそう言う。
何でだろう……。前ほど怖くない。あんなに傷ついて、もう2度と会いたくないと思っていたのに。そうか、こう思えるのも睦月さんのおかげだ
私は健太を見上げてそんなことを思った。
路肩に停められた車から降り、私は運転席の睦月さんにそう声を掛けた。
「いってらっしゃい。楽しんできて。帰りは迎えに行くからまた連絡してね」
運転席から身を乗り出して睦月さんは笑顔で私に言う。
「うん。遅くならないうちに連絡するね」
ようやく普通に話せるようになってきた私を、睦月さんは嬉しそうに見上げている。
「じゃあ、いってらっしゃい」
軽く手を振ると、睦月さんはハンドルを握る。私は車から少し離れると、その車が走り出すのを見送った。
今日は3月後半の三連休初日の土曜日。
睦月さんは、せっかくだから何処か遠出しない?と言ってくれていたのだけど、残念ながら私に用事があったのだ。
久しぶりに参加する高校の同窓会。今まで何回か開催されていたが、最近は何かと理由をつけて参加していなかった。でも今回、高校の頃一番仲の良かった友達が幹事をするから絶対来てと連絡があり、渋々参加となったのだ。
しかも、その電話で変な事を言われたのだった。
『年々参加者も減ってる、って言うか同じ顔ぶれだから、今回は趣向を凝らして、友達の友達は皆友達!ってね。同郷の知り合いいたら、誰でもいいから呼んでよ』
そんな事を言われたのだが、私がこっちで知ってる同郷の人なんて竜二おじさんくらいだ。さすがに連れて行けないから、そこは丁重にお断りした。
『ま、咲月が来てくれるだけでヨシとしよう!じゃ、よろしくね!』
参加しないとは言い出せず、結局参加することになった。正直、女の子はともかく、男の子は全然分からないから話しかけられても困るんだよなぁ……とは思うんだけど。
そんな事を思いながら、会場のパブに向かう。友達が言うには、いつもの倍以上の人が集まり、店を貸し切りにできたのだとか。
それだけいれば店の隅っこで一人飲み食いしてても目立たないか、と少し肩の力が抜けた。
「あっ!咲月!久しぶり~!」
店のドアを開けると、受付用にしているのか正面にテーブルが置いてあり、幹事をしている友達が真っ先にそう声を上げた。
「久しぶり。幹事お疲れ様!」
手を振りながら私は友達に駆け寄る。
「あ、会費出すね」
鞄を開け財布を取り出すと、何故かニヤリと笑われる。
「咲月さぁ~。彼氏できたでしょ?」
私は持っていた財布を落とさん勢いで肩を揺らす。
「なっ、何で分かるの⁈」
そう言って私は、いとも簡単に白状していた。
目の前の友達、斉木明日香ちゃんは、文字通りお腹を抱えてヒーヒー言いながら笑っている。私はそれを唖然としながらしばらく眺め、そして我に返った。
「ちょっと!そんなに笑うとこ?」
「いや、相変わらず正直者で可愛いわぁ」
高校のころから変わらないショートカットに、パンツスーツの似合う彼女は涙を浮かべながら私にそう言った。
「もー!いいから、はい会費ね!」
私は財布から取り出したお札をそう言って差し出す。
「あとでじっくり話し聞かせてもらうからねぇ」
あとで根掘り葉掘り聞かれそうだなぁ……と顔を引き攣らせている私を他所に、明日香ちゃんはニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「お~い、斉木~。なんか手伝うことあるかぁ?」
店の中はすでに集まった人達で盛り上がっていて、その向こう側からスーツ姿の男の人がそう言いながらやってくる。
「あぁ、竹内。ちょうど良かった」
そう言って明日香ちゃんが後ろを見ながら言う相手を見上げて、私は声も出なかった。
「……咲月……」
その相手は少し驚いているようだけど、私ほどではない。
「な、なんで健太がここにいるの⁈」
私がようやくそう言うと、明日香ちゃんがまたこちらに向き直した。
「えっ?竹内と知り合い?世間狭っ!」
健太とは高校は違う。そして、明日香ちゃんとは高校からの友達だ。だから、この2人が知り合いだったことのほうが驚きだ。
「咲月とは幼なじみ。家近所だし。斉木が同じ高校だったからもしかしたら今日会えるかもとは思ったけど」
「何?何?気になるんだけど?だからアンタ私が誘ったとき乗り気だったんだ」
明日香ちゃんにそう言われて、健太はバツの悪そうな顔をして「うるせーな」と返していた。
「な、何で?2人どういう関係?」
まるで接点の分からない私が、まだ驚いたまま尋ねると、明日香ちゃんは「あぁ。私達、会社一緒なのよ。って言っても、私は本社採用で、コイツはまさかの地元営業所からの転勤組だけど」と得意げに答えた。
まさか、友達の友達?が本当に友達……と言うか、知ってる人だとは思いもしなかった。
私が突っ立ったままでいると、店のドアが開き、ガヤガヤと後ろから人が入ってくる気配がした。
「あ、受付はこちらでーす!」
明日香ちゃんが手を挙げそう言うのを見ながら、私は邪魔にならないよう場所を移動する。
「あのさ、咲月。話、いい?」
恐る恐る、と言った感じで健太が私に近づくと、視線を外したままそう言う。
何でだろう……。前ほど怖くない。あんなに傷ついて、もう2度と会いたくないと思っていたのに。そうか、こう思えるのも睦月さんのおかげだ
私は健太を見上げてそんなことを思った。
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