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材料を多めに買っておいたおかげで4人分の天ぷらに茶碗蒸しまで用意され、いつもより少し早めの夕食となった。
目の前には、家で揚げたとは思えないほど立派な天ぷらの盛り合わせ。早速メインの海老を一口齧ると、お店のやつ?って言うくらい美味しい。
「うわっ!サックサク!旨い~!」
「本当に咲月ちゃん、お料理上手ね!天ぷらが家でこんなに上手に揚げられるなんて知らなかったわ」
瑤子ちゃんも興奮気味にそう声を上げ、野菜の天ぷらを口に運んでいた。それからその横で、司が「……うま」と小さく呟いた。人の彼女の作った料理を褒めている司を、瑤子ちゃんはどう思うんだろう?なんて心配する間も無く、「でしょ!でしょ!」と瑤子ちゃんは自分のことのように喜んでいた。
そして、当事者のさっちゃんはと言うと、箸を持ったままゆでダコになっていた。
「どうしたの?」
海老を一尾消費してからさっちゃんの顔を覗き込む。
「こんなに褒められるの初めてで。……お世辞でも照れます」
「このメンツがお世辞言うと思う?特に司が」
食べることに集中していた司が、不意に振られて顔を上げた。
「お世辞なんて、生まれてこのかた言ったことねぇけど?」
そう言ってから、司は2尾目の海老の天ぷらを口に放り込んだ。よくよく司の皿を見ると、一人3尾ずつの海老が司には4尾。対して瑤子ちゃんは2尾。そして何より、司の皿には無くて、瑤子ちゃんのお皿には2つあるものもあった。
これ、盛りつけたのは瑤子ちゃんだな?さりげなくそんなことするなんて、司は愛されてるなぁ……
ちょっと笑いながら、俺は司の皿にないものを箸で持ち上げた。
「そうそう。司がお世辞なんて言わないのは俺が保証するから。本当、椎茸食べるくらいあり得ない」
俺がそう言ってそれを齧ると、さっちゃんは「え?椎茸お嫌いなんですか?……だから瑤子さんが盛りつけしてくださったんですね」と目を丸くしつつ口を開いた。
「そうなの。岡田さんのお皿に放り込んじゃう前に私が引き取っておこうと思って」
申し訳なさそうに瑤子ちゃんはそう言い、司は決まり悪そうに「そんな大人げないことしねぇよ」と小さく反論する。その言葉に『本当に?』と言わんばかりに俺も瑤子ちゃんも無言で視線を送ると、司の顔は照れたように赤みがさした。
「悪かったな!信用なくて。そうだよ、無意識にやってたかも知れねーよ!」
そんな俺たちのやり取りをみて、さっちゃんは声を上げて笑い出した。
「本当に皆さん仲いいですよね!」
そして、俺たちは3人は顔を見合わせてからその言葉を肯定したのだった。
「司と並んでこんなことする日がくるなんてねぇ……」
しみじみとそう言いながら、俺はスポンジで皿を洗うと隣の司に渡す。
「うるせぇな。俺だってやるときゃやるっつーの!」
そう言うと司は受け取った皿を水で流した。
女性陣が美味しいご飯を作ってくれた代わりに、俺たちは片付けに回る。リビングではかんちゃんを交えて2人が話に花を咲かせていた。
「前はメグに任せっぱなしだったのにねぇ。この姿を見せてあげたいよ」
メグとは、司がニューヨークに住んでいたとき雇っていたハウスキーパーの女性。と言っても、司の母親と歳はそう変わらないけど。
メグがいるときは家事らしい家事を一切せず、とにかく任せきりだったから、日本に戻ったときどうなるかと思ったけど、どうやら今はお釈迦様の掌の上で転がされているらしい。
「お前、メグに余計なこと言うなよ?」
「言うなって言われても、今のところ会う予定ないけどね~」
軽口を叩きながら最後の一枚の皿を司に手渡すと、司はそれを流していた。
「新婚旅行……ニューヨークにしようかなぁ。いつになるかわかんないけど」
「あ~。まぁ、向こうのやつらもお前に会いたがってたけどな」
ニューヨークに司と住んでから、向こうにも友人はたくさんできた。年末、司が瑤子ちゃんを連れて行って皆に紹介したように、俺もさっちゃんを紹介したいなぁとは思う。
「そっか。なら尚更行きたいなぁ。って言っても、まずは結婚するのが先だけど」
泡のついた手を洗い流して、ペーパータオルで拭きながらそう言うと、司もそれに続きながら口を開く。
「お前らは式するつもりなんだろ?」
「そりゃ、さっちゃんのドレス姿見たいし、見せたいじゃない?ご両親にも」
俺がそう答えると、途端に司は真面目な顔をしてため息を吐いた。
「やっぱそうだよな」
「人によるとは思うけど、大抵の人は娘の花嫁姿を見たいんじゃない?式挙げなくても写真くらい撮れば?って言うか俺に撮らせてよ!」
俺が期待の眼差しを向けると、途端に司は顔を顰める。
「お前が撮るのは構わねーけど、撮られると思うと気が重い」
「一生に一度だよ?その時くらい瑤子ちゃんのために頑張りなよ!」
人の写真はガンガン撮るくせに、司は自分を撮られるのが大嫌いなのは昔から。けど、世界で一番大事な人のためなら司も頑張る……と思いたい。
苦虫を噛み潰したような顔の司に、俺は続けた。
「ま、焦ることないんじゃない?まだ結婚したばっかだし。撮るならいつでも相談してよ」
それに司は、「わかった」とだけ返した。
目の前には、家で揚げたとは思えないほど立派な天ぷらの盛り合わせ。早速メインの海老を一口齧ると、お店のやつ?って言うくらい美味しい。
「うわっ!サックサク!旨い~!」
「本当に咲月ちゃん、お料理上手ね!天ぷらが家でこんなに上手に揚げられるなんて知らなかったわ」
瑤子ちゃんも興奮気味にそう声を上げ、野菜の天ぷらを口に運んでいた。それからその横で、司が「……うま」と小さく呟いた。人の彼女の作った料理を褒めている司を、瑤子ちゃんはどう思うんだろう?なんて心配する間も無く、「でしょ!でしょ!」と瑤子ちゃんは自分のことのように喜んでいた。
そして、当事者のさっちゃんはと言うと、箸を持ったままゆでダコになっていた。
「どうしたの?」
海老を一尾消費してからさっちゃんの顔を覗き込む。
「こんなに褒められるの初めてで。……お世辞でも照れます」
「このメンツがお世辞言うと思う?特に司が」
食べることに集中していた司が、不意に振られて顔を上げた。
「お世辞なんて、生まれてこのかた言ったことねぇけど?」
そう言ってから、司は2尾目の海老の天ぷらを口に放り込んだ。よくよく司の皿を見ると、一人3尾ずつの海老が司には4尾。対して瑤子ちゃんは2尾。そして何より、司の皿には無くて、瑤子ちゃんのお皿には2つあるものもあった。
これ、盛りつけたのは瑤子ちゃんだな?さりげなくそんなことするなんて、司は愛されてるなぁ……
ちょっと笑いながら、俺は司の皿にないものを箸で持ち上げた。
「そうそう。司がお世辞なんて言わないのは俺が保証するから。本当、椎茸食べるくらいあり得ない」
俺がそう言ってそれを齧ると、さっちゃんは「え?椎茸お嫌いなんですか?……だから瑤子さんが盛りつけしてくださったんですね」と目を丸くしつつ口を開いた。
「そうなの。岡田さんのお皿に放り込んじゃう前に私が引き取っておこうと思って」
申し訳なさそうに瑤子ちゃんはそう言い、司は決まり悪そうに「そんな大人げないことしねぇよ」と小さく反論する。その言葉に『本当に?』と言わんばかりに俺も瑤子ちゃんも無言で視線を送ると、司の顔は照れたように赤みがさした。
「悪かったな!信用なくて。そうだよ、無意識にやってたかも知れねーよ!」
そんな俺たちのやり取りをみて、さっちゃんは声を上げて笑い出した。
「本当に皆さん仲いいですよね!」
そして、俺たちは3人は顔を見合わせてからその言葉を肯定したのだった。
「司と並んでこんなことする日がくるなんてねぇ……」
しみじみとそう言いながら、俺はスポンジで皿を洗うと隣の司に渡す。
「うるせぇな。俺だってやるときゃやるっつーの!」
そう言うと司は受け取った皿を水で流した。
女性陣が美味しいご飯を作ってくれた代わりに、俺たちは片付けに回る。リビングではかんちゃんを交えて2人が話に花を咲かせていた。
「前はメグに任せっぱなしだったのにねぇ。この姿を見せてあげたいよ」
メグとは、司がニューヨークに住んでいたとき雇っていたハウスキーパーの女性。と言っても、司の母親と歳はそう変わらないけど。
メグがいるときは家事らしい家事を一切せず、とにかく任せきりだったから、日本に戻ったときどうなるかと思ったけど、どうやら今はお釈迦様の掌の上で転がされているらしい。
「お前、メグに余計なこと言うなよ?」
「言うなって言われても、今のところ会う予定ないけどね~」
軽口を叩きながら最後の一枚の皿を司に手渡すと、司はそれを流していた。
「新婚旅行……ニューヨークにしようかなぁ。いつになるかわかんないけど」
「あ~。まぁ、向こうのやつらもお前に会いたがってたけどな」
ニューヨークに司と住んでから、向こうにも友人はたくさんできた。年末、司が瑤子ちゃんを連れて行って皆に紹介したように、俺もさっちゃんを紹介したいなぁとは思う。
「そっか。なら尚更行きたいなぁ。って言っても、まずは結婚するのが先だけど」
泡のついた手を洗い流して、ペーパータオルで拭きながらそう言うと、司もそれに続きながら口を開く。
「お前らは式するつもりなんだろ?」
「そりゃ、さっちゃんのドレス姿見たいし、見せたいじゃない?ご両親にも」
俺がそう答えると、途端に司は真面目な顔をしてため息を吐いた。
「やっぱそうだよな」
「人によるとは思うけど、大抵の人は娘の花嫁姿を見たいんじゃない?式挙げなくても写真くらい撮れば?って言うか俺に撮らせてよ!」
俺が期待の眼差しを向けると、途端に司は顔を顰める。
「お前が撮るのは構わねーけど、撮られると思うと気が重い」
「一生に一度だよ?その時くらい瑤子ちゃんのために頑張りなよ!」
人の写真はガンガン撮るくせに、司は自分を撮られるのが大嫌いなのは昔から。けど、世界で一番大事な人のためなら司も頑張る……と思いたい。
苦虫を噛み潰したような顔の司に、俺は続けた。
「ま、焦ることないんじゃない?まだ結婚したばっかだし。撮るならいつでも相談してよ」
それに司は、「わかった」とだけ返した。
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