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さすがに年の瀬の夜行バス乗り場は、帰省する客でごった返していた。確かに今日仕事納めって人も多いだろう。皆大きな荷物やお土産らしき袋を手にしている。

「今日1日ありがとうございました」

バスが乗り場に到着し、真琴君はその横で俺にそう礼を言う。

「どういたしまして。俺も楽しかったよ。また遊びに来て」
「はい。是非!」

そう言う真琴君の横で、今度は奈々美ちゃんが口を開く。

「咲月ちゃん。今度帰ってきた時は一緒に遊ぼうね。睦月さんも絶対連れてきて!」

その言葉に、さっちゃんは俺の方を見上げる。それに笑顔で返すと、さっちゃんは奈々美ちゃんの方を向いた。

「うん。暖かくなった頃そう出来たらいいな。その時はソフトクリーム食べに行こうよ!」
「うんうん!楽しみにしてる!」

奈々美ちゃんは嬉しそうにさっちゃんにそう返した。

そうやって別れを惜しみながら2人はバスに乗り込み、俺達は出発するのを見送った。

「2人とも、すっごくいい子だね。今日は楽しかったよ?」

車を停めたパーキングまで、手を繋いで歩きながら俺は言った。

「仲良くしてくれてありがとうございます。嬉しいです」

さっちゃんは俺を見上げて笑顔を見せる。

「あとは……かんちゃんと仲良くなりたいんだけどなぁ……」

俺がしみじみとそう言うと、さっちゃんは「そうですよね」と溜め息を吐きつつそう答えた。

結局、かんちゃんは俺を認めてくれる事なく、一旦さっちゃんの家に戻った。

手強いなぁ……

かんちゃんのあまりの態度に、真琴君からは「咲月と結婚するなら、まず父ちゃんの前にこのチビ助を攻略しなきゃですね」なんて、こっそり耳打ちされたのだった。

確かに、今日も話を聞けば聞くほど、さっちゃんのお父さんがすんなり結婚を許してくれそうにないなと思った。

「昔の職人気質で、昭和のドラマに出てきそうなタイプ」なんて真琴君は笑って言っていた。しかも、「絶対あれですよ。娘はやらん!とか言うのに憧れてそう」って……。

でも確かに、お父さんより前にかんちゃんにお許しを貰わなきゃ。

「さっちゃんは明日からずっと休みなんだよね。何か用事入ってるの?」

時々冷たいビル風が吹いて、さっちゃんが寒そうにするのを引き寄せて、自分の手ごとコートのポケットに入れる。
さっちゃんは少し恥ずかしそうにしながら俺を見上げた。

「2日は香緒ちゃんの着付けする予定になってて。でもあとは特に……」
「じゃあ、出来るだけ会いたいなーって思うんだけど、ダメかな?」

それにさっちゃんは「私も、会いたいです」と頰を染めながら答えてくれた。


とりあえず、次の日から俺はとにかくさっちゃんの家に通う事にした。少しでもかんちゃんに顔見せたら馴れてくれないかなぁって。

でも……現実は厳しい

俺は結局、かんちゃんと散歩するさっちゃんの後を着いて歩くだけだった。しかも並んで、なんて不可能。すぐ後ろも無理。俺はかなり後ろをストーカーばりにくっついて歩くしかなかった。

このままじゃ通報されそうだよね

さっちゃんは、機嫌良く歩くかんちゃんを先頭に歩いている。時々、散歩中の犬同士の挨拶に付き合いながら、顔見知りらしき飼い主さんと話をしている。相手が若い男の子だったら飛んで行ってたところだけど、ほぼ年配の女性で安心した。

いつもの散歩コースだと言う公園を回り、またさっちゃんの家に帰る。それを見届けると、俺は車を停めているパーキングへ向かった。運転席に乗り込むと、俺はハンドルに伏せる。

「虚しい……」

思わずそう呟いてしまう。まさか、最大のライバルが犬になるなんて思ってなかった。
愛に障害は付き物だ、なんて言われるけど、そんな事を実感した事など今まで一度もなかった。と言っても、それほど誰かを好きだと思ったことなど無かったのかも知れない。唯一、さっちゃんを除いて。

車のヒーターが効いてきた頃、コンコンとガラスを叩く音がして俺は顔を上げる。その方向を見ると、さっちゃんが心配そうに覗き込んでいた。

「睦月さん、大丈夫ですか?疲れてるんじゃ……」

ドアを開けて助手席に乗り込むと、さっちゃんは俺にそう言った。

「大丈夫。疲れてるわけじゃないよ?」

安心したさせるように微笑みかけると、それにつられたのかさっちゃんの表情が和らいだ。
そして、それに誘われるように、俺はさっちゃんの頰に手を当てると、そのまま唇を近づけた。

「……ぁ」

小さく漏れた言葉を唇で塞いで閉じ込める。ずっと触れていたくなるような、さっちゃんの柔らかで温かい唇の感触。
それをしばらく、俺は味わっていた。
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