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「に……しても、元気だね。2人とも」
芝生の敷かれた広いドッグランを、さっちゃんと奈々美ちゃん、そしてかんちゃんは寒さを物ともせず走り回っている。そんな微笑ましい様子を、併設されたカフェのテラスで眺めているのは男2人。
「……本当に」
真琴君も頬杖を突いてそれを見ながら、呆れたように言っている。
「それにしても……いいなぁ。奈々美ちゃんは」
つい愚痴のようにそんな事を言うと、真琴君は盛大に笑いながら俺を見た。
「睦月さん、相当嫌われてるみたいですね」
「いや……笑い事じゃないでしょ……」
俺は肩を落としながら真琴君にそう答えた。
都会から少し離れた場所にある、広いドッグランとご飯が美味しいらしいカフェに行ってみたいとさっちゃんから言われたのは昨日。犬好きな奈々美ちゃんが、かんちゃんと遊びたいとリクエストして、さっちゃんが探したらしい。
ドライブがてらちょうどいいか、と俺はニつ返事でOKしたわけだけど、大変だった。とにかく、ここに来るまでが。
3人ともさっちゃんの家の近所にあるコンビニで待っていると言うから、午前中の少し早めの時間に向かうと駐車場にその姿があった。車を停めて俺が運転席から降りると、かんちゃんはまるで不審者を見つけたように鳴き出した。
「かんちゃん⁈」
さっちゃんはそう言って激しい勢いのかんちゃんを慌てて抱き上げている。
さっきまで鳴いてなかったのに、俺を見た途端これか……
引き攣りながら皆を車に乗るよう促すと、もちろん真琴君と奈々美ちゃんは後部座席に向かい、さっちゃんはかんちゃんを抱えたまま助手席に向かった。
そして俺が車に乗り込むと、隣でさっちゃんに抱えられていたかんちゃんは、俺に向かってけたたましく吠え始めたのだ。
「ちょっと……場所移動した方がよさそうだね」
車中に響くその声を聞きながら俺がそう言うと、さっちゃんは落ち込んだように「すみません……」と言って、後ろの真琴君と席を代わった。
かんちゃんは何とか落ち着いてくれて、俺は車を走らせる。
後ろでは楽しそうな女子トーク。もちろん、かんちゃんは機嫌良さそうに車の外を眺めていた。
ここに着いても、俺の姿を見るたびに「何でいるんだ!」と言わんばかりに吠えられる。
正直、俺ってこんなに動物に嫌われるタイプだったんだろうかと落ち込みそうになったが、他のお客さんが連れている犬に尻尾を振って近寄って来られて、やっぱりね、となってしまった。
大事なさっちゃんを取られたくないよねぇ……と。
カフェの店員さんがやって来て、そろそろ食事の用意をしていいか尋ねられる。先に注文だけしてあって、時間を置いて持ってきてもらうようお願いしてたからそろそろ時間だ。
「おーい!咲月ー!奈々美ー!もうすぐ飯だって!」
カフェのテラスで、遠くにいる2人に真琴君が声を張り上げそう声を掛けてくれた。
「さすが若いなぁ。俺、もうそんな大声出せないかも」
真琴君が席に戻ってくると、俺は笑いながらそう言った。
「そういえば、睦月さんって一体いくつなんですか?」
この前会った時はそこまで突っ込んだ話にならなかったなぁと思いながら「来月で39だよ?」と答える。
「えっ!意外と年食ってんですね」
物凄く正直な感想に、俺はそりゃそうだよねとなってしまう。
「だよねぇ……。やっぱり反対?」
あえて何を、か言わずに尋ねてみると、真琴君は頭を掻いて申し訳なさそうに俺を見た。
「すみません。いって30代半ばかなぁなんて思ってたんで。でも、俺は咲月にはきっと、歳上で包容力のある人がいいだろうなぁって思ってたんです。あいつ、あれでも繊細だし男苦手だったし」
向こうから歩いてくるさっちゃんを、ちらりと見ると真琴君はそう言った。
「包容力があるかは分からないけど、歳上過ぎないかなぁって心配でさ」
さっちゃんには聞かせられないちょっとした悩み。それを真琴君は笑いながら受け止めてくれる。
「いいんじゃないですか?咲月がいいって言ってるんだから。ま、こんなに早い展開になるとは思ってなかったですけど。咲月、鈍感でしょ?」
やっぱりさっちゃんの弟だ。凄くいい子だなぁと実感する。
もうそこまで2人と1匹は帰って来ていて、背後から2人の声が聞こえてきた。それを聞きながら、俺はその真琴君の言葉を一つだけ訂正した。
「俺も、さっちゃんに負けないくらい鈍感だよ?」
それを聞いて真琴君は吹き出しながら笑い出す。
「本当!睦月さんって面白いですね!これからも咲月をお願いします」
そうやって真琴君は俺の事を改めて認めてくれた。
「何そんなに笑ってるのよ?」
俺達の様子を見ながら、さっちゃんが不思議そうに真琴君に尋ねる。その側にいるかんちゃんは、もちろん俺を見て吠えていた。
「いや、睦月さんって、すっげーいい人だなって!」
「何か変な事、睦月さんに吹き込んでないでしょうね?」
さっちゃんは姉の顔をして真琴君にそう言う。俺には見せない顔だけど、それはそれで新鮮で可愛いなぁ……なんて事を思いながら、俺はその微笑ましい姉弟の会話を眺めていた。
芝生の敷かれた広いドッグランを、さっちゃんと奈々美ちゃん、そしてかんちゃんは寒さを物ともせず走り回っている。そんな微笑ましい様子を、併設されたカフェのテラスで眺めているのは男2人。
「……本当に」
真琴君も頬杖を突いてそれを見ながら、呆れたように言っている。
「それにしても……いいなぁ。奈々美ちゃんは」
つい愚痴のようにそんな事を言うと、真琴君は盛大に笑いながら俺を見た。
「睦月さん、相当嫌われてるみたいですね」
「いや……笑い事じゃないでしょ……」
俺は肩を落としながら真琴君にそう答えた。
都会から少し離れた場所にある、広いドッグランとご飯が美味しいらしいカフェに行ってみたいとさっちゃんから言われたのは昨日。犬好きな奈々美ちゃんが、かんちゃんと遊びたいとリクエストして、さっちゃんが探したらしい。
ドライブがてらちょうどいいか、と俺はニつ返事でOKしたわけだけど、大変だった。とにかく、ここに来るまでが。
3人ともさっちゃんの家の近所にあるコンビニで待っていると言うから、午前中の少し早めの時間に向かうと駐車場にその姿があった。車を停めて俺が運転席から降りると、かんちゃんはまるで不審者を見つけたように鳴き出した。
「かんちゃん⁈」
さっちゃんはそう言って激しい勢いのかんちゃんを慌てて抱き上げている。
さっきまで鳴いてなかったのに、俺を見た途端これか……
引き攣りながら皆を車に乗るよう促すと、もちろん真琴君と奈々美ちゃんは後部座席に向かい、さっちゃんはかんちゃんを抱えたまま助手席に向かった。
そして俺が車に乗り込むと、隣でさっちゃんに抱えられていたかんちゃんは、俺に向かってけたたましく吠え始めたのだ。
「ちょっと……場所移動した方がよさそうだね」
車中に響くその声を聞きながら俺がそう言うと、さっちゃんは落ち込んだように「すみません……」と言って、後ろの真琴君と席を代わった。
かんちゃんは何とか落ち着いてくれて、俺は車を走らせる。
後ろでは楽しそうな女子トーク。もちろん、かんちゃんは機嫌良さそうに車の外を眺めていた。
ここに着いても、俺の姿を見るたびに「何でいるんだ!」と言わんばかりに吠えられる。
正直、俺ってこんなに動物に嫌われるタイプだったんだろうかと落ち込みそうになったが、他のお客さんが連れている犬に尻尾を振って近寄って来られて、やっぱりね、となってしまった。
大事なさっちゃんを取られたくないよねぇ……と。
カフェの店員さんがやって来て、そろそろ食事の用意をしていいか尋ねられる。先に注文だけしてあって、時間を置いて持ってきてもらうようお願いしてたからそろそろ時間だ。
「おーい!咲月ー!奈々美ー!もうすぐ飯だって!」
カフェのテラスで、遠くにいる2人に真琴君が声を張り上げそう声を掛けてくれた。
「さすが若いなぁ。俺、もうそんな大声出せないかも」
真琴君が席に戻ってくると、俺は笑いながらそう言った。
「そういえば、睦月さんって一体いくつなんですか?」
この前会った時はそこまで突っ込んだ話にならなかったなぁと思いながら「来月で39だよ?」と答える。
「えっ!意外と年食ってんですね」
物凄く正直な感想に、俺はそりゃそうだよねとなってしまう。
「だよねぇ……。やっぱり反対?」
あえて何を、か言わずに尋ねてみると、真琴君は頭を掻いて申し訳なさそうに俺を見た。
「すみません。いって30代半ばかなぁなんて思ってたんで。でも、俺は咲月にはきっと、歳上で包容力のある人がいいだろうなぁって思ってたんです。あいつ、あれでも繊細だし男苦手だったし」
向こうから歩いてくるさっちゃんを、ちらりと見ると真琴君はそう言った。
「包容力があるかは分からないけど、歳上過ぎないかなぁって心配でさ」
さっちゃんには聞かせられないちょっとした悩み。それを真琴君は笑いながら受け止めてくれる。
「いいんじゃないですか?咲月がいいって言ってるんだから。ま、こんなに早い展開になるとは思ってなかったですけど。咲月、鈍感でしょ?」
やっぱりさっちゃんの弟だ。凄くいい子だなぁと実感する。
もうそこまで2人と1匹は帰って来ていて、背後から2人の声が聞こえてきた。それを聞きながら、俺はその真琴君の言葉を一つだけ訂正した。
「俺も、さっちゃんに負けないくらい鈍感だよ?」
それを聞いて真琴君は吹き出しながら笑い出す。
「本当!睦月さんって面白いですね!これからも咲月をお願いします」
そうやって真琴君は俺の事を改めて認めてくれた。
「何そんなに笑ってるのよ?」
俺達の様子を見ながら、さっちゃんが不思議そうに真琴君に尋ねる。その側にいるかんちゃんは、もちろん俺を見て吠えていた。
「いや、睦月さんって、すっげーいい人だなって!」
「何か変な事、睦月さんに吹き込んでないでしょうね?」
さっちゃんは姉の顔をして真琴君にそう言う。俺には見せない顔だけど、それはそれで新鮮で可愛いなぁ……なんて事を思いながら、俺はその微笑ましい姉弟の会話を眺めていた。
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