年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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「やっぱり……。しばらく会わないでおこうかなぁ……」

車を走らせながら俺が小さく口にすると、隣で「えっ?」と驚いたような声がして、視界の端にさっちゃんがこちらを向くのが見えた。

「あっ、違う違う。かんちゃんに、ね?さっちゃんに会えなかったら俺がストレスで死にそう」

そう笑いながら答えると、さっちゃんはホッとしたように「よかった……」と呟いた。

どうしよう……俺の彼女が可愛すぎて、このまま家に連れて帰りたいんだけど……

なんて事を思ってるなんて、もちろん顔には出さず俺は話を続ける。

「俺を見るたびあんなに吠えるんだったら相当ストレスかな?と思って。押してダメなら引いてみる?」
「確かに……かんちゃん、ちょっと疲れてるかも……」

少し溜め息混じりにさっちゃんはそう答えた。

そうだよなぁ……あんなに全力で吠えてたら疲れもするよ

俺は渋滞し始めた道を減速しながら思う。

「本当は……さっちゃんの家にも遊びに行ってみたいし、うちにも泊まりに来て欲しいけど、かんちゃんがあのままだと難しいよね?」

前の車が完全に止まり、俺もブレーキをかけて横を向いてそう言う。

「あっ、えっ、と……そう、ですよね」

俺がシレッとそんな事を言うものだから、さっちゃんは答えに困っている。けれど、俺はついつい意地悪な質問で畳み掛けてしまう。

「泊まるのは嫌……?」

右手はハンドルを持ったまま、左手でさっちゃんが膝に乗せていた手を、上から包み込むように握る。
さっちゃんは、火照った顔でこちらを見上げて「いや……じゃない……です」と言葉を紡いだ。

「良かった。うちのマンション、ペット可、なんだよね。泊まるならかんちゃんも連れて来てね?」

さっちゃんの耳元に顔を近づけてそう言うと、最後に頰に少しだけ唇で触れてから運転席に戻る。そして、まだ動いていないフロントガラスの向こう側を眺めた。

「睦月さん……やっぱり意地悪です」

さっちゃんは俯いて頰に手を当てそう言っている。

「うーん。さっちゃん限定だけどね?好きな子はつい虐めたくなるって言うでしょ?」

俺は笑いながらそう答え、動き出した前の車に倣い車をゆっくり走らせる。

さっちゃんは何も言わず、ただ自分の冷えているだろう手を頰に当てていた。

正直、自分の意外な一面に驚いていたりはするんだけど。
ちょっとした意地悪をして、戸惑ったり照れたりするさっちゃんの顔を見て、可愛なぁなんて思う自分に。でも、本当にそれはさっちゃん限定。今まで付き合って来た誰にもこんな事思った事なかったから。


◆◆


その日は少し遠くのショッピングモールまで足を運んでみた。
ペットショップでかんちゃんのおやつを買ったり、書店で料理の本を見たりして過ごした。年末で人は多かったけど、さっちゃんと行くならどこだって楽しい。

そしてそれから数日、長い時間じゃない事もあったけど毎日俺達は会って、家に帰る度にまたすぐに会いたくなるなぁ、なんて思いながら迎えた大晦日。

「お待たせしました!」

さっちゃんの家の前に車を停めて待っていると、いつもよりモコモコの服装のさっちゃんが助手席の扉を開けそう言った。

「今日はいつもよりさすがに重装備だね」

少し厚みのあるダウンに、首にはマフラーがグルグル巻きになっている。それはそれで可愛いんだけど、寒いもんなぁとそれを見て思う。

天気が良い分冷え込むだろうと予報では言っていた大晦日の午後10時。
俺の我儘で、さっちゃんと年越し初詣に行く事になった。場所は、俺の実家の近く。車で1時間程行った実家に車だけ置かせて貰い、そこから15分歩いて神社に向かう予定だ。

「睦月さんは寒くないんですか?」

車のエンジンをかけているとそう尋ねられる。

「これでも結構着込んでるよ?でも、ニューヨークでちょっと寒さに強くなったかも」
「そんなに寒いんですね。私なんて雪国育ちですけど、何かこっちの風の方が冷たい気がして。未だに慣れないです」

そう言ってさっちゃんは首をすくめた。

「ごめんね、寒くなるって分かってたのに無理言って」
「そんな事ないです。私、夜中に初詣なんて初めてなんで楽しみです」

そう言って俺を見上げるさっちゃんがやっぱり可愛いから、軽くその唇に触れてしまう。毎日こうやって触れているのに、さっちゃんはやっぱり照れたように頰を染めている。

「じゃ、行こうか」

ニッコリと笑いかけて頭を一撫ですると、俺は運転席に体を戻し車を発進させた。

「……はい」

さっちゃんの小さな返事を合図に、車はゆっくり進み始めた。
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