年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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年内最後の香緒との撮影日。
まだ今年は半月残ってるけど、本当なら月2回のところを、年末進行で今月の撮影は一回きり。

俺が希海だったら、もっとさっちゃんに会えるのになぁ……なんて、くだらない事を考えてしまう。
司との仕事も終わったし、さっちゃんとはしばらく何の接点もない。正直拷問かな?ってくらい会えない。
普通に誘えばいいんだろうけど、下心丸出しで引かれそうだ。

そんな事を悶々と考えていると、いつもの、仲の良い2人の楽しそうな様子が目に入った。

声を掛けて話に入ると、2人、と言うか希海も合わせてさっちゃんの慰労会をするらしい。それもクリスマスイブに。

俺なんて、さっちゃんと会えないこの日々をどう過ごそうか考えてたのに、羨ましい……って多少押さえ気味にいいなぁって口に出したら香緒は俺も参加してもいいと言ってくれた。

もしかして、香緒、気づいてるのかな?

なんて思うけど、それ以上は何もなく、俺達はスタジオを後にした。


「毎年やってるの?何だっけ。お疲れ様会?」

さっちゃんを送る車の中で、隣にいるさっちゃんに尋ねる。

「あ、はい。クリスマスに被ったのは初めてなんですけど、毎年してくれてます」
「へー。ちなみに何してたの?今まで」

俺の質問に、さっちゃんは思い出すように答え始める。

最初の年は、有名ホテルの高級鉄板焼。高級過ぎると言うと、ホテルじゃない高級レストランになり、その後も普段絶対行けないような料亭とかお寿司屋さん、もちろん回ったりしない店に連れて行って貰ったと話した。

「今年が一番気楽かも。……プレゼント、何にしようかなぁ」

さっちゃんは遠くを見ながらそう呟く。

「プレゼント渡してるんだ。俺も呼んで貰ったからにはそれくらい用意しないとなぁ」

信号待ちしながら俺が言うと、さっちゃんは俺の方を見る。

「あの、睦月さん。良かったら一緒に選んでもらえませんか?その……被るかも知れないし……」

おずおずとそう言うさっちゃんに対して、俺は笑顔になった。

「えっ!いいの?いつにする?この土日、と言うか大体の土日は空いてるよ?」
「なら……土曜日で。すみません、せっかくのお休みに」

さっちゃんは申し訳なさそうな顔をするけど、俺は正直むちゃくちゃ嬉しい。
顔に出そうなのを必死で隠して、「さっちゃんのお役に立てるなら光栄だよ?」と笑いかける。
釣られるようにさっちゃんも表情を緩めると「楽しみです」と笑った。

その顔を見て、キスしたいなぁなんて不埒な事を考えている事なんて、さっちゃんは知らないんだろうなぁ、と青に変わった信号を確かめてアクセルをゆっくりふみこんだ。


◆◆


またすぐにさっちゃんに会えるんだ、と浮かれる暇はなく、現実は仕事に追われていた。
土曜日までの3日間に納期もあるし、打ち合わせもある。職業的に忙しいって言うのは有難い事だけど、最近まで結構マイペースに仕事してたから、ここに来てのこの忙しさは中々に堪えた。

そして、やらかした。

「さっちゃん!本当にごめん」

会うなり手を合わせて謝る。
待ち合わせ場所近くのチェーン店のカフェ。
気がつけば朝方までデータと戦っていた結果、俺は見事に寝過ごして約束の時間を30分ほど遅刻してしまった。

「だ、大丈夫ですから!睦月さん、座って下さい」

勢い良く走って来た上に着くなり謝る俺は相当目立ったのか、周りの人がチラチラ様子を伺っていた。

俺、やらかしてばっかりだ……

がっくり肩を落としながら、俺はテーブルに向かう。

「何か飲みますか?私買ってきますよ?」

心配そうに俺を見上げるさっちゃんの顔を見て、俺はあれ?と思う。
あぁ、いつもとメイクが違うんだ。
いつもは、あまり色味のないナチュラルメイク。けど、今日は何となく淡いパステルカラーが使われてて、リップもいつもより明るい。

「可愛い……ね」

寝不足も相まって、心の声がダダ漏れになる。口に出してからしまったと思ったけど遅い。みるみるうちに顔を赤らめると、さっちゃんは立ち上がる。

「揶揄わないで下さい!コーヒーでいいですよね?」

とさっちゃんはカウンターの方へ行ってしまった。

本当の事なんだけどなぁ……

その後ろ姿を目で追いかけながら思う。服装も、いつもの動き安さ重視とは違うロングタイトスカートで、それがとっても似合っている。

もしかして、俺のために?いや、休みの日はいつもこんな感じ?

回らない頭でぐるぐる考える。

だって、可愛いんだからしょうがないでしょ……

いつもと違うさっちゃんに、馬鹿みたいにドキドキする。初めて出来た彼女にもこんなにドキドキした覚えないのに。

ガキかよ全く。

項垂れるように待っていると、さっちゃんが席に帰ってきた。

「睦月さん。あの、体調良くないんですか?」

頭上から心配そうな声が降って来て顔を上げると、同じように心配そうな顔をしたさっちゃんがそこにいた。

「そんな事ないよ?ごめんね。ほんと」

俺が取り繕うように笑顔を作って言うと、その顔のままさっちゃんはトレーを差し出した。

「これでも食べて元気出して下さい」

そこには苺のショートケーキとコーヒー。ちゃんと俺が苺好きだって言ったの覚えてくれてたことに嬉しくなる。

「ありがとう、さっちゃん。元気出た」

さっちゃんに会うだけで元気貰えてるよ?と心の中で言いながら、俺はそう言った。
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