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帰って、早速さっちゃんがくれた包みを開けてみる。一緒に行ったデパートとは違うところの包装紙に包まれたそれを開けると、そこには……。

「白い……いちごだ……」

ネットなんかでは見かけた事のある白い苺。出始めたのはここ数年のことらしく、もちろん俺は本物を初めて見る。果物だから確かにそう日持ちはしないし、間違いなく忙しい合間を縫ってわざわざ買って来てくれたに違いない。
そう思うと、勿体なくって食べるのを躊躇してしまう。

「さっちゃんと食べたかったなぁ」

つい本音が口から溢れる。近いうち会ってはくれそうだけど、そこまで持つのか分からない。それに、まさか一緒に食べたいから家に来ない?何て言えるわけない。

とりあえず、お礼のメッセージだけ入れようとスマホを開けると、先にさっちゃんからメッセージが来ていた。

俺の渡したグラスの写真と『ありがとうございます。使うの勿体ないです』と言葉を添えて。

それを見て顔が緩んでしまう。同じ事考えてるんだって。俺も苺の写真と一緒にメッセージを送る。

『こちらこそありがとう。食べるの勿体なくって眺めてるところ』

すると、すぐに返事が返って来た。

『私は食べた事ないんですけど、とっても甘いらしいですよ。傷む前に食べて下さいね』
『さっちゃん食べた事ないんだ。じゃあ、一緒に食べる?』

この会話の流れの勢いで、ついそんなメッセージを送ってしまった。けど、既読は付いたのに返事が返って来ない。

もしかして、返事に困ってる?俺は本気だけど、文面でそんな事分かる訳ないし、また揶揄われてるって思ってるかも。逃げ道用意した方が……いいか。

そう思って、冗談だよって打とうとしたら、短いメッセージがやって来た。

『今電話していいですか?』

いいよって返す前に、俺はすぐに電話をかける。コール音は一回で途切れ、電話の向こうで息を飲むような気配がした。

『あの……睦月さん。私も……食べてみたいです』

きっと、今さっちゃんの顔は、熟した苺みたいに真っ赤なんだろうなぁ、なんて想像してみる。

「うん。食べにおいでよ。……明日でも、明後日でも。空いてるから」
『……いいんですか?』

少しだけ申し訳なさそうにそんな声を出すさっちゃんに、俺は笑って返す。

「もちろん。じゃあさ、明日でもいい?お昼から迎えに行くよ」

もう、無理矢理に約束を取り付けるように言ってみる。だって、毎日でも会いたいから。ずっと一緒にいたいって気持ちを、俺は押さえられそうにない。

『……はい。楽しみです』

さっちゃんの恥ずかしそうなその声を、俺は、はやる気持ちで聞いていた。


次の日。よくよく考えたら世間では今日はクリスマス。
何処へ行こうが人だらけなんだろうなぁと思うけど、まさかこんな事になるなんて思ってもいなかったから、店の一つも予約なんてしてるわけもなく、ノープランだ。

迎えに行くねって言った時間より30分も前。俺はさっちゃんの家の近所にあるコンビニの駐車場で途方に暮れていた。
まさか苺だけ食べて、ハイ、さよならなんて事はするつもりはないし、スーパーで何か買って一緒に食べる?と頭の中でグルグル考えていた。

ふと、運転席から顔を上げると、向こう側に、犬を連れた女の子がこちらをじっと見ているのに気づいた。
まさか?と思って車から降りると、向こうもこちらに駆け寄ってくる。

「睦月さん?どうしたんですか?こんなところで」

飴色をした可愛らしいミニチュアダックスを連れて、さっちゃんはそう声を上げる。

「早く来すぎたから時間潰してた……」

そう言いながらさっちゃんに近づくと、その可愛らしい犬は俺を見た途端に盛大に吠え始めた。

「かっ、かんちゃん⁈」

手綱を後ろに引くように、さっちゃんは制止しようとするが、そのかんちゃんは俺に飛び付かんばかりに吠えている。

分かるよ……。お姫様を守る騎士ナイトなんだもんね、君は。

そんな事を思いながら苦笑いする。

「すみません!この子あんまり男の人に慣れてなくて」

あまりに鳴くものだから、さっちゃんはかんちゃんを腕に抱えてそう言った。

「ビックリしたんだよね。かんちゃん?」

かんちゃんに話しかけるように言うと、背中をくねらせて俺の方を見てまた吠える。

これは手強いかも……

今までペットというものを飼った事がなくて、可愛いなぁとは思うけど、犬の事はよく分からない。でも、今の時点で好かれていないのは確かだ。

「あの、まだ何も用意してなくて。一度家に帰らなきゃいけないんです」
「俺が早く来すぎたんだから気にしないで。ここで待ってるから」

ついて行ったらかんちゃんにずっと吠えられそうだし、家の外で待ってもさっちゃんを急かすようで悪い。

「じゃあ、急いで用意してきます」

腕の中で暴れ始めたかんちゃんを下ろして、さっちゃんは慌てたように言う。

「ゆっくり用意して来て」
「はい。じゃあ、もう少しだけ待ってて下さい」

そう言うと、さっちゃんはかんちゃんと駆け出す。それを可愛いなぁって見送りながら、ナイトに認められるのは一体いつになるんだろう……と、俺は溜め息を吐き出した。
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