年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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紫音さんが睦月さんに抱きついた時、正直ちょっとだけ嫉妬した。並んでいる2人はとってもお似合いだったから。でも、そんなモヤモヤした気持ちはすぐになくなっていた。
睦月さんが……本当にお父さんみたいな顔をして紫音さんと話をしていたから。あまりにも微笑ましくって、つい笑いが込み上げてしまった。

そして不意に思った。最近まで、睦月さんは私の事を娘みたいに思っているのだと思っていたけど、実際は違ったんだ……と紫音さんに見せていた顔を見て思った。

「どうかした?俺の顔に何か付いてる?」

前を向いて車を運転している筈の睦月さんは、笑いながらそんな事を言った。考え事をしながら睦月さんの横顔を眺めていたのがバレバレだったみたいだ。

「えっ?な、なんでもないです!」

恥ずかしくなって慌てて前を向くと、前の信号が黄色から赤に変わるのが見えた。前の車に倣って車を停めると、睦月さんはシフトレバーを切り替えいる。

「さっちゃん」

そう呼びかけられてその方向を向くと、もうそこには睦月さんの顔があり「あ……」と言う声も唇の中に吸い込まれていった。

「やっと触れられた」

私の唇から離れると、睦月さんは満面の笑みを浮かべてそう言う。私の方はと言うと、目を丸くしながらも顔が火照っていくのを感じていた。
睦月さんは、たまに見せる意地悪な笑顔を見せると「ふふっ」と笑ってまた姿勢を戻しシフトレバーを動かしてハンドルを握っている。

「なんか……大好きな子を家に閉じ込めて誰にも見せたくないって気持ち、今ならわかるかも」

そんな事を言いながら。

さっきから心臓が煩いくらいに鳴っている。睦月さんは平気そうな顔をして車を走らせてるけど、私は全然平気じゃない。顔を冷やすように手を当てると、自分の頰の熱が伝わってきた。

私、まだこんな状態なのに、香緒ちゃんによく結婚するなんて言ったな……

改めてそう思う。だって、手を繋いだだけでドキドキして、キスしただけで心臓が跳ねてどうしようもなくなっているのに。
その先に進んだら……私は一体どうなるんだろう。そんな事を考えただけで頰がより熱を持った。

「さっちゃん、本当に良かったの?何処か行きたいところがあったら遠慮なく言ってね」

さっき車まで戻った時にそう尋ねられて、私は「特にはないです」と答えた。すでに香緒ちゃんと買い物してきたし。
すると睦月さんから「じゃあ……ちょっとだけ俺の寄りたい場所に行ってもいい?」とお願いされたのだった。

そして着いたのは、さっきまでいた若者街から一変して、ブランドショップの立ち並ぶ大人の街だった。

車から降りて、賑う街の歩道を歩く。並んでいるのは高級店の多いエリアで、一体何処に行くんだろう?と思いながら、私は睦月さんの隣を歩いた。

しばらく歩くと、睦月さんは急に立ち止まり私を見た。

「えーと。先に謝っとく。今から行く店では、その……買う予定はなくて。でも、さっちゃんの好みが分からないから参考に見に行きたいだけなんだ。頼もうと思ってる店は別にあるんだけど、ちょっと気軽に行ける距離じゃないから」

決まりの悪そうな顔をして、睦月さんは私にそう言うが、私は何の事なのかわからない。でも、私に何かを用意しようとしてくれている事だけは分かった。

「はい。じゃあ、見るだけで」

私が笑ってそう返事をすると、睦月さんはホッとしたように息を吐いて私の手を引いた。

「じゃ、入ろっか」

睦月さんはそう言うと、私を目の前にあった店に連れて行く。
たまたまそこに立ち止まったんだと思ってた店は、外装も内装もゴージャスなジュエリーショップ。店に入るとブラックスーツを着て白い手袋をした男性店員さんに、恭しく頭を下げながら「いらっしゃいませ」と声を掛けられる。

それに物おじする事なく、睦月さんは「エンゲージリングを探してるんですが、見せていただけますか?」と尋ねていた。

「ご案内いたします」

店員さんの後を私達は続き、ただでさえ照明に照らされ眩い光で目が痛いくらいなのに、一層煌びやかな光を放つショーケースの前に連れてこられた。

「お気に召したものがあればお出しいたしますよ?」

ショーケースの向こう側から、今度は女性の店員さんに声を掛けられた。
そうは言われても、中にあるのはほぼダイヤモンドのリングがメイン。私にはあまりにも眩しすぎて、近寄るのでさえ戸惑ってしまう。

「あの、睦月さん。私……その、ダイヤモンドは……あまり似合わないと言うか……」

連れて来てもらってこんな事を言うのもなんだけど、正直に気持ちを打ち明ける。睦月さんもそれを聞いて「あー、うん。そうだね。悪い意味じゃないんだけど、俺も何か違うと思ってた」と、難しい顔をして答えた。

「では誕生石などはいかがですか?」

私達の会話が聞こえていたようで、店員さんにそう言われるが、さすがに自分の誕生石が何かくらいは知っていた。そしてそれもイマイチピンとこないのは見なくても分かっていた。

「誕生石って何の石?」
「それが……エメラルドなんです」

私の答えに、睦月さんもしっくりこない、と言った顔をしていた。

「すみません。リングに拘らないんで、他の石見せてもらえないですか?」

睦月さんはそう店員さんに尋ねた。
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