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今日は楽しかったなぁ~
そう思いながら、俺は家路まで車を走らせる。
久しぶりに香緒に会って、そして香緒を撮った。そんな日が来るなんて思いもしてなかったから、人生何があるか分からないよなぁとつくづく思う。
香緒と出会ったのは、もう16年程前の事だ。当時香緒は小学生で、性別を隠して女児向けの高級子供服の専属モデルをしていた。
そして、それを撮っていたのは他でもない、俺が長年アシスタントをしていた司だった。
まだ大学を卒業したばかりで、何でもするからと、半ば無理やりに司のアシスタントになった俺は、撮影に向かう香緒の送り迎えをするようになった。
最初は全然喋ってくれなくて、何か尋ねても頷くだけか、希海がいれば希海に耳打ちして答えを聞くなんて普通だった。けど、段々と心を開いて笑ってくれるようになり、とても嬉しかったのはいい思い出だ。
そんな香緒は、ある事がきっかけで小学6年生の秋にフランスへ家族と移り住んだ。そこから高校を卒業するまで香緒は日本に戻らず、香緒が日本に戻って来てからようやく再会した。それが8年前。
でもそれから2年後、司がニューヨークで活動すると言い出して、俺もそれに着いて行く事にした。
俺達がまた日本に戻って来たのは、ほんの数ヶ月前の事。ニューヨークにいる間、香緒には全く会う事がなくて、今日本当に久しぶりに会ったのだ。
ずいぶん雰囲気変わったよなぁ
今日の香緒の様子を見て思う。あんなに人見知りが激しかったのに。6年前会った時ですら、あんなに屈託なく笑う事はなかった。
年齢に似合わない、何処か翳りのある空気を纏わせていたが、今ではすっかりそれも無くなった。
だから司は、この仕事を俺に寄越したのかなぁ……なんて思った。
それともう一人。物凄く興味を惹かれたコに今日出会った。
栗鼠みたいに可愛らしいのに、仕事に対しては物凄くストイックな彼女を思い出して、俺は自然に顔が緩むのが分かった。
さっちゃんの第一印象は、小さいな……だったなんて、多分本人は気にしそうだから言えない。
俺とは20センチ以上差のありそうな身長。黒目がちのクリッとした瞳で俺の事を見上げるその姿は、まさに愛玩用の小動物を彷彿とさせた。
見た目はかなり若そうで、未成年にも見えるけど、さすがに成人はしてるだろう。香緒とは長いって言ってたし。
けど、その見た目とは裏腹に、仕事は出来るコだな、と思った。
今日の撮影でのこと。
香緒の撮影を開始して、まずテストがてら簡単に撮ってから、俺はモニターを確認しに行った。
うーん……。なんだろう。ちょっとした違和感があるなぁ
そう思いながら画面を眺める。
俺は司みたいに、頭の中に撮りたいイメージをはっきり描きながら撮るなんて事は出来ない。
どちらかと言えば、ぼんやりしたイメージを撮影しながら明確にしていっている気がする。
ずっとこれでいいのかなぁって思っていたけど、結局は司に「自分の腕をもうちょっと信用しろ」って後押しされて今に至るって感じだ。
「睦月君、どうかした?」
あまりにも長い間モニターとにらめっこしていた俺が心配になったのか、香緒からそう声をかけられる。
「うーん。ちょっとピンと来なくって」
俺が正直にそう答えると、香緒もモニターを眺めながら「うーん……。そう?」と呟いた。
俺達の様子を見ていたのか、さっちゃんが遠慮気味に少し離れたところからモニターに視線をやっている。
けれどその真っ直ぐな視線に何故か心惹かれた。
意思の強そうな、ちゃんと自分を持っているんだなと感じるその瞳に、まるで吸い寄せられるように目が釘付けになっていた。
「あのっ!」
さっちゃんにそう声をかけられて、俺はハッとして我に返った。
「何?」
「少しメイクを修正したいんですが、時間大丈夫ですか?」
先程とは打って変わって、さっちゃんは控えめな表情で俺に申し出る。
「うん。いいよ?気が済むまでやって来て」
そう言って笑顔でそう答えると、さっちゃんは「ありがとうございます」とペコリと頭を下げて香緒の元へ向かった。
「すみませんでした!お願いします」
そう言ってさっちゃんが連れて来た香緒を見て、俺はあれ?と思う。
何処が変わったかと言えば、上手く説明出来ないけど、なんとなくさっきと違う香緒に、俺はまたカメラを向けた。
やっぱり……
もう一度モニターを確認すると、さっきまでの違和感が消えている。
香緒も気にならない程度の、衣装とメイクのミスマッチ。それを俺は違和感と感じ、そしてさっちゃんは、それに気づいてくれたようだった。
感性が同じなのかもな……
少し離れたところで、不安そうにこっちを見ているさっちゃんに、俺はニコッと笑いかける。
「じゃあ、本番行くね~!」
そう言って俺は香緒の元へ俺は向かった。
司から独立して、初めてと言っていい大きな仕事。月刊雑誌の撮影で、これから毎月俺の撮った香緒が紙面を飾る。そう思うと、緊張もするが楽しみでもある。
人を撮るなんて自分には出来ない。
そう思っていた自分が、この世界に入るきっかけを作ったとも言える香緒を撮っているんだから。
「おっつかれっー!」
先にスタジオを出た香緒とさっちゃんを追いかけるように後ろから声を掛ける。
一見すると姉妹にも見える2人。さっちゃんはさすがに香緒にはリラックスした表情を見せていた。
俺に対しては、まだ香緒の知り合いだからと認識しているからか、まだそこまで緊張した面持ちではない。
けれど、彼女はきっと男性が苦手……なんだと思う。
毛嫌いしてるとかではなくて、どう接していいのか分からないのかもなぁ、とスタジオ内での様子を遠くから眺めていて何となく感じた。
「さっちゃん。着替えだけしてくるからちょっと待ってて」
一緒に控え室の前まで来ると、香緒はそう言って部屋の中に入って行った。
「さっちゃんは、香緒と帰るの?」
すでに重そうなトートバッグを肩から下ろして床に置くさっちゃんに、そう声を掛ける。
「え?あ、大体香緒ちゃんと一緒の時は送ってくれます」
戸惑いながらさっちゃんはそう答えた。
「荷物、重そうだもんね。もし誰もいない時は俺に声かけてよ。都合つけばいくらでも送るよ?」
俺が笑顔で言うと、さっちゃんは少し困った顔をしてから「ありがとうございます……」と答える。
別に、リップサービスじゃないんだけどなぁ……
その顔を見て、俺はそう思った。
そう思いながら、俺は家路まで車を走らせる。
久しぶりに香緒に会って、そして香緒を撮った。そんな日が来るなんて思いもしてなかったから、人生何があるか分からないよなぁとつくづく思う。
香緒と出会ったのは、もう16年程前の事だ。当時香緒は小学生で、性別を隠して女児向けの高級子供服の専属モデルをしていた。
そして、それを撮っていたのは他でもない、俺が長年アシスタントをしていた司だった。
まだ大学を卒業したばかりで、何でもするからと、半ば無理やりに司のアシスタントになった俺は、撮影に向かう香緒の送り迎えをするようになった。
最初は全然喋ってくれなくて、何か尋ねても頷くだけか、希海がいれば希海に耳打ちして答えを聞くなんて普通だった。けど、段々と心を開いて笑ってくれるようになり、とても嬉しかったのはいい思い出だ。
そんな香緒は、ある事がきっかけで小学6年生の秋にフランスへ家族と移り住んだ。そこから高校を卒業するまで香緒は日本に戻らず、香緒が日本に戻って来てからようやく再会した。それが8年前。
でもそれから2年後、司がニューヨークで活動すると言い出して、俺もそれに着いて行く事にした。
俺達がまた日本に戻って来たのは、ほんの数ヶ月前の事。ニューヨークにいる間、香緒には全く会う事がなくて、今日本当に久しぶりに会ったのだ。
ずいぶん雰囲気変わったよなぁ
今日の香緒の様子を見て思う。あんなに人見知りが激しかったのに。6年前会った時ですら、あんなに屈託なく笑う事はなかった。
年齢に似合わない、何処か翳りのある空気を纏わせていたが、今ではすっかりそれも無くなった。
だから司は、この仕事を俺に寄越したのかなぁ……なんて思った。
それともう一人。物凄く興味を惹かれたコに今日出会った。
栗鼠みたいに可愛らしいのに、仕事に対しては物凄くストイックな彼女を思い出して、俺は自然に顔が緩むのが分かった。
さっちゃんの第一印象は、小さいな……だったなんて、多分本人は気にしそうだから言えない。
俺とは20センチ以上差のありそうな身長。黒目がちのクリッとした瞳で俺の事を見上げるその姿は、まさに愛玩用の小動物を彷彿とさせた。
見た目はかなり若そうで、未成年にも見えるけど、さすがに成人はしてるだろう。香緒とは長いって言ってたし。
けど、その見た目とは裏腹に、仕事は出来るコだな、と思った。
今日の撮影でのこと。
香緒の撮影を開始して、まずテストがてら簡単に撮ってから、俺はモニターを確認しに行った。
うーん……。なんだろう。ちょっとした違和感があるなぁ
そう思いながら画面を眺める。
俺は司みたいに、頭の中に撮りたいイメージをはっきり描きながら撮るなんて事は出来ない。
どちらかと言えば、ぼんやりしたイメージを撮影しながら明確にしていっている気がする。
ずっとこれでいいのかなぁって思っていたけど、結局は司に「自分の腕をもうちょっと信用しろ」って後押しされて今に至るって感じだ。
「睦月君、どうかした?」
あまりにも長い間モニターとにらめっこしていた俺が心配になったのか、香緒からそう声をかけられる。
「うーん。ちょっとピンと来なくって」
俺が正直にそう答えると、香緒もモニターを眺めながら「うーん……。そう?」と呟いた。
俺達の様子を見ていたのか、さっちゃんが遠慮気味に少し離れたところからモニターに視線をやっている。
けれどその真っ直ぐな視線に何故か心惹かれた。
意思の強そうな、ちゃんと自分を持っているんだなと感じるその瞳に、まるで吸い寄せられるように目が釘付けになっていた。
「あのっ!」
さっちゃんにそう声をかけられて、俺はハッとして我に返った。
「何?」
「少しメイクを修正したいんですが、時間大丈夫ですか?」
先程とは打って変わって、さっちゃんは控えめな表情で俺に申し出る。
「うん。いいよ?気が済むまでやって来て」
そう言って笑顔でそう答えると、さっちゃんは「ありがとうございます」とペコリと頭を下げて香緒の元へ向かった。
「すみませんでした!お願いします」
そう言ってさっちゃんが連れて来た香緒を見て、俺はあれ?と思う。
何処が変わったかと言えば、上手く説明出来ないけど、なんとなくさっきと違う香緒に、俺はまたカメラを向けた。
やっぱり……
もう一度モニターを確認すると、さっきまでの違和感が消えている。
香緒も気にならない程度の、衣装とメイクのミスマッチ。それを俺は違和感と感じ、そしてさっちゃんは、それに気づいてくれたようだった。
感性が同じなのかもな……
少し離れたところで、不安そうにこっちを見ているさっちゃんに、俺はニコッと笑いかける。
「じゃあ、本番行くね~!」
そう言って俺は香緒の元へ俺は向かった。
司から独立して、初めてと言っていい大きな仕事。月刊雑誌の撮影で、これから毎月俺の撮った香緒が紙面を飾る。そう思うと、緊張もするが楽しみでもある。
人を撮るなんて自分には出来ない。
そう思っていた自分が、この世界に入るきっかけを作ったとも言える香緒を撮っているんだから。
「おっつかれっー!」
先にスタジオを出た香緒とさっちゃんを追いかけるように後ろから声を掛ける。
一見すると姉妹にも見える2人。さっちゃんはさすがに香緒にはリラックスした表情を見せていた。
俺に対しては、まだ香緒の知り合いだからと認識しているからか、まだそこまで緊張した面持ちではない。
けれど、彼女はきっと男性が苦手……なんだと思う。
毛嫌いしてるとかではなくて、どう接していいのか分からないのかもなぁ、とスタジオ内での様子を遠くから眺めていて何となく感じた。
「さっちゃん。着替えだけしてくるからちょっと待ってて」
一緒に控え室の前まで来ると、香緒はそう言って部屋の中に入って行った。
「さっちゃんは、香緒と帰るの?」
すでに重そうなトートバッグを肩から下ろして床に置くさっちゃんに、そう声を掛ける。
「え?あ、大体香緒ちゃんと一緒の時は送ってくれます」
戸惑いながらさっちゃんはそう答えた。
「荷物、重そうだもんね。もし誰もいない時は俺に声かけてよ。都合つけばいくらでも送るよ?」
俺が笑顔で言うと、さっちゃんは少し困った顔をしてから「ありがとうございます……」と答える。
別に、リップサービスじゃないんだけどなぁ……
その顔を見て、俺はそう思った。
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