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目的の場所は和洋菓子の並ぶコーナーの先にあって、とにかく人の隙間を縫うようにして進んだ。
これは本気ではぐれそうだ、とさっちゃんの手を強く握っていると、さっちゃんも必死な様子で握り返して進んでいた。

やっと辿り着いた、かなり充実したお酒売り場。ワインコーナーを中心に混み合っているが、さすがにスイーツ売り場よりマシだった。

「やっと着いたね」

2人とも、山でも登って来たみたいに息を切らせながら顔を見合わせる。

「はい。途中、迷子になるかと思いました」

とさっちゃんは笑って答える。

「うん。離さないよう必死だったよ?」

俺も笑いながら返した。
もちろん、今からだってその手を離すつもりなんかないけど。

「あの、今回希海さんには地ビールはどうかな?って思ってるんです。あっちの方に並んでたと思うんですけど」

そう言ってさっちゃんが指を指した方に2人で向かう。

「結構あるんだね」

その一角には沢山の瓶が並んでいて、それを眺めながら口にする。

「ですね……。試飲は出来ないからネットの口コミで良さそうなのは調べてきたんですけど」
「さすがさっちゃん。ありそう?」

真剣に棚を見つめるさっちゃんを見守ると、「あ、これだ」と嬉しそうな顔になった。

「あってよかったね。これにする?」
「そうします。見てたら悩むだけだと思うんで」

アッサリとさっちゃんは決めて、そう言う。
多分、下調べは万全で挑んだ今日の買い物なんだろうなぁ、と思う。俺なんて行き当たりばったりなのに。

そしてふと他に目をやると、少し向こうにあるものに目が止まった。

「ねぇねぇさっちゃん。ちょっとあれ見に行かない?」

子どものように誘って、俺はさっちゃんの手を引いてそれが並んでいる棚へ向かった。

「……綺麗……」

さっちゃんを連れて行った先の、少し高い場所の木枠の棚並べられていたのは、江戸切子のグラス。色とりどりの、様々な文様が刻まれるそれを見上げて、さっちゃんは目を輝かせている。

「本当に。綺麗だね」

青、赤、緑、黄色、紫、桃と、並べられたそれを見て、俺もその言葉に続く。

「これ良いなぁ……」

器って、やっぱり大事だと思う。高いものがいいって訳じゃなくて、自分の気持ちが上がるものを使うって、重要だ。

父は毎年、紅茶好きな母の誕生日にティーセットをプレゼントしていた。それを母は毎年楽しみにしていて、誕生日のお祝いには贈られたカップで紅茶を飲みながらケーキを嬉しそうに食べていた思い出がある。
もちろん、母が亡くなった後もそれは大事に置かれていて、父は母の誕生日に、一人それを取り出しては思い出に浸るように紅茶を飲んでいる姿を見かけた。

だから、もし自分が贈った器がそんな風に大事にされたら嬉しいよな、と単純にそう思った。

「俺、みんなへのプレゼント、これにしようかな」

俺がグラスを見ながらそう言うと、さっちゃんは驚いたように俺を見上げた。

「えっ!凄く素敵だとは思うんですけど……その……」

言葉を濁す理由はなんとなく分かる。値段が値段だからだろうなぁ、と。
一つ1万円程の値段がそこに控えめに表示されている。でも、もちろんその価値はあると思うし、それに……

「さすがに無理言って参加させて貰うからさ、いい年した大人としては可愛い弟達にこれくらいしなきゃね?」

とさっちゃんに笑って返した。

さっちゃんも納得したように「そうですね」と柔らかな表情になった。

店員さんに声をかけると、上の食器売り場にはもっと沢山置いてあると案内されて、先にさっちゃんの選んだビールを用意してもらい、後で取りに来ると伝えてから、俺達は上に向かう事にした。

「お~!たくさんある!」

食器売り場には、コーナーが設置されてて、俺はワクワクしながらそこへ向かうとそう声を上げた。

「睦月さん、楽しそうですね」

俺の様子を見てさっちゃんは笑いながらそう言う。

「さっちゃんは楽しくない?俺、こう見えて、インテリアとか雑貨とか見るの好きなんだよね」
「私も好きです。時間を忘れて見ちゃいますよね」
「だよね。じゃあ、時間を忘れて見て回ろうか」

良かった、同じで、と思いながら笑いかけると、さっちゃんも嬉しそうに「はい。そうしましょう」と笑顔で答えてくれた。

それだけで、すでに楽しい。
好きな子と、同じ物を見て、同じ時間を共有するのがこんなに楽しいんだって俺は今更知ったかも知れない。
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