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2人とも、それぞれ持っていたメニュー表と睨めっこをする。
結構種類が多くて、甘いのにしようか?オムレツもいいなぁなんて眺めた。
「さっちゃんは苦手な食べ物ってないの?」
顔を上げた睦月さんに向かいから尋ねられ、私はしばらく考える。
「えっ…と。そういえば、絶対これはダメってものは無い……です」
最後まで考えながら、変に辿々しく答えてしまうけど、見た事のないようなゲテモノ料理、じゃない限り出されたものは何でも食べる方だと思う。
うちの両親はそんな子育て方針だった。無理矢理食べさせられた記憶はないが、その食材や作ってくれた人に感謝して食べましょうねって小さい頃から言われてきた。
外食でもそうだ。『お金を出してるんだからって、残していいなんて失礼だぞ?』と、小さい頃、自分のお腹の空き具合と相談せずたくさん注文してしまい、途方に暮れた私に父はそう言った。
だからなのか、私は小学生の頃は何でも残さず食べる優等生で通っていた。
「睦月さんは……どうなんですか?」
今までたくさんの人と食事をする機会はあったけど、中にはこの人とは合わないな、みたいな人には遭遇した。
香緒ちゃんや希海さんにそんな事を思った事はないけれど、睦月さんにもそんな事を思った事はなかった。
「俺は……何でも有り難く頂戴する方だなぁ。嫌いなものってないかも。そりゃ、美味しかったらより有難いけど。何でも…………好き、だよ?」
最後の台詞を何故か溜めてから口にした睦月さんに、まるで告白でもされたようにカァッと顔が熱くなる。
また揶揄われてる?
熱くなった顔を隠す様にメニュー表を持ち上げて「そ、そうなんですね」と私は答えた。
睦月さんがどんな顔しているのか見ないまま、勢いだけでメニュー表をテーブルに置くと、私は下を向いたまま「これにします!」とフレンチトーストのセットを指さす。
「あ、それも良いなぁ。じゃあ俺はこっちにするね」
そう言って睦月さんは、柔らかそうなオムレツのセットを指さした。それも良いなと思っていたものだ。
「さっちゃんが嫌じゃなかったシェアしない?」
顔を上げた私に、睦月さんは笑いかける。
周りの人達が、チラチラ睦月さんを見ている視線を感じながら、私達って、一体どんな風に見えてるんだろう?と思う。
やっぱり……恋人同士には……見えないんだろうな
そう思いながら、「はい。ぜひ」と私は答えた。
◆◆
「お疲れ様でした」
1日掛かった撮影も無事終わり、他のスタッフさん達に挨拶を済ませる。
「お疲れ様。さっちゃん」
今日は2度の衣装替えをした香緒ちゃんが、私の元にやって来た。
香緒ちゃんとの撮影は来週もあるし、なんならお正月も会う予定がある。けれど、睦月さんとの仕事は年内最後で、次に会うのは一カ月後だと思うと寂しい。
「どうしたの?浮かない顔して」
顔に出ていたのか、香緒ちゃんに顔を覗き込まれてそう尋ねられる。
「あ、ううん?何でもないよ?」
そう言って誤魔化すと、香緒ちゃんは「そう?」と言って姿勢を戻した。
「あ、そうだ。今年のお疲れ様会はうちですることにしたから」
毎年、香緒ちゃんと希海さんとの撮影がある年末の最終日。お疲れ様会と称して3人でご飯を食べに行くのが恒例行事になっている。
最初の年はホテルの鉄板焼きのお店の個室。連れて行かれてから、とてもじゃないけど自分の会費は出せないと顔を引き攣らせた私に、『何言ってんの?さっちゃんを慰労する会なんだからさっちゃんは食べるだけだよ?』と香緒ちゃんに笑顔で言われた。
それから色々連れて行って貰ったが、今までご馳走になってばかりだ。
「いいの?クリスマスイブにお邪魔しても」
今年は来週末の金曜日。クリスマスイブだ。
「もちろん!武琉も張り切ってるからね」
武琉君の作ったご飯は一度だけ食べた事がある。結婚式のメイクの打ち合わせに行った10月。『たいしたものじゃなくてすみません』と出てきたのはハンバーグだった。それはそれは美味しくて、武琉君の手作りだと聞いて驚いたのだった。
「楽しそうだね」
話しながら歩く私達の後ろから、睦月さんの声がして振り返る。
「睦月君。お疲れ様。僕達毎年さっちゃんを慰労する会をしてるんだけど、今年はクリスマスイブだし、うちに来ない?って話してるところ」
香緒さんが笑顔でそう言うと、睦月さんは心底羨ましそうな顔を見せる。
「え……いいなぁ……。俺、普通に仕事して帰るだけなんだけど」
落胆したように肩を落とす睦月さんの様子を見て、香緒さんは息を吐き出して口を開く。
「仕方ないなぁ。睦月君も来る?」
えっ!本当に?と、言いそうになって口を押さえる。私が喜んでどうするんだ。
睦月さんの方を見上げると、睦月さんも本当に嬉しそうに笑顔になっていた。
「えっ?いいの?俺も入れてくれるの?」
「今回は特別!どうせ一緒に過ごす彼女もまだできてないんでしょ?」
呆れた様に言う香緒ちゃんに「どうせいませんよ……」と睦月さんは苦々しい顔をして答えた。
結構種類が多くて、甘いのにしようか?オムレツもいいなぁなんて眺めた。
「さっちゃんは苦手な食べ物ってないの?」
顔を上げた睦月さんに向かいから尋ねられ、私はしばらく考える。
「えっ…と。そういえば、絶対これはダメってものは無い……です」
最後まで考えながら、変に辿々しく答えてしまうけど、見た事のないようなゲテモノ料理、じゃない限り出されたものは何でも食べる方だと思う。
うちの両親はそんな子育て方針だった。無理矢理食べさせられた記憶はないが、その食材や作ってくれた人に感謝して食べましょうねって小さい頃から言われてきた。
外食でもそうだ。『お金を出してるんだからって、残していいなんて失礼だぞ?』と、小さい頃、自分のお腹の空き具合と相談せずたくさん注文してしまい、途方に暮れた私に父はそう言った。
だからなのか、私は小学生の頃は何でも残さず食べる優等生で通っていた。
「睦月さんは……どうなんですか?」
今までたくさんの人と食事をする機会はあったけど、中にはこの人とは合わないな、みたいな人には遭遇した。
香緒ちゃんや希海さんにそんな事を思った事はないけれど、睦月さんにもそんな事を思った事はなかった。
「俺は……何でも有り難く頂戴する方だなぁ。嫌いなものってないかも。そりゃ、美味しかったらより有難いけど。何でも…………好き、だよ?」
最後の台詞を何故か溜めてから口にした睦月さんに、まるで告白でもされたようにカァッと顔が熱くなる。
また揶揄われてる?
熱くなった顔を隠す様にメニュー表を持ち上げて「そ、そうなんですね」と私は答えた。
睦月さんがどんな顔しているのか見ないまま、勢いだけでメニュー表をテーブルに置くと、私は下を向いたまま「これにします!」とフレンチトーストのセットを指さす。
「あ、それも良いなぁ。じゃあ俺はこっちにするね」
そう言って睦月さんは、柔らかそうなオムレツのセットを指さした。それも良いなと思っていたものだ。
「さっちゃんが嫌じゃなかったシェアしない?」
顔を上げた私に、睦月さんは笑いかける。
周りの人達が、チラチラ睦月さんを見ている視線を感じながら、私達って、一体どんな風に見えてるんだろう?と思う。
やっぱり……恋人同士には……見えないんだろうな
そう思いながら、「はい。ぜひ」と私は答えた。
◆◆
「お疲れ様でした」
1日掛かった撮影も無事終わり、他のスタッフさん達に挨拶を済ませる。
「お疲れ様。さっちゃん」
今日は2度の衣装替えをした香緒ちゃんが、私の元にやって来た。
香緒ちゃんとの撮影は来週もあるし、なんならお正月も会う予定がある。けれど、睦月さんとの仕事は年内最後で、次に会うのは一カ月後だと思うと寂しい。
「どうしたの?浮かない顔して」
顔に出ていたのか、香緒ちゃんに顔を覗き込まれてそう尋ねられる。
「あ、ううん?何でもないよ?」
そう言って誤魔化すと、香緒ちゃんは「そう?」と言って姿勢を戻した。
「あ、そうだ。今年のお疲れ様会はうちですることにしたから」
毎年、香緒ちゃんと希海さんとの撮影がある年末の最終日。お疲れ様会と称して3人でご飯を食べに行くのが恒例行事になっている。
最初の年はホテルの鉄板焼きのお店の個室。連れて行かれてから、とてもじゃないけど自分の会費は出せないと顔を引き攣らせた私に、『何言ってんの?さっちゃんを慰労する会なんだからさっちゃんは食べるだけだよ?』と香緒ちゃんに笑顔で言われた。
それから色々連れて行って貰ったが、今までご馳走になってばかりだ。
「いいの?クリスマスイブにお邪魔しても」
今年は来週末の金曜日。クリスマスイブだ。
「もちろん!武琉も張り切ってるからね」
武琉君の作ったご飯は一度だけ食べた事がある。結婚式のメイクの打ち合わせに行った10月。『たいしたものじゃなくてすみません』と出てきたのはハンバーグだった。それはそれは美味しくて、武琉君の手作りだと聞いて驚いたのだった。
「楽しそうだね」
話しながら歩く私達の後ろから、睦月さんの声がして振り返る。
「睦月君。お疲れ様。僕達毎年さっちゃんを慰労する会をしてるんだけど、今年はクリスマスイブだし、うちに来ない?って話してるところ」
香緒さんが笑顔でそう言うと、睦月さんは心底羨ましそうな顔を見せる。
「え……いいなぁ……。俺、普通に仕事して帰るだけなんだけど」
落胆したように肩を落とす睦月さんの様子を見て、香緒さんは息を吐き出して口を開く。
「仕方ないなぁ。睦月君も来る?」
えっ!本当に?と、言いそうになって口を押さえる。私が喜んでどうするんだ。
睦月さんの方を見上げると、睦月さんも本当に嬉しそうに笑顔になっていた。
「えっ?いいの?俺も入れてくれるの?」
「今回は特別!どうせ一緒に過ごす彼女もまだできてないんでしょ?」
呆れた様に言う香緒ちゃんに「どうせいませんよ……」と睦月さんは苦々しい顔をして答えた。
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