年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

文字の大きさ
上 下
3 / 183

しおりを挟む
「さつき……って、もしかして5月生まれ?」

ニコニコ笑いながら岡田さんはそう言う。

「そう……です。と言っても、漢字はあの字じゃなくて咲く月と書きますが」
「へー。俺は漢字そのままの睦月。もちろん1月生まれだよ。前後半年プレゼント受付してるからよろしくね!」
「……それって1年ですよね?」

明るくそう言うその様子に、私は釣られて笑ってしまう。

「本当に、睦月君は昔から変わってないよね。もういくつ?38だっけ?」

香緒ちゃんもクスクス笑いながら会話に入る。

38…一回り以上年上……には見えない。見た目も口調も。

「ちょっと香緒~!現実を突きつけないでくれよ。もうそこに40見えてんだぜ……信じたくないわ!」

年齢的に、もう結婚されてるのかな?凄くいいパパしてそうな印象がある。
だからかな。男の人は苦手だけど、岡田さんはそんな感じはしない。

「あ、今から準備だな?悪い、邪魔した。俺は先スタジオ入っとくわ」
「分かった!じゃあ今日はよろしくお願いします」

香緒ちゃんが笑いかけると、岡田さんは笑顔で「りょーかい!」と手を上げて部屋を出て行った。

私はまた鏡の前に戻りながら、香緒ちゃんに話しかけた。

「すっごく明るい人だね」

香緒ちゃんもまた椅子に座わると鏡に向かう。

「うん。6年振りに会うけど全然変わってない。いつまでも子供みたいなんだから」

思い出したように笑う香緒ちゃんの前髪をピンで留めて、私はメイクを始めた。

「そう言う香緒ちゃんの顔も子供みたいになってたよ?」

クレンジング水でその美しい顔を拭きながら私は笑う。

「つい昔の気分になって」

香緒ちゃんはそう言って笑っている。

さあ、私の仕事はこれからだ。
今日も、誰よりこの人を美しくしよう。

私はそう思いながら手を動かした。

◆◆

「お疲れ様でした」

スタジオで撮影も終わり、スタッフさんから声をかけられる。

「お疲れ様でした」

私もそう返して控室に戻る香緒ちゃんを待った。

撮影中私はスタジオに控えていて、いつでも手直しできるよう控えている。
今日もいつもと同じように、撮影の邪魔にならないところでその様子を見ていたんだけど、今日はとにかく異色とも言える撮影だった。

とにかく岡田さんは笑わせてばかりで、香緒ちゃんも終始笑いっぱなし。こんなに笑う香緒ちゃんを見たことないってくらい。
途中で香緒ちゃんの方が「メイク崩れそうだから、睦月君もう黙っててくれる?」なんて言い出す始末。

いつもの希海さんとの撮影の時は凄く穏やかだ。
2人はそれこそ生まれた時から付き合いのある幼なじみで、離れていた時もあるけど、ずっと一緒にいる兄弟のような関係らしい。
口数の少ない希海さんの事を、香緒ちゃんはよく分かっていて、撮影中もあまり指示がないのに阿吽の呼吸と言った様子を見ることがある。

「さっちゃんお待たせ!」

来年の春物のレディースを身に纏った香緒ちゃんが私の元へやって来た。
オレンジ色のシフォンワンピースのその姿は、普通に女子だ。一緒に歩いてたら間違いなくナンパされるのは香緒ちゃんで、私ではない。

「お疲れ様。香緒ちゃん」

私はそう言って水を差し出す。
「ありがとう」そう言って香緒ちゃんは受け取るとそれを口にした。

「おっつかれー!」

後ろから岡田さんが軽い調子でやって来た。

「あ、睦月君。お疲れ様。ねぇ、この撮影、これからも定期であるんだよね?」
「あー。そうだね。駆け出しの俺としてはありがたい話なんだけど」

そんな会話をしながら3人で歩きながらスタジオを出る。

駆け出しって年齢でもなさそうなのにな……なんて思いながら香緒ちゃんと話す岡田さんの横顔を盗み見る。

そんな私に気づいたのか、岡田さんは私を見てニコッと笑った。

「俺、長い間アシスタントしててさ、最近捨てられて寂しく1人で仕事してんの」

寂しいとは正反対の明るい口調で岡田さんは私にそう言った。

「睦月君……。さすがに捨てられたは人聞き悪いでしょ。つかさだって別に睦月君のこと見捨てたわけじゃないでしょ?」

香緒ちゃんは呆れた様な顔でそう言った。

「まぁね。この仕事だって司から貰ったし。俺の方がいいだろうからって」
「へー。そうなんだ」
「あのっ」

どうしても気になって、私は2人の会話に入ってしまう。

「司って、長門ながとさんの事ですか?」

長門 司さんは最近まで海外で活躍していたファッションカメラマンだ。
今年の夏に日本にまた戻って来て活動しているその人は、業界内では有名人だ。
前に仕事をしたモデルさん達が『凄く格好いいけど、無茶苦茶仕事は厳しい。でも撮って貰いたい』と口々に言っているのを耳にした。

「そうだよ。あれ?知ってるの?」

岡田さんが意外そうに口にすると、香緒ちゃんが横で説明してくれた。

「結婚式で会ってるよね。でも喋ってた?」

実のところ、近寄り難くって全然話はしていない。元々が身近な人達を集めた式に、私が紛れ込んでる自体アウェイ感満載で、かなり小さくなっていたと思う。
そんな私に気を使って、長門さんのマネージャーをしていると言う長森ながもり瑤子ようこさんが、私にかなり話しかけてくれはした。

「ううん。全然話してないよ?だって怖くって……」

正直にそう言うと、岡田さんは吹き出しながら笑い出す。

「確かにさっちゃんみたいな小動物から見たら司は獰猛なライオンだよね~!」

まさに腹を抱えて笑うその様子に、さっちゃんと呼ばれた事も、小動物と言われた事も吹き飛んでしまった。

「睦月君笑い過ぎ!まあ、司は話しかけづらいよねぇ」

しみじみと言う香緒ちゃんに、岡田さんはそのまま笑いながら私に言った。

「まあ、大丈夫。しばらくすれば、ちょっと怖い番犬に変わってるよ」
「はぁ……」

私は意味が分からないまま、そう気の抜けた返事をした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~

花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】 この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。 2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて…… そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。 両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!? 「夜のお相手は、他の女性に任せます!」 「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」 絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの? 大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ! 私は私の好きにさせてもらうわ! 狭山 聖壱  《さやま せいいち》 34歳 185㎝ 江藤 香津美 《えとう かつみ》  25歳 165㎝ ※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m

処理中です...