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「ただいまぁ」
いつものようにそう言って、今日は灯りの付いている奥の部屋に向かう。
すでに真琴は座り込み、かんちゃんと遊んでいた。
「なんだ。早かったな」
真琴はこちらを見ようともせず、かんちゃんが咥えたボールを引っ張りあっている。
「当たり前でしょ!」
誤魔化すようにそう言うと、上着を脱いで掛けに行き、手を洗って戻って来ると、かんちゃんは真琴に遊んでとせがむように膝に乗って顔を舐めていた。
「真琴……かんちゃん、最初からそんなに慣れてた?」
いくら会うのは2回目だからと言って睦月さんには威嚇したのに真琴にはこんなに従順ってどう言う事?と思ってしまう。
「え~?どうだったっけ。まぁ、前会った時だいぶチビ助だったからなぁ。なんで?」
「いや。あの……睦月さんに会った時吠え始めちゃって」
そう言うと、真琴はかんちゃんを撫でながら笑い出した。
「なんで笑うのよ?」
「え~?だってさ、コイツも気付いたって事だろ?」
「何がよ?」
意味が分からないまま、私は小さなテーブルの向かいに座ると、かんちゃんは私の方にやって来て膝に脚を乗せると、尻尾をブンブン振っていた。
「本当、咲月ってそう言うの疎いよなぁ」
テーブルに肘をつき頬杖をすると、何故か真琴は私を見てニヤニヤ笑いながら続ける。
「あのさ、どっちから告白したわけ?」
しばらくの間、何を言われたのか理解出来なくて、真顔で真琴の顔を見つめた後、私はようやくその言葉の意味を理解した。
「へっ!なっ!何言ってるの⁈」
慌てふためく様子の私に、真琴はよりニヤけた顔をしながら口を開いた。
「だってさ、店にいる時と帰って来た時の雰囲気が違ってたからさ~。そうなんだろうなぁって」
自分と血が繋がっているとは思えない鋭さに、こう言うところはお母さん似なんだよなぁ……なんて思ってしまう。
私は言い逃れ出来ないと諦めて、大きく息を吐いた。
「どっちだっていいでしょ」
私はかんちゃんにボールを転がしながら、ソッポを向いて答える。
「って事は、上手くいったってわけだ。良かったじゃん!お互い満更でも無さそうなのに、付き合ってないって言われたからさ、睦月さんに同情してたんだけど」
周りから見たらそんな風に見えてたのかと思うと勝手に顔が熱くなる。
「それに……お前って男苦手だったからさ、ちょっと心配だった」
急に真琴は真面目な顔をして私に言う。
「知ってたの……?」
まさか、長い間離れて暮らす弟に気づかれてるなんて思ってなくて、私は驚いてそう返した。
「あー……。うん。それってさ、原因は健太君なんだろ?」
私は神妙な顔をしていたのだと思う。私が押し黙ると、真琴は決まりが悪そうに頭を掻きながら私に言った。
「俺さ、実は見てたんだよ。小学生の頃健太君に揶揄われているところ。咲月が珍しく泣きながら帰ったからよく覚えてる」
あの出来事があったのは私が6年生の時。そんなに規模の大きな学校でもなかったし、家が近所の子も多かったから、学年が違ってもみんな顔見知りみたいなものだった。
「そっか。……くだらない理由でしょ?」
私は開き直ったように真琴に言うと、困ったような顔を見せる。
「確かにさ~、それくらいで?って思ったけど……。俺が中学入ってから咲月の様子見たら、かなり嫌だったんだな、って思った」
真琴とは2学年しか変わらないから中学でも同じになる。学年は違えど校内で見かける事なんてザラで、そして真琴は私が周りの男子と距離を置いていたのを見ていたのだろう。
特に健太とは……ほとんど接した記憶は無かった。
「うん。自分でも馬鹿みたいって思うけどダメだった。あれから私、男の人と話すのが怖くなったから」
ボールを取ってきては私の元にやってくるかんちゃんを撫でながら、そう答える。
弟と、こんな話をする日が来るとは思っていなかったけど、真琴が笑わないでいてくれて救われた。
「健太君、あの後すっげー気にしてた。まさか小学生の時の事を咲月が引きずってるなんて思って無さそうだったけど」
「健太に話したの?」
「いや?さすがに話せないでしょ。でもさ、健太君、睦月さんに言われて目が覚めたって。きっと自分が何かしたのは間違いないから、謝れるなら謝りたいって言ってた」
私は遊びに飽きて目の前に寝そべるかんちゃんに視線を落とす。
そんな事言われても……と私は戸惑う。もしまた健太に会う事があったら、私は冷静に話が出来るのかも分からない。
でも、睦月さんが隣にいてくれるなら勇気を出せるかも知れないな、何て思った。
「まぁ……会う事ないと思うけど、会ったら今度はちゃんと向き合うよ……」
「ふーん。そうしてあげなよ。たぶんあれ、かなり引き摺ってると思うし」
健太に同情するような表情で真琴は私に言った後、今度は急に表情を明るく変えた。
「で?どっちから告白したわけ?」
期待の眼差しで私を見る真琴に「もー!いいじゃないのよ!」とはぐらかすように返す。
「気になるじゃん!」
これは聞くまで引き下がらないな……と諦めて、渋々口を開いた。
「……私」
私がそう短く返すと、真琴は「へー!やるじゃん咲月。睦月さん喜んでただろ?」と、知ったような口を聞いていた。
いつものようにそう言って、今日は灯りの付いている奥の部屋に向かう。
すでに真琴は座り込み、かんちゃんと遊んでいた。
「なんだ。早かったな」
真琴はこちらを見ようともせず、かんちゃんが咥えたボールを引っ張りあっている。
「当たり前でしょ!」
誤魔化すようにそう言うと、上着を脱いで掛けに行き、手を洗って戻って来ると、かんちゃんは真琴に遊んでとせがむように膝に乗って顔を舐めていた。
「真琴……かんちゃん、最初からそんなに慣れてた?」
いくら会うのは2回目だからと言って睦月さんには威嚇したのに真琴にはこんなに従順ってどう言う事?と思ってしまう。
「え~?どうだったっけ。まぁ、前会った時だいぶチビ助だったからなぁ。なんで?」
「いや。あの……睦月さんに会った時吠え始めちゃって」
そう言うと、真琴はかんちゃんを撫でながら笑い出した。
「なんで笑うのよ?」
「え~?だってさ、コイツも気付いたって事だろ?」
「何がよ?」
意味が分からないまま、私は小さなテーブルの向かいに座ると、かんちゃんは私の方にやって来て膝に脚を乗せると、尻尾をブンブン振っていた。
「本当、咲月ってそう言うの疎いよなぁ」
テーブルに肘をつき頬杖をすると、何故か真琴は私を見てニヤニヤ笑いながら続ける。
「あのさ、どっちから告白したわけ?」
しばらくの間、何を言われたのか理解出来なくて、真顔で真琴の顔を見つめた後、私はようやくその言葉の意味を理解した。
「へっ!なっ!何言ってるの⁈」
慌てふためく様子の私に、真琴はよりニヤけた顔をしながら口を開いた。
「だってさ、店にいる時と帰って来た時の雰囲気が違ってたからさ~。そうなんだろうなぁって」
自分と血が繋がっているとは思えない鋭さに、こう言うところはお母さん似なんだよなぁ……なんて思ってしまう。
私は言い逃れ出来ないと諦めて、大きく息を吐いた。
「どっちだっていいでしょ」
私はかんちゃんにボールを転がしながら、ソッポを向いて答える。
「って事は、上手くいったってわけだ。良かったじゃん!お互い満更でも無さそうなのに、付き合ってないって言われたからさ、睦月さんに同情してたんだけど」
周りから見たらそんな風に見えてたのかと思うと勝手に顔が熱くなる。
「それに……お前って男苦手だったからさ、ちょっと心配だった」
急に真琴は真面目な顔をして私に言う。
「知ってたの……?」
まさか、長い間離れて暮らす弟に気づかれてるなんて思ってなくて、私は驚いてそう返した。
「あー……。うん。それってさ、原因は健太君なんだろ?」
私は神妙な顔をしていたのだと思う。私が押し黙ると、真琴は決まりが悪そうに頭を掻きながら私に言った。
「俺さ、実は見てたんだよ。小学生の頃健太君に揶揄われているところ。咲月が珍しく泣きながら帰ったからよく覚えてる」
あの出来事があったのは私が6年生の時。そんなに規模の大きな学校でもなかったし、家が近所の子も多かったから、学年が違ってもみんな顔見知りみたいなものだった。
「そっか。……くだらない理由でしょ?」
私は開き直ったように真琴に言うと、困ったような顔を見せる。
「確かにさ~、それくらいで?って思ったけど……。俺が中学入ってから咲月の様子見たら、かなり嫌だったんだな、って思った」
真琴とは2学年しか変わらないから中学でも同じになる。学年は違えど校内で見かける事なんてザラで、そして真琴は私が周りの男子と距離を置いていたのを見ていたのだろう。
特に健太とは……ほとんど接した記憶は無かった。
「うん。自分でも馬鹿みたいって思うけどダメだった。あれから私、男の人と話すのが怖くなったから」
ボールを取ってきては私の元にやってくるかんちゃんを撫でながら、そう答える。
弟と、こんな話をする日が来るとは思っていなかったけど、真琴が笑わないでいてくれて救われた。
「健太君、あの後すっげー気にしてた。まさか小学生の時の事を咲月が引きずってるなんて思って無さそうだったけど」
「健太に話したの?」
「いや?さすがに話せないでしょ。でもさ、健太君、睦月さんに言われて目が覚めたって。きっと自分が何かしたのは間違いないから、謝れるなら謝りたいって言ってた」
私は遊びに飽きて目の前に寝そべるかんちゃんに視線を落とす。
そんな事言われても……と私は戸惑う。もしまた健太に会う事があったら、私は冷静に話が出来るのかも分からない。
でも、睦月さんが隣にいてくれるなら勇気を出せるかも知れないな、何て思った。
「まぁ……会う事ないと思うけど、会ったら今度はちゃんと向き合うよ……」
「ふーん。そうしてあげなよ。たぶんあれ、かなり引き摺ってると思うし」
健太に同情するような表情で真琴は私に言った後、今度は急に表情を明るく変えた。
「で?どっちから告白したわけ?」
期待の眼差しで私を見る真琴に「もー!いいじゃないのよ!」とはぐらかすように返す。
「気になるじゃん!」
これは聞くまで引き下がらないな……と諦めて、渋々口を開いた。
「……私」
私がそう短く返すと、真琴は「へー!やるじゃん咲月。睦月さん喜んでただろ?」と、知ったような口を聞いていた。
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