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あともう少しで新しい年を迎えるという日の夜。
まさか、睦月さんとこんな風に過ごしているなんて、夢にも思っていなかった。たった2ヶ月で、私の人生が一変するような事ばかり起こっている気がする。
会う度にどんどん惹かれていって、そんな相手に好きだって言って貰えて、そして、これからの一生を共にしようとしている。
本当に、夢じゃないのかなぁって思ってしまう事もあるけど、睦月さんから伝わる熱が、いつも夢じゃないって教えてくれた。そして今も。
「そう言えば……弟さんのさくって、月が由来のさくですか?」
私は神社に向かって睦月さんと手を繋いで歩きながら、ふと気になった事を尋ねてみる。
「あ、そう。よく分かったね。新月の朔ね。弟、3月生まれだからさ、さすがに弥生はないよなって、新月に近かったから朔にしたんだって」
「そうなんですね……」
と言ったところで、私は物凄く重要な事を思い出した。何度も呼んでいるその名前。その月がもう目の前だって事に。
「睦月さんっ!」
神社に近づいて来たのか、段々と人が増え始めた道の真ん中で、私は慌てて顔を上げた。
「ん?どうしたの?」
睦月さんは私の慌てた様子など気にする様子もなく、ゆっくり答える。
「た……誕生日!いつですか⁈」
1月が誕生日。それは重々分かっていたはずなのに、そう言えば何日なのか聞きそびれていた。
どうしよう……一日だったら……
不安になりながら睦月さんを見上げていると、ゆっくりその唇が動いた。
「……ふつか……」
しばらく頭の中で反芻して、思わず「2日⁈」と声を上げると、睦月さんは楽しそうに笑いながら私の頭を撫でた。
「と、言うのは嘘で、二十日ね?」
「もう!ビックリさせないで下さい!」
「あはは。ごめんごめん」
そう言いながらも、睦月さんは楽しそうで、私はまた揶揄われたんだと思いつつ、あまりにも楽しそうだから、つい許してしまう。
「その日、俺は仕事が夕方まで入ってるし、さっちゃんも仕事入ってるなら無理しなくていいからね?そりゃ、会えたら嬉しいけど、声聞けるだけで充分だから」
そう言って睦月さんは、いつものように優しい顔で笑いかけてくれる。確かに仕事もあるし、睦月さんに負担はかけたくない。
でも……
「私は……、我儘なお願いかも知れないけど、1分でもいいから睦月さんに会ってお祝いしたいです」
顔を上げて、私を見ている睦月さんにそう言う。
初めて好きになった人の、お付き合いを始めて最初の誕生日。例え一目会うだけでもいい、私は直接おめでとうを言いたいって思った。
もう神社の大きな鳥居はすぐそこに見えていて、その先に続く参道には初詣に向かうたくさんの人垣が見える。
不意に立ち止まった私達の横を、それに続く人達が擦り抜けて行った。
「睦月さん?」
黙って視線を外している睦月さんに呼びかけると、繋いでいない方の手が私の背中にゆっくりと添えられ、そのまま睦月さんの胸に引き寄せられた。
「俺も……。本当は一緒に祝って貰いたい。仕事の邪魔しちゃ悪いなって思ったけど、さっちゃんがそう言ってくれるなら……甘えてもいい?」
睦月さんの穏やかな声が頭の上から聞こえる。それは、子守唄みたいに心地良かった。
「……はい。もちろんです……」
見上げると、いつも以上に優しい表情をした睦月さんの顔があって、私の返事を聞いて笑みを浮かべた。
そんな顔を見るだけで、ドキドキするしフワフワもする。
なんだろう?この気持ちは……。言葉で言い表わせないけど、もし言葉にするなら……
「私……睦月さんが好き……です」
やっぱりこの一言しか出てこない。
私が突然そんな事を言ったからか、睦月さんは驚いたように目を開いている。けれど、すぐに目を細めると、背中に回った腕に力を込めて一層強く私を引き寄せた。
「俺も……さっちゃんが大好きだよ」
人目も憚らず抱き合っている私達を、通り過ぎる人はどう思うんだろう……、なんて事はどうでもよくて、この世に2人きりになったみたいに、私はただただ睦月さんの温もりを感じていた。
「初詣行こうか。随分人も増えて来たしね?」
「ですね」
私がふふっと笑いながら答えると、睦月さんはまた私の手を握り、歩き出した。
ずっと続く長い参道を埋め尽くす参拝客に私達も混ざる。
はぐれないよう指と指を絡めてしっかりと繋がれた手から、お互いの熱が伝わり合う。いつもなら冷たいはずの自分の指先も、今日はとても温かい。
幸せだなぁって、改めてその整った優しい横顔を見上げ思う。
好きって言う気持ちが溢れ過ぎて、登り切ったジェットコースターが下っていくみたいに止められない。
香緒ちゃん達もきっとそうなんだろうな……。お互いを慈しみ合う2人みたいに私達もなれるかな?ううん?なりたい……
ようやく辿り着いた社殿の前で、神様を前にそんな事を思う。
だから、私は手を合わせながら心の中で呟いた。
睦月さんに会わせて下さってありがとうございます。私は……睦月さんに幸せだと思って貰えるよう努力します
……と。
まさか、睦月さんとこんな風に過ごしているなんて、夢にも思っていなかった。たった2ヶ月で、私の人生が一変するような事ばかり起こっている気がする。
会う度にどんどん惹かれていって、そんな相手に好きだって言って貰えて、そして、これからの一生を共にしようとしている。
本当に、夢じゃないのかなぁって思ってしまう事もあるけど、睦月さんから伝わる熱が、いつも夢じゃないって教えてくれた。そして今も。
「そう言えば……弟さんのさくって、月が由来のさくですか?」
私は神社に向かって睦月さんと手を繋いで歩きながら、ふと気になった事を尋ねてみる。
「あ、そう。よく分かったね。新月の朔ね。弟、3月生まれだからさ、さすがに弥生はないよなって、新月に近かったから朔にしたんだって」
「そうなんですね……」
と言ったところで、私は物凄く重要な事を思い出した。何度も呼んでいるその名前。その月がもう目の前だって事に。
「睦月さんっ!」
神社に近づいて来たのか、段々と人が増え始めた道の真ん中で、私は慌てて顔を上げた。
「ん?どうしたの?」
睦月さんは私の慌てた様子など気にする様子もなく、ゆっくり答える。
「た……誕生日!いつですか⁈」
1月が誕生日。それは重々分かっていたはずなのに、そう言えば何日なのか聞きそびれていた。
どうしよう……一日だったら……
不安になりながら睦月さんを見上げていると、ゆっくりその唇が動いた。
「……ふつか……」
しばらく頭の中で反芻して、思わず「2日⁈」と声を上げると、睦月さんは楽しそうに笑いながら私の頭を撫でた。
「と、言うのは嘘で、二十日ね?」
「もう!ビックリさせないで下さい!」
「あはは。ごめんごめん」
そう言いながらも、睦月さんは楽しそうで、私はまた揶揄われたんだと思いつつ、あまりにも楽しそうだから、つい許してしまう。
「その日、俺は仕事が夕方まで入ってるし、さっちゃんも仕事入ってるなら無理しなくていいからね?そりゃ、会えたら嬉しいけど、声聞けるだけで充分だから」
そう言って睦月さんは、いつものように優しい顔で笑いかけてくれる。確かに仕事もあるし、睦月さんに負担はかけたくない。
でも……
「私は……、我儘なお願いかも知れないけど、1分でもいいから睦月さんに会ってお祝いしたいです」
顔を上げて、私を見ている睦月さんにそう言う。
初めて好きになった人の、お付き合いを始めて最初の誕生日。例え一目会うだけでもいい、私は直接おめでとうを言いたいって思った。
もう神社の大きな鳥居はすぐそこに見えていて、その先に続く参道には初詣に向かうたくさんの人垣が見える。
不意に立ち止まった私達の横を、それに続く人達が擦り抜けて行った。
「睦月さん?」
黙って視線を外している睦月さんに呼びかけると、繋いでいない方の手が私の背中にゆっくりと添えられ、そのまま睦月さんの胸に引き寄せられた。
「俺も……。本当は一緒に祝って貰いたい。仕事の邪魔しちゃ悪いなって思ったけど、さっちゃんがそう言ってくれるなら……甘えてもいい?」
睦月さんの穏やかな声が頭の上から聞こえる。それは、子守唄みたいに心地良かった。
「……はい。もちろんです……」
見上げると、いつも以上に優しい表情をした睦月さんの顔があって、私の返事を聞いて笑みを浮かべた。
そんな顔を見るだけで、ドキドキするしフワフワもする。
なんだろう?この気持ちは……。言葉で言い表わせないけど、もし言葉にするなら……
「私……睦月さんが好き……です」
やっぱりこの一言しか出てこない。
私が突然そんな事を言ったからか、睦月さんは驚いたように目を開いている。けれど、すぐに目を細めると、背中に回った腕に力を込めて一層強く私を引き寄せた。
「俺も……さっちゃんが大好きだよ」
人目も憚らず抱き合っている私達を、通り過ぎる人はどう思うんだろう……、なんて事はどうでもよくて、この世に2人きりになったみたいに、私はただただ睦月さんの温もりを感じていた。
「初詣行こうか。随分人も増えて来たしね?」
「ですね」
私がふふっと笑いながら答えると、睦月さんはまた私の手を握り、歩き出した。
ずっと続く長い参道を埋め尽くす参拝客に私達も混ざる。
はぐれないよう指と指を絡めてしっかりと繋がれた手から、お互いの熱が伝わり合う。いつもなら冷たいはずの自分の指先も、今日はとても温かい。
幸せだなぁって、改めてその整った優しい横顔を見上げ思う。
好きって言う気持ちが溢れ過ぎて、登り切ったジェットコースターが下っていくみたいに止められない。
香緒ちゃん達もきっとそうなんだろうな……。お互いを慈しみ合う2人みたいに私達もなれるかな?ううん?なりたい……
ようやく辿り着いた社殿の前で、神様を前にそんな事を思う。
だから、私は手を合わせながら心の中で呟いた。
睦月さんに会わせて下さってありがとうございます。私は……睦月さんに幸せだと思って貰えるよう努力します
……と。
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