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「香緒……ちゃん?」
驚いて私はそう呟く。
電話越しで、今香緒ちゃんがどんな表情をしているのかわからないけれど、穏やかなその口調は変わらない。
『余計なお節介かも知れないんだけど……。僕はさっちゃんに後悔して欲しくないなって思ってる』
電話の向こうから、諭すようなそんな柔らかな声が聞こえてくる。
「後悔?」
『うん。ずっと続くと思っていた事も、簡単に壊れてしまうから。だから、どんな結果になったとしても後悔しない選択をして欲しいなって思うよ?』
香緒ちゃんは、私とそう年は変わらないのに、波瀾万丈とも言える経験をしてきている。
武琉君との出会いと再会、なんて特に。
彼らは小学生の頃出会って、ほんの少し過ごしただけの間柄。また会いに行くって言ったのにそれが果たせなかった時の辛い気持ちや、再会した時どれだけ嬉しかったか、なんて話を香緒ちゃんは私にしてくれた事がある。
奇跡のように再会したから、だから香緒ちゃんは『2度と離れない。自分以外の誰かと幸せになる姿を間近でみる事になったとしても、ずっと側にいる』そう思ったんだって言っていた。
結果的に2人はうまく行って、結婚式まで挙げたわけだけど、もしかしたらそうならなかったかも知れない。
私にそこまでの覚悟は出来るんだろうか?
睦月さんが誰かと幸せになる姿を、私は祝福出来る?妹として。
「そうだね……。何も言えないままは……やっぱり嫌かな」
まだ決心なんてつかない。
さっき自覚したばかりの私の初恋。いくらなんでも、いきなり好きですなんて言う勇気は出ない。
けど、睦月さんが私の事をなんとも思っていなくても、それでも、いつか、この気持ちだけは知って欲しい。
そう思った。
『僕はいつでもさっちゃんの味方だからね?何か聞いて欲しい事あったらいつでも聞くから』
「うん。ありがとう。香緒ちゃん」
電話の向こうで、香緒ちゃんが笑ったような気配がする。
どこか寂しそうな顔して笑っていた香緒ちゃんは、武琉君と再会してから花が綻ぶように笑うようになった。そんな笑顔が頭に浮かんだ。
「じゃあ、またね」
『うん。2日、よろしくね』
「わかった。楽しみにしてるから」
そう言って電話を切ると、自然に笑みが漏れた。
「ほんと、ありがと。香緒ちゃん」
私は暗くなった画面に囁くようにそう呟いた。
少し前、私は香緒ちゃんに淡い初恋を抱いていた、と思っていた。
けど今になって思う。それは恋ではなかったと。香緒ちゃんの事はとっても大事で、とっても好きだけど、それは家族に対するものと同じだったんだと。
◆◆
あっという間に長門さんと仕事をする木曜日となった。
今週はなんだかんだで忙しくて、単発の撮影に臨時で入ったり、講習会へ行ったり、合間に買い物に行って、そのまた合間に今日の撮影に向けての準備を進めた。
久しぶりに目が回るような忙しさだったけど、今日が一番気が抜けない。
明日は元々入っていた仕事が延期になり、正直助かった、絶対に昼まで寝る!と思いながら、今日持って行くものを準備していた。
衣装はわからないままで、結局ネットで調べたクライアントの傾向や好きなものなどを元に何パターンか考えたけど、やっぱり不安だからとあれもこれもとパレットを突っ込んでいると、バッグはとんでもない重さになっていた。
睦月さんが送り迎えしてくれるって言ってくれて、正直甘えていいのかな?って思ったけど、これは申し訳ないけど甘えさせて貰おう。たぶん担ぐだけでいっぱいいっぱいだ。そう思いながら玄関にバッグを運んだ。
ふと玄関脇の鏡に映る自分が目に入る。今日も動きやすさ重視の可愛さはまるでない服装。モノトーンのトレーナーに黒のスキニーパンツ、これにモッズコートを羽織り、黒いキャップを被ったら、男子高校生に間違われそうだ。
けれど、元々そんな服しか持っていないのだから今更変えられない。それに、パステルカラーの服や可愛らしいスカートが自分に似合うなんて到底思えない。
仕方ないよね……可愛くないのは本当なんだから……
溜め息と共にそう思い、また部屋に戻る。
そろそろ睦月さんが迎えに来てくれる時間だ。私は部屋を走り回るかんちゃんをゲージに入れ、出る用意をした。
そうしているうちにスマホに『家の前に着いたよ』とメッセージが表示される。
「じゃあ、かんちゃん、行ってくるね」
そう声をかけて、私は家を後にした。
「すみません。睦月さん、わざわざ来てもらって」
マンションのエントランスを抜けたすぐ前に止まった車。その側に立って待ってくれていた睦月さんに、私はそう言って声をかけた。
「お疲れ様。何言ってるの?いつでも使って?」
そう優しく笑うと、睦月さんは当たり前のように私の荷物を持ってくれようとして、それに私は慌てて「あっ!今日は物凄く重くって」と自分でバッグを押さえた。
「えっ?そんなに?どれくらい?」
「えっと……じゃあ、持ってみて下さい」
子供のような好奇心で笑顔を浮かべる睦月さんに、私はついその重いバッグを差し出すと、睦月さんはそれを受け取った。
何か乗せられたかも……
後部座席にそれを入れる睦月さんを見て、私はそう思った。
驚いて私はそう呟く。
電話越しで、今香緒ちゃんがどんな表情をしているのかわからないけれど、穏やかなその口調は変わらない。
『余計なお節介かも知れないんだけど……。僕はさっちゃんに後悔して欲しくないなって思ってる』
電話の向こうから、諭すようなそんな柔らかな声が聞こえてくる。
「後悔?」
『うん。ずっと続くと思っていた事も、簡単に壊れてしまうから。だから、どんな結果になったとしても後悔しない選択をして欲しいなって思うよ?』
香緒ちゃんは、私とそう年は変わらないのに、波瀾万丈とも言える経験をしてきている。
武琉君との出会いと再会、なんて特に。
彼らは小学生の頃出会って、ほんの少し過ごしただけの間柄。また会いに行くって言ったのにそれが果たせなかった時の辛い気持ちや、再会した時どれだけ嬉しかったか、なんて話を香緒ちゃんは私にしてくれた事がある。
奇跡のように再会したから、だから香緒ちゃんは『2度と離れない。自分以外の誰かと幸せになる姿を間近でみる事になったとしても、ずっと側にいる』そう思ったんだって言っていた。
結果的に2人はうまく行って、結婚式まで挙げたわけだけど、もしかしたらそうならなかったかも知れない。
私にそこまでの覚悟は出来るんだろうか?
睦月さんが誰かと幸せになる姿を、私は祝福出来る?妹として。
「そうだね……。何も言えないままは……やっぱり嫌かな」
まだ決心なんてつかない。
さっき自覚したばかりの私の初恋。いくらなんでも、いきなり好きですなんて言う勇気は出ない。
けど、睦月さんが私の事をなんとも思っていなくても、それでも、いつか、この気持ちだけは知って欲しい。
そう思った。
『僕はいつでもさっちゃんの味方だからね?何か聞いて欲しい事あったらいつでも聞くから』
「うん。ありがとう。香緒ちゃん」
電話の向こうで、香緒ちゃんが笑ったような気配がする。
どこか寂しそうな顔して笑っていた香緒ちゃんは、武琉君と再会してから花が綻ぶように笑うようになった。そんな笑顔が頭に浮かんだ。
「じゃあ、またね」
『うん。2日、よろしくね』
「わかった。楽しみにしてるから」
そう言って電話を切ると、自然に笑みが漏れた。
「ほんと、ありがと。香緒ちゃん」
私は暗くなった画面に囁くようにそう呟いた。
少し前、私は香緒ちゃんに淡い初恋を抱いていた、と思っていた。
けど今になって思う。それは恋ではなかったと。香緒ちゃんの事はとっても大事で、とっても好きだけど、それは家族に対するものと同じだったんだと。
◆◆
あっという間に長門さんと仕事をする木曜日となった。
今週はなんだかんだで忙しくて、単発の撮影に臨時で入ったり、講習会へ行ったり、合間に買い物に行って、そのまた合間に今日の撮影に向けての準備を進めた。
久しぶりに目が回るような忙しさだったけど、今日が一番気が抜けない。
明日は元々入っていた仕事が延期になり、正直助かった、絶対に昼まで寝る!と思いながら、今日持って行くものを準備していた。
衣装はわからないままで、結局ネットで調べたクライアントの傾向や好きなものなどを元に何パターンか考えたけど、やっぱり不安だからとあれもこれもとパレットを突っ込んでいると、バッグはとんでもない重さになっていた。
睦月さんが送り迎えしてくれるって言ってくれて、正直甘えていいのかな?って思ったけど、これは申し訳ないけど甘えさせて貰おう。たぶん担ぐだけでいっぱいいっぱいだ。そう思いながら玄関にバッグを運んだ。
ふと玄関脇の鏡に映る自分が目に入る。今日も動きやすさ重視の可愛さはまるでない服装。モノトーンのトレーナーに黒のスキニーパンツ、これにモッズコートを羽織り、黒いキャップを被ったら、男子高校生に間違われそうだ。
けれど、元々そんな服しか持っていないのだから今更変えられない。それに、パステルカラーの服や可愛らしいスカートが自分に似合うなんて到底思えない。
仕方ないよね……可愛くないのは本当なんだから……
溜め息と共にそう思い、また部屋に戻る。
そろそろ睦月さんが迎えに来てくれる時間だ。私は部屋を走り回るかんちゃんをゲージに入れ、出る用意をした。
そうしているうちにスマホに『家の前に着いたよ』とメッセージが表示される。
「じゃあ、かんちゃん、行ってくるね」
そう声をかけて、私は家を後にした。
「すみません。睦月さん、わざわざ来てもらって」
マンションのエントランスを抜けたすぐ前に止まった車。その側に立って待ってくれていた睦月さんに、私はそう言って声をかけた。
「お疲れ様。何言ってるの?いつでも使って?」
そう優しく笑うと、睦月さんは当たり前のように私の荷物を持ってくれようとして、それに私は慌てて「あっ!今日は物凄く重くって」と自分でバッグを押さえた。
「えっ?そんなに?どれくらい?」
「えっと……じゃあ、持ってみて下さい」
子供のような好奇心で笑顔を浮かべる睦月さんに、私はついその重いバッグを差し出すと、睦月さんはそれを受け取った。
何か乗せられたかも……
後部座席にそれを入れる睦月さんを見て、私はそう思った。
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