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「ごめんね。遅くまで付き合わせて」
俺が遅くなってしまったせいで、さっちゃんの帰りまで遅くなってしまい、俺は車に乗り込むと助手席に乗るさっちゃんにまず謝った。
「いえ。気にしないで下さい。睦月さんのせいじゃないですから」
さっちゃんはそう言いながら、はにかんでいる。その顔を意識してしまいそうで、俺は視線を外してエンジンをかけた。
さっきの謎の賭け。香緒はやっぱり、俺がさっちゃんのこと、どう思ってるか気づいてるんだろうなぁと思う。俺を励ましつつ、さっちゃんの方をチラチラ見ていたから。
弱気って言われても、弱気にもなるさ……。これだけ歳も離れている上に、さっちゃんは男が苦手なんだから
そんな事を思いながら、夜の街を走り出す。年末の一番華やかな街。途中の並木道のイルミネーションが綺麗で、食い入るようにさっちゃんはそれを眺めている。
チャンスは掴めと言われても、そのチャンスはいつやってくるのだろうか。今は、俺の事を好きになって欲しいって気持ちより、嫌いにならないで欲しいって気持ちの方が強い。
それに今、さっちゃんに告白でもしようものなら、賭けに乗っかったみたいに受け取られてしまいそうで怖い。
何か……1年後、結婚どころか同じ事をグダグダ考えてそうだ。
そんな事を思っているうち、あっという間にさっちゃんの家の前に着いた。
「ありがとうございました……」
シートベルトを外してさっちゃんは俺を見上げて言う。
「えーと。今日は家の前まで送って行ってもいい?」
少しだけでも長くさっちゃんといたいから、そんな悪足掻きをしてみる。さっちゃんは、「はい……」と小さく返事をして頷いた。
仕事用のいつもの大きなバッグに、俺の渡したグラスの入った紙袋の両方を手に持って、俺はさっちゃんのあとを続く。
エレベーターに乗って4階で降りた奥から二番目。そこがさっちゃんの家だった。そう広くない家の前で、俺はさっちゃんと向き合った。
「はい。今日は……ちょっとしか参加出来なかったけど、楽しかったよ」
さっちゃんの荷物を差し出してそう言うと、さっちゃんは受け取った荷物を目の前で開け始めた。
「あの、これ。遅くなったんですけど……」
そう言って、さっちゃんは取り出した包みを俺に差し出した。
「え?俺に?いいの?」
「はい……。大したものじゃないんですけど」
恥ずかしそうな顔をして俺を見上げるさっちゃんのその手から、俺は包みを受け取った。
「日持ちはあまりしないので……早めに食べて下さい」
その台詞に、もしかしてわざわざこれだけ買いに行ってくれたのかと、俺は嬉しくなった。
「ありがとう。さっちゃん。楽しみだな」
心の底からそう思う。さっちゃんが選んでくれたのなら、例え駄菓子一つでも嬉しい。きっと相手の事を思いながら色々考えて選んでくれた筈だから。
「はい……」
それだけ言って俯くさっちゃんの頭をそっと撫でて「じゃあ、またね」と俺は言う。
このままじゃ自分が何を仕出かすか分からない。すでに抱きしめたいな、って思ってるのをなんとか堪えているのに。
「あのっ……!」
俺が去ろうとすると、急にさっちゃんは顔を上げ、少し必死な形相で何か訴えかけるようにそう口にした。
「どうかした?」
その様子に驚きながらそう尋ねると、さっちゃんは開きかけた口を閉じて、シュンとした様に肩を落とすと「ら……来年も、よろしくお願いします」と小さく言った。
「こちらこそ。……さっちゃんは、いつまで仕事?」
「私は週明け月曜日が最後です」
「そっか。俺も。……また、誘ってもいい……かな?」
どうしようか悩んだけど、思い切って口に出してみた台詞。そんな簡単な言葉なのに、心臓がバクバクいってるのがわかる。何の理由もない誘い。さっちゃんは一体どう思っているのだろうか。勢いに任せて言ってしまったけれど、その答えが怖い。
さっちゃんはしばらくポカンと口を開けたまま俺を見ていたが、急に意識が戻ったようにハッとしている。
「え?いいんですか?」
そう言ったさっちゃんの顔は、ほんのりと赤く染まったように見えた。
これって俺の勘違い?それとも期待していいの?もう、なんだっていいや。少しでも、さっちゃんが俺といてもいいと思ってくれてるならそれで。
「もちろん。この年末年始、何の予定も入ってないし、さっちゃんも田舎に帰らないって聞いたから。よければ最新のスポット案内してくれないかな?」
あくまでも、友達を誘うみたいな口調でそう言うと、さっちゃんは笑顔になった。
「私も行った事ない場所沢山あるんです。行ってみたいところも……。こちらこそ、よろしくお願いします」
香緒に向けるような顔でそう言うさっちゃんを見ながら、これって、チャンスって事なの?なんて、つい期待してしまう。
そうだね。香緒。俺、頑張ってみるよ。行動しなきゃ始まらない
「じゃあ、行きたいところ、考えておいてね。何箇所でも、何日でも付き合うから」
さっちゃんの顔を覗き込むようにして言うと、より赤みを増した頬を押さえて「はい。考えます。たくさん……」と可愛らしく答えた。
俺が遅くなってしまったせいで、さっちゃんの帰りまで遅くなってしまい、俺は車に乗り込むと助手席に乗るさっちゃんにまず謝った。
「いえ。気にしないで下さい。睦月さんのせいじゃないですから」
さっちゃんはそう言いながら、はにかんでいる。その顔を意識してしまいそうで、俺は視線を外してエンジンをかけた。
さっきの謎の賭け。香緒はやっぱり、俺がさっちゃんのこと、どう思ってるか気づいてるんだろうなぁと思う。俺を励ましつつ、さっちゃんの方をチラチラ見ていたから。
弱気って言われても、弱気にもなるさ……。これだけ歳も離れている上に、さっちゃんは男が苦手なんだから
そんな事を思いながら、夜の街を走り出す。年末の一番華やかな街。途中の並木道のイルミネーションが綺麗で、食い入るようにさっちゃんはそれを眺めている。
チャンスは掴めと言われても、そのチャンスはいつやってくるのだろうか。今は、俺の事を好きになって欲しいって気持ちより、嫌いにならないで欲しいって気持ちの方が強い。
それに今、さっちゃんに告白でもしようものなら、賭けに乗っかったみたいに受け取られてしまいそうで怖い。
何か……1年後、結婚どころか同じ事をグダグダ考えてそうだ。
そんな事を思っているうち、あっという間にさっちゃんの家の前に着いた。
「ありがとうございました……」
シートベルトを外してさっちゃんは俺を見上げて言う。
「えーと。今日は家の前まで送って行ってもいい?」
少しだけでも長くさっちゃんといたいから、そんな悪足掻きをしてみる。さっちゃんは、「はい……」と小さく返事をして頷いた。
仕事用のいつもの大きなバッグに、俺の渡したグラスの入った紙袋の両方を手に持って、俺はさっちゃんのあとを続く。
エレベーターに乗って4階で降りた奥から二番目。そこがさっちゃんの家だった。そう広くない家の前で、俺はさっちゃんと向き合った。
「はい。今日は……ちょっとしか参加出来なかったけど、楽しかったよ」
さっちゃんの荷物を差し出してそう言うと、さっちゃんは受け取った荷物を目の前で開け始めた。
「あの、これ。遅くなったんですけど……」
そう言って、さっちゃんは取り出した包みを俺に差し出した。
「え?俺に?いいの?」
「はい……。大したものじゃないんですけど」
恥ずかしそうな顔をして俺を見上げるさっちゃんのその手から、俺は包みを受け取った。
「日持ちはあまりしないので……早めに食べて下さい」
その台詞に、もしかしてわざわざこれだけ買いに行ってくれたのかと、俺は嬉しくなった。
「ありがとう。さっちゃん。楽しみだな」
心の底からそう思う。さっちゃんが選んでくれたのなら、例え駄菓子一つでも嬉しい。きっと相手の事を思いながら色々考えて選んでくれた筈だから。
「はい……」
それだけ言って俯くさっちゃんの頭をそっと撫でて「じゃあ、またね」と俺は言う。
このままじゃ自分が何を仕出かすか分からない。すでに抱きしめたいな、って思ってるのをなんとか堪えているのに。
「あのっ……!」
俺が去ろうとすると、急にさっちゃんは顔を上げ、少し必死な形相で何か訴えかけるようにそう口にした。
「どうかした?」
その様子に驚きながらそう尋ねると、さっちゃんは開きかけた口を閉じて、シュンとした様に肩を落とすと「ら……来年も、よろしくお願いします」と小さく言った。
「こちらこそ。……さっちゃんは、いつまで仕事?」
「私は週明け月曜日が最後です」
「そっか。俺も。……また、誘ってもいい……かな?」
どうしようか悩んだけど、思い切って口に出してみた台詞。そんな簡単な言葉なのに、心臓がバクバクいってるのがわかる。何の理由もない誘い。さっちゃんは一体どう思っているのだろうか。勢いに任せて言ってしまったけれど、その答えが怖い。
さっちゃんはしばらくポカンと口を開けたまま俺を見ていたが、急に意識が戻ったようにハッとしている。
「え?いいんですか?」
そう言ったさっちゃんの顔は、ほんのりと赤く染まったように見えた。
これって俺の勘違い?それとも期待していいの?もう、なんだっていいや。少しでも、さっちゃんが俺といてもいいと思ってくれてるならそれで。
「もちろん。この年末年始、何の予定も入ってないし、さっちゃんも田舎に帰らないって聞いたから。よければ最新のスポット案内してくれないかな?」
あくまでも、友達を誘うみたいな口調でそう言うと、さっちゃんは笑顔になった。
「私も行った事ない場所沢山あるんです。行ってみたいところも……。こちらこそ、よろしくお願いします」
香緒に向けるような顔でそう言うさっちゃんを見ながら、これって、チャンスって事なの?なんて、つい期待してしまう。
そうだね。香緒。俺、頑張ってみるよ。行動しなきゃ始まらない
「じゃあ、行きたいところ、考えておいてね。何箇所でも、何日でも付き合うから」
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