年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

文字の大きさ
上 下
50 / 183
14

1

しおりを挟む
「ごめんね。遅くまで付き合わせて」

俺が遅くなってしまったせいで、さっちゃんの帰りまで遅くなってしまい、俺は車に乗り込むと助手席に乗るさっちゃんにまず謝った。

「いえ。気にしないで下さい。睦月さんのせいじゃないですから」

さっちゃんはそう言いながら、はにかんでいる。その顔を意識してしまいそうで、俺は視線を外してエンジンをかけた。

さっきの謎の賭け。香緒はやっぱり、俺がさっちゃんのこと、どう思ってるか気づいてるんだろうなぁと思う。俺を励ましつつ、さっちゃんの方をチラチラ見ていたから。

弱気って言われても、弱気にもなるさ……。これだけ歳も離れている上に、さっちゃんは男が苦手なんだから

そんな事を思いながら、夜の街を走り出す。年末の一番華やかな街。途中の並木道のイルミネーションが綺麗で、食い入るようにさっちゃんはそれを眺めている。

チャンスは掴めと言われても、そのチャンスはいつやってくるのだろうか。今は、俺の事を好きになって欲しいって気持ちより、嫌いにならないで欲しいって気持ちの方が強い。
それに今、さっちゃんに告白でもしようものなら、賭けに乗っかったみたいに受け取られてしまいそうで怖い。

何か……1年後、結婚どころか同じ事をグダグダ考えてそうだ。

そんな事を思っているうち、あっという間にさっちゃんの家の前に着いた。

「ありがとうございました……」

シートベルトを外してさっちゃんは俺を見上げて言う。

「えーと。今日は家の前まで送って行ってもいい?」

少しだけでも長くさっちゃんといたいから、そんな悪足掻きをしてみる。さっちゃんは、「はい……」と小さく返事をして頷いた。

仕事用のいつもの大きなバッグに、俺の渡したグラスの入った紙袋の両方を手に持って、俺はさっちゃんのあとを続く。

エレベーターに乗って4階で降りた奥から二番目。そこがさっちゃんの家だった。そう広くない家の前で、俺はさっちゃんと向き合った。

「はい。今日は……ちょっとしか参加出来なかったけど、楽しかったよ」

さっちゃんの荷物を差し出してそう言うと、さっちゃんは受け取った荷物を目の前で開け始めた。

「あの、これ。遅くなったんですけど……」

そう言って、さっちゃんは取り出した包みを俺に差し出した。

「え?俺に?いいの?」
「はい……。大したものじゃないんですけど」

恥ずかしそうな顔をして俺を見上げるさっちゃんのその手から、俺は包みを受け取った。

「日持ちはあまりしないので……早めに食べて下さい」

その台詞に、もしかしてわざわざこれだけ買いに行ってくれたのかと、俺は嬉しくなった。

「ありがとう。さっちゃん。楽しみだな」

心の底からそう思う。さっちゃんが選んでくれたのなら、例え駄菓子一つでも嬉しい。きっと相手の事を思いながら色々考えて選んでくれた筈だから。

「はい……」

それだけ言って俯くさっちゃんの頭をそっと撫でて「じゃあ、またね」と俺は言う。
このままじゃ自分が何を仕出かすか分からない。すでに抱きしめたいな、って思ってるのをなんとか堪えているのに。

「あのっ……!」

俺が去ろうとすると、急にさっちゃんは顔を上げ、少し必死な形相で何か訴えかけるようにそう口にした。

「どうかした?」

その様子に驚きながらそう尋ねると、さっちゃんは開きかけた口を閉じて、シュンとした様に肩を落とすと「ら……来年も、よろしくお願いします」と小さく言った。

「こちらこそ。……さっちゃんは、いつまで仕事?」
「私は週明け月曜日が最後です」
「そっか。俺も。……また、誘ってもいい……かな?」

どうしようか悩んだけど、思い切って口に出してみた台詞。そんな簡単な言葉なのに、心臓がバクバクいってるのがわかる。何の理由もない誘い。さっちゃんは一体どう思っているのだろうか。勢いに任せて言ってしまったけれど、その答えが怖い。

さっちゃんはしばらくポカンと口を開けたまま俺を見ていたが、急に意識が戻ったようにハッとしている。

「え?いいんですか?」

そう言ったさっちゃんの顔は、ほんのりと赤く染まったように見えた。

これって俺の勘違い?それとも期待していいの?もう、なんだっていいや。少しでも、さっちゃんが俺といてもいいと思ってくれてるならそれで。

「もちろん。この年末年始、何の予定も入ってないし、さっちゃんも田舎に帰らないって聞いたから。よければ最新のスポット案内してくれないかな?」

あくまでも、友達を誘うみたいな口調でそう言うと、さっちゃんは笑顔になった。

「私も行った事ない場所沢山あるんです。行ってみたいところも……。こちらこそ、よろしくお願いします」

香緒に向けるような顔でそう言うさっちゃんを見ながら、これって、チャンスって事なの?なんて、つい期待してしまう。

そうだね。香緒。俺、頑張ってみるよ。行動しなきゃ始まらない

「じゃあ、行きたいところ、考えておいてね。何箇所でも、何日でも付き合うから」

さっちゃんの顔を覗き込むようにして言うと、より赤みを増した頬を押さえて「はい。考えます。たくさん……」と可愛らしく答えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜

玖羽 望月
恋愛
 親族に代々議員を輩出するような家に生まれ育った鷹柳実乃莉は、意に沿わぬお見合いをさせられる。  なんとか相手から断ってもらおうとイメージチェンジをし待ち合わせのレストランに向かった。  そこで案内された席にいたのは皆上龍だった。  が、それがすでに間違いの始まりだった。 鷹柳 実乃莉【たかやなぎ みのり】22才  何事も控えめにと育てられてきたお嬢様。 皆上 龍【みなかみ りょう】 33才 自分で一から始めた会社の社長。  作中に登場する職業や内容はまったくの想像です。実際とはかけ離れているかと思います。ご了承ください。 初出はエブリスタにて。 2023.4.24〜2023.8.9

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...