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4.五月闇に、忍び寄る
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――翌日。
服を取りに戻るどころか、連れて来られたのは老舗デパート。しかも普段、自分が寄るような、手が届く価格帯の売り場ではなく、ハイクラスブランドの並ぶフロアに。
呆気に取られる私の手を引き、店頭に並ぶアイテムを眺めたかと思うと、そこに入って行く。それから販売スタッフを捕まえていた。そして、あたふたする私はフィッティングルームに押し込まれた。
スタッフから渡されたのは、お呼ばれ用のワンピースというより、パーティ用のドレスに近い。
(怖すぎて、値段が見れない……)
光沢あるアイボリーの生地で作られた、膝丈のワンピース。胸元やスカートの裾に金糸で刺繍が施されていて、近くで見るとゴージャスだ。
それを怖々試着して扉を開ける。もちろん彼ははすぐそばで待っていた。物凄くワクワクした表情をして。
「あの、依澄さん……。これは私には、買えないような……気が、するんですが」
「恵舞が買うわけじゃない。俺が買いたいだけ」
私の全身を眺めながら、彼は目も合わさず平然と言ってのける。
「え……」
冷やかしに来ただけのはずはない。それでも、最低6桁の金額はするだろうものを、おいそれと買って貰うわけにはいかない。
「じゃあ、次はこれだ」
その場で立ち尽くす私に、彼は当たり前のように次の服を寄越す。
「ちょっ、と。待ってください」
後ろに控えるスタッフに聞こえないよう、小声で呼びかける。
「どうした?」
「どうした、じゃないです! こんな高価なもの、貰えません」
「なんで? 百万もしないだろ?」
「それ、ジョークですよね?」
どこまで本気なのかわからない。顔を引き攣らせる私に、彼は次の服を押し付けた。
「とにかく、着てみせて」
楽しそうなその顔に、NOと言えるはずもなく、またフィッティングルームに戻る。
今度はミントグリーンのワンピース。爽やかな色合いが好みだ。ノースリーブで、ホルターネックのデザイン。襟は首を覆い、後ろは大きなリボンタイになっている。スカート部分はゆったりしていて、長めのミモレ丈だ。
(これ、一人じゃ着るの難しいやつ!)
元々体が硬いこともあり、背中に手が届かない。仕方なく扉を少し開けると、依澄さんに呼びかけた。
「少しだけ、手伝ってもらえませんか?」
「わかった」
扉が閉まると、彼に背中を向ける。
「ファスナー、あげてもらっていいですか?」
顔だけ後ろに向け、髪を持ち上げながら尋ねる。
「ああ」
前を向くと、前面にある鏡越しに目が合った。嬉しそうに口角を上げた彼は、私の首に唇を落としていた。
服を取りに戻るどころか、連れて来られたのは老舗デパート。しかも普段、自分が寄るような、手が届く価格帯の売り場ではなく、ハイクラスブランドの並ぶフロアに。
呆気に取られる私の手を引き、店頭に並ぶアイテムを眺めたかと思うと、そこに入って行く。それから販売スタッフを捕まえていた。そして、あたふたする私はフィッティングルームに押し込まれた。
スタッフから渡されたのは、お呼ばれ用のワンピースというより、パーティ用のドレスに近い。
(怖すぎて、値段が見れない……)
光沢あるアイボリーの生地で作られた、膝丈のワンピース。胸元やスカートの裾に金糸で刺繍が施されていて、近くで見るとゴージャスだ。
それを怖々試着して扉を開ける。もちろん彼ははすぐそばで待っていた。物凄くワクワクした表情をして。
「あの、依澄さん……。これは私には、買えないような……気が、するんですが」
「恵舞が買うわけじゃない。俺が買いたいだけ」
私の全身を眺めながら、彼は目も合わさず平然と言ってのける。
「え……」
冷やかしに来ただけのはずはない。それでも、最低6桁の金額はするだろうものを、おいそれと買って貰うわけにはいかない。
「じゃあ、次はこれだ」
その場で立ち尽くす私に、彼は当たり前のように次の服を寄越す。
「ちょっ、と。待ってください」
後ろに控えるスタッフに聞こえないよう、小声で呼びかける。
「どうした?」
「どうした、じゃないです! こんな高価なもの、貰えません」
「なんで? 百万もしないだろ?」
「それ、ジョークですよね?」
どこまで本気なのかわからない。顔を引き攣らせる私に、彼は次の服を押し付けた。
「とにかく、着てみせて」
楽しそうなその顔に、NOと言えるはずもなく、またフィッティングルームに戻る。
今度はミントグリーンのワンピース。爽やかな色合いが好みだ。ノースリーブで、ホルターネックのデザイン。襟は首を覆い、後ろは大きなリボンタイになっている。スカート部分はゆったりしていて、長めのミモレ丈だ。
(これ、一人じゃ着るの難しいやつ!)
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「少しだけ、手伝ってもらえませんか?」
「わかった」
扉が閉まると、彼に背中を向ける。
「ファスナー、あげてもらっていいですか?」
顔だけ後ろに向け、髪を持ち上げながら尋ねる。
「ああ」
前を向くと、前面にある鏡越しに目が合った。嬉しそうに口角を上げた彼は、私の首に唇を落としていた。
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