上 下
41 / 183
11

4

しおりを挟む
2人とも、それぞれ持っていたメニュー表と睨めっこをする。
結構種類が多くて、甘いのにしようか?オムレツもいいなぁなんて眺めた。

「さっちゃんは苦手な食べ物ってないの?」

顔を上げた睦月さんに向かいから尋ねられ、私はしばらく考える。

「えっ…と。そういえば、絶対これはダメってものは無い……です」

最後まで考えながら、変に辿々しく答えてしまうけど、見た事のないようなゲテモノ料理、じゃない限り出されたものは何でも食べる方だと思う。
うちの両親はそんな子育て方針だった。無理矢理食べさせられた記憶はないが、その食材や作ってくれた人に感謝して食べましょうねって小さい頃から言われてきた。
外食でもそうだ。『お金を出してるんだからって、残していいなんて失礼だぞ?』と、小さい頃、自分のお腹の空き具合と相談せずたくさん注文してしまい、途方に暮れた私に父はそう言った。
だからなのか、私は小学生の頃は何でも残さず食べる優等生で通っていた。

「睦月さんは……どうなんですか?」

今までたくさんの人と食事をする機会はあったけど、中にはこの人とは合わないな、みたいな人には遭遇した。
香緒ちゃんや希海さんにそんな事を思った事はないけれど、睦月さんにもそんな事を思った事はなかった。

「俺は……何でも有り難く頂戴する方だなぁ。嫌いなものってないかも。そりゃ、美味しかったらより有難いけど。何でも…………好き、だよ?」

最後の台詞を何故か溜めてから口にした睦月さんに、まるで告白でもされたようにカァッと顔が熱くなる。

また揶揄われてる?

熱くなった顔を隠す様にメニュー表を持ち上げて「そ、そうなんですね」と私は答えた。

睦月さんがどんな顔しているのか見ないまま、勢いだけでメニュー表をテーブルに置くと、私は下を向いたまま「これにします!」とフレンチトーストのセットを指さす。

「あ、それも良いなぁ。じゃあ俺はこっちにするね」

そう言って睦月さんは、柔らかそうなオムレツのセットを指さした。それも良いなと思っていたものだ。

「さっちゃんが嫌じゃなかったシェアしない?」

顔を上げた私に、睦月さんは笑いかける。

周りの人達が、チラチラ睦月さんを見ている視線を感じながら、私達って、一体どんな風に見えてるんだろう?と思う。

やっぱり……恋人同士には……見えないんだろうな

そう思いながら、「はい。ぜひ」と私は答えた。


◆◆


「お疲れ様でした」

1日掛かった撮影も無事終わり、他のスタッフさん達に挨拶を済ませる。

「お疲れ様。さっちゃん」

今日は2度の衣装替えをした香緒ちゃんが、私の元にやって来た。
香緒ちゃんとの撮影は来週もあるし、なんならお正月も会う予定がある。けれど、睦月さんとの仕事は年内最後で、次に会うのは一カ月後だと思うと寂しい。

「どうしたの?浮かない顔して」

顔に出ていたのか、香緒ちゃんに顔を覗き込まれてそう尋ねられる。

「あ、ううん?何でもないよ?」

そう言って誤魔化すと、香緒ちゃんは「そう?」と言って姿勢を戻した。

「あ、そうだ。今年のお疲れ様会はうちですることにしたから」

毎年、香緒ちゃんと希海さんとの撮影がある年末の最終日。お疲れ様会と称して3人でご飯を食べに行くのが恒例行事になっている。

最初の年はホテルの鉄板焼きのお店の個室。連れて行かれてから、とてもじゃないけど自分の会費は出せないと顔を引き攣らせた私に、『何言ってんの?さっちゃんを慰労する会なんだからさっちゃんは食べるだけだよ?』と香緒ちゃんに笑顔で言われた。
それから色々連れて行って貰ったが、今までご馳走になってばかりだ。

「いいの?クリスマスイブにお邪魔しても」

今年は来週末の金曜日。クリスマスイブだ。

「もちろん!武琉も張り切ってるからね」

武琉君の作ったご飯は一度だけ食べた事がある。結婚式のメイクの打ち合わせに行った10月。『たいしたものじゃなくてすみません』と出てきたのはハンバーグだった。それはそれは美味しくて、武琉君の手作りだと聞いて驚いたのだった。

「楽しそうだね」

話しながら歩く私達の後ろから、睦月さんの声がして振り返る。

「睦月君。お疲れ様。僕達毎年さっちゃんを慰労する会をしてるんだけど、今年はクリスマスイブだし、うちに来ない?って話してるところ」

香緒さんが笑顔でそう言うと、睦月さんは心底羨ましそうな顔を見せる。

「え……いいなぁ……。俺、普通に仕事して帰るだけなんだけど」

落胆したように肩を落とす睦月さんの様子を見て、香緒さんは息を吐き出して口を開く。

「仕方ないなぁ。睦月君も来る?」

えっ!本当に?と、言いそうになって口を押さえる。私が喜んでどうするんだ。

睦月さんの方を見上げると、睦月さんも本当に嬉しそうに笑顔になっていた。

「えっ?いいの?俺も入れてくれるの?」
「今回は特別!どうせ一緒に過ごす彼女もまだできてないんでしょ?」

呆れた様に言う香緒ちゃんに「どうせいませんよ……」と睦月さんは苦々しい顔をして答えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...