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「ごめんね~。無理やり誘ったみたいになって」

謝りながらも、軽い調子で笑顔でそう言ってしまう。正直、悪いとは思ってないし。

「いえ。そんな事は……」

そう言ってさっちゃんは小さく答えた。
世界的に有名なテーマパーク。それの海をテーマにした方にやって来た。
さっちゃんは、何と両方入れる年間パスポートを持っているらしい。

金曜日の午後。それなりに人で賑わっているエントランスに俺達は入った。

「おー!映像でしか見たことないやつ!」

入るとすぐ目の前にある大きな地球儀を見上げて俺はそう言った。

「本当に来たことなかったんですね」

さっちゃんは俺を見上げて、少し驚いた様にそう言う。

「日本にしばらくいなかったしね。それにこっちにいた頃も、そう言えば一緒に行く相手いなかったなぁ」

もちろん、日本にいた頃付き合っていた相手はいるけど、ここに来る事はなかった。というより……どこ行ってたっけ?とすぐに思い出せない。

「あの。ところで、何か乗ったりしますか?私あんまり普段は乗らないんですけどせっかくなんで」
「ん?さっちゃんの行きたいところに着いていくよ?歩き回るだけで十分楽しいし」

エントランスから奥に向かいながら、そんな会話をする。

「じゃあ……。本当に散歩みたいになりますけど」

遠慮がちに言うさっちゃんに、俺は「うん。散歩、楽しもうね!」と笑いかける。

さっちゃんは、はにかむ様に笑顔を見せてくれて、やっぱり可愛いな、何て思ってしまった。

店の立ち並ぶエリアを抜けると、正面には火山、そして手前には海……なのかな?右手に回って行くと、平たい船が止まっているのが見えた。

「船に乗って奥まで行ってみますか?」

陽気なイタリア風のBGMの流れるエリアを歩きながら、さっちゃんに尋ねられる。

「うん。そうしよ!」

タイミングよく、そう待つ事なく船に乗り込む。木のベンチに2人で並んで座ると程なくして船は出発した。
手を振ってくれるキャストさんに、手を振りかえしていると、さっちゃんは少し笑いながら俺を見ていた。

「睦月さんって、友達多そうですね」

船のエンジン音にかき消されないように、少し大きめの声でさっちゃんにそう言われる。

「んー。知り合いは多いけど、友達って意外と少ないよ?っていうか、司くらいかな」
「そうなんですか?」

さっちゃんは目を丸くして驚いている。
意外とそんなものだ。歳を重ねるたびに知り合いは増えていくけど、友達と言う人を作るのは難しくなってくる。
結局、友達って言われると、司くらいしかいないよなぁ……と多少虚しくなりながら俺は思った。

船から降りると、さっきとは雰囲気の全く違うエリアに来た。
アメリカの考古学者の冒険譚を描いた、有名な映画をモチーフにしたアトラクションなんかもあるようだ。
他にもジェットコースターらしきレールに、悲鳴のような声も聞こえた。

「睦月さん、気になるんだったら乗りに行っても……」

あまりに俺がキョロキョロしてたからか、さっちゃんにそう言われしまう。

「あぁ。ごめんね。乗りたい訳じゃないんだ。むしろ逆。よく乗れるなぁって感心してたところ」
「そうなんですか?平気そうに見るのに」

さっちゃんは俺を見上げて少し目を丸くしている。

「良く言われるんだよね~。ずっと笑いながら乗ってそうって。でも、本当は高所恐怖症」

笑いながら答えると、さっちゃんはクスッと笑う。

「じゃあ。あれならきっと大丈夫ですね。私、実は来ると必ず乗るものが一つだけあるんです。良かったら乗りませんか?」

安心したような、きっと心を許した相手にしか見せない、素の笑顔。
そんな風に受け取ってしまう程、楽しそうにさっちゃんは笑う。

「うん。行こ!行こ!どこにあるの?」

急かすようにそう言って、俺はさっちゃんの手を取った。

「えっ!あのっ!」
「ん?なぁに?」

何も無いみたいそう答えるけど、本当は分かっている。
もしかしたら振り解かれるかも知れなかったけど、一か八かでその小さな手を取った事。

「行こっか」

そう言うと、さっちゃんは顔を赤くしたまま小さく頷く。

ごめんね。試すようなことして

心の中で謝って、隣を歩くさっちゃんを眺める。
俺からは、俯いて歩く彼女の頭しか見えない。けど、握った手には少しだけ力が入る。
さっちゃんが俺の事をどう思っているのか分からないけど、でも、今はこうやって一緒に過ごせることが、とても嬉しかった。

しばらく歩くと、また違うエリアに到着した。
今度はアラビアの世界。さすがに俺も知ってるアニメ映画の世界だ。

「ここです」

連れてこられた建物の前に表示されている時間は、5分。

「楽しみ」

そう言いながら中に入って行く。
このアトラクションを元にした絵が飾られている通路を辿ると、すぐに乗り場に到着した。
なんとなく予想はできたけど、水の上を乗り物がゆっくり進む感じのアトラクションのようだ。

一番前に案内されて、そのまま乗り込む。
どうしたって手を離さないと乗れないわけで、俺は仕方なく手を離した。
さっきまでお互いの体温で温まった手の温もりが、急速に冷めて行くのがなんだか寂しい。

でも、さすがに何度も同じ手でこんな事出来ないよなぁ……と、乗り込んで座る嬉々とした表情のさっちゃんを見て思った。

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