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向かいに座り、そこから缶ビールを差し出すと睦月さんはグラスを持ち上げた。私がそれにビールを注いでいると、睦月さんはその缶に視線を送りながら口を開いた。

「これ、希海にあげたやつだ」
「そうなんです。希海さん、美味しかったって言ってたから」

私がそう言って注ぎ終えると、「じゃ、さっちゃんも」と言って睦月さんは私の手から缶を攫った。

「はい。お願いします」

私も自分のグラスを持ち上げると、そこに睦月さんはビールを注いでくれる。私が注ぐより睦月さんが注いだ方が綺麗な泡が立って何倍も美味しそうに見えた。

「はい。じゃ、乾杯しよっか」

空になった缶を傍らに置くと、睦月さんはグラスを持ってニッコリ笑う。

「じゃあ……睦月さん。改めて、お誕生日、おめでとうございます」
「ありがと」

そう言い合って、私達は小さくグラスを合わせた。

それから睦月さんは、とにかく喜んで食べてくれた。
お刺身は、もちろんお店で出すのと同じものだから文句なく美味しいのは分かっている。数種類入れてくれていた旬の魚は、やっぱりどれも美味しかった。
でも睦月さんは、私の作ったカレイの煮付けを、本当に何度も「美味しいよ」って食べてくれていた。

「あー、これ、ご飯食べたくなる味!」

そう言う睦月さんに、私は申し訳なく思いながら返す。

「お酒飲むからいいかな、って勝手に思っちゃって。すみません……」
「ううん?こっちこそごめんね。次はよろしく」

ニコニコしたまま睦月さんにそう言われ、「はい。今度はお米も炊いておきます」と私は笑顔で返した。

あとは……サラダだ。睦月さんは、中に入っていた蟹を箸で持ち上げると、「これって……本物、だよね?」と繁々と眺めていた。

「本物ですよ。地元の冬には欠かせませんから」
「いいなぁ……。蟹の本場……」

しみじみそう言ってから、その蟹を口に運んだ。

「やっぱり美味うまいね!それに、ドレッシングも酸味効いてて合う!」
「ドレッシングはうちの母直伝です。お口に合って良かった」

母が小さい頃からよく作ってくれたサラダのドレッシングは、凄く簡単だけど美味しい。こんなに喜んで貰えて、教えてもらった甲斐があったな、と私は思った。

それからは、睦月さんが今日してきた仕事の話になった。

「今日の写真、春のフェア用カタログで使うって言ってたなぁ。よかったら来てくださいって担当の人言ってたし……、その時は行ってみようね?凄く素敵な式場だったよ」

そう言って目を細める睦月さんに、私はゆっくりと頷いて見せた。


「本当、お腹いっぱい!さっちゃん、美味しかった。ごちそうさまでした」

睦月さんはそう言って手を合わせる。
テーブルの上のお皿は、おじさんがおまけで付けてくれた『いただき』を含め全て綺麗になくなっていた。

睦月さんは好き嫌いも言わないし、食べ方もとても綺麗だ。そして言葉の通りにとても美味しそうに食べてくれるから作った甲斐があった。

「あの、ケーキもあるんですけど……食べられますか?」

立ち上がってお皿を片付けながら尋ねると、「もちろん!」と子どものような笑顔が返ってくる。ワクワクしている睦月さんを見ると、何か可愛い……と思ってしまった。

「じゃあ、先に片付けてしまうので、睦月さんは休憩しててください」

そう言ってお皿をを重ねていると、睦月さんは立ち上がって「俺も手伝う」と同じようにお皿を手にする。

「でも……」
「いいって。腹ごなしも必要だしね?」

それに甘えて、一緒に食器を洗って片付け終える。ヤカンを火にかけている間に睦月さんには戻ってもらい、私は2つ目のプレゼントを手にソファに腰掛ける睦月さんの元に向かった。

「睦月さん、これが、その……2つ目のプレゼントです」

睦月さんの横に一旦座り、私はさっきより少し大きな箱を差し出した。

「さっちゃん、ほんとに気を使わなくってよかったのに。こんなに色々してもらって申し訳ないくらい」

そう言って、睦月さんはすまなさそうな顔を見せる。

「私がそうしたかったんです。気にしないでください。それに……睦月さんが喜んでくれて、私……嬉しくて」

私がそう返すと、睦月さんは腕を伸ばして私の頭を撫でる。

「うん。むちゃくちゃ嬉しい。凄く幸せ。こんなに嬉しい誕生日初めてかも」

そう言いながら私の髪を撫でるその感触だけで、私の心臓は跳ねる。もっと触れていて欲しい、なんてことを思ってしまう。

「開けていい?」

その言葉にハッとして、私は慌ててその箱を睦月さんに手渡す。
グラスと同じ場所で買ったから、同じ包みがまたカサカサと音を立てる。私はそれを開けている睦月さんの横顔を眺めていた。

そして、その包みから現れた箱を見て、睦月さんは小さく「え……」と呟いた。箱から、たぶん中身が分かったのだろう。
そしてその箱の蓋を開け中身を見た睦月さんは、予想外の、どこか呆然としたような表情をしていた。

「……同じだ……」

箱に視線を落としたまま、睦月さんがようやく呟いたのはその言葉だった。

「え?もしかして、もう持ってたんですか?」

私が慌てて尋ねると、睦月さんは静かにかぶりを振った。
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