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武琉君の持って来たお水を渋々口に含むと、香緒ちゃんは顔を上げた。
「でね。さっきの続き」
陽気に言う香緒ちゃんに、「さっき?」と武琉君が尋ねた。
「睦月君が来る前に話してたこと!」
睦月さんが来る直前と言えば、睦月さんの結婚願望について、だった筈だ。本人を目の前にその話をするの?とドキドキしながら私は様子を見守った。
「賭けない?」
あまりにも唐突過ぎて、香緒ちゃん以外のみんなが一斉に香緒ちゃんを凝視すると、「賭け?」と口にした。
「そう!負けたら来年のこの会の費用を持つ。どう?」
「……一体何を賭けるんだ……」
希海さんは、香緒ちゃんがもう止まらないと分かっているのか、多少呆れながらもそう尋ねた。
「1年後のお疲れ様会までに、睦月君が結婚してるかどうか、だよ?」
「えっ!俺⁈」
さっきの話が何か分からない睦月さんは、武琉君の料理に手をつけ始めたばかりだった。
正直なところ、酔っ払いの香緒ちゃんは私達に任せて……と思っていたのかも知れない。そんな、ちょっと気を抜いていたところに唐突に振られ、しかも内容が内容だけに、箸を落とさんばかりに驚いていた。
「ちょっと待って!そんな賭け成立しないからさ!彼女もいないのに1年後、結婚してるわけないでしょ!」
慌てたように返す睦月さんに、香緒ちゃんは得意げに「そんな事ないよ?」と返した。
それから香緒ちゃんは握り拳を作り、希海さんの前に突き出す。マイクの代わり……のようだ。
「じゃあ、希海からね!どっちに賭ける?」
香緒ちゃんの勢いに押されている希海さんは、珍しく困惑気味な表情を見せている。
「俺は……さすがに、してない……と思う」
申し訳なさそうにそう言いながらチラリと睦月さんを見る希海さんに、睦月さんは「だよね」と残念そうに返す。
「じゃあ次、武琉ね」
そう振られた武琉君は、少し考えてからこう言った。
「俺は……してる……と言うか、してたら良いなって思う」
真っ直ぐにそう言う武琉君に、その誠実さが現れていると思った。
隣で香緒ちゃんは「さすが武琉!」とニコニコしている。
「じゃ、さっちゃんは?」
当たり前だけど、逃れられる筈もなく、私は俯き気味に口を開いた。
「私は……。して……ない……と思う」
これはただの、私の願望だ。1年後、もし、睦月さんが「奥さんだよ」って、見たこともない誰かを連れて来る姿なんて見たくない。早く結婚したいって言う睦月さんには悪いけど、今はまだそんな話を聞きたくない。
「ふぅん。さっちゃんはそっちかぁ」
何故か香緒ちゃんが、残念そうにそう呟いた。
「そう言う香緒は、いったいどっちなのさ……」
もうすっかり諦めの境地で尋ねる睦月さんに、香緒ちゃんは悪戯っぽい笑顔を向けた。
「僕はもちろん、してる、に賭けるよ?」
そうきっぱりと睦月さんに向けて言うと、香緒ちゃんはその横の私に視線を動かした。
もしかして……香緒ちゃんは、その相手が私だったらいいと思ってる?
そのくらいにニコニコしながら、私を見ていた。
「香緒……ギャンブラーだなぁ……」
睦月さんは、そんな香緒ちゃんを見ながら、面食らうように呟く。
「あ、睦月君、僕が適当に賭けてると思ってるでしょ?あのね……。一つ言っとく」
香緒ちゃんは余計に酔いが回ってきたのか、よりフワフワした様子を見せながらも、はっきりした口調で続けた。
「人が恋に落ちるのに、時間も会った回数も関係ないからね?それ、もちろん睦月君は実感してるよね?チャンスは自分で掴まなきゃ!」
まるで睦月さんだけじゃなくて、私にも言っているように、香緒ちゃんは時々私の方を見る。
私だって実感してる。
武琉君に再会して半年程で結婚式を挙げた2人に、睦月さんに一番身近な長門さんと瑤子さん。
私だって、チャンスが訪れるならそうしたいよ……
そう思いながら、チラリと横にいる睦月さんを見ると、ちょっと驚いたように目を開くその人と目が合った。
私が睦月さんがこっちを見てた事に驚いていると、そんな私を気にする事なくニコリと笑ってから香緒ちゃんの方を向き直した。
「でもさ、さすがに1年は無理でしょ」
そんな睦月さんに、香緒ちゃんは両手を握り自分の両脇で降りながら、「何言ってるの睦月君!弱気!頑張って!」と励ますように言った。
「そうだね。頑張るよ、香緒……」
睦月さんは、そんな香緒ちゃんに、ふわりと笑いながらそう答えた。
「財閥VSスペシャルシェフの戦いだね。ごめんね武琉。負けちゃっても僕、材料費出すのとお皿並べるくらいしか出来ないけど」
「大丈夫だ」
武琉君は、そう言って優しく香緒ちゃんに返す柔らかい空気感を、羨ましく思いながら私は眺めた。
その後、香緒ちゃんは突然「眠い!」と言い出して、武琉君に抱き抱えられ……もちろんお姫様抱っこで……この部屋を後にした。
「すみません。香緒が……」
希海さんは、ようやく本格的に食べ始めた睦月さんを前に、そう謝る。
「あぁ。気にしてないよ?香緒がお酒飲むところなんて、そう言えば初めてだけど、いっつもあんな感じ?」
睦月さんは、笑顔を浮かべて希海さんに尋ねる。
「たまに……。特に家で飲むと気が緩むみたいで。今日は特にいつもより浮かれてたみたいです」
希海さんは頭を抱えるようにして、そう答えた。
「でね。さっきの続き」
陽気に言う香緒ちゃんに、「さっき?」と武琉君が尋ねた。
「睦月君が来る前に話してたこと!」
睦月さんが来る直前と言えば、睦月さんの結婚願望について、だった筈だ。本人を目の前にその話をするの?とドキドキしながら私は様子を見守った。
「賭けない?」
あまりにも唐突過ぎて、香緒ちゃん以外のみんなが一斉に香緒ちゃんを凝視すると、「賭け?」と口にした。
「そう!負けたら来年のこの会の費用を持つ。どう?」
「……一体何を賭けるんだ……」
希海さんは、香緒ちゃんがもう止まらないと分かっているのか、多少呆れながらもそう尋ねた。
「1年後のお疲れ様会までに、睦月君が結婚してるかどうか、だよ?」
「えっ!俺⁈」
さっきの話が何か分からない睦月さんは、武琉君の料理に手をつけ始めたばかりだった。
正直なところ、酔っ払いの香緒ちゃんは私達に任せて……と思っていたのかも知れない。そんな、ちょっと気を抜いていたところに唐突に振られ、しかも内容が内容だけに、箸を落とさんばかりに驚いていた。
「ちょっと待って!そんな賭け成立しないからさ!彼女もいないのに1年後、結婚してるわけないでしょ!」
慌てたように返す睦月さんに、香緒ちゃんは得意げに「そんな事ないよ?」と返した。
それから香緒ちゃんは握り拳を作り、希海さんの前に突き出す。マイクの代わり……のようだ。
「じゃあ、希海からね!どっちに賭ける?」
香緒ちゃんの勢いに押されている希海さんは、珍しく困惑気味な表情を見せている。
「俺は……さすがに、してない……と思う」
申し訳なさそうにそう言いながらチラリと睦月さんを見る希海さんに、睦月さんは「だよね」と残念そうに返す。
「じゃあ次、武琉ね」
そう振られた武琉君は、少し考えてからこう言った。
「俺は……してる……と言うか、してたら良いなって思う」
真っ直ぐにそう言う武琉君に、その誠実さが現れていると思った。
隣で香緒ちゃんは「さすが武琉!」とニコニコしている。
「じゃ、さっちゃんは?」
当たり前だけど、逃れられる筈もなく、私は俯き気味に口を開いた。
「私は……。して……ない……と思う」
これはただの、私の願望だ。1年後、もし、睦月さんが「奥さんだよ」って、見たこともない誰かを連れて来る姿なんて見たくない。早く結婚したいって言う睦月さんには悪いけど、今はまだそんな話を聞きたくない。
「ふぅん。さっちゃんはそっちかぁ」
何故か香緒ちゃんが、残念そうにそう呟いた。
「そう言う香緒は、いったいどっちなのさ……」
もうすっかり諦めの境地で尋ねる睦月さんに、香緒ちゃんは悪戯っぽい笑顔を向けた。
「僕はもちろん、してる、に賭けるよ?」
そうきっぱりと睦月さんに向けて言うと、香緒ちゃんはその横の私に視線を動かした。
もしかして……香緒ちゃんは、その相手が私だったらいいと思ってる?
そのくらいにニコニコしながら、私を見ていた。
「香緒……ギャンブラーだなぁ……」
睦月さんは、そんな香緒ちゃんを見ながら、面食らうように呟く。
「あ、睦月君、僕が適当に賭けてると思ってるでしょ?あのね……。一つ言っとく」
香緒ちゃんは余計に酔いが回ってきたのか、よりフワフワした様子を見せながらも、はっきりした口調で続けた。
「人が恋に落ちるのに、時間も会った回数も関係ないからね?それ、もちろん睦月君は実感してるよね?チャンスは自分で掴まなきゃ!」
まるで睦月さんだけじゃなくて、私にも言っているように、香緒ちゃんは時々私の方を見る。
私だって実感してる。
武琉君に再会して半年程で結婚式を挙げた2人に、睦月さんに一番身近な長門さんと瑤子さん。
私だって、チャンスが訪れるならそうしたいよ……
そう思いながら、チラリと横にいる睦月さんを見ると、ちょっと驚いたように目を開くその人と目が合った。
私が睦月さんがこっちを見てた事に驚いていると、そんな私を気にする事なくニコリと笑ってから香緒ちゃんの方を向き直した。
「でもさ、さすがに1年は無理でしょ」
そんな睦月さんに、香緒ちゃんは両手を握り自分の両脇で降りながら、「何言ってるの睦月君!弱気!頑張って!」と励ますように言った。
「そうだね。頑張るよ、香緒……」
睦月さんは、そんな香緒ちゃんに、ふわりと笑いながらそう答えた。
「財閥VSスペシャルシェフの戦いだね。ごめんね武琉。負けちゃっても僕、材料費出すのとお皿並べるくらいしか出来ないけど」
「大丈夫だ」
武琉君は、そう言って優しく香緒ちゃんに返す柔らかい空気感を、羨ましく思いながら私は眺めた。
その後、香緒ちゃんは突然「眠い!」と言い出して、武琉君に抱き抱えられ……もちろんお姫様抱っこで……この部屋を後にした。
「すみません。香緒が……」
希海さんは、ようやく本格的に食べ始めた睦月さんを前に、そう謝る。
「あぁ。気にしてないよ?香緒がお酒飲むところなんて、そう言えば初めてだけど、いっつもあんな感じ?」
睦月さんは、笑顔を浮かべて希海さんに尋ねる。
「たまに……。特に家で飲むと気が緩むみたいで。今日は特にいつもより浮かれてたみたいです」
希海さんは頭を抱えるようにして、そう答えた。
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