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「……まぁ……」
なんだか恥ずかしくなってきて、それだけ答えると、真琴はまだ食いついてきた。
「じゃあ、咲月の方が先に結婚してくれそうだな」
「なっ何で⁈」
「えー……だって。睦月さん、結構年上だろ?考えてるのかなぁって」
鋭すぎて言葉も出ない。今日初めて会って、数時間会話しただけでそこまで分かる?自分の弟ながらかなり怖い。
「あのね!とにかく、いつ振られちゃうか分からないんだから、余計な事を喋らないでよ?特にお父さんとお母さんに!」
釘を刺しておかないと、あっという間に伝わってしまいそうだ。そうなったらきっと面倒くさいことになると思う。特にお父さんが。
「もう振られる事考えてんの?」
呆れたように、ため息を吐きながら真琴は私に言う。
「だって!私みたいな見た目も中身も平凡な女が、睦月さんみたいな格好いい人に相手にされるなんて思わないじゃない!」
投げやりに返すと、真琴は目を丸くして私を見ていた。
私のその声に反応したのか、かんちゃんが立ち上がって吠え始めた。
「あぁ、ごめんね。かんちゃん。びっくりしたよね」
そう言って宥めるように背中を撫でていると、真琴が何か呟いていた。
「え?何か言った?」
そう言って横を向くと、真琴は「いーや?」と言いながら立ち上がった。
「先風呂借りるわ。明日も早いし」
「あ、うん。どうぞ?」
急に話を止めた真琴を、変なの……と思いながら私は見送った。
◆◆
「じゃ、行ってくる」
まだ起きたてでぼんやりコーヒーを飲んでいる私に、意気揚々と真琴は言った。
「……いってらっしゃい」
ボケっとしたまま真琴に言うと、真琴はまじまじと私の顔を見た。
「なあ。今日帰ってくる?」
「?……当たり前じゃない。あ、玄関に合鍵置いてるから持って行ってね」
そう言ってからカップに口をつけようとする私に、真琴は冷た~い視線を向けて大きく息を吐き出した。
「渡す相手違うだろ……。男として……睦月さんに同情するわ」
コーヒーが気管に入って咽せそうになる。
「何でそうなるのよ!」
「いや……せっかく付き合いだしたのに、彼氏の家にお泊まり~とか、合鍵渡して、いつでもうちに来て下さい!みたいなの無いわけ?」
そりゃぁまぁ……いい年なんだから、それくらい普通なのかも知れないけど……。私にとってはもの凄く高いハードルなのかも知れない。
だって、初恋、初カレなんだから、もちろんその……バージンだ。
もちろんそれは睦月さんも察してるだろうけど、付き合い始めたからっていきなりお泊まりするなんて……。私には無理だ。
何で私は弟にこんな事言われてるんだろう……と肩を落としながら「ないから!もう行って来なさいよ!」と追い払うように手を払う。
「へいへい。言われなくても出かけますよーだ!」
すでに着込んだダウンのポケットに手を突っ込んだまま、あっかんべーをするような顔をして真琴は私に言った。
それから一度玄関の方に向いたと思うと、不意に振り返る。
「俺、明後日の夜行バスで帰るつもりなんだけどさ、もう一回くらい睦月さんに会いたいから、言っといてくんない?」
思ってもない事を言われて、飲もうとしていたコーヒーカップから唇を離して顔を上げる。
「へ?何で?」
「え~?将来のお義兄さんと親睦深めたいじゃん。と言う事で行ってきま~す!」
私の返事を待たずに、真琴は背中を向けて手をヒラヒラさせたかと思うと出て行ってしまう。
「ちょっとっ!」
慌てて言う私の声など届くはずもなく、遠くで玄関の閉まる音がした。
私はテーブルに伏せながら、「はぁ~……」と大きく息を吐く。
ここ数日が怒涛の展開過ぎて頭がついていかない。
一昨日は香緒ちゃん達とのお疲れ様会で、昨日は睦月さんとお付き合いすることになり、そして迎えた今日の日曜日。
睦月さんからは昨日うちにメッセージが届いていて、今日は午後から会う事になっている。
でも、よくよく考えたら一体どんな服装で会えばいいのか分からない。
私のワードローブは仕事兼用みたいなものが多くて、ほぼ動きやすさ重視だ。この前みたいに周りの人に妹だと思われるのは釈然としない。でも、ファッション関連の仕事をしているのに、自分の事だと途端に分からなくなる。
本当、どうすればいいんだろ……
私は徐に立ち上がり、仕事関係で貰う雑誌を取りに行く。香緒ちゃんが載っているのは女性向けのファッション誌。とりあえず参考にしようと私は手にした。
しばらく雑誌を眺めてみても、余計に悩むばかりだ。そもそも、無理して目の前の香緒ちゃんのようなヒラヒラした可愛らしい格好をしたところで、それが睦月さんの好みだとは限らない。
なんか……恋って大変だ……
私は今更ながら、そんな事を思った。
その時、テーブルに置いていたスマホが鳴った。時間はまた10時過ぎ。誰だろ?と思って表示を見て、私は天の助け!とそれを取った。
『おはよう。さっちゃん。朝早くからごめんね。今いい?』
「おはよう、香緒ちゃん!私も実は……ちょっと相談に……乗ってもらいたい事があって」
恐る恐るそう切り出すと、香緒ちゃんからワクワクしたように「何?何?」と返って来た。
なんだか恥ずかしくなってきて、それだけ答えると、真琴はまだ食いついてきた。
「じゃあ、咲月の方が先に結婚してくれそうだな」
「なっ何で⁈」
「えー……だって。睦月さん、結構年上だろ?考えてるのかなぁって」
鋭すぎて言葉も出ない。今日初めて会って、数時間会話しただけでそこまで分かる?自分の弟ながらかなり怖い。
「あのね!とにかく、いつ振られちゃうか分からないんだから、余計な事を喋らないでよ?特にお父さんとお母さんに!」
釘を刺しておかないと、あっという間に伝わってしまいそうだ。そうなったらきっと面倒くさいことになると思う。特にお父さんが。
「もう振られる事考えてんの?」
呆れたように、ため息を吐きながら真琴は私に言う。
「だって!私みたいな見た目も中身も平凡な女が、睦月さんみたいな格好いい人に相手にされるなんて思わないじゃない!」
投げやりに返すと、真琴は目を丸くして私を見ていた。
私のその声に反応したのか、かんちゃんが立ち上がって吠え始めた。
「あぁ、ごめんね。かんちゃん。びっくりしたよね」
そう言って宥めるように背中を撫でていると、真琴が何か呟いていた。
「え?何か言った?」
そう言って横を向くと、真琴は「いーや?」と言いながら立ち上がった。
「先風呂借りるわ。明日も早いし」
「あ、うん。どうぞ?」
急に話を止めた真琴を、変なの……と思いながら私は見送った。
◆◆
「じゃ、行ってくる」
まだ起きたてでぼんやりコーヒーを飲んでいる私に、意気揚々と真琴は言った。
「……いってらっしゃい」
ボケっとしたまま真琴に言うと、真琴はまじまじと私の顔を見た。
「なあ。今日帰ってくる?」
「?……当たり前じゃない。あ、玄関に合鍵置いてるから持って行ってね」
そう言ってからカップに口をつけようとする私に、真琴は冷た~い視線を向けて大きく息を吐き出した。
「渡す相手違うだろ……。男として……睦月さんに同情するわ」
コーヒーが気管に入って咽せそうになる。
「何でそうなるのよ!」
「いや……せっかく付き合いだしたのに、彼氏の家にお泊まり~とか、合鍵渡して、いつでもうちに来て下さい!みたいなの無いわけ?」
そりゃぁまぁ……いい年なんだから、それくらい普通なのかも知れないけど……。私にとってはもの凄く高いハードルなのかも知れない。
だって、初恋、初カレなんだから、もちろんその……バージンだ。
もちろんそれは睦月さんも察してるだろうけど、付き合い始めたからっていきなりお泊まりするなんて……。私には無理だ。
何で私は弟にこんな事言われてるんだろう……と肩を落としながら「ないから!もう行って来なさいよ!」と追い払うように手を払う。
「へいへい。言われなくても出かけますよーだ!」
すでに着込んだダウンのポケットに手を突っ込んだまま、あっかんべーをするような顔をして真琴は私に言った。
それから一度玄関の方に向いたと思うと、不意に振り返る。
「俺、明後日の夜行バスで帰るつもりなんだけどさ、もう一回くらい睦月さんに会いたいから、言っといてくんない?」
思ってもない事を言われて、飲もうとしていたコーヒーカップから唇を離して顔を上げる。
「へ?何で?」
「え~?将来のお義兄さんと親睦深めたいじゃん。と言う事で行ってきま~す!」
私の返事を待たずに、真琴は背中を向けて手をヒラヒラさせたかと思うと出て行ってしまう。
「ちょっとっ!」
慌てて言う私の声など届くはずもなく、遠くで玄関の閉まる音がした。
私はテーブルに伏せながら、「はぁ~……」と大きく息を吐く。
ここ数日が怒涛の展開過ぎて頭がついていかない。
一昨日は香緒ちゃん達とのお疲れ様会で、昨日は睦月さんとお付き合いすることになり、そして迎えた今日の日曜日。
睦月さんからは昨日うちにメッセージが届いていて、今日は午後から会う事になっている。
でも、よくよく考えたら一体どんな服装で会えばいいのか分からない。
私のワードローブは仕事兼用みたいなものが多くて、ほぼ動きやすさ重視だ。この前みたいに周りの人に妹だと思われるのは釈然としない。でも、ファッション関連の仕事をしているのに、自分の事だと途端に分からなくなる。
本当、どうすればいいんだろ……
私は徐に立ち上がり、仕事関係で貰う雑誌を取りに行く。香緒ちゃんが載っているのは女性向けのファッション誌。とりあえず参考にしようと私は手にした。
しばらく雑誌を眺めてみても、余計に悩むばかりだ。そもそも、無理して目の前の香緒ちゃんのようなヒラヒラした可愛らしい格好をしたところで、それが睦月さんの好みだとは限らない。
なんか……恋って大変だ……
私は今更ながら、そんな事を思った。
その時、テーブルに置いていたスマホが鳴った。時間はまた10時過ぎ。誰だろ?と思って表示を見て、私は天の助け!とそれを取った。
『おはよう。さっちゃん。朝早くからごめんね。今いい?』
「おはよう、香緒ちゃん!私も実は……ちょっと相談に……乗ってもらいたい事があって」
恐る恐るそう切り出すと、香緒ちゃんからワクワクしたように「何?何?」と返って来た。
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