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あっ……!
と思っても、もう遅かった。
目の前には、声も出せない程驚いているさっちゃんの顔。
そして俺は今、自分のやってしまった事を頭の中で反芻して、叫びたくなった。
なんで……なんでこんなところで、勢い余ってこんな事言っちゃったんだろ……
さっちゃんに、『香緒の知り合いじゃなくても、何才だろうと好きになってた』って言われて、一瞬頭が真っ白になった。
それってもしかして、俺のこと既に好きって事?と思ったら急に顔が熱くなった。
でもその後、物凄く後悔した。
何で、俺の方から先に「好きだよ」って言えなかったんだろうって。振られるのが怖くて、嫌われるのが怖くて、勇気を出せなかった自分。
それなのに、さっちゃんはきっと勇気を振り絞って俺に告白してくれたんだと思うと情けない。でも反面、どうしようって言うくらい嬉しくて、つい今言わなくてもいいことまで口にしてた。
「へっ?結婚?」
我に返ったさっちゃんが、俺を見上げてそう呟く。
「ごめん!今の無し!いや、無しじゃないや、やり直し!」
自分でも訳が分からないくらいテンパっているのは承知の上で、あたふたしながら俺はそう口にする。
「とりあえず落ち着こう」
自分に言い聞かせるように呟いて深呼吸をすると、さっちゃんに話しかける。
「何か飲むもの淹れるから、上がって貰っていい?」
さっちゃんはそれに頷いてから、「あの……洗面所貸してもらっていいですか?」と恐る恐る俺に尋ねた。
そっか、さっきまで泣いてたんだもんな……と思いながら、「どうぞ?遠慮なく」と笑顔を作り俺は言った。
先にリビングまで行って灯りをつけてからキッチンへ向かうと、急に色々と押し寄せて来てその場にしゃがみ込み頭を抱えた。
「俺……本当にバカだな……」
つい、思っていることが口から飛び出す。
こんな姿、司に見られたら腹を抱えて笑われそうだ。そんな事を思いながら大きく息を吐くと、ゆっくり立ち上がった。
ヤカンを火にかけて、カップを出すと、何にしようか考える。
家で仕事する事も多いし、コーヒーばかりじゃ胃を痛めそうだから、結構色々と用意はしてる。そして、その中から、一番甘そうなものを選んだ。
「ありがとうございました。何かお手伝いしましょうか?」
さっきよりスッキリした顔をしたさっちゃんが、そう言ってキッチンに顔を出す。
「あ、すぐ出来るから先座ってて」
「じゃあ……お願いします」
さっちゃんがリビングに向かうのを見送ってからヤカンの火を止める。
カップにお湯を注ぐと、甘い香りがキッチンに漂った。
カップを両手で持ってリビングへ向かうと、さっちゃんは居心地が悪そうにソファに座っていた。
俺は冷静を装ってさっちゃんの元へ向かうと、テーブルにカップを一つ置いて、俺はその向かい側に回ると床に座った。
「……ココア?」
カップを手に取りさっちゃんはそう言う。
「あ、うん。勝手に決めてごめんね。何か……甘いもの飲みたくて」
カップに視線を落としたままのさっちゃんにそう言うと、さっちゃんはそのままそれに口をつけた。
「甘い……」
そう言ってから顔を上げると、さっちゃんはふんわりとした笑顔を見せた。
「お母さんが作ってくれたのを思い出します」
「そっか。良かった……」
本当に……可愛いなぁ……
今度は心の内に秘めたままそう思う。
本当は言いたいけど、さっちゃんはそう言われるのがあまり好きじゃないのは分かってる。もしかしたら、その理由はさっきの再会に隠されているのかも知れないけれど。
「あの、睦月さん」
しばらく黙ってココアを飲んでいたさっちゃんが、意を決したように顔を上げて俺を見る。
俺がそれに笑顔で「何?」と返すと、さっちゃんはカップをテーブルに置き、姿勢を正して真っ直ぐに俺に視線を寄越した。
「この話したら、睦月さんは呆れるかも知れません。実際に友達には気にし過ぎだって言われた事もあります。でも……知って欲しいから。私の事。聞いて……もらえますか?」
真剣な眼差しで、そう言うさっちゃんに、俺も姿勢を正して答える。
「俺がさっちゃんに呆れる事なんてないから安心して?だから、聞いて欲しい事、なんでも話してよ?」
そう微笑んでから、俺も持っていたカップをテーブルを置いてから口を開く。
「その前に……。隣に座ってもいい……かな?」
好きだって言い合ったのに、今度は照れ臭くって思わず向かいに座ってしまったけど、本当はもっと近づきたい。ちょっとばかり自分の理性を試されるんじゃないかと思いながらも、それでもやっぱり、さっちゃんの横にいたい。
「あ……。どう……ぞ……」
さっちゃんは頰を紅く染めてそう答えてくれ、それに「ありがとう」と返して俺はさっちゃんの横に座る。家を出る前に座ってた距離より近づいて。
「えっと、じゃあ……」
恥ずかしそうに俯きながら口を開いたさっちゃんの横顔を俺は眺める。
そして、ポツポツとさっちゃんは昔の話を始めた。
健太君とは家が近所の幼なじみだった事。そして彼に言われた、さっちゃんを縛っている言葉の事。
時折苦しそうに、泣きそうな顔して話すさっちゃんを、俺は呆れるなんてカケラも思う事はない。
ただ抱きしめて、一言伝えたい事があった。
と思っても、もう遅かった。
目の前には、声も出せない程驚いているさっちゃんの顔。
そして俺は今、自分のやってしまった事を頭の中で反芻して、叫びたくなった。
なんで……なんでこんなところで、勢い余ってこんな事言っちゃったんだろ……
さっちゃんに、『香緒の知り合いじゃなくても、何才だろうと好きになってた』って言われて、一瞬頭が真っ白になった。
それってもしかして、俺のこと既に好きって事?と思ったら急に顔が熱くなった。
でもその後、物凄く後悔した。
何で、俺の方から先に「好きだよ」って言えなかったんだろうって。振られるのが怖くて、嫌われるのが怖くて、勇気を出せなかった自分。
それなのに、さっちゃんはきっと勇気を振り絞って俺に告白してくれたんだと思うと情けない。でも反面、どうしようって言うくらい嬉しくて、つい今言わなくてもいいことまで口にしてた。
「へっ?結婚?」
我に返ったさっちゃんが、俺を見上げてそう呟く。
「ごめん!今の無し!いや、無しじゃないや、やり直し!」
自分でも訳が分からないくらいテンパっているのは承知の上で、あたふたしながら俺はそう口にする。
「とりあえず落ち着こう」
自分に言い聞かせるように呟いて深呼吸をすると、さっちゃんに話しかける。
「何か飲むもの淹れるから、上がって貰っていい?」
さっちゃんはそれに頷いてから、「あの……洗面所貸してもらっていいですか?」と恐る恐る俺に尋ねた。
そっか、さっきまで泣いてたんだもんな……と思いながら、「どうぞ?遠慮なく」と笑顔を作り俺は言った。
先にリビングまで行って灯りをつけてからキッチンへ向かうと、急に色々と押し寄せて来てその場にしゃがみ込み頭を抱えた。
「俺……本当にバカだな……」
つい、思っていることが口から飛び出す。
こんな姿、司に見られたら腹を抱えて笑われそうだ。そんな事を思いながら大きく息を吐くと、ゆっくり立ち上がった。
ヤカンを火にかけて、カップを出すと、何にしようか考える。
家で仕事する事も多いし、コーヒーばかりじゃ胃を痛めそうだから、結構色々と用意はしてる。そして、その中から、一番甘そうなものを選んだ。
「ありがとうございました。何かお手伝いしましょうか?」
さっきよりスッキリした顔をしたさっちゃんが、そう言ってキッチンに顔を出す。
「あ、すぐ出来るから先座ってて」
「じゃあ……お願いします」
さっちゃんがリビングに向かうのを見送ってからヤカンの火を止める。
カップにお湯を注ぐと、甘い香りがキッチンに漂った。
カップを両手で持ってリビングへ向かうと、さっちゃんは居心地が悪そうにソファに座っていた。
俺は冷静を装ってさっちゃんの元へ向かうと、テーブルにカップを一つ置いて、俺はその向かい側に回ると床に座った。
「……ココア?」
カップを手に取りさっちゃんはそう言う。
「あ、うん。勝手に決めてごめんね。何か……甘いもの飲みたくて」
カップに視線を落としたままのさっちゃんにそう言うと、さっちゃんはそのままそれに口をつけた。
「甘い……」
そう言ってから顔を上げると、さっちゃんはふんわりとした笑顔を見せた。
「お母さんが作ってくれたのを思い出します」
「そっか。良かった……」
本当に……可愛いなぁ……
今度は心の内に秘めたままそう思う。
本当は言いたいけど、さっちゃんはそう言われるのがあまり好きじゃないのは分かってる。もしかしたら、その理由はさっきの再会に隠されているのかも知れないけれど。
「あの、睦月さん」
しばらく黙ってココアを飲んでいたさっちゃんが、意を決したように顔を上げて俺を見る。
俺がそれに笑顔で「何?」と返すと、さっちゃんはカップをテーブルに置き、姿勢を正して真っ直ぐに俺に視線を寄越した。
「この話したら、睦月さんは呆れるかも知れません。実際に友達には気にし過ぎだって言われた事もあります。でも……知って欲しいから。私の事。聞いて……もらえますか?」
真剣な眼差しで、そう言うさっちゃんに、俺も姿勢を正して答える。
「俺がさっちゃんに呆れる事なんてないから安心して?だから、聞いて欲しい事、なんでも話してよ?」
そう微笑んでから、俺も持っていたカップをテーブルを置いてから口を開く。
「その前に……。隣に座ってもいい……かな?」
好きだって言い合ったのに、今度は照れ臭くって思わず向かいに座ってしまったけど、本当はもっと近づきたい。ちょっとばかり自分の理性を試されるんじゃないかと思いながらも、それでもやっぱり、さっちゃんの横にいたい。
「あ……。どう……ぞ……」
さっちゃんは頰を紅く染めてそう答えてくれ、それに「ありがとう」と返して俺はさっちゃんの横に座る。家を出る前に座ってた距離より近づいて。
「えっと、じゃあ……」
恥ずかしそうに俯きながら口を開いたさっちゃんの横顔を俺は眺める。
そして、ポツポツとさっちゃんは昔の話を始めた。
健太君とは家が近所の幼なじみだった事。そして彼に言われた、さっちゃんを縛っている言葉の事。
時折苦しそうに、泣きそうな顔して話すさっちゃんを、俺は呆れるなんてカケラも思う事はない。
ただ抱きしめて、一言伝えたい事があった。
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