68 / 183
18
3
しおりを挟む
思わずさっちゃんと顔を見合わせる。武琉君は、何も聞いてないって言ってたけど、香緒が聞いてないとは限らない。でも、さっちゃんが断りもなく先に話す事はないんじゃないかと俺は思った。
「さっちゃん、香緒に話した?」
「いえ。まだ何も」
「だよね」
とりあえず小さな声で確認だけすると振り返る。そこには、何かを期待したような香緒と、戸惑っている武琉君がいた。
「とりあえず……場所変える?」
人が行き交う雑踏で立ち話って言うのはさすがに気が引けて、俺は香緒に尋ねてみる。
「そうだね。お腹空いたしランチでもどう?あ、もちろん睦月君の奢りね!」
明るくそう言われて、「はいはい。もちろんそうさせていただきますよ~」と俺は軽い調子でそれに答える。
場所は香緒に任せて、俺はその後ろを歩き出す。もちろんさっちゃんと手を繋いで。目の前で、武琉君の腕にべったりと引っ付いて歩く香緒に比べたら、これくらい可愛いものだ。
連れて来られたのは、高級ホテルの高層階にあるレストラン。香緒も遠慮ないなぁと顔は引き攣るが、さっちゃんの為に色々動いてくれたのだろうから仕方ない。
「ここ、来てみたかったんだよね」
案内された白いクロスのかかるテーブルにつきながら、香緒はニコニコしてそう言った。すぐ側にある大きな窓からはビルの群れが遠くまで見えた。
「睦月さんは窓際じゃない方がいいですよね?」
前に俺が高所恐怖症だと言ったのを覚えてくれていたのか、さっちゃんは俺にそう尋ねた。
「ありがとう。さっちゃんさえよければ窓際に座ってよ」
俺がそう言うとさっちゃん頷いてから席についた。
同じようにテーブルの向かいに座る香緒は、身を乗り出す様にして両手で頬杖をついて俺達を見ている。
「じゃ、聞こうかな?」
香緒が興味津々でそう言うと、隣でさっちゃんが意を決したように顔を上げた。
「あのね、香緒ちゃん」
そこまで言うと、さっちゃんは一旦俺の顔を見上げてから、また香緒に向き直る。
「私、睦月さんと結婚するから」
さっちゃんはハッキリとそう告げる。
もちろん目の前で香緒は、支えていた手から顔を上げて、「結婚⁈」と驚いている。
そりゃそうだ。俺だって驚いた。だって俺は『結婚を前提に付き合って欲しい』って言っただけなのに。
「えっ?本当に?いつの間に?」
見たことないくらい驚いたまま、香緒はそう口にする。俺の方が言葉が出てこずあたふたしていると、さっちゃんは俺の方を向いた。
「私、きっと睦月さん以上に好きになれる人も、結婚したいって思える人も現れないと思うんです。……ダメでしたか?」
他でもない、公私共に仲良くしている香緒にここまではっきりと告げるなんて思ってなかった。言ったとしても『付き合い始めた』くらいかなって勝手に思ってた。
でもさっちゃんは、俺と『結婚する』って言ってくれた。
ダメだなんて、天地がひっくり返ろうが有り得ない。さっちゃんが俺のことを嫌になる事があっても、俺がさっちゃんを手離せるなんて到底思えないから。
「え!む、睦月さん?」
俺を見上げたまま、さっちゃんは慌てたようにそう言う。
あぁ、何か頰に熱いものが伝ってるし、目の前のさっちゃんもボヤけてよく見えないや、なんて思う。
「ごめんね……。驚かせちゃったね」
ようやく小さく笑うと、さっちゃんがバッグから取り出したハンカチで俺の頰をそっと撫でてくれた。
「嬉しくて。本当に。ずっと一緒にいてくれるんだなって思ったら、何かこう……」
鼻を啜りながらそう言うと、向こう側から香緒の声がした。
「うん。わかるよ?睦月君。幸せだと涙が出るよね」
俺の知る限り香緒は結構泣き上戸で、もしかして香緒も?と思いながらそちらを見ると、笑い上戸の俺と入れ替わったかのように、優しい顔をして微笑んだまま口を開いた。
「よかった。さっちゃんに好きだと思える人が現れて。本当はずっと心配だったんだ。僕にとってさっちゃんは大事な人だから、誰かと幸せになって欲しいって思ってた」
武琉君に見せるような柔らかい笑顔を浮かべて、香緒はさっちゃんにそう言う。
「香緒ちゃん……」
今度はさっちゃんの方が泣き出しそうな顔をして香緒を見ている。
「まさかそれが睦月君になるとは思ってもなかったけど、睦月君になら安心してさっちゃんを渡せるかな?」
俺を見てふふっと笑う香緒に、俺もまだ涙の跡が残っているだろう顔で笑顔を作る。
「そこは安心してよ。俺はさっちゃんを幸せにしたいし、一緒に幸せになりたいと思ってるからさ。香緒と武琉君に負けないくらいにね?」
俺の台詞を聞いて、目の前の2人は顔を見合わせて笑っている。
「僕達も負けないよ?ね、武琉?」
「そうだな。今も幸せだけど、もっと幸せになろう」
その武琉君の顔に、幼い頃の面影を見て懐かしくなる。2人がこうやって並んでいるのが奇跡なら、俺がさっちゃんに出会えたのも奇跡なのかも知れない。
「さっちゃん」
俺は、隣で2人を微笑ましく眺めているさっちゃんに呼びかける。
「俺達も負けないくらい幸せになろ?」
さっちゃんは頰を赤らめながら「はい。お願いします」と飛びきりの美しい笑顔で微笑んだ。
「さっちゃん、香緒に話した?」
「いえ。まだ何も」
「だよね」
とりあえず小さな声で確認だけすると振り返る。そこには、何かを期待したような香緒と、戸惑っている武琉君がいた。
「とりあえず……場所変える?」
人が行き交う雑踏で立ち話って言うのはさすがに気が引けて、俺は香緒に尋ねてみる。
「そうだね。お腹空いたしランチでもどう?あ、もちろん睦月君の奢りね!」
明るくそう言われて、「はいはい。もちろんそうさせていただきますよ~」と俺は軽い調子でそれに答える。
場所は香緒に任せて、俺はその後ろを歩き出す。もちろんさっちゃんと手を繋いで。目の前で、武琉君の腕にべったりと引っ付いて歩く香緒に比べたら、これくらい可愛いものだ。
連れて来られたのは、高級ホテルの高層階にあるレストラン。香緒も遠慮ないなぁと顔は引き攣るが、さっちゃんの為に色々動いてくれたのだろうから仕方ない。
「ここ、来てみたかったんだよね」
案内された白いクロスのかかるテーブルにつきながら、香緒はニコニコしてそう言った。すぐ側にある大きな窓からはビルの群れが遠くまで見えた。
「睦月さんは窓際じゃない方がいいですよね?」
前に俺が高所恐怖症だと言ったのを覚えてくれていたのか、さっちゃんは俺にそう尋ねた。
「ありがとう。さっちゃんさえよければ窓際に座ってよ」
俺がそう言うとさっちゃん頷いてから席についた。
同じようにテーブルの向かいに座る香緒は、身を乗り出す様にして両手で頬杖をついて俺達を見ている。
「じゃ、聞こうかな?」
香緒が興味津々でそう言うと、隣でさっちゃんが意を決したように顔を上げた。
「あのね、香緒ちゃん」
そこまで言うと、さっちゃんは一旦俺の顔を見上げてから、また香緒に向き直る。
「私、睦月さんと結婚するから」
さっちゃんはハッキリとそう告げる。
もちろん目の前で香緒は、支えていた手から顔を上げて、「結婚⁈」と驚いている。
そりゃそうだ。俺だって驚いた。だって俺は『結婚を前提に付き合って欲しい』って言っただけなのに。
「えっ?本当に?いつの間に?」
見たことないくらい驚いたまま、香緒はそう口にする。俺の方が言葉が出てこずあたふたしていると、さっちゃんは俺の方を向いた。
「私、きっと睦月さん以上に好きになれる人も、結婚したいって思える人も現れないと思うんです。……ダメでしたか?」
他でもない、公私共に仲良くしている香緒にここまではっきりと告げるなんて思ってなかった。言ったとしても『付き合い始めた』くらいかなって勝手に思ってた。
でもさっちゃんは、俺と『結婚する』って言ってくれた。
ダメだなんて、天地がひっくり返ろうが有り得ない。さっちゃんが俺のことを嫌になる事があっても、俺がさっちゃんを手離せるなんて到底思えないから。
「え!む、睦月さん?」
俺を見上げたまま、さっちゃんは慌てたようにそう言う。
あぁ、何か頰に熱いものが伝ってるし、目の前のさっちゃんもボヤけてよく見えないや、なんて思う。
「ごめんね……。驚かせちゃったね」
ようやく小さく笑うと、さっちゃんがバッグから取り出したハンカチで俺の頰をそっと撫でてくれた。
「嬉しくて。本当に。ずっと一緒にいてくれるんだなって思ったら、何かこう……」
鼻を啜りながらそう言うと、向こう側から香緒の声がした。
「うん。わかるよ?睦月君。幸せだと涙が出るよね」
俺の知る限り香緒は結構泣き上戸で、もしかして香緒も?と思いながらそちらを見ると、笑い上戸の俺と入れ替わったかのように、優しい顔をして微笑んだまま口を開いた。
「よかった。さっちゃんに好きだと思える人が現れて。本当はずっと心配だったんだ。僕にとってさっちゃんは大事な人だから、誰かと幸せになって欲しいって思ってた」
武琉君に見せるような柔らかい笑顔を浮かべて、香緒はさっちゃんにそう言う。
「香緒ちゃん……」
今度はさっちゃんの方が泣き出しそうな顔をして香緒を見ている。
「まさかそれが睦月君になるとは思ってもなかったけど、睦月君になら安心してさっちゃんを渡せるかな?」
俺を見てふふっと笑う香緒に、俺もまだ涙の跡が残っているだろう顔で笑顔を作る。
「そこは安心してよ。俺はさっちゃんを幸せにしたいし、一緒に幸せになりたいと思ってるからさ。香緒と武琉君に負けないくらいにね?」
俺の台詞を聞いて、目の前の2人は顔を見合わせて笑っている。
「僕達も負けないよ?ね、武琉?」
「そうだな。今も幸せだけど、もっと幸せになろう」
その武琉君の顔に、幼い頃の面影を見て懐かしくなる。2人がこうやって並んでいるのが奇跡なら、俺がさっちゃんに出会えたのも奇跡なのかも知れない。
「さっちゃん」
俺は、隣で2人を微笑ましく眺めているさっちゃんに呼びかける。
「俺達も負けないくらい幸せになろ?」
さっちゃんは頰を赤らめながら「はい。お願いします」と飛びきりの美しい笑顔で微笑んだ。
1
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
深冬 芽以
恋愛
あらすじ
俵理人《たわらりひと》34歳、職業は秘書室長兼社長秘書。
女は扱いやすく、身体の相性が良ければいい。
結婚なんて冗談じゃない。
そう思っていたのに。
勘違いストーカー女から逃げるように引っ越したマンションで理人が再会したのは、過去に激しく叱責された女。
年上で子持ちのデキる女なんて面倒くさいばかりなのに、つい関わらずにはいられない。
そして、互いの利害の一致のため、偽装恋人関係となる。
必要な時だけ恋人を演じればいい。
それだけのはずが……。
「偽装でも、恋人だろ?」
彼女の甘い香りに惹き寄せられて、抗えない――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる