年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

文字の大きさ
上 下
62 / 183
17

1

しおりを挟む
「ただいまぁ」

いつものようにそう言って、今日は灯りの付いている奥の部屋に向かう。
すでに真琴は座り込み、かんちゃんと遊んでいた。

「なんだ。早かったな」

真琴はこちらを見ようともせず、かんちゃんが咥えたボールを引っ張りあっている。

「当たり前でしょ!」

誤魔化すようにそう言うと、上着を脱いで掛けに行き、手を洗って戻って来ると、かんちゃんは真琴に遊んでとせがむように膝に乗って顔を舐めていた。

「真琴……かんちゃん、最初からそんなに慣れてた?」

いくら会うのは2回目だからと言って睦月さんには威嚇したのに真琴にはこんなに従順ってどう言う事?と思ってしまう。

「え~?どうだったっけ。まぁ、前会った時だいぶチビ助だったからなぁ。なんで?」
「いや。あの……睦月さんに会った時吠え始めちゃって」

そう言うと、真琴はかんちゃんを撫でながら笑い出した。

「なんで笑うのよ?」
「え~?だってさ、コイツも気付いたって事だろ?」
「何がよ?」

意味が分からないまま、私は小さなテーブルの向かいに座ると、かんちゃんは私の方にやって来て膝に脚を乗せると、尻尾をブンブン振っていた。

「本当、咲月ってそう言うの疎いよなぁ」

テーブルに肘をつき頬杖をすると、何故か真琴は私を見てニヤニヤ笑いながら続ける。

「あのさ、どっちから告白したわけ?」

しばらくの間、何を言われたのか理解出来なくて、真顔で真琴の顔を見つめた後、私はようやくその言葉の意味を理解した。

「へっ!なっ!何言ってるの⁈」

慌てふためく様子の私に、真琴はよりニヤけた顔をしながら口を開いた。

「だってさ、店にいる時と帰って来た時の雰囲気が違ってたからさ~。そうなんだろうなぁって」

自分と血が繋がっているとは思えない鋭さに、こう言うところはお母さん似なんだよなぁ……なんて思ってしまう。
私は言い逃れ出来ないと諦めて、大きく息を吐いた。

「どっちだっていいでしょ」

私はかんちゃんにボールを転がしながら、ソッポを向いて答える。

「って事は、上手くいったってわけだ。良かったじゃん!お互い満更でも無さそうなのに、付き合ってないって言われたからさ、睦月さんに同情してたんだけど」

周りから見たらそんな風に見えてたのかと思うと勝手に顔が熱くなる。

「それに……お前って男苦手だったからさ、ちょっと心配だった」

急に真琴は真面目な顔をして私に言う。

「知ってたの……?」

まさか、長い間離れて暮らす弟に気づかれてるなんて思ってなくて、私は驚いてそう返した。

「あー……。うん。それってさ、原因は健太君なんだろ?」

私は神妙な顔をしていたのだと思う。私が押し黙ると、真琴は決まりが悪そうに頭を掻きながら私に言った。

「俺さ、実は見てたんだよ。小学生の頃健太君に揶揄われているところ。咲月が珍しく泣きながら帰ったからよく覚えてる」

あの出来事があったのは私が6年生の時。そんなに規模の大きな学校でもなかったし、家が近所の子も多かったから、学年が違ってもみんな顔見知りみたいなものだった。

「そっか。……くだらない理由でしょ?」

私は開き直ったように真琴に言うと、困ったような顔を見せる。

「確かにさ~、それくらいで?って思ったけど……。俺が中学入ってから咲月の様子見たら、かなり嫌だったんだな、って思った」

真琴とは2学年しか変わらないから中学でも同じになる。学年は違えど校内で見かける事なんてザラで、そして真琴は私が周りの男子と距離を置いていたのを見ていたのだろう。
特に健太とは……ほとんど接した記憶は無かった。

「うん。自分でも馬鹿みたいって思うけどダメだった。あれから私、男の人と話すのが怖くなったから」

ボールを取ってきては私の元にやってくるかんちゃんを撫でながら、そう答える。
弟と、こんな話をする日が来るとは思っていなかったけど、真琴が笑わないでいてくれて救われた。

「健太君、あの後すっげー気にしてた。まさか小学生の時の事を咲月が引きずってるなんて思って無さそうだったけど」
「健太に話したの?」
「いや?さすがに話せないでしょ。でもさ、健太君、睦月さんに言われて目が覚めたって。きっと自分が何かしたのは間違いないから、謝れるなら謝りたいって言ってた」

私は遊びに飽きて目の前に寝そべるかんちゃんに視線を落とす。
そんな事言われても……と私は戸惑う。もしまた健太に会う事があったら、私は冷静に話が出来るのかも分からない。
でも、睦月さんが隣にいてくれるなら勇気を出せるかも知れないな、何て思った。

「まぁ……会う事ないと思うけど、会ったら今度はちゃんと向き合うよ……」
「ふーん。そうしてあげなよ。たぶんあれ、かなり引き摺ってると思うし」

健太に同情するような表情で真琴は私に言った後、今度は急に表情を明るく変えた。

「で?どっちから告白したわけ?」

期待の眼差しで私を見る真琴に「もー!いいじゃないのよ!」とはぐらかすように返す。

「気になるじゃん!」

これは聞くまで引き下がらないな……と諦めて、渋々口を開いた。

「……私」

私がそう短く返すと、真琴は「へー!やるじゃん咲月。睦月さん喜んでただろ?」と、知ったような口を聞いていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜

玖羽 望月
恋愛
 親族に代々議員を輩出するような家に生まれ育った鷹柳実乃莉は、意に沿わぬお見合いをさせられる。  なんとか相手から断ってもらおうとイメージチェンジをし待ち合わせのレストランに向かった。  そこで案内された席にいたのは皆上龍だった。  が、それがすでに間違いの始まりだった。 鷹柳 実乃莉【たかやなぎ みのり】22才  何事も控えめにと育てられてきたお嬢様。 皆上 龍【みなかみ りょう】 33才 自分で一から始めた会社の社長。  作中に登場する職業や内容はまったくの想像です。実際とはかけ離れているかと思います。ご了承ください。 初出はエブリスタにて。 2023.4.24〜2023.8.9

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...