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「はじめまして。中辻なかつじ……じゃなかった、大塚みかです。よろしくお願いします」

ミッシェルさんにそう言われながら微笑まれ、私は緊張気味に「綿貫咲月です。こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げる。

私なんかに、一般に知られていない本名を教えてしまっていいのだろうか?それに、名前を言い直したのは結婚して名前が変わったばかりだからかな?なんて思った。

「お前、今日の衣装は?持ってきたのか?」

そばにいた長門さんがミッシェルさんにそう言うと、あぁ、と言うような顔を見せて、着ていた黒いロングコートに手をかけた。

「もう着てきたんです。これなんですけど」

そう言ってミッシェルさんがコートを取り払うと、現れたのはドレープがきいた、ギリギリ床に裾がつかない長さの細身の真っ白なドレス。

そのイメージは、どう考えても……

「花嫁さん?」

私ではなく、瑤子さんが少し驚いたように声を上げた。

「どうしてもお父さんとお母さんに写真見せてあげたくて。ダメですか?こんな個人的な写真をお願いして……」

躊躇いがちにミッシェルさんは長門さんにそう言うと、長門さんは、ふふんを鼻を鳴らすように笑った。

「これを受けた時点で、内容はお前にお任せだったからな。好きにすればいい。俺はお前のイメージ通りに撮るだけだ」

そう長門さんが言うと、途端にミッシェルさんは花が綻んだように笑みを浮かべて、マネージャーさんの方に向いた。

「じゃあ、なお君も一緒に撮って貰おう?いいでしょ?お兄さん!」

子供のように燥ぎながら長門さんに言うミッシェルさんは、何というか、とっても可愛い。

綺麗な人は、可愛くもなれるんだなぁ……

その様子を、私はまるで映画でも見ているように眺める。もちろん私は観客で、私以外は映画に出演している人達。そんな気分だ。

「じゃあ、こちらでメイクを行います」

パーテーションの中に2人で入り、ミッシェルさんを座らせた。

「えっと……ではミッシェルさん、どんな感じにしたいのか教えていたたけますか?」

後ろから鏡越しに尋ねると、ミッシェルさんは「みかって呼んで?日本にいる間くらいそう呼ばれたいな」と笑顔を見せた。

「じゃあ、みかさん。カラーイメージなんですけど……」

と私はみかさんに話を聞き始めた。

女優さんだからなのか、伝えられたイメージは具体的で、言葉で伝えられたものがそのまま頭で思い描けるようだった。

私は手を動かしながら、2人でイメージを擦り合わせて、一つの作品を作り上げていった。

「失礼します。……わぁ!素敵」

様子を見に来た瑤子さんが覗き込み歓声を上げた。

「本当、思った通りにしてもらえました」

みかさんも嬉しそうに言ってくれていたが、私は少し物足りない。メイク道具に不足はなかったが、まさかウエディングとは思いもしなくて、髪に飾るようなものは何もない。それらしく編んでみたが、それでも少し寂しい気がする。私が浮かない顔をしていたのか、瑤子さんが「どうしたの。咲月ちゃん?」と心配そうに尋ねてきた。

「あの……髪型が寂しいな……と思って」

私がそう言うと、瑤子さんは急に何か思いついたように「あっ!あれ使えないかな?」と向こう側に消えて行った。
そしてすぐに戻ってくると、手にしていた紙袋から箱を取り出して、私達の目の前でそれを開けた。

「これ、ミッシェルさんにご結婚のお祝いに差し上げようと思ってご用意したんです」

その箱の中身は、白を基調とした薔薇のプリザーブドフラワー。

「ありがとうございます、瑤子さん。咲月さん、これ使える?」

みかさんに尋ねられたが、私の頭の中ではすでにどう散らそうか考えていた。

「もちろん!ありがとうございます。これでもう少し形になりそうです!」

箱から花を抜いて、私は髪に飾り始める。ほんの5分程で、さっきとは見違えるような花嫁さんに仕上がった。

「そろそろ始められるか?」

長門さんが入って来て、みかさんを眺めるて「へぇ……」と感嘆の事を漏らす。

「ま……」

と言いかけた長門さんの声に被せるように、「馬子にも衣装って言いたいんでしょ!わかってます!」とみかさんは勢いよく返した。

「悪りぃ悪りぃ。大きくなったなと思って」

笑いながら目を細めてそう言う長門さんに、みかさんは「もう!お父さん?」なんて言いながら、連れだってパーテーションを出て行く。

昔からの知り合いだったのかな?

凄く仲良さそうで、長門さんには悪いけど本当に親子みたいに見えて、クスっと笑ってしまった。

けれど、その姿を見ながら思う。

と言うことは……、やっぱり睦月さんと私も、周りから見たら親子にしか見えないんだろうな……と。

だって、私よりうちの両親との方が歳が近くて、『友達になれるかも』と睦月さんが言うくらいなんだから、やっぱり娘くらいの感覚なんだろうと思ってしまう。

あと10年早く生まれてたら違ってた?と、どうしようもない事を考えながら、私はテスト撮影を始めた皆の元へ向かった。
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