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これは本当に自分の口から出てる声なのかな?と私は頭の何処か遠くでそう思う。

最初は触れるだけだったその感触が段々と熱を持つと、合わさった唇から時折水音を含んだ艶かしい音がするようになった。
その間私は、時々隙間から「はぁっ」と息を漏らし、また塞がれると「んんっ」と声を上げてしまっていた。

もうすでにソファの隅にあったクッションを背もたれにして私の体はそこに沈んでいる。両手は睦月さんに指を絡められ繋がれて、ソファに縫い付けられている。目を閉じているから、睦月さんがどんな顔をしているのかわからないけれど、時々唇が離れ「はぁっ」と睦月さんから熱い息が私の唇に伝わると、なんとも言えない感覚になり思わず睦月さんの指を握りしめた。

「……さっちゃん……」

どれくらいそうされていたか分からないけれど、ようやく睦月さんの顔が離れた気配がして、切ないような睦月さんの声で名前を呼ばれた。
私は薄ら目を開けて睦月さんの顔を見た。そこには、きっと私より色気があるだろう顔があり、思わずドキリと胸が鳴った。
けれど、睦月さんはそんな顔をしながら私に囁く。

「好き過ぎておかしくなりそう……」

その言葉に、顔どころか全身が熱くなる。
私の事をこんなにも好きだと言ってくれて、こんなにも求めてくれる人は、世界中探してもきっと今、目の前にいる人だけな気がする。そう思うと、離れ難くてまだ握ったままの手にギュッと力を込めた。

「私……幸せです。睦月さんに出会えて。私も好き過ぎておかしくなりそうです」

睦月さんの、黒曜石のような揺れる瞳を見つめながら私はそう返す。そして、その瞳を少し開いて驚いたような表情をすると、睦月さんは私の手を引きながら体を起こした。

「あーっ!本当にさっちゃんは俺を翻弄する才能あるよね」

そう言いながら、私は睦月さんにギュウッと抱きしめられた。
苦しいくらいの睦月さんの腕の中で、私はそっとその胸に頭を付けた。

「このままじゃ、今すぐにでもさっちゃんの全部が欲しくなるよ……」

頭の上から、そんな事を言う声がする。

私の全部……

そう言われて、急に現実感が湧いてきた。大人同士のお付き合いなんだからになるのはごく自然のことだ。

今じゃ家族にすら見せる事のない自分の体の全部を睦月さんに見せる……。
そう考えると、急に恥ずかしくなってきた。

「あ、そ……の……」

口籠もりながらそう言うと、睦月さんは私の頭を撫でながら言葉を紡いだ。

「大丈夫。さっちゃんの気持ちが固まるまで、俺はいつまでも待つから」


◆◆


「今日はここで……」

うちのマンションのすぐ前に邪魔にならないよう停められた車を降り、私は反対側から回って来た睦月さんにそう伝える。

「うん。わかった」

そう言って睦月さんは笑顔を見せるが、少し寂しそうにも見える。でも、本当は私だって寂しい。けれど、玄関先まで送ってもらったら、私の方が後ろ髪引かれそうだ。

「明日は仕事なんだっけ?」
「はい。年末の挨拶回りだけですけど。睦月さんもですよね?」
「そうなんだよね。日本に帰って来てからそんな事するの初めてだし、一人で回るのも初めてだから時間読めなくて」

と言う事は、明日は会うのが難しいって事なんだろうな、と私は思いながら、ふと真琴の言葉を思い出した。

「あのっ!睦月さん!真琴が明後日の夜行バスで田舎に帰るんですけど、その前に睦月さんに会いたいって言ってて」

睦月さんを見上げてそう言うと、とても嬉しそうに笑ってくれた。

「本当?俺ももっとゆっくり話したいなって思ってたんだよね。じゃあ……明後日は早めに何処か遠出する?寒いかも知れないけど」

確かに、田舎では車で何処かへ出かけるのは当たり前だけど、真琴がこっちに来た時、わざわざ車をレンタルする事はない。

「真琴、きっと喜びます!奈々美ちゃんも誘っていいですか?」

自分の弟に会いたいと言ってくれた上、出かけようと言ってくれた事にワクワクしながら、私は睦月さんにそう言う。

「もちろん!何処行くか考えといてね?」

睦月さんも、きっと同じように思ってくれているはず、と私はその笑顔を見て思う。

「じゃあね。また明後日。楽しみにしてる」

睦月さんは私をそっと抱き寄せると、唇で額に軽く触れた。
それだけで、真冬な事を忘れるくらい顔が熱くなった。

「私も、楽しみにしてます」

腕の中で睦月さんを見上げてそう言うと、優しく私を見ている顔がそこにあった。

やっぱり……離れたくないなぁ……

なんて欲張りな事を考えながら、緩んだ腕から離れて荷物を受け取った。

「おやすみなさい」
「うん。……おやすみ。さっちゃん」

そうやって、私は結局後ろ髪を引かれながら家に帰り着いた。


「ただいま~」

そう言って家に入ると、まだ真琴は帰っていなかった。言うほど遅い時間でもないか、と私はかんちゃんの元へ向かう。

「帰ったよ」

ゲージを開けると、そこから飛び出して来たかんちゃんは、私を押し倒しそうな勢いで飛びついてくる。そして、尻尾をブンブン振っているかんちゃんを撫でながら私は思った。

もっと睦月さんとかんちゃんが仲良くなってくれないかなぁ……と。
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