年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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リビングへ戻ると、さっちゃんと瑤子ちゃんは床に座り込んで話に夢中になっていた。かんちゃんのほうは『僕も話に入れて!』とばかりに、瑤子ちゃんの膝に前足を乗せて見上げている。

初めて会った瑤子ちゃんにここまでの態度を取るんだから、かんちゃんも男の子だよねぇ……なんて、心の中で笑ってしまう。

「かんちゃん!」

俺が呼ぶと、かんちゃんは耳をピクリと動かしてからこちらに走ってくる。そんなかんちゃんを抱き上げると、尻尾を振りながら俺の顔を舐め始めた。

「えらく慣れてんじゃねーの。綿貫の犬」

司に覗き込まれながらそう言われるが、ここまでにどれだけかかったかと思うと素直に喜べない。俺が乾いた笑いを浮かべると、司は不思議そうに「なんだよ?」と尋ねてきた。

「それがさぁ……」

そう言いながら座っている2人の元へ向かうと「どうかしたんですか?」と瑤子ちゃんにも尋ねられる。
司はソファに、俺はさっちゃんの隣に座ると、俺はかんちゃんとの長い長い攻防戦を語ったのだけど……。

笑われた。とにかく司はひとしきり笑い、瑤子ちゃんに「そんなに笑っちゃ失礼よ!」と嗜められていた。

「いや、だって!コイツ、俺には会った途端に服従した癖に、睦月には吠えまくるって!綿貫に下心丸出しで近づいたの見抜かれてんだろ!」

いったい何がツボにハマったのか、俺でも中々見ないくらいに司に笑われ、さすがに居た堪れなくなる。

「……失礼だな……全く……」

力なく俺が言う側で、かんちゃんは我関せずで走り回っている。

「あのっ!」

突然、意を決したようにさっちゃんが顔を上げ、それに皆が注目すると、おずおずとさっちゃんは続けた。

「私もっ、その……下心があったんで。睦月さんだけのせいじゃないです」

顔を赤らめながら一生懸命に言うさっちゃんに、さすがに3人とも目を丸くしてしまう。司はその表情のまま、「何?惚気られてんのか?」なんて言っている。さっちゃんがそんなこと言い出すなんて思ってもなかったんだろうけど、それは俺も同じだ。

「ちょっ!!俺の彼女が可愛すぎるんだけど!」

遠慮なくさっちゃんに抱きつくと、顔を真っ赤にして「むっ、睦月さんっ!」と恥ずかしそうに声を上げた。

「睦月……お前、人変わってないか?人前でそんなに惚気るところなんて初めて見たんだけど」

司はもう唖然としながら俺を眺めていて、瑤子ちゃんはそれに「えっ?そうなの?」と意外そうに言い、そして、腕の中にいるさっちゃからも「そうなんですか?」と聞こえてきた。

「睦月はこんなだから、いっけんそうに見えるけど、俺と変わらねぇくらい酷かったんじゃね?」
「ちょっと……何言い出すつもりかなぁ?」

ニヤリと笑いながら言う司に、作り笑顔で尋ねると、司はふふんと息を漏らして続けた。

「だいたい俺が知る限り、睦月は付き合ってるやつを自分の家に入れた事がない!」

きっぱりと言う司に、さっちゃんと瑤子ちゃんは同時に「えっ!嘘っ⁈」と声を上げた。

「嘘じゃねぇよ。それにいっつも澄ました顔して女と会ってたのに、今じゃこんなに鼻の下伸ばしやがって。こっちの方が信じられねぇよ」

笑いを噛み殺しながら言わなくてもいいことを言う司を、今度はさっちゃんと瑤子ちゃんが唖然とした表情で見ていた。

「鼻の下伸ばしててすみませんね~!さっちゃんが可愛いから仕方ないでしょ!」
「だからそれもだろ!お前、そんなキャラじゃなかっただろうが」

確かに、とは自分でも思う。
たいていの人に『気さくで打ち解けやすい』と言われるが、いざ誰かと付き合うと、『それが変わらないから物足りない』なんて言われてしまう。
でも、さっちゃんだけは違う。もっと甘やかしたいし甘えて欲しい、なんて、今まで思ったこともない感情が湧いてくるから不思議だ。

「……睦月さんは……今までお付き合いしてた方と、いつもこんな感じなのかと……思ってました」

まだ俺に抱きつかれたまま、さっちゃんは驚いたように俺を見上げている。それに「いやぁ……。あはは」と決まりの悪い笑いを浮かべていると、司の声が飛んできた。

「だから最初から特別だって言っただろ。睦月に本気で結婚考えさせたのはお前が初めてだ、綿貫」

司が急に真面目腐ってそんなことを言うものだから、さっちゃんは息を飲んだ。そして司に向けていた顔を、またゆっくりと俺に向けた。

「すごく……嬉しいです……」

少し照れたように、でも花が綻ぶように笑うさっちゃんを見てるだけで、俺はどうしようもなく幸せな気分になった。

「うん。俺は凄く幸せ」

そう言って笑いかけて、さっちゃんの頰をそっと撫でる。そして、ついついその顔に吸い寄せられるように自分の顔を近づけた。

「んっ!ううんっ!」

瑤子ちゃんからわざとらしい咳払いが漏れ、俺たちはハッとしてそちらに顔を向けた。咳払いをした瑤子ちゃんは顔を赤らめながら視線を外していて、司の方はこっちを凝視してニヤニヤしていた。

「俺たちは気にせず続きをどーぞ?」
「しないから!って言うかそろそろ帰って!2人きりになりたいから!」

俺がそう言うと、「へいへい」と司は笑いながら答えた。
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