年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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結局その後、またベッドに入ったのは明け方と言っていい時間で、私は睦月さんに背中をトントンされていると、子どもみたいにあっという間に眠りについてしまっていた。


次に意識が浮上したのは、何か温かな感触を顔に感じたから。

「……睦月……さん?」

閉じようとする瞼をなんとか開けてみると、睦月さんが私のこめかみ辺りを撫でながら「おはよ。さっちゃん。ってもうお昼前だけどね?」と言って私の頰にキスを落とす。

「……おはよう……ございます」

また眠りへ誘うような心地の良い睦月さんの行動に、私はつい瞼を閉じてしまう。それを見ているからか、睦月さんから小さく笑い声が漏れて、今度はその瞼の上に唇が降って来た。

「……まだ、寝る?」

そう言いながら、睦月さんは私の顔にキスの雨を降らしている。でも何故か唇には触れてくれなくて、ちょっともどかしくなる。

「……もっと……してくれても……いいですよ……」

寝言のように私が呟くと、一瞬、睦月さんが止まる気配がした。

……?

なんだろうと目を開けようとした瞬間、唇が塞がれる。

「んっっ⁈」

そこからは、さっきまでとは違う、喰いつかれるようなキスをされ、結局……

キスだけで済むことなく最後までしまった。



「ごめんっ!本当にごめん!」

朝食どころか、とっくに昼食になったものを目の前にして、睦月さんは私に手を合わせて謝っている。

「……最後までしていいなんて言ってません!」

ちょっとむくれたように私が言うと、睦月さんはシュンとしたように「さっちゃんがしていいって言ったから……」とバツの悪そうな顔で答えた。

「私のせい⁈」

思わず真琴を相手にしている時のようにそう声を上げると、睦月さんは私を見て嬉しそうな顔を見せた。

「敬語さっちゃんも可愛いけど、素のさっちゃんも可愛いなぁ。これからはもっと砕けて話して欲しいな?」

私、ちょっと怒ってたはずなんだけど……

睦月さんは、尻尾を振って凄く期待しているかんちゃんのような顔をしている。その顔を見ていると、睦月さんのほうこそ可愛いよ……なんて思ってしまう。

「じゃあ……ちょっとずつ……頑張る……」
「うん。よろしくね!」

私が照れながら辿々しく答えると、睦月さんはそれに満面の笑みを返してくれた。

「じゃ、食べよっか」

目の前には、睦月さんの作ってくれたサンドイッチにストレートティーが添えられている。

手を合わした睦月さんに倣い私も手を合わせる。2人で「いただきます」を言って、私たちはランチのひとときを楽しんだ。


睦月さんが言ってたように、私がプレゼントしたティーカップと同じものを買いに行ってから、今度はかんちゃんを迎えに行くことにした。

「ずっとさっちゃんを独占しっぱなしじゃ、かんちゃんに怒られそう」

なんて言いながら、睦月さんはかんちゃんを預けたペットサロンに着いて来てくれた。

「じゃあ、外で待ってるね」

車を近くのパーキングに停めてここまで歩いてくると、サロンの前で睦月さんはそう言う。

「えっ!睦月さんも一緒に行きませんか?かんちゃんの妹がいて……」

私がそう言うと、途端に睦月さんはワクワクしたような顔になった。

「かんちゃんの妹?うわぁ、見たいかも。でも、吠えられない?」
「はなちゃんは……大丈夫な気がするんだけど……」

いつもサロンでいろんなお客さんを見ているはなちゃんが、誰かに吠え立ててるところなんて見たことはない。

「じゃあ……行ってみようかな……」

恐る恐るそう言う睦月さんを見ながら、かんちゃんに吠えられるのがよっぽどトラウマだったんだな、なんて思う。はなちゃんでちょっとでも癒されたらいいけど……

そんなことを思いながら、私から睦月さんの腕を引く。

「きっと大丈夫!」

私がそう言うと、睦月さんは笑顔になり「そうだね」と答えた。

サロンの扉を入ると、今日は娘さんのほうが出迎えてくれた。

「あ、お帰りなさい。かんちゃんはとっても元気にしてましたよ?」

柔らかな雰囲気で言うその人の向こう側で、今日もはなちゃんと走り回るかんちゃんが見えた。

「お世話になりました。……かんちゃん!帰ろう?」

私がそう奥に声を掛けると、かんちゃんは頭を上げて私の方を振り向いた。
私の姿を見つけたかんちゃんは、全速力で走ってきてくれ、そしてはなちゃんもそれに続いた。
私の足元まで来ると、かんちゃんは匂いを確認するようにグルグルと回り、それからようやく尻尾を振りながら私の足に登ってキュンキュン鳴いた。

「楽しかった?遅くなってごめんね」

そう言いながらかんちゃんを撫でてから、私はふと睦月さんが気になり振り返える。
そこには、ブンブンと尻尾を振って睦月さんの足によじ登るはなちゃんの姿があった。

「抱っこしてもらっても大丈夫ですよ」

娘さんに微笑みながらそう言われて、睦月さんは「いいんですか?」と言いながら、はなちゃんを抱き上げた。
はなちゃんは、私が嫉妬しちゃうくらい睦月さんの顔を舐めていて、睦月さんも嬉しそうにされるがままになっていた。

「かんちゃん?」

楽しそうな雰囲気を察したのか、かんちゃんはゆっくりと睦月さんの元へ歩み寄っていた。
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