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さっちゃんが戻ってくるまでにとりあえず何かプランを考えていよう。
そう思い立ち、また車に戻るとスマホとにらめっこを始める。
どうしよう。水族館とか動物園とか、さっちゃんの好きなテーマパークに行ってみる?って考えてみても、クリスマスの土曜日。どこも激混みなんだろうな、って言う想像しか出来ない。
俺は別にさっちゃんと居られればそれでいいんだけど、それはこっちの都合で、さっちゃんはきっと楽しくないだろう。
もういいや。スマートじゃなくてもさっちゃんに聞こう!と俺はスマホの画面を消してポケットにしまった。
フロントガラスの向こうに目をやると、今から何処かへ出かけるのか、小さな子供を真ん中にして手を繋ぐ親子の姿が見えた。
結婚……かぁ。
そう言えば、俺は結婚したいって言っていたけど、それがゴールのような感覚でいたかも知れない。結婚はスタートで、その先はずっと続いている。子どもが出来て、その子は成長していく。でもそんなの考えた事なかったな、と思う。
さっちゃんが彼女になってくれたらいいのにって思うけど、その先は……一体どうなんだろう?
ぼんやり外を眺めながらそんな事を考えていると、助手席側のガラスがトントンと鳴った。
そちらに目を向けると、さっちゃんがこちらを覗き込んでいる。ロックを解除すると、さっちゃんはドアをゆっくり開けてそこに乗り込むと、俺にカップを差し出した。
「すみません。お待たせして。良かったらこれ……」
いつの間にかコンビニで買ってきたらしいコーヒー。
「ありがとう。さっちゃんは寒くない?」
カップを持つその両手を、温めるように俺は包み込む。その小さな手の甲はひんやりとしていた。
「あ……」
顔を少し赤らめて、俯き気味にさっちゃんは小さく声を漏らした。
今俺の事、少しは男として意識してくれてる?それとも、やっぱりお父さんのまま?
そんな自分の狡い行動に自分で呆れながら、ゆっくりと手を離して俺はカップを受け取った。
「さっちゃん。実はさ、今日どこに行くかも何するかも考えてないんだよね。何かないかな?」
コーヒーのカップを口に運びながら、横にいるさっちゃんに尋ねてみる。
「私も……何も思いつかなくて。でも、ケーキ買って来たんです。コンビニのですけど、美味しいとは思います。とりあえず、一緒に食べませんか?」
「そうだね。じゃあ、今日はより気合いを入れて美味しい紅茶淹れるね?」
さっちゃんにそう言うと、さっちゃんはスイーツみたいな甘い顔をして微笑んだ。
◆◆
「では。いただきます!」
ちょうど午後のティータイムの時間。目の前には俺の淹れた紅茶に、さっちゃんが買って来てくれたショコラケーキ。それに、昨日貰った白い苺を添えた。
「一段と豪華になりましたね」
目の前に置かれた皿に、さっちゃんは目を輝かせて言う。
「だね。ちょっと高級なティーサロンみたい。コンビニのケーキも侮れないよ」
「紅茶も……凄く本格的です」
俺が淹れた紅茶。前はコーヒー用のビーカーを代用したけど、その後やっぱりちゃんと淹れたいなぁ、とティーポットや紅茶用のカップを揃えた。昔、母が家で使っていたものを思い出して。
「前よりは美味しくなったかな?冷めないうちにどうぞ?」
俺が促すと、さっちゃんは笑みを浮かべてカップを口に運んだ。
「……美味しい。いい香りがします」
驚いたようにこちらを見るさっちゃんに、俺は笑いかけながら答える。
「母が好きだったのを買ってみたんだけど、いい香りだね」
匂いを嗅ぐようにカップを顔に近づけると、湯気と共に紅茶の良い香りが漂って来た。
懐かしい紅茶の香り。それに記憶が呼び覚まされるように、ふと両親の顔が浮かんだ。
『睦月も大きくなったら、好きな子に淹れてあげてね』
俺に紅茶の淹れ方を教えながらそんな事を言う母と、母の淹れた紅茶を美味しそうに飲む父。
淹れてあげられたよ。母さん……
俺は、そんな事を心の中で呟きながら、苺を口に運ぶさっちゃんを眺める。
『ずっと、歳を重ねてもこんな風にお茶を楽しみたい』って言う両親の叶えられなかった願いを、俺が代わりに叶えられたらいいのに……。
俺はゆっくりと紅茶を楽しみながら、そんな事を思った。
「わ、甘い!」
意識せずそう口に出すさっちゃんを、俺は微笑ましく見つめる。
「そうなの?見た目はそう見えないのにね」
そう言いながら、俺も白い苺を口に放り込む。赤い方が甘そうと言う固定観念。でも、その見た目とは違い、思っているより甘く美味しい。
まるで、さっちゃんみたい。
ショートヘアでボーイッシュな服装の多いさっちゃん。でも本当は、とっても可愛らしい女の子だと俺は思っている。
まぁ、俺以外の前であんまり可愛くいられても困るけどね。
なんて、ちょっとした独占欲を出してそう思う。
「本当に。甘くて美味しいや。ありがとう、さっちゃん」
俺の言葉に照れたように頬を染めて、「こちらこそ。お裾分けありがとうございます」とさっちゃんは小さく微笑んでそう答えた。
それから2人で、取り留めもない話をしながら、俺達はクリスマスのティータイムを楽しんだ。
そう思い立ち、また車に戻るとスマホとにらめっこを始める。
どうしよう。水族館とか動物園とか、さっちゃんの好きなテーマパークに行ってみる?って考えてみても、クリスマスの土曜日。どこも激混みなんだろうな、って言う想像しか出来ない。
俺は別にさっちゃんと居られればそれでいいんだけど、それはこっちの都合で、さっちゃんはきっと楽しくないだろう。
もういいや。スマートじゃなくてもさっちゃんに聞こう!と俺はスマホの画面を消してポケットにしまった。
フロントガラスの向こうに目をやると、今から何処かへ出かけるのか、小さな子供を真ん中にして手を繋ぐ親子の姿が見えた。
結婚……かぁ。
そう言えば、俺は結婚したいって言っていたけど、それがゴールのような感覚でいたかも知れない。結婚はスタートで、その先はずっと続いている。子どもが出来て、その子は成長していく。でもそんなの考えた事なかったな、と思う。
さっちゃんが彼女になってくれたらいいのにって思うけど、その先は……一体どうなんだろう?
ぼんやり外を眺めながらそんな事を考えていると、助手席側のガラスがトントンと鳴った。
そちらに目を向けると、さっちゃんがこちらを覗き込んでいる。ロックを解除すると、さっちゃんはドアをゆっくり開けてそこに乗り込むと、俺にカップを差し出した。
「すみません。お待たせして。良かったらこれ……」
いつの間にかコンビニで買ってきたらしいコーヒー。
「ありがとう。さっちゃんは寒くない?」
カップを持つその両手を、温めるように俺は包み込む。その小さな手の甲はひんやりとしていた。
「あ……」
顔を少し赤らめて、俯き気味にさっちゃんは小さく声を漏らした。
今俺の事、少しは男として意識してくれてる?それとも、やっぱりお父さんのまま?
そんな自分の狡い行動に自分で呆れながら、ゆっくりと手を離して俺はカップを受け取った。
「さっちゃん。実はさ、今日どこに行くかも何するかも考えてないんだよね。何かないかな?」
コーヒーのカップを口に運びながら、横にいるさっちゃんに尋ねてみる。
「私も……何も思いつかなくて。でも、ケーキ買って来たんです。コンビニのですけど、美味しいとは思います。とりあえず、一緒に食べませんか?」
「そうだね。じゃあ、今日はより気合いを入れて美味しい紅茶淹れるね?」
さっちゃんにそう言うと、さっちゃんはスイーツみたいな甘い顔をして微笑んだ。
◆◆
「では。いただきます!」
ちょうど午後のティータイムの時間。目の前には俺の淹れた紅茶に、さっちゃんが買って来てくれたショコラケーキ。それに、昨日貰った白い苺を添えた。
「一段と豪華になりましたね」
目の前に置かれた皿に、さっちゃんは目を輝かせて言う。
「だね。ちょっと高級なティーサロンみたい。コンビニのケーキも侮れないよ」
「紅茶も……凄く本格的です」
俺が淹れた紅茶。前はコーヒー用のビーカーを代用したけど、その後やっぱりちゃんと淹れたいなぁ、とティーポットや紅茶用のカップを揃えた。昔、母が家で使っていたものを思い出して。
「前よりは美味しくなったかな?冷めないうちにどうぞ?」
俺が促すと、さっちゃんは笑みを浮かべてカップを口に運んだ。
「……美味しい。いい香りがします」
驚いたようにこちらを見るさっちゃんに、俺は笑いかけながら答える。
「母が好きだったのを買ってみたんだけど、いい香りだね」
匂いを嗅ぐようにカップを顔に近づけると、湯気と共に紅茶の良い香りが漂って来た。
懐かしい紅茶の香り。それに記憶が呼び覚まされるように、ふと両親の顔が浮かんだ。
『睦月も大きくなったら、好きな子に淹れてあげてね』
俺に紅茶の淹れ方を教えながらそんな事を言う母と、母の淹れた紅茶を美味しそうに飲む父。
淹れてあげられたよ。母さん……
俺は、そんな事を心の中で呟きながら、苺を口に運ぶさっちゃんを眺める。
『ずっと、歳を重ねてもこんな風にお茶を楽しみたい』って言う両親の叶えられなかった願いを、俺が代わりに叶えられたらいいのに……。
俺はゆっくりと紅茶を楽しみながら、そんな事を思った。
「わ、甘い!」
意識せずそう口に出すさっちゃんを、俺は微笑ましく見つめる。
「そうなの?見た目はそう見えないのにね」
そう言いながら、俺も白い苺を口に放り込む。赤い方が甘そうと言う固定観念。でも、その見た目とは違い、思っているより甘く美味しい。
まるで、さっちゃんみたい。
ショートヘアでボーイッシュな服装の多いさっちゃん。でも本当は、とっても可愛らしい女の子だと俺は思っている。
まぁ、俺以外の前であんまり可愛くいられても困るけどね。
なんて、ちょっとした独占欲を出してそう思う。
「本当に。甘くて美味しいや。ありがとう、さっちゃん」
俺の言葉に照れたように頬を染めて、「こちらこそ。お裾分けありがとうございます」とさっちゃんは小さく微笑んでそう答えた。
それから2人で、取り留めもない話をしながら、俺達はクリスマスのティータイムを楽しんだ。
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