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最初に言った通りに、俺はさっちゃんに仕事の話を振る。
一番最初に香緒を撮った時の写真。それをタブレットに表示させて、ずっと気になっていた事を俺は尋ねた。
「この時のテストと本番。メイク変えてくれたよね?一体何処をどう変えたのか知りたくて。写真見ててもイマイチ分からないんだよね」
テーブルに乗せたタブレットをさっちゃんの方に向けて置くと、さっちゃんはカップを置いてテーブルに向かう。
「この時は……」
急にさっちゃんの表情が切り替わり、仕事中に見せる真っ直ぐで鋭い視線になる。そして、いつもより少し饒舌になると、タブレットを指してその変化を教えてくれた。
さすがに希海や香緒と何年も組んでいるだけあって、さっちゃんはスタジオの光の量や衣装の写り具合で、メイクをどう修正すればいいのか学んで来ているようだった。
本当に、努力家なんだなぁ
一生懸命に話をしてくれているさっちゃんを見ながら思う。
仕事なんだから、皆それなりに努力して来て今があるのはわかっている。今では海外にも名を知られている司でさえ、見えないところで努力もして来たし、人並みに挫折も味わっている。
正直、俺はどうなんだろう?
司にくっついてアシスタントの真似事をしていただけなのに、今じゃこうやって司のおこぼれにあずかって仕事貰ってる気がしないでもない。
時々、これでいいのかなぁ?って思う事はある。
「睦月さんの撮る香緒ちゃん、本当に楽しそうですよね」
ぼんやりと考え事をしていた俺に、さっちゃんが不意にそんな事を言う。
「え?そう?」
ちょっと驚いてさっちゃんを見ると、さっちゃんも少し驚いたようにこっちを見ていた。
「……希海さんが撮るのは、作られたものです。一番美しく見えるように皆で作った香緒ちゃん。元々そう言うコンセプトでやってきているので。でも、睦月さんの撮るものは、本来の香緒ちゃん。私が見てても自然なのが良く分かります」
確かに、希海は小さい頃から司を間近で見ていたのだから、その美しさの基準も似ていると思う。撮り方は似てなくても、モデルの美しさを際立たせる腕は似ている。
でも、そんな撮り方は逆立ちしたって俺には出来ないし、俺はどちらかと言うとその人を身近に感じて欲しいと思いながら撮っている。だから、さっちゃんはそう思ってくれたのかも知れない。
「私……睦月さんの写真、好きです。とっても温かくて素敵だと思います」
例え世界中から称賛されても、こんなに嬉しいとは思えないかも知れない。
たった一人、目の前のこの子にそう言われただけで、泣きそうになるほど嬉しいなんて、さっちゃんは自覚してる?
そう思いながら、俺は「ありがと」と笑いかけた。
一番最初に香緒を撮った時の写真。それをタブレットに表示させて、ずっと気になっていた事を俺は尋ねた。
「この時のテストと本番。メイク変えてくれたよね?一体何処をどう変えたのか知りたくて。写真見ててもイマイチ分からないんだよね」
テーブルに乗せたタブレットをさっちゃんの方に向けて置くと、さっちゃんはカップを置いてテーブルに向かう。
「この時は……」
急にさっちゃんの表情が切り替わり、仕事中に見せる真っ直ぐで鋭い視線になる。そして、いつもより少し饒舌になると、タブレットを指してその変化を教えてくれた。
さすがに希海や香緒と何年も組んでいるだけあって、さっちゃんはスタジオの光の量や衣装の写り具合で、メイクをどう修正すればいいのか学んで来ているようだった。
本当に、努力家なんだなぁ
一生懸命に話をしてくれているさっちゃんを見ながら思う。
仕事なんだから、皆それなりに努力して来て今があるのはわかっている。今では海外にも名を知られている司でさえ、見えないところで努力もして来たし、人並みに挫折も味わっている。
正直、俺はどうなんだろう?
司にくっついてアシスタントの真似事をしていただけなのに、今じゃこうやって司のおこぼれにあずかって仕事貰ってる気がしないでもない。
時々、これでいいのかなぁ?って思う事はある。
「睦月さんの撮る香緒ちゃん、本当に楽しそうですよね」
ぼんやりと考え事をしていた俺に、さっちゃんが不意にそんな事を言う。
「え?そう?」
ちょっと驚いてさっちゃんを見ると、さっちゃんも少し驚いたようにこっちを見ていた。
「……希海さんが撮るのは、作られたものです。一番美しく見えるように皆で作った香緒ちゃん。元々そう言うコンセプトでやってきているので。でも、睦月さんの撮るものは、本来の香緒ちゃん。私が見てても自然なのが良く分かります」
確かに、希海は小さい頃から司を間近で見ていたのだから、その美しさの基準も似ていると思う。撮り方は似てなくても、モデルの美しさを際立たせる腕は似ている。
でも、そんな撮り方は逆立ちしたって俺には出来ないし、俺はどちらかと言うとその人を身近に感じて欲しいと思いながら撮っている。だから、さっちゃんはそう思ってくれたのかも知れない。
「私……睦月さんの写真、好きです。とっても温かくて素敵だと思います」
例え世界中から称賛されても、こんなに嬉しいとは思えないかも知れない。
たった一人、目の前のこの子にそう言われただけで、泣きそうになるほど嬉しいなんて、さっちゃんは自覚してる?
そう思いながら、俺は「ありがと」と笑いかけた。
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