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俺は、昔から何となく結婚願望は強い方だった。
なんでだろうなぁ?って考えると、父と母の様な夫婦になりたかったから、なのかも知れない。
元々あまり体が丈夫ではなかった母は、俺が小学校に上がった頃には入退院を繰り返すようになっていた。
そんな母の代わりに家事をしていたのは父で、愚痴ひとつこぼさず、仕事から帰ると家の事をしてくれていた。
一番印象的だったのは、キッチンで母は椅子に座り、父は作り方を聞きながら料理をする姿。この時の2人はとても楽しそうで、子供心に邪魔出来ないなぁ何て思っていた。
その母は、俺が中学生になった姿を見ることなく亡くなり、父の落胆振りは凄まじいものだった。
その父を励ましたもの。それが写真だった。
家には、元気だった頃の母の写真や、一緒に行った場所の写真がたくさん置いてあった。
父がそれを、時々一人で愛おしいそうに、懐かしそうに、眺めている姿を見かける事があった。
そして、ふと思いついたように俺と弟を連れて撮影旅行に行くようになり、それが俺の写真を撮るきっかけになったのだった。
単純に、こんな慈しみ合う家族を作りたい。きっと、俺はそんな事を幼いながらに思い続けたのだろう。
けど、現実にそんな相手とは中々、と言うより全く出会えなかった。
高校生の頃、初めて彼女が出来た。
仲の良い友達だったその子のほうから告白されて付き合い初め、それらしく2人で遊びに行って、ちゃんと彼女として扱っていたつもり……だった。
けれど、「なんか、友達だった時と変わらない。私の事、好きなの?」って振られたのが最初。
それからは、だいたい同じ理由で振られ続けた。
ずっと何でだろう?って思っていたけど、今になれば分かる気がする。
今まで付き合ってきた、誰とも結婚したいって気持ちにならなかった。その子と、ずっと先の未来を思い描く事などなかった。
でも、今は違う。
「睦月さん、どれくらい食べますか?」
俺が作ったシチューを、さっちゃんは温め直してくれて、それをお皿によそおうとしていた。
「実は味見し過ぎてそこまでお腹空いてないんだよね。さっちゃんと同じくらいでいいよ?」
そう言って笑いかけると、さっちゃんも「そうなんですか?」と笑いながら答えてくれた。
「凄く美味しそうです」
何て目を輝かせて言ってくれるさっちゃんを、俺は目の前で、ずっとこの先も、見続けたいな……なんて思っていた。
「「いただきます」」
小さなダイニングテーブルに向かい合わせで2人、手を合わせてそう言う。
目の前には俺の作ったシチューと、買ってきたパン。ご飯とどっちがいいんだろう?と悩んだけど、無難にパンにして、昨日瑤子ちゃんに近所に美味しい店がないか聞いて、午前中おすすめの店に買いに行ってきたものだ。
「凄い……。これ、睦月さんが全部一人で作ったんですよね?」
「あ、うん。なんとかね?どうかな?」
今日のシチューの具は、本当にオーソドックスにした。鶏肉、ジャガイモ、にんじん、玉ねぎにブロッコリー。
さっちゃんに嫌いなものないか聞いたら、ないって返ってきたら、もうちょっと違う具も……って考えたけど、とりあえず最初からハードルあげてもと、普通にした。
「わ……美味しい。ジャガイモがホクホクでちょうどいいです」
さっちゃんはそう言って、本当に嬉しそうにしてくれていた。
「よかった。たくさんあるからね?ルーの箱見て作ったら大量に出来ちゃったし」
「ですね。このままじゃ3食ずっとシチューですよ?」
さっちゃんはシチューを口に運びながらクスクス笑っている。
あー……本当に可愛いなぁ……
俺は食べるのも忘れてその顔を眺めてしまう。
「睦月さん、本当に切り方も上手ですよね。うちの父に切らせたら、きっとジャガイモは半分になりそう」
さっちゃんはスプーンでジャガイモを持ち上げて笑う。
「さっちゃんのお父さんは料理しないの?」
「はい。結婚した時お母さんが全部やってたらそれが当たり前になっちゃったってお母さん、反省したそうです。でも、専業主婦と子供2人を養い続けてくれた父なので、それは感謝してます」
ご両親を思い出しているのか、さっちゃんは視線を外して微笑んでいる。
「いいご両親だね。会ってみたいな」
ついそんな本音が口から出る。
普通に考えて、両親に会ってみたいなんて、何も思っていない相手に言わないだろうし。
「えっ!」
さっちゃんは、さすがに驚いて俺をみている。
もしかして、気持ちに気づかれた?と顔に出さないように努めながらも内心焦る。
「あ、えーと、いい友達になれるかなぁ……?なんて?」
とっても苦しい言い訳を、渇いた笑いと共にすると、さっちゃんは不思議そうに、「友達……ですか?」と俺に返した。
「うん。6歳くらいの違いなら友達かな~?って」
本当の事だけど、言ってて虚しくなる事実。
だって、どう頑張っても、俺とさっちゃんの歳の差が埋まるわけないんだから。
なんでだろうなぁ?って考えると、父と母の様な夫婦になりたかったから、なのかも知れない。
元々あまり体が丈夫ではなかった母は、俺が小学校に上がった頃には入退院を繰り返すようになっていた。
そんな母の代わりに家事をしていたのは父で、愚痴ひとつこぼさず、仕事から帰ると家の事をしてくれていた。
一番印象的だったのは、キッチンで母は椅子に座り、父は作り方を聞きながら料理をする姿。この時の2人はとても楽しそうで、子供心に邪魔出来ないなぁ何て思っていた。
その母は、俺が中学生になった姿を見ることなく亡くなり、父の落胆振りは凄まじいものだった。
その父を励ましたもの。それが写真だった。
家には、元気だった頃の母の写真や、一緒に行った場所の写真がたくさん置いてあった。
父がそれを、時々一人で愛おしいそうに、懐かしそうに、眺めている姿を見かける事があった。
そして、ふと思いついたように俺と弟を連れて撮影旅行に行くようになり、それが俺の写真を撮るきっかけになったのだった。
単純に、こんな慈しみ合う家族を作りたい。きっと、俺はそんな事を幼いながらに思い続けたのだろう。
けど、現実にそんな相手とは中々、と言うより全く出会えなかった。
高校生の頃、初めて彼女が出来た。
仲の良い友達だったその子のほうから告白されて付き合い初め、それらしく2人で遊びに行って、ちゃんと彼女として扱っていたつもり……だった。
けれど、「なんか、友達だった時と変わらない。私の事、好きなの?」って振られたのが最初。
それからは、だいたい同じ理由で振られ続けた。
ずっと何でだろう?って思っていたけど、今になれば分かる気がする。
今まで付き合ってきた、誰とも結婚したいって気持ちにならなかった。その子と、ずっと先の未来を思い描く事などなかった。
でも、今は違う。
「睦月さん、どれくらい食べますか?」
俺が作ったシチューを、さっちゃんは温め直してくれて、それをお皿によそおうとしていた。
「実は味見し過ぎてそこまでお腹空いてないんだよね。さっちゃんと同じくらいでいいよ?」
そう言って笑いかけると、さっちゃんも「そうなんですか?」と笑いながら答えてくれた。
「凄く美味しそうです」
何て目を輝かせて言ってくれるさっちゃんを、俺は目の前で、ずっとこの先も、見続けたいな……なんて思っていた。
「「いただきます」」
小さなダイニングテーブルに向かい合わせで2人、手を合わせてそう言う。
目の前には俺の作ったシチューと、買ってきたパン。ご飯とどっちがいいんだろう?と悩んだけど、無難にパンにして、昨日瑤子ちゃんに近所に美味しい店がないか聞いて、午前中おすすめの店に買いに行ってきたものだ。
「凄い……。これ、睦月さんが全部一人で作ったんですよね?」
「あ、うん。なんとかね?どうかな?」
今日のシチューの具は、本当にオーソドックスにした。鶏肉、ジャガイモ、にんじん、玉ねぎにブロッコリー。
さっちゃんに嫌いなものないか聞いたら、ないって返ってきたら、もうちょっと違う具も……って考えたけど、とりあえず最初からハードルあげてもと、普通にした。
「わ……美味しい。ジャガイモがホクホクでちょうどいいです」
さっちゃんはそう言って、本当に嬉しそうにしてくれていた。
「よかった。たくさんあるからね?ルーの箱見て作ったら大量に出来ちゃったし」
「ですね。このままじゃ3食ずっとシチューですよ?」
さっちゃんはシチューを口に運びながらクスクス笑っている。
あー……本当に可愛いなぁ……
俺は食べるのも忘れてその顔を眺めてしまう。
「睦月さん、本当に切り方も上手ですよね。うちの父に切らせたら、きっとジャガイモは半分になりそう」
さっちゃんはスプーンでジャガイモを持ち上げて笑う。
「さっちゃんのお父さんは料理しないの?」
「はい。結婚した時お母さんが全部やってたらそれが当たり前になっちゃったってお母さん、反省したそうです。でも、専業主婦と子供2人を養い続けてくれた父なので、それは感謝してます」
ご両親を思い出しているのか、さっちゃんは視線を外して微笑んでいる。
「いいご両親だね。会ってみたいな」
ついそんな本音が口から出る。
普通に考えて、両親に会ってみたいなんて、何も思っていない相手に言わないだろうし。
「えっ!」
さっちゃんは、さすがに驚いて俺をみている。
もしかして、気持ちに気づかれた?と顔に出さないように努めながらも内心焦る。
「あ、えーと、いい友達になれるかなぁ……?なんて?」
とっても苦しい言い訳を、渇いた笑いと共にすると、さっちゃんは不思議そうに、「友達……ですか?」と俺に返した。
「うん。6歳くらいの違いなら友達かな~?って」
本当の事だけど、言ってて虚しくなる事実。
だって、どう頑張っても、俺とさっちゃんの歳の差が埋まるわけないんだから。
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