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車の中でお互いのお正月エピソードを語り合っていたら、あっという間に実家の近くに来ていた。
昔からある住宅街の一角にある一軒家。俺が生まれてしばらくしてから買ったと言うその家は、さすがにもう古びてはいるが、それなりに手入れはされていて、くたびれてはいない。
ガレージには弟の車が停まっているけど、今日は出す事もないだろうからとその前に無理矢理自分の車を停めた。
「ここが睦月さんのご実家ですか?」
「うん。ちょっと待ってね」
それだけ言うと、俺はスマホを取り出してメッセージを送った。
すぐに既読が付き、同時にガレージの灯りが付くと、玄関が開く音が聞こえて来た。
「あ、来た。じゃあ出よっか」
そう言ってさっちゃんを促して俺が先に車から出ると、寒そうに肩を竦めながら弟がやって来た。
「兄貴、久しぶり!」
「ごめん!急に」
弟に会うのは半年ぶり。その時は日本に戻ったばかりで、一度顔を見せに来た程度。その後ニューヨークに1ヶ月行って、また日本に戻って来たら仕事が入りだし、ゆっくり実家に寄る時間は取れなかった。
「いや、いいけどさ。……って、えーと……」
俺の隣に控え目にやって来たさっちゃんを見て、弟は驚いたように口籠る。
「さっちゃん、紹介するね。弟の朔。今実家には弟の家族が住んでるんだ」
そう言うとさっちゃんは、俺と同じくらいの身長の朔を見上げて口を開いた。
「綿貫咲月と言います。夜分にお邪魔してすみません」
ペコリとお辞儀をしてから顔を上げるさっちゃんを、朔は驚いた顔のまま眺めている。
「あ、俺の彼女ね?そのうち結婚しようと思ってる」
朔に笑顔でそう言うと、より一層目を見開き「へっ?結婚?兄貴が?」と驚いている。
「そんなに驚く?」
「いやだって!彼女紹介されたのも初めてだし、結婚なんて言葉聞いたのも初めてだろ!てっきり兄貴は独身街道を突き進むんだと思ってた」
確かに朔に結婚願望の話なんてしたことなかったし、彼女を実家に連れて来た事なんてなかった。でも、この言われよう。そんな事思われてたんだと苦笑いしてしまう。
「また正式に紹介しに来るよ。父さんのいる時に。って言うか帰る予定ある?」
「うーん……どうだろ?呼べば帰って来ると思うけど」
父さんは、長年勤めた役所を定年退職後、何故か全国に放浪の旅に出てしまったらしい。まぁ、実家に住む弟夫婦に気兼ねしてって言うのもあるかもしれないけど。
時々帰って来ては、またふらっと何処かへ行ってしまうらしく、昔の映画の人みたいだと朔は言っていた。
「あ、そうだ。とりあえずこれ渡しとく」
そう言って俺はコートのポケットに忍ばせていたものを取り出す。
「はい、こっちは子ども達に。こっちは朔と美晴ちゃんに。何か美味しいものでも食べて」
そう言って差し出したのはお年玉。それを朔は、子どもの頃お年玉を貰った時みたいな顔をして「やった!サンキュー、兄貴!」と受け取った。
「にしても、美晴も驚くだろうなぁ。兄貴が結婚なんて。しばらく黙ってよっ」
職場恋愛だった美晴ちゃんと朔が結婚したのは俺がニューヨークに行く少し前。その後2人は、新婚旅行を兼ねて向こうに遊びに来た。美晴ちゃんは、おっとりした、何処か母さんを思わせるとても良い子だ。
「じゃ、また来るよ。よいお年を」
「兄貴もな!」
朔は父さんによく似た顔をして俺に笑顔で返すとさっちゃんの方を見た。
「えっと、咲月さん。兄貴をよろしくお願いしますね。これでも家事は得意なんで、お買い得品だと思います」
少し真面目な顔をしてそんな事を言う朔に、さっちゃんは少し驚いたように目を開いてから笑顔になった。
「はい。睦月さんの作ってくれるご飯はとっても美味しいです。私には勿体ないくらいの掘り出し物だと思います」
そう言って笑顔になったさっちゃんを朔は黙って見下ろしている。
あ、これ、もしかして……
そう思ったら先にさっちゃんを引き寄せて腕に収めてしまう。
「むっ、睦月さん⁈」
腕の中にいるくぐもったさっちゃんの声を聞きながら、俺は朔に言う。
「今可愛いって思ったでしょ?俺の彼女見るの禁止ね!」
「はぁ?そりゃ可愛いなって思ったけどさ!兄貴意外とケチだな!」
そんな会話を繰り広げてから顔を見合わせ笑い合う。
「さっちゃんが可愛いのは本当だから仕方ないけどね」
「うわー!兄貴に惚気られる日が来るなんて思ってなかった!ごちそーさま!」
本当、いい歳した男の会話とは思えないけど、さっちゃんも俺の腕の中で笑ってくれている。
「じゃ、初詣行って来る。帰りは勝手に車だすから」
「わかった。風邪引くなよ?」
「ありがとう。朔もね?」
そして弟に見送られて、俺達は歩き出した。
隣で手を繋いで歩くさっちゃんは、しばらくクスクスと笑っていた。
「睦月さん、お兄ちゃんなんだなぁって思っちゃいました。ちょっと……可愛かったです」
「あー……何か恥ずかしい!」
歩きながら頭を掻いてそう言うと、さっちゃんは笑顔で俺を見上げている。
「嬉しいです。弟さんを紹介してもらえて。それに、素の睦月さんが見られて」
「うん。俺も。紹介出来て嬉しい。近いうちに父さんも紹介するね」
そう言って、俺はさっちゃんの手を握りしめた。
昔からある住宅街の一角にある一軒家。俺が生まれてしばらくしてから買ったと言うその家は、さすがにもう古びてはいるが、それなりに手入れはされていて、くたびれてはいない。
ガレージには弟の車が停まっているけど、今日は出す事もないだろうからとその前に無理矢理自分の車を停めた。
「ここが睦月さんのご実家ですか?」
「うん。ちょっと待ってね」
それだけ言うと、俺はスマホを取り出してメッセージを送った。
すぐに既読が付き、同時にガレージの灯りが付くと、玄関が開く音が聞こえて来た。
「あ、来た。じゃあ出よっか」
そう言ってさっちゃんを促して俺が先に車から出ると、寒そうに肩を竦めながら弟がやって来た。
「兄貴、久しぶり!」
「ごめん!急に」
弟に会うのは半年ぶり。その時は日本に戻ったばかりで、一度顔を見せに来た程度。その後ニューヨークに1ヶ月行って、また日本に戻って来たら仕事が入りだし、ゆっくり実家に寄る時間は取れなかった。
「いや、いいけどさ。……って、えーと……」
俺の隣に控え目にやって来たさっちゃんを見て、弟は驚いたように口籠る。
「さっちゃん、紹介するね。弟の朔。今実家には弟の家族が住んでるんだ」
そう言うとさっちゃんは、俺と同じくらいの身長の朔を見上げて口を開いた。
「綿貫咲月と言います。夜分にお邪魔してすみません」
ペコリとお辞儀をしてから顔を上げるさっちゃんを、朔は驚いた顔のまま眺めている。
「あ、俺の彼女ね?そのうち結婚しようと思ってる」
朔に笑顔でそう言うと、より一層目を見開き「へっ?結婚?兄貴が?」と驚いている。
「そんなに驚く?」
「いやだって!彼女紹介されたのも初めてだし、結婚なんて言葉聞いたのも初めてだろ!てっきり兄貴は独身街道を突き進むんだと思ってた」
確かに朔に結婚願望の話なんてしたことなかったし、彼女を実家に連れて来た事なんてなかった。でも、この言われよう。そんな事思われてたんだと苦笑いしてしまう。
「また正式に紹介しに来るよ。父さんのいる時に。って言うか帰る予定ある?」
「うーん……どうだろ?呼べば帰って来ると思うけど」
父さんは、長年勤めた役所を定年退職後、何故か全国に放浪の旅に出てしまったらしい。まぁ、実家に住む弟夫婦に気兼ねしてって言うのもあるかもしれないけど。
時々帰って来ては、またふらっと何処かへ行ってしまうらしく、昔の映画の人みたいだと朔は言っていた。
「あ、そうだ。とりあえずこれ渡しとく」
そう言って俺はコートのポケットに忍ばせていたものを取り出す。
「はい、こっちは子ども達に。こっちは朔と美晴ちゃんに。何か美味しいものでも食べて」
そう言って差し出したのはお年玉。それを朔は、子どもの頃お年玉を貰った時みたいな顔をして「やった!サンキュー、兄貴!」と受け取った。
「にしても、美晴も驚くだろうなぁ。兄貴が結婚なんて。しばらく黙ってよっ」
職場恋愛だった美晴ちゃんと朔が結婚したのは俺がニューヨークに行く少し前。その後2人は、新婚旅行を兼ねて向こうに遊びに来た。美晴ちゃんは、おっとりした、何処か母さんを思わせるとても良い子だ。
「じゃ、また来るよ。よいお年を」
「兄貴もな!」
朔は父さんによく似た顔をして俺に笑顔で返すとさっちゃんの方を見た。
「えっと、咲月さん。兄貴をよろしくお願いしますね。これでも家事は得意なんで、お買い得品だと思います」
少し真面目な顔をしてそんな事を言う朔に、さっちゃんは少し驚いたように目を開いてから笑顔になった。
「はい。睦月さんの作ってくれるご飯はとっても美味しいです。私には勿体ないくらいの掘り出し物だと思います」
そう言って笑顔になったさっちゃんを朔は黙って見下ろしている。
あ、これ、もしかして……
そう思ったら先にさっちゃんを引き寄せて腕に収めてしまう。
「むっ、睦月さん⁈」
腕の中にいるくぐもったさっちゃんの声を聞きながら、俺は朔に言う。
「今可愛いって思ったでしょ?俺の彼女見るの禁止ね!」
「はぁ?そりゃ可愛いなって思ったけどさ!兄貴意外とケチだな!」
そんな会話を繰り広げてから顔を見合わせ笑い合う。
「さっちゃんが可愛いのは本当だから仕方ないけどね」
「うわー!兄貴に惚気られる日が来るなんて思ってなかった!ごちそーさま!」
本当、いい歳した男の会話とは思えないけど、さっちゃんも俺の腕の中で笑ってくれている。
「じゃ、初詣行って来る。帰りは勝手に車だすから」
「わかった。風邪引くなよ?」
「ありがとう。朔もね?」
そして弟に見送られて、俺達は歩き出した。
隣で手を繋いで歩くさっちゃんは、しばらくクスクスと笑っていた。
「睦月さん、お兄ちゃんなんだなぁって思っちゃいました。ちょっと……可愛かったです」
「あー……何か恥ずかしい!」
歩きながら頭を掻いてそう言うと、さっちゃんは笑顔で俺を見上げている。
「嬉しいです。弟さんを紹介してもらえて。それに、素の睦月さんが見られて」
「うん。俺も。紹介出来て嬉しい。近いうちに父さんも紹介するね」
そう言って、俺はさっちゃんの手を握りしめた。
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