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その日の夜。
俺は久しぶりに電話をかけた。メールなら時々やりとりするけど、電話はこっちに戻ってから初めてかも知れない。
「Hi!」
呼び出し音が途切れたタイミングでそう呼びかけると、『H~i……おはよう……』と眠そうな声が聞こえて来た。向こうの時間では確かに朝だけど、そんなに早い時間でもないんだけどなぁなんて、少し笑いながらそれに答えた。
「おはよ。レイちゃん、今いい?」
『ん~……石がね、ちょっとかかりそうだけど、デザインは考えてるよぉ……』
まだ覚醒しきっていないのか、寝言のような声が聞こえてきた。
「俺、まだ何も言ってないんだけど?」
そう。まだ何も話しはしていない。何が必要なのかなんて。
でも、ある意味オカルトじみたところもあるレイちゃんとそのパートナーのアンちゃんに隠し事なんてできない。
アンちゃんはタロットカードの使い手でかなり当たるらしい。噂によれば、国の重鎮が占って欲しいと大金を積んだとか積まないとか。でもそれで商売するわけでもなく、あくまで趣味だと笑って言っていた。
そしてレイちゃんは、元々勘が鋭いほうだったらしいが、アンちゃんと出会ってからより鮮明にイメージが思い浮かぶようになったらしい。
本業は、ジュエリーショップのデザイナー兼オーナーと従業員。
そんな2人だけど、俺にとってはニューヨークでできた最初の友人って立ち位置は変わっていない。公園のベンチで熱心にスケッチしているレイちゃんに、声をかけたのがきっかけ。
俺と変わらないくらいの身長で細身。金色の細いサラっとした髪は、襟足が肩に付くくらいの長さのショートカットだった。見た目は綺麗な男性だけど、そこは香緒と真逆の性別で言えば女性。でも、同性のアンちゃんとは永遠を誓い合う仲だ。
『starは掴まえたんでしょ?一応聞くけど、希望は?』
ようやく目が覚めてきたのか、だんだんとハッキリした口調でレイちゃんは尋ねる。
それにしても、一応って、と苦笑いしながら俺は口を開いた。
「彼女、メイクアップアーティストだから、付けてても邪魔にならないものがいいんだよね。あと、石は……」
『あぁ、海だね。うん。いいの探す』
こう言うことをサラっと言うんだから、やっぱり顔が引き攣りそうになる。けど、レイちゃんのことだ。なによりも良いものを探してくれるに違いない。
「よろしくね。ところでどれくらいでできそう?」
それにレイちゃんは『んー……』と唸ってから『ま、そんなには待たせないから。届いた時が最良のタイミングだと思ってよ』と笑いながら答えた。
それから数日が経ち、1月最初の香緒との仕事は俺の誕生日の前々日。
香緒にはすでに新年の挨拶をしていたから、他のスタッフさん達に挨拶をして、いつものように和やかに撮影は始まった。
相変わらずさっちゃんは香緒と楽しそうに会話していたけど、様子を伺っていると、なんとなく思うことがあった。
さっちゃん、男に対する苦手意識が薄れてる?
もしかしたら男性スタッフに慣れてきただけかも知れないけど、それでも前なら話しかけられるだけで固くなっていたのに、今日はそんな素振りを見せない。
良いのか悪いのか……
俺はそれを、遠くから複雑な気分で眺めてしまう。
俺だけのさっちゃんでいて欲しい反面、さっちゃんの世界が広がって欲しいとも思う。
彼女の世界が広がったら……俺よりいい男なんて、星の数ほどいそうだけどね……
いつになく弱気になりながら、香緒を交えて男性スタッフと会話するさっちゃんを、俺はただぼんやりと眺めていた。
「あの、睦月さん。今日はなんだか元気ないみたいですけど、体調悪いんですか?」
仕事は終わり、いつものようにさっちゃんを連れて車に乗ると、シートベルトをしようとしていた俺にさっちゃんは心配そうな顔を向けた。
「え?あぁ。大丈夫だよ?」
浮かない顔をしてしまっていたのがバレていたようで、俺は取り繕うように笑顔を作って見せた。
「ならいいんですけど……無理しないで下さいね」
心の底から俺を心配してくれている顔。俺がこんなことを考えているなんて、カケラも考えていないだろう。
さっちゃんを、誰にも渡したくないなんて。
自分でも、こんな気持ちになる日がくるなんて思ってなかった。今まで誰かに嫉妬なんて感じたことなかったのだから。
「今日は……外で食べて帰ろっか」
まだ6時過ぎだというのに、すっかり陽は落ちビルの灯りが目立つようになった街を走りながら、俺はさっちゃんにそう提案する。
「あ。えっと睦月さん。相談したいことがあるんです。何か買って睦月さんのお家で食べるのはダメですか?」
前を向いて運転している俺を見て、さっちゃんはそんなことを言う。なんだろ?相談事って、と思いながら、確かに家のほうが静かに話を聞けるか、とそれを了承した。
それじゃあ……といつものスーパーに寄り、冷凍パスタにお惣菜、デザートはアイスにしよう、とお互い好きなものを買って店をあとにした。
「すみません。私のわがままで」
スーパーから家までは、ほんとにあっという間。その見慣れた道のりを眺めながら俺は答える。
「ううん?俺も、さっちゃんと2人きりの方が嬉しいよ?」
俺は久しぶりに電話をかけた。メールなら時々やりとりするけど、電話はこっちに戻ってから初めてかも知れない。
「Hi!」
呼び出し音が途切れたタイミングでそう呼びかけると、『H~i……おはよう……』と眠そうな声が聞こえて来た。向こうの時間では確かに朝だけど、そんなに早い時間でもないんだけどなぁなんて、少し笑いながらそれに答えた。
「おはよ。レイちゃん、今いい?」
『ん~……石がね、ちょっとかかりそうだけど、デザインは考えてるよぉ……』
まだ覚醒しきっていないのか、寝言のような声が聞こえてきた。
「俺、まだ何も言ってないんだけど?」
そう。まだ何も話しはしていない。何が必要なのかなんて。
でも、ある意味オカルトじみたところもあるレイちゃんとそのパートナーのアンちゃんに隠し事なんてできない。
アンちゃんはタロットカードの使い手でかなり当たるらしい。噂によれば、国の重鎮が占って欲しいと大金を積んだとか積まないとか。でもそれで商売するわけでもなく、あくまで趣味だと笑って言っていた。
そしてレイちゃんは、元々勘が鋭いほうだったらしいが、アンちゃんと出会ってからより鮮明にイメージが思い浮かぶようになったらしい。
本業は、ジュエリーショップのデザイナー兼オーナーと従業員。
そんな2人だけど、俺にとってはニューヨークでできた最初の友人って立ち位置は変わっていない。公園のベンチで熱心にスケッチしているレイちゃんに、声をかけたのがきっかけ。
俺と変わらないくらいの身長で細身。金色の細いサラっとした髪は、襟足が肩に付くくらいの長さのショートカットだった。見た目は綺麗な男性だけど、そこは香緒と真逆の性別で言えば女性。でも、同性のアンちゃんとは永遠を誓い合う仲だ。
『starは掴まえたんでしょ?一応聞くけど、希望は?』
ようやく目が覚めてきたのか、だんだんとハッキリした口調でレイちゃんは尋ねる。
それにしても、一応って、と苦笑いしながら俺は口を開いた。
「彼女、メイクアップアーティストだから、付けてても邪魔にならないものがいいんだよね。あと、石は……」
『あぁ、海だね。うん。いいの探す』
こう言うことをサラっと言うんだから、やっぱり顔が引き攣りそうになる。けど、レイちゃんのことだ。なによりも良いものを探してくれるに違いない。
「よろしくね。ところでどれくらいでできそう?」
それにレイちゃんは『んー……』と唸ってから『ま、そんなには待たせないから。届いた時が最良のタイミングだと思ってよ』と笑いながら答えた。
それから数日が経ち、1月最初の香緒との仕事は俺の誕生日の前々日。
香緒にはすでに新年の挨拶をしていたから、他のスタッフさん達に挨拶をして、いつものように和やかに撮影は始まった。
相変わらずさっちゃんは香緒と楽しそうに会話していたけど、様子を伺っていると、なんとなく思うことがあった。
さっちゃん、男に対する苦手意識が薄れてる?
もしかしたら男性スタッフに慣れてきただけかも知れないけど、それでも前なら話しかけられるだけで固くなっていたのに、今日はそんな素振りを見せない。
良いのか悪いのか……
俺はそれを、遠くから複雑な気分で眺めてしまう。
俺だけのさっちゃんでいて欲しい反面、さっちゃんの世界が広がって欲しいとも思う。
彼女の世界が広がったら……俺よりいい男なんて、星の数ほどいそうだけどね……
いつになく弱気になりながら、香緒を交えて男性スタッフと会話するさっちゃんを、俺はただぼんやりと眺めていた。
「あの、睦月さん。今日はなんだか元気ないみたいですけど、体調悪いんですか?」
仕事は終わり、いつものようにさっちゃんを連れて車に乗ると、シートベルトをしようとしていた俺にさっちゃんは心配そうな顔を向けた。
「え?あぁ。大丈夫だよ?」
浮かない顔をしてしまっていたのがバレていたようで、俺は取り繕うように笑顔を作って見せた。
「ならいいんですけど……無理しないで下さいね」
心の底から俺を心配してくれている顔。俺がこんなことを考えているなんて、カケラも考えていないだろう。
さっちゃんを、誰にも渡したくないなんて。
自分でも、こんな気持ちになる日がくるなんて思ってなかった。今まで誰かに嫉妬なんて感じたことなかったのだから。
「今日は……外で食べて帰ろっか」
まだ6時過ぎだというのに、すっかり陽は落ちビルの灯りが目立つようになった街を走りながら、俺はさっちゃんにそう提案する。
「あ。えっと睦月さん。相談したいことがあるんです。何か買って睦月さんのお家で食べるのはダメですか?」
前を向いて運転している俺を見て、さっちゃんはそんなことを言う。なんだろ?相談事って、と思いながら、確かに家のほうが静かに話を聞けるか、とそれを了承した。
それじゃあ……といつものスーパーに寄り、冷凍パスタにお惣菜、デザートはアイスにしよう、とお互い好きなものを買って店をあとにした。
「すみません。私のわがままで」
スーパーから家までは、ほんとにあっという間。その見慣れた道のりを眺めながら俺は答える。
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